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2011年7月10日 (日)

モーツァルト 「フィガロの結婚」 アバド指揮

Matsuyama_castle

東西を問わず、殿様がおわすのは、お城。

攻撃に強く攻めずらい場所に城築。

ここは松山城。
街の麓から見ると、そこまでの道のりも険しく、難攻不落に感じる。
その出で立ちも美しい。

Matsuyama_castle5

お城までは、いまやロープウェイで行けちゃう。
でも、運動不足兼二日酔いのワタクシは、いくつかある徒歩ルートのうち、一番険しい道のりを選らんじまった・・・・・。
登城は、風呂上がりのような汗みどろのオッサンになってしまいました。

すがすがしい、お姿の松山城。

Matsuyama_castle3

お城のその足元には、こんなオッサンが待ってました。
「誰っ?」、「殿様だよ~う」

Mozart_le_nozze_di_figaro_abbado_sc

梅雨明けの日曜日、外は猛暑、空は真っ青、影は真っ直ぐに落ちている。

モーツァルト「フィガロの結婚」を。

物語の前段、「セビリアの理髪師」では、いやらしい後見人から、自由な市民フィガロの力を借りて愛するロジーナを救いだした、好漢アルマヴィーヴァ伯爵。

数年後の舞台が、「フィガロの結婚」。
ロジーナとアルマヴィーヴァとの夫婦関係も隙間風が吹きまくり、一方、家臣となった快活なフィガロは、相思相愛の可愛いスザンナを見つけ、婚姻も秒読み。

貴族の特権を市民が覆し、男社会に女性が反撃を喰らわす。
あまりに有名なこの物語。
ダ・ポンテとモーツァルトが込めた革新のドラマと音楽が、初演後230年以上経過しても、永遠に輝き続け、世界のどこかで、必ず上演されている名作たるゆえんは、こうした生き生きとした市井の機微をしっかり捉えているから。

今日は、アバドスカラ座時代のライブ録音で。

 モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」

  アルマヴィーヴァ伯爵:ヘルマン・プライ  
  伯爵夫人:ミレッラ・フレーニ 
  ケルビーノ:テレサ・ベルガンサ      
  フィガロ:ホセ・ファン・ダム
  スザンナ:ダニエラ・マッツカート    
  マルチェリーナ:ステファニア・マラグー
  ドン・バジリオ:ミルト・ピッチィ     
  ドン・バルトロ:パオロ・モンタルソロ
  バルバリーナ:マリア・ボルガート   
  アントニオ:レオナルト。モンレアーレ
  ドン・クルーツィオ:フランコ・リッチャルディ

 クライディオ・アバド指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団
              ミラノ・スカラ座合唱団
        合唱指揮:ロマーノ・ガンドルフィ

           (1974.4.22@ミラノ・スカラ座)

大巨匠となったいまでこそ、アバドのモーツァルトは定番で、しかも進化し続けているわけだが、若い頃は、そのモーツァルトには非常に慎重で、レコードもグルダと組んだピアノ協奏曲が初で、それが74年のこと。
ロッシーニ指揮者であり、モーツァルト指揮者ではなかった。
そのアバドが、満を持して、スカラ座の音楽監督時代に初めて取り上げたのが「フィガロの結婚」でありました。
アバドの動向を常にウォッチしていたわたくし、当時の情報源は音楽雑誌しかありません。
アバドがフィガロを取り上げるということで、どんなだったろうと、レポートを楽しみにしておりましたが、レコ芸やFMファンで、その「アバドのフィガロ」が不評だった、との報を読んで、とてもがっかりしたものでした・・・・。
記憶によれば、テンポの遅さと生気のなさ、のようなことだったと思います。
 それ以来、アバドはモーツァルトのオペラにまた距離を置くようになってしまい、ウィーン国立歌劇場の音楽監督になるまで、引っ込めてしまいました。
その後の、アバドのモーツァルトの素晴らしさは、皆さまご存じのとおりでございますね。
何度か手掛けている「コシ」の録音を、ここでは切望しておきます。

さて、いまから37年前の「アバドのフィガロ」。
残念ながらモノラルの放送音源ながら、音は明瞭で、歌もオケもよく聴こえます。
 そして、確かにテンポはゆったりめ。
序曲からしてそうだが、全体の軽妙なアンサンブルの個所もわりとじっくりと仕上げているからよけいにそう感じる。
一方で、場や幕の終結部分になると、たたみ込むような快速調となって、ライブの感興あふれる若々しいアバドならではの場面も見受けられる。
少しチグハグかもしれないが、アバドは、スカラ座の、そしてイタリアにおけるモーツァルトのオペラ上演の伝統に一石を投じたかったのではなかろうか。
ブッフォ的な一面を強調しがちなイタリアでのモーツァルトに、革新的な人間ドラマとしての側面を強調しようとした。ゆえに、ときにシリアスな雰囲気もあります。
その点が、少し生真面目すぎた、若き日の「アバドのフィガロ」。
後年のものは、モーツァルトの音楽を自然に語らせることに成功し、そこに微笑みや悲しみが表出されるようになった。
さすがのアバド。

歌手の布陣の面白さも、こうしたアバドの思いがあらわれているようだ。
フィガロとスザンナでお馴染みの、プライフレーニが、伯爵夫妻。
どうしてもプライには、「もう飛ぶまいぞ・・」と歌って欲しいところだけど、その伯爵も慣れれば妙に親しみある存在で悪くない。
フレーニは、文句なし。ほんとうに、存在感ある声。
フレーニが一声発すると、舞台が締まる感じ。
 それとベルガンサの美声のケルビーノ。
当時としたら、フォン・シュターデを聴きたかったけれど、重い役に移ってゆく前の当時のベルガンサの艶のある声はとても魅力的なのでした。
 ファン・ダムのフィガロは相変わらずうまい。でもちょっと声が重いか。
プライとの対比において、どっちがフィガロかわからなくなってしまう・・・・。
 それと、マッツカートのスザンナ。
彼女は、当時スカラ座で活躍したソプラノで、明るく陰りない歌声の持ち主で、とても気に入りました。調べたら美人だし、まだ活躍しているみたい。
正規音源は少ないけれど、探せばいろいろありそうです。

アバドの懐かしいフィガロを聴いて、暑いなか、想いは70年代半ばに飛んでいったオッサンひとり。
まだ冷房をつけずに、冷房のないバイロイト祝祭劇場状態であります。

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コメント

松山城! 懐かしい場所です。こども時代、夏休みや冬休みなどには必ず行ってました。道後温泉、動物園、梅律寺、デパート(何デパートか忘れちゃいました)巡りが定番でした。もうすっかりご無沙汰になってから?十年が過ぎてしまいました。いつか行かなくちゃというか、絶対通過しなくちゃいけない場所です。

>プライとフレーニ
フィガロとスザンナで刷り込まれてますけど、
伯爵夫妻も興味あります。


投稿: edc | 2011年7月11日 (月) 09時15分

euridiceさん、こんにちは。
松山にご縁が深くおありなのですね。
デパートは、「いよてつ」の高島屋でしょうか?
その近くのホテルに泊まりました。
繁華街近くで、おいしい魚のお店がたくさんあり、目移りしてしまいました。
雰囲気のあるいい街ですね、松山。
9月にまた訪問する予定です。

プライとフレーニのコンビの伯爵夫妻は、大人になりきれない、フィガロとスザンナみたいでした。
とても楽しく聴きました。

投稿: yokochan | 2011年7月11日 (月) 22時32分

思い出しました。イヨテツの方じゃなくて、かつての中心街に三越があったのです。もうなくなっちゃったのかも。イヨテツ方面には昔は電車に乗るためにしか行かなかったものです。いつからかそちらが中心になったような気がします・・昔の中心街、広島で言えば本通りはいつごろからかやたらにパチンコ屋が増えてしまったのを覚えています。これは広島本通りも同じでした。

>大人になりきれない、フィガロとスザンナみたい
なるほど、なんとなくわかります。

投稿: edc | 2011年7月12日 (火) 08時46分

euridiceさん、こんばんは。
三越の方ですね。
先日、松山に行ったとき、車で走ったおり、ありましたよ!三越。
四国でイオンのような存在の「フジ」もありますね。
中四国では、フジとイズミの勢力争そいです。

どちらも、日本中、街々は、同じような顔になってしまいました。
利潤追及と出店マニュアルの標準化がもたらした弊害です。
各地で、つまらないことになってしまいました。

フレーニには元気に、長らえて欲しいと思います!!

投稿: yokochan | 2011年7月12日 (火) 21時57分

さまよえる様は本当にすべてのオペラ演奏を聴いているんですね。プライの伯爵か。。。アリア集でプライの伯爵を聴いたときに「なんか、悪役を演じ切れていないな」と思っていました。
Fディスカウの悪役ぶりがラベリングされていたので、とりわけそのように思いました。
ところで!私が最初に聴いたオペラがこのフィガロです。フリッチャイ指揮、Fディスカウ様の伯爵とカペッキのフィガロでした。いまでも大好きな演奏です。フィガロは私自身も出演経験ありなのです(あはは^^)
すべてのパートを暗記しています。このオペラだけは指揮できるかも!
そうか、フレーニが伯爵夫人か。ベルガンサのケルビーノ。もったいない感じが!
Eクライバーが今でも好きです。あと、むかーし、FMでやってた二期会の日本語演奏も好きです^^

投稿: モナコ命 | 2011年7月13日 (水) 22時26分

モナコ命さん、こんばんは。
プライの伯爵は、未聴ですが、スウィトナーの独語盤がそうだったような気がします。
ベリーやローテンベルガーも出てますから聴いてみたいくてなりません。
 そして、わたくしもFD伯爵ですね。
ベームですが、あの盤とカラヤンのキャストが刷り込みになってます。
 そして、なんですと、フィガロ出演経験がおありなんですか。そして、すべてのパートをものにされてらっしゃるなんて!
わたしは、マイスタージンガーは指揮できそうですが(嘘)、フィガロなんて不可能です。
モーツァルトはともかく難しいです。

この盤のキャスト、味があります。
親父エーリヒ、録音のほどよい古さもいいです。
良き時代ですよね。
そして、かつて、有名オペラはすべて日本語でしたね。
二期会で、日本語ヴォツェックを観ました。
ドラマに完全同化できますね。

投稿: yokochan | 2011年7月14日 (木) 00時27分

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