R・シュトラウス&ラフマニノフ チェロ・ソナタ
今年の紅葉は、いつまでも暑かったり、暖かったりしたせいか、どうもキリッとした色じゃありませんでしたが、それでもこんな水辺の色合いはきれいなものです。
今日は、美しいチェロ・ソナタをふたつ。
R・シュトラウスとラフマニノフという、わたしの大好きな作曲家のチェロ・ソナタがカップリングされた素敵な1枚を。
晩秋に相応しい、メロディアスで抒情あふれる桂曲たち。
そして、これにはわたくし、ジャケットに惹かれた部分もございます。
アール・ヌーヴォ風の装飾と文字、それとベックリンの象徴的な絵画。
どちらも世紀末。
シュトラウス(1864~1949)もラフマニノフ(1873~1943)もともに、その世紀末を生きた作曲家たち。
1883年、シュトラウス19歳のチェロ・ソナタは、彼がまだ学生時代のもので、前年にはヴァイオリン協奏曲を書いているし、勉強中の人とは思えない早熟ぶりを発揮していた。
自身は、型にはまった勉学を嫌い、父親(宮廷オケのホルン奏者)の尽力もあり、同じオケに移籍したチェコの有名なチェリスト、ハヌシュ・ヴィハーンとの出会いから、この若々しいソナタは生れた。
シュトラウスはヴィハーンの奥さんが好きになり、かなりヤバイことになったらしい。
のちに、シュトラウスは、ドーラ・ヴァイスと正式に結婚するとき、ヴィハーンの奥さんとの手紙の数々を焼き尽したという。
まったく、若いリヒャルトは、もうひとりのリヒャルトと同じくして、人妻好きなのでした。
ちなみに、ヴィハーンは、ドヴォルザークの協奏曲を献呈された人であります。
3つの楽章は、若々しさとともに、大人びた表情も見せる、歳に似合わない趣きを持っていて、第2楽章の落ち着いた嘆息をも感じさせるムードは、さながらシューマンのようでありました。
快活な前後の楽章は、後年のバリっとした管弦楽作品をも先取るような明朗な音楽。
もうひとつの、ラフマニノフのチェロ・ソナタは、1901年28歳のときの作品。
モスクワにて、ボリショイ劇場の指揮者をつとめる傍らの作曲で、交響曲第1番の失敗による深い傷も、かのピアノ協奏曲第2番などで、すっかり癒え、好調ななかにかかれたのがこの曲。
4つの楽章、30分を超える規模の音楽は、もう完全にラフマニノフしてます。
作曲者自らがピアノを弾いての初演。
そして、ここではピアノがかなり雄弁でして、われわれが普段聴くラフマニノフのピアノのソロ作品そのものずばりで、そこにつつましながらチェロのソロが乗っかってる、という按配に聴こえます。
いや、もちろんリリシズム豊かで、泣き節が随所に聴かれるチェロも、ほんと素晴らしいのですよ。
交響曲第2番との類似性も感じました。
暗く手探りのような開始のなかから、徐々に姿をあらわして、盛り上がってゆく第1楽章。
スケルツォ風で、少しばかり野卑な感じの第2楽章。
そして、この曲の目玉であり、圧巻は第3楽章のアンダンテ。
ピアノのデリケートな導入に続いて、チェロが歌いに歌いまくります。
このロマンテックな風情といったらありません。
極甘のとろけるようなデザート・スゥイーツです。
ラフマニノフを聴く喜びはここに尽きます。
短めな楽章なところがちょっと残念。
第2協奏曲の終曲のような終楽章。
早い快活な部分と、抒情あふれ、思わず一緒に口ずさみたくなるような旋律とが交錯します。
なんて素敵な曲なのでしょう。
シュトラウスとラフマニノフ。
どちらも、滴るようなチェロと明朗なピアノが聴ける名作に思いました。
今日のチェロは、かつてのバイエルン放送響の主席ヴェルナー・トーマス=ミフネとアルゼンチン生れ、アルゲリッチと同門のカルメン・ピアッツィーニとの共演。
ちょっと地味な感じだけど、堅実でおおらかなトーマス教授のチェロ。
そして、ラフマニノフがとりわけ耳をそばだてるほどに素晴らしかったピアッツィーニ女史のピアノ。
このコンビのサン=サーンスもあるみたいです。
晩秋&初冬の夜に聴く、チェロ・ソナタふたつでした。
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コメント
yokochan様、こんばんは~。
ん~、R.シュトラウス&ラフマニノフのチェロ・ソナタとは、また通好みの渋い選曲ですねぇ~。僕は、この2曲何年か前に、FMで聞いている筈なのですが、どうも記憶に残っていないのです。確か、ラフマニノフの方は~貴殿のおっしゃるように、第3楽章が情緒纏綿たる甘美なチェロの旋律で、ああ~もっと続いてくれればいいのに~。と、残念に思った記憶があります。でも、ピアノの名手だったラフマニノフが書いたソナタだけあって、伴奏のピアノがやたらに雄弁で、これはチェロが脇役に回ってしまって、チェロ・ソナタじゃあないよなぁ~。と、思ったのも正直な事実ですねぇ~。
ということで、僕のチェロ・ソナタNO.1は~ベートーヴェンの第3番~。NO.2が~ショパンのソナタ~。そしてNO.3がラフマニノフというランクづけになりますかねぇ~。
投稿: Warlock Field | 2011年12月 1日 (木) 20時16分
Warlock Fieldさん、こんばんは。
どちらも大好きな、わたしのフェイバリット作曲家ですから、彼らの作品ならなんでも聴きます。
正直、揚げられたベートーヴェンやショパンのソナタは、私の嗜好上にありませんのであまり聴くことはありません。
シュトラウスとラフマニノフだからこそ聴く、この手のジャンルです。
偏重ぶりをお許しください(笑)
そしてそうなんです、ラフマニノフの3楽章の素敵さといったらありません。
特にご指摘のとおり、ピアノパートの雄弁さ。
いつでもラフマニノフしてる、ラフマニノフが好きです。
投稿: yokochan | 2011年12月 1日 (木) 23時15分
この曲の事は意識していなかったのですが、この記事を拝読し自分の手持ちを探し、DGのロストロポーヴィチとデデューヒンによるモノラル録音がシューマンの協奏曲の余白に(ロジェストベンスキー/レニングラードpo、ステレオ録音)あるのを見つけ聴き、確かに2番交響曲・協奏曲と同質の美しい曲で気に入りました。さきほど、クニャーゼフとルガンスキーのステレオ録音が1,050円だったので買ってしまいました。
投稿: faurebrahms | 2011年12月 3日 (土) 12時44分
faurebrahmsさん、こんばんは。
ロストロポーヴィチの演奏の存在は知っておりましたが、シューマンのカップリングに隠れておりましたか!
ほんと、美しい歌にあふれた曲ですよね。
わたしは、当盤のみのですので、お買いになったCDなども含めて、次ぎの1枚を探してみようと思ってます。
投稿: yokochan | 2011年12月 4日 (日) 00時02分