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2011年9月 3日 (土)

ショスタコーヴィチ 交響曲第15番 ヤンソンス指揮

Yasukuni_2

夕方に客先帰りに立ち寄った日本庭園。

ここ、実は靖国神社の中なのですよ。

九段下から靖国通り沿いに縦長の神社の一番奥にあります。

Yasukuni_3

こんな静謐な庭園があるんです。

誰もいなかったので、わたくし、思索にふけってしまいました。

え? 何をって?

今日の晩ご飯はなんだろう?
酒は何にしよう?  ってね。

世俗的なワタクシでした。

Shostakovich_sym15_jansons

ショスタコーヴィチ(1906~1975)の交響曲シリーズ。

ようやく最後の交響曲第15番
ばらばらと聴き、記事に残したという意味では、とっくに終わっているけれど、連続CD聴きの記事の一環としてはこれは最終回。

1971年の作曲で、初演は息子マキシムによる1972年。
海外初演は、ロジェストヴェンスキーがモスクワ放送響と来日して大阪で行った大阪フェッスィバルの一環。
東京でも演奏された。
そのどちらか不明だが、NHKが放送して、わたくしはその模様を、ロジェヴェンさんのおもろい指揮ぶりとともに視聴して、ショスタコの5番以外の交響曲に触れることができた。
放送を録音して何度も聴いたが、その引用の多いパロデイ交響曲に魅力を感じることができなかった。
 そう、「へんなのっ!」でおしまい。
わかったようで、わからないまま、この曲はそこで世間から埋没していった気がする。
息子初演盤と、ソ連系のロジェヴェンとコンドラシン、そして新しもの好きのオーマンディ。
このくらいが70年代に出て、あとはほったらかし。

この曲を純粋な、そして真摯な交響曲として大真面目に捉えたのがハイティンクとザンデルリンク。
このあたりから、わたしのこの曲の聴き方も変わってきて、シリアスで透明感ある独特の作品との見方を強めていった。

そう、ウィリアムテルに惑わされてはいけない。
あの軽薄にみえる第1楽章もよく聴けばシニカルな半面、寂しさもひとしおの感あり。
 そして、終楽章とならぶこの曲の白眉は、第2楽章。
荒涼とした寒々しいロシアの大地をゆったりと沈鬱に進む葬送の行進。
それがじわりじわりと進むなか、突如として痛切きわまりない大咆哮となるところは、いかにもショスタコらしく、シロフォンを伴っていて切り裂くようなクライマックスとなる。
その後は、死に絶えたような陰鬱さ・・・・
 休みなく続くスケルツォ的な3楽章は、1楽章と同じく軽薄な様相を呈しつつも、どこか厳しい雰囲気。
そして、これまた引用の多い終楽章は、「リング」全体を覆うライトモティーフ「運命の動機」そのもので始まる。「ワルキューレ」の死の告知の場面や「ジークフリートの葬送行進曲」を思わせる。
「リング」は、世界を意のままに出来る黄金から指環を造り出したアルベリヒが、その指環を略奪され、それを持つものに死の呪いをかけた。その指環の争奪戦の長大なドラマ。
あらがいがたい運命が全編に付きまとうわけ。
その運命の動機を、結果として最後になった交響曲の終楽章に持ってきたショスタコーヴィチ。
解き明かすことのできないその意図は魅力を持った謎であります。
 その運命的な主題や、「トリスタン」的な半音階、ムツェンスクマクベスなどよりの引用もちらほら。
中間部では、第7交響曲の主題を用いながらこれまた強烈なクライマックスを築くが、全体を覆う沈滞ムードは侵しがたく、力を失ったあとは明滅するような彼岸めいた雰囲気となる。
マーラーの第9みたいに。
打楽器が多様される15番。最後は、チェレスタに誘導されて自身の第4交響曲やチェロ協奏曲などの終結部分と同じように各種打楽器が虚無的な雰囲気を醸し出しながら静かに終わる。

不思議な魅力の第15番。

ヤンソンスの全集のなかの97年のこの録音は、ロンドン・フィルを起用した。
順応性高く、そしてハイティンクとも録音済みのLPOは渋いサウンドで、ヤンソンスの真摯でほどよく聴かせ上手な指揮に応えている。
妙にデフォルメされたところもなく、引用部分が浮き上がってしまうことのない仕上がりのいい演奏に感じます。
この録音から10年以上たったいま、バイエルン放送あたりともう一度録音してみて欲しいものです。
 かつては考えられないくらいに、この曲のCDも出てますし、演奏会でもよく取り上げられるいまであります。

ショスタコーヴィチの連続シリーズ、ようやくおしまい。
ロシア系の専売特許だった時代を経て、西側ヨーロッパ圏。
そしていまや、われわれアジア圏も含めた世界潮流でもってショスタコは聴かれ、録音されている。
ブルックナー、マーラー、ショスタコーヴィチが人気交響曲作曲家の現在です。

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コメント

①靖国神社の奥の庭園、知らなかったので今度行ってみます。②私も、ロジェストヴェンスキーの来日公演をNHKが放送したのを録音して聴いた記憶がありますが、それが海外初演とか、モスクワ放送響だったとかは認識しておりませず、クラオタ人さんの確実な整理に敬意を表します。③当時「へんなのっ!」とかでおしまいにしたというのは同じです。しかし、何が契機か忘れましたが、バブル崩壊後あたりから、ショスタコの曲ではあるいは多くの交響曲の中でも最も好きな曲となり、ザンデルリンク(ベルリンso、クリーヴランド)中心に、アシュケナージRPOなどまで、楽しんでいる状況です。

投稿: faurebrahms | 2011年9月 4日 (日) 07時22分

faurebrahmsさん、こんにちは。
靖国神社の奥はこんな風になってましてお茶も飲めるみたいでした。
この曲の日本初演TVは、解説者は忘れましたが詳細な案内付きでした。
いまや、普通に聴けるというか私もタコシンフォニーの中では好きな番号のひとつです。
マーラーを一通り聴きまくったあと、ポスト・マーラーとして注目したショスタコーヴィチ。
わたしは、ハイティンクの全曲が出てくるたび、ひとつひとつ購入して、ショスタコの魅力にはまってゆきました。
ザンデルリンクはいいですね。
アシュケナージは未聴ですが、この曲はいろいろ試してみたい魅力がありますね。

投稿: yokochan | 2011年9月 4日 (日) 16時25分

交響曲第一番《HIROSHIMA》
感謝感激号泣震撼です。

ありがとうございました!!

投稿: adora | 2011年9月 4日 (日) 23時43分

adoraさん、コメントどうもありがとうございます。
佐村河内交響曲、わたくしも、まったく同感。
折に触れ聴いてます。
まったくそうですね!

本記事はショスタコですので、できましたらコメント先を的確にご選択いただきましたら、と存じます。
申し訳ありません。

投稿: yokochan | 2011年9月 6日 (火) 22時18分

本日昼休み、靖国神社庭園に行ってみました。けっこう人がいましたが、落ち着いた佇まいでした。

投稿: faurebrahms | 2011年9月 9日 (金) 22時14分

faurebrahmsさん、こんばんは。
今日はまた蒸し暑さがぶり返しましたが、行かれましたか、庭園に。
都心であんな雰囲気をそっと味わえるなんて、不思議な気持ちですね。
一昨日の18時過ぎに九段坂を下りましたが、お堀側を歩いたところ、武道館のコンサートに向かう方々と逆流しました。
とても懐かしい雰囲気でした。

投稿: yokochan | 2011年9月 9日 (金) 23時48分

お早うございます。お久しぶりです。ショスタコ交響曲シリーズ、ついに完結ですね。私は高校1年のときにN響アワーでこの曲を初めて聴きました。ヤノフスキの指揮でした。ビデオに録画して何度も観たものです。初めて買った同曲のCDは父ヤルヴィ&エーテボリでした。今はバルシャイの全集で聴くことが多いです。ブログ主様にはいずれショスタコの協奏曲や弦楽四重奏曲のシリーズも是非やっていただきたいです。

投稿: 越後のオックス | 2011年9月16日 (金) 06時16分

越後のオックスさん、おはようございます。
お久しぶりの書き込みありがとうございます。
ヤノフスキのそちらの演奏、わたしも映像と音源、どちらも残してあります。
懐かしいです。わたしはすでにサラリーマンしてました。
この曲の魅力が徐々にわかり始めた、今日この頃です。
リクエストの協奏曲は、ただいま準備中なのですが、四重奏曲はいまだ手つかずの未踏の世界。
リングを聴く方が、ずっと楽に感じる苦手領域ですが、チャレンジしてみたいです!

投稿: yokochan | 2011年9月16日 (金) 07時59分

(´・ω・`)ショボーン
この曲は今ではこのヤンソンス盤で聴いていますが
一時期はザンデルリンク指揮クリーヴランド盤を愛聴してました。
この曲は事実上の「最後の交響曲」。
消えゆくコーダはこの形式の終焉。
ザンデルリンクが亡くなり、またしても時代の証言者が去りました。

投稿: 影の王子 | 2011年9月20日 (火) 07時52分

影の王子さん、コメントどうもありがとうございます。
ザンデルリンクの逝去は、現役引退し、お歳もお歳だったゆえに、来るべきものが来てしまった、という感じでした。
ご冥福をお祈りしたいと思います。
この機会に、ザンデルリンクのショスタコーヴィチやマーラーを取り出してみたいと思ってます。

投稿: yokochan | 2011年9月20日 (火) 13時07分

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