ヴェルディ 「リゴレット」 ルイージ指揮
ヴェルディの「リゴレット」をDVD観劇。
2008年のドレスデン・ゼンパーオーパーでの上演。
ファヴィオ・ルイージがまだ音楽監督の時期のもので、演出は、いつも無機的かつ近未来的な舞台設定を行う、ニコラウス・レーンホフ。
マントヴァ公:ファン・ディエゴ・フローレス
リゴレット:ジェリコ・ルチッチ
ジルダ:ダイアナ・ダムラウ
スパラフチレ:ゲオルク・ツェッペンフェルト
マッダレーナ:クリスタ・マイヤー
モンテローネ伯爵:マルクス・マルカールト
チェプラーノ伯爵:マルクス・ブター
チェプラーノ夫人:キョンホエ・カン
マルロ:マティアス・ヘンネベルク
ボルサ:オリヴァー・リンゲルハン
ジョヴァンナ:アンジェラ・リーボルト ほか
ファヴィオ・ルイージ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
ドレスデン国立歌劇場合唱団
演出:ニコラウス・レーンホフ
(2008.6 @ドレスデン)
美声を集めた豪華な配役。
イキのいい指揮と雄弁なオーケストラ。
映像なくしても、音だけで充分楽しめる。
DVDをこれから買おうという方は、以下は見ないで、読まないで。
まずは、レーンホフのドラマは別読みしてないまでも、不可思議な舞台の様子を簡単に。
1幕1場
短い悲劇的な前奏曲が始まると同時に、奈落からリゴレットがせり上がってきて、道化の衣装と化粧を始め、前奏曲終了時に、幕がさっと開き、マントヴァ公の館。
夜会の紳士淑女たちは、鳥やトカゲ、蜘蛛などの被り物の胡散臭い集団でちょっと気色悪い。
そんな中で、マントヴァ公のみが生身の人間で、高慢な雰囲気で「あれか、これか」を歌う。
チェプラノ伯爵をからかったあとの、みんなのダンスはまるでディスコダンス。
2幕2場
不安なリゴレットの背後に現れたスパラフチレは、細身で長髪、鎖のついたスリムパンツのパンクな野郎。いかにも悪そう。
ジルダの部屋は、ブルーのキレイな色合いだけど、いかにも閉塞感ただよう幽閉部屋。
そして、さすがはレーンホフで、ここでワーグナーが歌い演じられてもおかしくない、トーキョー・リングっぽい雰囲気。
女中の招きで侵入したマントヴァ公は、声も姿も身のこなしも、いかにもチョー軽い。
完全に寝ながら、しまいにはベットに布団かぶってお休みなさいの態勢で、名アリア「慕わしい名前」を歌うダムラウは、まったくスゴイのだった。
どうして、あんな格好をしながら、声が崩れず凛々とした声が出せるのだろう。
怪しい廷臣たちは、下から上からはしご階段をかけて、ジルダを誘拐し、その梯子のたもとには、何にもしらないリゴレット。
2幕
悲劇一色のジルダを失ってしまったマントヴァ公の名アリアは、フローレスの面目躍如たる名唱。
しかし、悪い廷臣たちがやってきて、かどわかしは身内の仕業とわかると、大喜びしてテーブルの上に乗ってしまう軽~い殿様に逆戻り。
そして、その悪いやつらは全員、悪魔のかぶりもの。
よく絵画などで、二本角を生やして槍もってるあの悪魔がうじゃうじゃ。
そこへリゴレットがやってきて、これまた名アリア「廷臣たちよ」を歌うが、実行犯のふたりやほかの連中はあざ笑うばかりだが、やがて、リゴレットの娘とわかると、悪魔にも少し同情のそぶりが窺えるようになる。実行犯のふたりは、悪魔の被りものを投げ捨てるが、それでも態度は冷たく、どうしていいかわからず去る。
ルチッチの暖かい熱唱は悪魔でなくとも、わたしたちの心を打ちますし、ルイージの指揮するオケの熱さといったらないです。
そこへ、ジルダがよろよろと出てくるが、ご丁寧にも、彼女はある部分が血に染まってます。なにも、そこまで具象的にしなくても・・・・・。
リンチを浴びたかのような、娘をかどわかされた先輩モンテローネも血みどろ。
そして、親子ふたりの素晴らしい二重唱で、いかにもヴェルディらしい興奮のうちに2幕を終える。
3幕
暗いスパラフチレの館。軍人に扮した殿様役のフローレスは、この姿こそ、見慣れた姿(笑)。
女心の歌を、それこそ鼻歌まじりに、難なく歌ってしまう。
親子が覗き見をする中で、マッダレーナを誘惑するマントヴァ公。
マッダレーナ役は、大型で、殿様はデ○専なのか。
いや、そちらも好きなのだ、と思わせる(笑)
いやだわ、殿様、やたらと触りまくってるじゃん(そういえば、1幕の珍獣のメスもやたらと触りまくってた~しかし、ダムラウには控えめ・・・)
四重唱では、それぞれの思惑を歌うわけだが、マントヴァ公はやがて、のぞき見をしてるはずのジルダのところへやってきて、彼女に向かって歌い抱きしめることになり、あとでアレっみたいなことになってるし、すっかりその気になったジルダもやがて父親のもとに抱きしめられることになるが、その彼女も相手が父で、アレってな顔になってしまう。
このあたり、父親を裏切ってしまい、浮気者とわかりながらも、公を慕う姿をわかり過ぎるくらいに描いてます。
嵐がやってきて、ときおり響く雷鳴。
その光で、舞台の背景にはミケランジェロ風の地獄絵がチラチラと浮かび上がる。
舞台前面には、リゴレットの道化衣装がずっと置かれたままに。
やがて、殿様の身代わりになった娘と対面するリゴレットだが、その悲しい父娘の悲しい別れのあとに・・・・・・。
~幕~
伯爵の取り巻きは、みんな非人間。
というか地獄に落ちた人やその執行役なのか。
具象的でありながら、描かんとするところは抽象的。
全部観てないけれど、同じレーンホフのシュレーカーの「烙印を押された人々」の舞台の雰囲気に似ている。
レーンホフの舞台映像は、古くはミュンヘンのリングからお馴染みだけれど、どうも求心力がないというか、言わんとする核心が掴めないような気がいつもする。
メタリックでシャープな舞台は、登場人物を冷たく見据えていて容赦ないようにも感じる。
主君にも、愛娘にも裏切らたリゴレットの孤独。
しかも、地獄の使者が彼を待っているという悲しい結末(たぶん)。
なんだか、悲しみのオペラが、なおさら救いのないドラマとなって迫ってくる。
ヴェルディの歌と劇性に満ちた音楽とは、どこか乖離しているようにも感じました。
しかし、歌手たちは、素晴らしい。
わたしは、はじめて聴いたけれど、ルチッチ(セルヴィア生まれ、あのマタチッチと同じ語感)のバカでかい存在感ある声と、その迫力にありながら滑らかなバリトンがよかった。
クマさんみたいな愛嬌ある雰囲気だけれど、この人の声は本物に思った。
ヴェルディ・バリトンとしてこれから活躍しそうな人です。
そして、ダムラウの繊細で、どこまでも美しいソプラノは定評通り。
超人的だけれど、血の通った暖かさとしなやかさが耳に心地よい。
あと、フローレスは、最初はマントヴァ公として異質に思ったけれど、段々とその美声とメカニカルなほどのテクニックにまんまとはまってしまうことになる。
でも何度も聴きたくない無慈悲なほどのマントヴァ公で、かつて親しんだパヴァロッティのような味わいからは程遠い。
ほかの諸役も素晴らしいです。
そして、ルイージのドラマティックで、歌心と起伏に富んだ指揮が、情感とドラマ性に満ちたさらに素晴らしいものだった。
血のたぎるような中期ヴェルディの熱血と、感情の高まりを見事に表出しているけれど、同時に冷静さも失わず、舞台とピットとの融合を統率している。
根っからのオペラ指揮者です。
ドレスデンの克明な音色で聴くヴェルディも味わいあるもの。
不思議だけれど、面白いリゴレットでした。
でも、音楽のみ聴いてもよかったかも。
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