クリスタ・ルートヴィヒ オペラアリア集
皇居を背中に、東京駅丸の内口を真っすぐに望む。
行幸通りです。
その名のとおり、天皇が行幸する通り。
このビルの谷間を通って、風が皇居にむかって流れるように吹くという都市設計にもなっていて、晩秋の昼下がり、とても気持ちがよいのでした。
わたしの世代にとって、憧れであり、かつ親しみあるメゾソプラノ、クリスタ・ルートヴィヒ。
1928年ベルリン生まれ、1994年に惜しまれつつも歌手生活を引退。
舞台映えのする美人だったし、お茶目なところもあるルートヴィヒ。
その実演に接することができなかったのが残念。
クレンペラー、ベームやカラヤン、バーンスタインのオペラや声楽のレコードには必ず名を連ねていた名歌手。
だから、わたしの音源には彼女の歌がいっぱい。
聴かずとも、その声が脳裏にこだまするほどに、慣れ親しんだ歌手。
レパートリーも広大で、ルートヴィヒによって刷り込まれた作品もたくさん。
マタイにロ短調、ドラベッラ、第9、アダルジーザ、デリラ、作曲家、バラクの妻、オクタヴィアン、元帥夫人、クイックリー夫人、エボーリ姫、ブランゲーネ、クンドリー、ヴェーヌス、ヴァルトラウテ、オルトルート、マグダレーネ、フリッカ、大地の歌、復活、亡き子、ヴェルレク、・・・・・、あぁまだあるかしら。
ともかく、ほとんどすべて聴いてるし、決定盤ともいうべきアルバムには必ず登場していたルートヴィヒ。
気品と格調高い歌は、悪役を演じてもキリリとしていてカッコよかったルートヴィヒ。
端役を歌っても、一言発するだけで、それとわかるから輝いてしまう。
過度の歌い回しもなく、真っすぐの声質による暖かい歌声だった。
人によっては、ヴィブラートを気にするかもしれないが、それもまたルートヴィヒの特徴でもある。
ソプラノの領域も楽々とこなし、元帥夫人は酸いも甘いもきき分けた深みある味わいある歌唱でした。
バッハやマーラーを歌うとき、適度な感情移入がひたひたと聴く者の心にしみ込んでくるような名唱でありました。
クレンペラー・カラヤン・バーンスタイン、3種ある「大地の歌」はいずれも絶品でございますね。
そして、ワーグナーのメゾ役はすべて聴くことができるのではないかしら。
なかでも、ブランゲーネは、もうもう絶対に、ルートヴィヒの右に出る人はいまもっておりません。
2幕、愛にふけるトリスタンとイゾルデに、優しく甘く警鐘を鳴らすブランゲーネの声は、私の中では、ブランゲーネ=ルートヴィヒとなってしまっているのでございます。
彼女の1964年録音のオペラシーンを歌った音源が復刻されております。
1.R・シュトラウス 「エレクトラ」 オレストとの二重唱
2. 〃 「ナクソスのアリアドネ」 アリアドネのモノローグ
3. 〃 「影のない女」 バラクの妻のモノローグ
4.グルック 「タリウスのイフィゲニー」
5.ロッシーニ 「セビリアの理髪師」 今の歌声は
6.ワーグナー 「神々の黄昏」 ブリュンヒルデの自己犠牲
メゾ・ソプラノ:クリスタ・ルートヴィヒ
Br:ヴァルター・ベリー Ms:ジークリンデ・ワーグナー
A:長野羊奈子
ヘインリヒ・ホルライザー指揮ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
(1964 @ベルリン)
シュトラウスのオペラ好きにはたまらない、すごいラインナップにてございましょう?
さらに、ウィーンでのラストコンサートライブと組み合わせた2枚組のCDの余白には、ベリーの歌うオックス男爵のワルツとルートヴィヒのアンニーナという珍しい聴きものが挿入されております。
ここでルートヴィヒは、メゾでない役柄を大胆にも歌いこんでます。
弟オレストとの情熱的な再会を歌うエレクトラは、ドイツ語のディクションの素晴らしさと迫真の声に感動しました。
そして、作曲家ではなく、嘆きのアリアドネを歌うそのかたわらには、のちの若杉弘さんの奥様、長野羊奈子さんがニンフ役で出てます。これまたスゴイ記録です。
そしてドラマテック・ソプラノの最高峰の役柄ブリュンヒルデにも挑戦してます。
叫ぶようなところが一切なく、レンジの広い余裕の落ち着いた歌唱を楽しめました。
メゾの歌としては、なんといっても、というか、このCDのなかでも一番の名唱がバラクの妻。
離ればなれとなり、自己の不義理を悩むバラクの妻の張り裂けるような思いを、感動的に歌いこんでおりまして、わたくしには至高の10分間でした。
あとドイツ語のロジーナは珍品で、これは歌い口もふくめてちょっと無理がありましたね。
ルートヴィヒの幅広いレパートリーと芸の深さ、そして絶頂期の素晴らしい声を味わえる貴重な1枚です。
あと、当時の旦那ベリーの暖かな声もいつも通り。
ホルライザーとベルリン・ドイツ・オペラの完璧なるオペラのピットから鳴り響くサウンドは、いまや貴重なものといっていいかも。
雰囲気ありすぎですよ。
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