ヴェルディ レクイエム アバド指揮
東京カテドラル聖マリア大聖堂の堂内。
数々のブルックナー演奏や、宗教音楽がここで演奏され、ヨーロッパの教会なみの豊かな響きでわたしたちを魅了してきました。
誰もいない聖堂内で、わたくしはひとり佇むのでした。
心に去来する様々な思い。
こういう場では、それらが研ぎ澄まされ収斂してゆくように感じます。
8月のお盆の頃は、ヴェルディの「レクイエム」と決まっております。
あとは「戦争レクイエム」で完璧です。
自分のなかでは、レクイエムの最高傑作は、ヴェルデイです。
レクイエムという典礼ミサが持つ、怒りと優しさと癒し。
それらを、劇性と流麗な歌と美しい旋律でもって完璧に描きつくしたのがヴェルデイのレクイエム。
そして、ヴェルデイのレクイエムの最高の演奏と思うのが、クラウディオ・アバドとミラノ・スカラ座のもの。
次点は、カラヤンとベルリン・フィルです。
ついで、ジュリーニ(PO)、トスカニーニ、アバドの他盤、バーンスタイン、シュナイト、ライナー・・・・などなど。たくさん聴いてますし、みんな捨てがたい。
アバドは3回録音してます。
スカラ座(1979年) DG
ウィーン・フィル(1991年) DG
ベルリン・フィル(2001年) EMI
アバドには、完全に手中に入った音楽なのです。
60年代もスカラ座やロンドンで演奏してます。
そして、81年には日本で、ふたとおりの歌手で2回演奏してくれました。
これはまぁ、あまりに素晴らしい伝説の名演だったのです。
ほぼ10年単位で、勝負年のようにして、その時の持てる最良のポジションで、挑み録音してきました。
ベルリン時代から、ほぼ10年を経た今、ルツェルンでのあらたな「ヴェルレク」に期待が高まりますが、マーラーが一巡してからなのでしょう。
予想では、2013年とみておりますが、いかに。
または、復興支援「ARK NOVA」のかたちで、演奏するかもしれません。
当然に、アバドの来日も!
3つの「ヴェルレク」の特徴を簡単に記してしまうと、それはその時の保持タイトルと独唱者の選択にあらわれております。
スカラ座・・・・純正イタリアの輝かしいけれど、いちぶの隙もない完璧なヴェルデイ。
スカラ座でいつも競演してる歌手と同じ生れ故郷の空気をともにしたオケとコーラス。
研ぎ澄まされた緊張感が素晴らしい。
ウィーン・・・ウィーンの音楽監督として、イタリアオペラ以外にも手腕を発揮。
勉学をした第二の故郷のオケは甘く、歌心も独特のオペラの呼吸がある。
歌手たちは、ワーグナーやモーツァルトも歌うオールマイティ歌手。
なかでは、ひとりカレーラスが生真面目ながら心洗われる真摯な本格派。
ベルリン・・・・響きが豊かすぎて拡散してしまう録音のせいもあり、アバドの求心力もやや及ばない感あり。
それでもそれは贅沢な注文。
明るく透明、かつ集中力の高い90年代のアバド。
若い歌手たちは、フレッシュで、国際色豊か。
こんな感じです。
ウィーン盤の魅力の一端は、ウィーンフィルという自主性に溢れたオーケストラの魅力。
ムジークフェラインのまろやかで、丸っこい響きも伴って聴くウィーンフィルのヴェルディはとても魅力的。
ディエスイレの強烈なダイナミズムも、少しも威圧感がなく、耳にうるさくない。
腹にズシンと響く太鼓の音を期待すると裏切られます(アバドは全部そうです)。
しかし、その劇的なフォルテには、オペラの一場面のような展開が伴い、そのあとにくる、たとえばラクリモーサの涙滴る悲しみなどは、一転あざやかなまでの対比の妙があります。
ウィーンと蜜月だった頃のアバドの純真無垢の指揮ぶりが目に浮かびます。
スカラ座やベルリンと同じく、柔のヴェルディです。
S:チェリル・ステューダー Ms:マリアナ・リポヴシェク
T:ホセ・カレーラス Bs:ルッジェーロ・ライモンディ
クラウディオ・アバド指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(1991.10@ウィーン・ムジークフェライン)
好調だったステューダーは、フレーニとの録音がアバドには残されなかっただけに、その渇望を癒してくれるリリカルな素敵な名唱。
リポヴシェクのコクのある深い歌もよく、実にうまいもの。
カレーラスは前述のとおり。輝かしさよりは真摯さが先立つ。
お馴染みライモンディは、その声を聴くだけで、スマートなあのお姿が目に浮かぶ。
合唱は、スカラ座のそれを思わなければ完璧。
スカラ座のヴェルディが凄過ぎるのです。
それにしても、アバドのつくり出すピアニシモの美しさは比類がありません。
音楽に全霊を尽くすアバドの祈りに満ちたヴェルディのレクイエム。
今年も終戦の日を迎えることとなりました。
過去記事 ヴェルディ「レクイエム」
「アバド&ミラノ・スカラ座」
「バーンスタイン&ロンドン響」
「ジュリーニ&フィルハーモニア」
「リヒター&ミュンヘン・フィル」
「シュナイト&ザールブリュッヘン放送響」
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コメント
お暑うございます。少しご無沙汰しておりました。
66年前の今日から「戦後」が始まったのですね。
目覚ましい復興からバブルが弾け、低迷期。そして今回の震災。
新聞では「戦後」に代わり「震災後」という言葉もちらほら見かけるようになりました。
なにかと気が滅入ることばかりですが、志半ばで天に召された全ての御霊を弔うとともに、
私たちも今度は「震災後」復興に向けて頑張っていかないとなりません。
すみません、柄にもなく堅苦しいお話になりました。
さて、アバドのヴェルディ:レクイエム。BSの中継のインパクトが強くて、
ベルリン・フィルとの演奏が頭にこびりついておりましたが、ウィーン・フィル盤も実に素晴らしいです。
おっしゃるとおり、絶頂期のステューダーの美声を聴くことができるのもポイント高いです。
併録の「聖歌四篇」も見事な演奏(アバドの「聖歌四篇」って、他に録音ありましたっけ?)。
といいつつ、スカラ座盤の豪華ソリストと合唱にも浮気してしまう私であります・・・。
要は、アバドのヴェルディ:レクイエムは全て素晴らしい!ということで・・・。
投稿: minamina | 2011年8月15日 (月) 21時59分
アバドのヴェルレク最高っすね。
スカラ座盤仰る通り素晴らしいですが
クラヲタさんがイマイチと評してるベルリン盤も
うちの装置ではいい音で鳴りますよ。
この盤は特にソプラノのゲオルギューがいいっす。
後半のリベラメなんて聴いてると涙出てきます。
この盤は映像もありましたね。
あ、そうそう映像といえば1982年のロンドン交響楽団盤も忘れないでください。
エディンバラ国際フェスティバルでアッシャーホールにての収録で、Mプライス、Jノーマン、Jカレーラス、Rライモンディの独唱でした。
もしかしてこれが自分的に最高の演奏かも。
投稿: シャム猫 | 2011年8月16日 (火) 02時30分
東京カテドラル聖マリア大聖堂は、淡野先生率いるシュッツ合唱団東京(友人がテノール団員)の公演で何度かお世話になりましたが、独特の荘厳な雰囲気で好きです。
投稿: faurebrahms | 2011年8月16日 (火) 05時27分
こんにちは。暑い毎日が続きます。さまよえる様の言われるように、夜に異常に汗をかきます。おかげで枕がエライことになっています。枕をバスタオルでつつんで寝ているのですが、そのバスタオルを上下逆にして、裏表にして、乾いている面をさがして使っても、一夜に3枚のバスタオルを汗だらけにしてしまいます。「お父さん?ここで飲み物こぼしたの?」と家族から言われる始末です。
ご紹介のレクイエム。アバド先生のウィーンフィルが私には好ましいのです。カラヤン先生のはスカラ座のあの画像が楽しい^^パバロッティがまだひげを伸ばしていない頃のヤツです。
当曲のSPレコードを最近手に入れました。セラフィン指揮の10枚組という大セットです。英HMV盤でコレクターの私たちにとって幻のセットと呼ばれています。(呼ばれていないか^^;)蓄音機で聞くと「Dies irae」もノンキに聞こえてくるんです。60年前には激しい演奏に聞こえたのかもしれませんが。。。テナーのソロをジーリが歌っています。夏の午睡にピッタリの演奏です。
投稿: モナコ命 | 2011年8月16日 (火) 11時39分
minaminaさん、こんにちは。
こちらこそしばらくでした。
コンサートも遠出もしばらくご無沙汰で、CD視聴をしこしことしている毎日です。
そんな中での、例年高齢のヴェルレクは、アバドVPOを選択しましたが、ウィーンフィルの素晴らしさとステユーダーの素敵さに参ってしまいました。
今年は、震災後ということもあり、ヴェルレクの抒情的な場面が心にひたひたと滲みこみました。
3種とも素晴らしいヴェルレクですね。
そうそう、四篇は唯一の録音ですよ!
ジュリーニとともに名品ですね。
日本が陥ってしまった負のスパイラルの一つが自然現象の猛威です。
まだ終わってなくて、次もあるところが、あまりにも悲しい事実で受け止めなくてはなりませんが、音楽に力を得て、前向きに生きねばと思います。
投稿: yokochan | 2011年8月16日 (火) 21時55分
シャム猫さま、こんにちは。コメントどうもありがとうございます。
ベルリン盤は、どうもEMIということだけでの先入観と印象の先走りがあって、そんな印象になっているんだと思います。
NHKで放送された映像はお宝のようにしてあります。
ゲオルギューとアラーニャはとても素晴らしく思います。
そうです!
忘れてました。LSO盤。
わたしも持ってます。豪華な歌手陣です。
そして一番熱いのがこの盤かもです。
来日後まもない演奏ですので、わたしの思いででもありました。
どうもありがとうございました!
投稿: yokochan | 2011年8月16日 (火) 22時05分
faurebrahmsさま、こんにちは。
コメントどうもありがとうございます。
淡野弓子さんのお名前とくると、シュッツとこのカテドラルですね。
いま調べたら9月に、こちらでシュッツの演奏会があるそうです。
おっしゃるように、荘厳で厳粛な雰囲気に包まれることでありましょうね。
できれば行きたいと思いましたが、あいにく神奈川フィル定期と重なってしまいました・・・。
投稿: yokochan | 2011年8月16日 (火) 22時13分
モナコ命さん、こんにちは、残暑お見舞い申し上げます。
甲子園での、関東・東北・北海道勢を応援してます。
みんないいところ行くのですが、最後に逆転。
無念でなりません!!
そして、夜は汗だくで夢見ながらの浅い睡眠。
タオルがわたしもジャブジャブです。溺れそうです。
困ったもんですねぇ・・・・。
ジーリが歌ってるセラフィン盤の存在は知りませんでした。SPですと何度も切り替えるので、お昼寝も楽じゃありませんね。
でもあのアリアのようなインジェルミスコは、きっと素晴らしいのでしょうね!
投稿: yokochan | 2011年8月16日 (火) 22時19分