マスネ 「ウェルテル」 デイヴィス指揮
10月の夕刻の東京タワー。
先っぽは、あの震災以来、まだ曲がったまんま。
スカイツリーに負けないで頑張って欲しいのだ。
マスネ(1842~1912)の「ウェルテル」を。
ご存じのとおり、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」を原作とする名作であります。
「若きウェルテル」は、わたくしも読みましたよ。
麗しき青少年としては、当然のごとく読まなくちゃなんない文学のひとつとして。
恋破れ命を絶つ純情多感な青年の物語は、ゲーテが書いてウェルテル熱が大ブームとなった200年前の人々の気持ちとは文化文明の変化もあり当然異なるけれど、わたしたちにも、甘酸っぱい青春の思いを味あわせてくれたもの。
いまの若いひとたちは、若きウェルテルなんて、読みはしないだろうなぁ。
それにしてもゲーテは、多彩な人でありました。
ヴァイマール国の宰相までなったし、音楽の素養も高く、しかもあまりにも多くの音楽が、その作品につけられた。
フランスのマスネもそのひとり。
25作品もあるマスネのオペラだが、それらは多面的な作風を要するが、その基本は優美で色彩感豊か、そして親しみやすいメロディの宝庫である点。
ライトモティーフの多用や感情に即した音色の変化など、ワーグナーの影響も大きいし、イタリアのヴェリスモ的な激しい情感とリアルなドラマの追及もありです。
そして、わたしは、マスネの甘味な音楽に、時としてマーラーやプッチーニ、シュトラウスを感じることもあります。
ウェルテルは、主役はテノール。
相手役のシャルロッテは、メゾの音域。
恋敵役のバリトンもいい人だし、ここに出てくる人は悪い人がいない。
だかやよけいに、ウェルテルの純情多感ぶりと、何をそこまで的な恋への暴走ぶりが際立つ。
そんな一途な役柄に、ホセ・カレーラスはぴったり。
A・クラウスとともに、この役の最高の歌手に思います。
加えて、琥珀色のクリーミーボイスと評された、フレデリカ・フォン・シュターデがシャルロッテを歌っているのですから。
マスネ 歌劇「ウェルテル」
ウェルテル:ホセ・カレーラス
シャルロッテ:フレデリカ・フォン・シュターデ
アルベール:トマス・アレン
ソフィー:イザベル・ブキャナン
ラ・ヴァッリ:ロバート・ロイド
シュミット:ポール・クック
ジョアン:マルコム・キング
その他
サー・コリン・デイヴィス指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
少年少女合唱団
(1980.2@ロンドン)
第1幕 シャルロッテの家の庭
父ラ・ヴァッリとその友人たち、そして子供たちがクリスマスの歌の練習中。
そこへ、詩人ウェルテルが農夫に案内されてやってきて、このあたりの美しい田園風景に感動して歌う。
シャルロッテが現れ、弟妹たちに食事をあたえ、亡き母に代わって優しく世話をする姿にウェルテルはひと目ぼれ。
ふたりは、その晩に行われる舞踏会に出かけてゆく。
入れ違いに、亡母の望みによって婚約しているアルベールが長い旅行から帰ってきて、妹ソフィーに彼女の所在を確認し、結婚式の準備が整いつつあることに満足。
晩になり、舞踏会から帰って、ますます彼女への想いを募らせたウェルテルは、高揚した気分も手伝い告白をするも、シャルロッテは心魅かれつつも、許嫁がいることを語り、ウェルテルは、ショックを受ける。
第2幕 教会の広場
新婚のシャルロッテとアルベール。それを複雑な思いで見つめるウェルテル。
アルベールは、ウェルテルの気持ちを察し、気のいい妹ソフィーはどうかと誘うが、まったく気乗りのしないウェルテル。
花束を持ってウキウキと登場のソフィーは、ウェルテルのことが好きで、ダンスに誘うがはっきりしないウェルテル。
出てきたシャルロッテに、変わらぬ愛を語るが、いまや人妻のなり、気持ち魅かれつつもこの村を去るように頼む。
でも、12月のクリスマスには会いに来て・・・、と救いの一言を忘れなかった。
落胆したウェルテルは、出会ったソフィーに、もう二度と戻ることはないと告げ走り去り、ソフィーはアルベールとシャルロッテにそのことを涙ながらに告げる。
アルベールは、彼はまだ愛してるのだと知る。
第3幕 アルベールの家
クリスマスイヴの夜、シャルロッテは寝室のデスクで、ウェルテルからの手紙を読んでいる。旅先からの手紙の数々、何度も読んでは、悲しみと不安に駆られている。
ウェルテルが心に占める大きさにますます気が付き、そして死をほのめかす手紙にも大いに動揺して歌う。
そこへ、クリスマスのお祝いにと、ソフィーがやってきて、姉の涙や冷たい手に驚き、クリスマスを父の家で一緒に過ごしましょうと誘うが、姉は一人にしておいて欲しいと。。。。
ソフィーが去ったあと、入口にはウェルテルが立っている。
思いつめて、そして約束通り、クリスマスにやってきたのだ。
楽しかった頃を、懐かしむ会話。ふと、テーブルの上のピストルに目をとめるウェルテルだが、シャルロッテは素早く、その傍らにあったオシアンの詩集に話題を振り、かねてその詩を訳してくれたと語る。
ウェルテルは、ここで、あまりにも有名で悲しみの情熱に満ちた「オシアンの歌」を歌う。
歌のとおりに激したウェルテルは、想いのたけをまた口にし、拒むシャルロッテも彼の腕の中に飛び込む・・・・、がしかし、自制を効かせ、心と裏腹に、もう会えないと歌う。
絶望のうちに飛び出したウェルテルが、アルベールに託した手紙。
それは、旅に出るのでピストルを貸して欲しいというもの。
帰ってきたアルベールから、それを聞き、貸すがいいと言われたシャルロッテは、ピストルを執事に手渡す。
シャルロッテは、なんということ・・・と急がねばとウェルテルの元へ。
第4幕 ウェルテルの部屋
クリスマスの夜。
シャルロッテが寂しく雪のちらつくなか、ウェルテルの部屋に駆け付けると、もうそこには、血を流したウェルテルが瀕死の状態で倒れていた。
助けを呼ぼうとする彼女を制し、このままシャルロッテの腕の中で、というウェルテル。
シャルロッテは、彼を愛した本当の気持ちを語り、ウェルテルは、これで悩みも悲しみも忘れられると歌い、自分が死んだあとのことを薄れる意識の中で語る・・・。
外では、子供たちの、そしてソフィーのクリスマスを祝う歌声が聴こえ、すべては終わったわ、と泣き崩れるシャルロッテ。
幕
主役2人の若々しく、美しく凛々しい歌は、何度聴いても感銘とともに、爽やかな印象を受ける。
カレーラスの、いくぶん青っちょろい硬質な声は陰りを持った男を歌うのに最適。
オシアンの歌の素晴らしさには陶然としてしまうし、1幕のシャルロッテに出会う前の自然賛美が懐かしく覚えるほどの、劇への傾斜ぶり。
シュターデの手紙の歌も、涙が出るほどの儚さと大人の女性の悲しみが添えられていて、聴いてて思わずメロメロになってしまいます。
アレンのキッパリとした歌もよいです。
総じて、コヴェントガーデンで活躍していた英国歌手たちの品のいい歌はよいです。
デイヴィスのいくぶん重めのサウンドは劇的で聴きごたえ充分でありますが、柔らかな抒情性と洒落たセンスにおいては、プラッソン(クラウス盤)の敵ではありませぬ。
シベリスの録音の時にも気になった、鼻声や気合いの声がばっちり録音されていて、マスネのような音楽では、これもまたいくぶん気になります。
しかし、オケも含めて英国風の品の良さは、大いに評価すべきであります。
というわけで、青春カムバックの「ウェルテル」を楽しんだ休日の午後でございました。
久しぶりに聴いて、その旋律が、プッチーニの「修道女アンジェリカ」に似ているな、と思ったりもしました。
一方で、クラウスのウェルテルが懐かしくも最高の思い出とともに思いおこされます。
そして、DVDで購入したものの、まだ封を切ってないガランチャのシャルロッテも観てみたい想いが募ってます。
場所を変えての東京タワー。
さらに暗くなってきました。
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コメント
これはまた、名盤の登場。
私も、この演奏、大好きであります。
やはり、カレーラスと名花:シュターデが素晴らしいでございます。
そして私も読みましたですよ、ゲーテ。ウェルテル。
もう20年以上前でしょうか。まぁ、誰しも恋に焦がれるという時期がありまして、
その頃は見るオペラも情熱的で献身的な「マノン・レスコー」だったりどこまでも純粋な「ラ・ボエーム」だったりしたわけです・・・(あれ?プッチーニばっかりだ)。
いろんな意味で、若気の至りですな(?)。
今では恋心などとうに忘れ(?)「ウィルヘルム・マイスター」の方がしっくり来る中年オヤジのワタクシでありました(^^;;;
投稿: minamina | 2011年10月25日 (火) 23時17分
minaminaさん、こんばんは。
このウェルテルの名盤にご同意いただき、恐悦にございます。
淡い恋への憧れや想いは、誰しも同じでございますな。
それと、オペラが結び付いちゃうところがヲタの片鱗にございますよ。
わたしも、プッチーニやヴェリスモなのですが、当然にワーグナーなところが、ひかれてしまうところなのでございます。
ワルキューレやトリスタンですからねぇ。
ウィルヘルム・マイスターですねぇ、うんうん。
投稿: yokochan | 2011年10月26日 (水) 23時40分
こんにちは。
ボクもこの演奏が好きで、というかこれしか知らないのですが、泣かされますね。
最近は殆どCDをウォークマンでしか聴かなくなったので対訳をしっかり読みながら聴けませんので、要約していただいて助かります。
ウォーキングするときに久しぶりに聴いてみようと思います。
投稿: 松夲ポン太 | 2011年11月 3日 (木) 12時43分
松本ポン太さん、デイヴィスの唸り声がちょっと鬱陶しいですが、この「ウェルテル」はプラッソン盤と並ぶ超名盤だと思います!
投稿: yokochan | 2011年11月 4日 (金) 22時43分