ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」 クライバー指揮
群馬県藤岡市の桜山公園。
冬桜がたくさん咲いてまして、おりからの紅葉と一緒に楽しめるのでございました。
バカチョンカメラでは、紅葉の赤はまったく捉えることができませんが、桜と紅葉、雰囲気はいいでしょ。
ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」。
いったい何度取りあげてるのでしょうね。
過去記事を調べたら18回も取り上げてますよ。
ワーグナーの記事だったら、おそらく100以上は軽くありますな。
ワーグナーに魅せられて、39年あまり。
長いお付き合いです。
ほんの一音聴いただけで、それがどのオペラか、どのヶ所か、すぐにわかると思います。
その能力をもっと他に活かせと自分にいいたいくらいですが、好きなものはしょうがないですな。
ワーグナー、英国音楽、アバド。
この3つが、長年聴き、追いかけてきた、わたしのクラシック音楽の基本中の基本。
それに、オペラ全般と、R・シュトラウス、後期ロマン派~世紀末、ハイティンク・マリナー・プレヴィン。こんなフェイヴァリットを加えてのわたくしの音楽人生後半でございます。
明日、6周年目を迎える当ブログも、こんな風に要約してしまうと、とても偏りがあります。
クラシックに目覚めたことは、当時の入門ルートを常設どおりに通過し、清く正しいクラシック愛好家だった。
もう戻れない過去かもしれないけれど、あの時代を懐かしく思う気持ちは日に日に高まってますね。
古い音源を探し出して聴いて記事に昔話を残す。
そんな喜びも、ブログの楽しみでありますし、人知れぬ曲をお披露目したいという密やかな楽しみもブログならではなのです。
前置きが長くなりましたが、19回目の「トリスタン」は、カルロス・クライバーの指揮によるライブ盤で。
ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」
トリスタン:スパス・ヴェンコフ
イゾルデ:カタリーナ・リゲンツァ
マルケ王:クルト・モル
クルヴェナール:ジークムント・ニムスゲルン
ブランゲーネ:ルジャ・バルダーニ
メロート:ジャンパオロ・コラッディ
牧童:ピエロ・デ・パルマ
舵取り:ジョヴァンニ・フォイアーニ
若い水夫:ワルター・グリーノ
カルロス・クライバー指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団/合唱団
演出:ウォルフガンク・ワーグナー
(1978.12.4@ミラノ・スカラ座)
カルロス・クライバーの「トリスタン」といえば、DG正規のドレスデン盤がいやでも有名。
有名すぎて、記事にしてないけれど、コロとプライスのユニークな主役たちが素晴らしく、ドレスデンの音色とやる気に満ちたサウンドも火のうちどころがないのだが、全体にどこかキレイすぎるきらいもある。
それは、きわめて贅沢な思いで、天にむかって唾するようなものだけれど、ライブのカルロスのトリスタンに勝るものはないとの思いが捨てきれない。
FMで聴いた、バイロイトのライブの白熱の素晴らしさ!
1974年にバイロイトデビューしたカルロスは、76年まで3年間「トリスタン」を指揮した。
最後の年は、シュタインと分けあって、以降は降りてしまった。
いずれもカセット録音をしたものの、失敗をくりかえし、74年の一部のみが今残るのみ。
このバイロイトでの上演では、カタリーナ・リゲンツァがすべてにわたって完璧なイゾルデとして君臨していて、カルロスも大満足であったと思う。
しかし、トリスタンに人を得ることができず、ヘルゲ・ブリリオートのトリスタンは、聴いていてハラハラしたし、心もとないこと極まりなかった。
3年目に、スパス・ヴェンコフがブルガリアから彗星のごとくあらわれ、これでようやく理想的な「トリスタン」上演となったのに、翌年からカルロスは降りてしまった。
こちらは、バイロイトの初舞台74年の非正規ライブ。
一応ステレオ録音で、そこそこ鮮明ながら、テープ録音による音の揺れがときおり目立つ。
しかも、ブリリオートの声がなおさら不安定に聴こえるけれど、思ったほどひどくない。
しかし、そんな中でも、リゲンツァのピンと張り詰めた声は揺るぎなく聴こえるし、ミントンのブランゲーネ、マッキンタイアのクルヴェナール、定番モルのマルケは、極めて魅力的。
鋭敏かつドラマテックなクライバーの指揮もまったくもって素晴らしい。
75年のヘルミン・エッサーのトリスタンによるものか、理想的には76年のヴェンコフのトリスタンを、是非とも正規音源化して欲しい!!
78年上演のスカラ座のトリスタンは、スカラ座としても1964年以来14年ぶりの上演で、演出は当初、パトリス・シェローが予定されていたものの、キャンセルとなり、ウォルフガンク・ワーグナーの穏健で伝統的な演出にとって代わった。
シェローは、76年のバイロイト100年リングで物議をかもしながらも、この頃は演出の潮流を変えてしまった名演出として認知されていたので、カルロスとの組み合わせは興味深いものだったのだが。
ここで聴くカルロスの作り出すライブ・トリスタンは、実に熱く、怪しく、そして悩ましい。
繊細な弱音から、強靭な強音まで、音域の幅が極めて大きく、伸縮自在に指揮するカルロスの指揮姿が脳裏に浮かぶ。
速いテンポでぐいぐい進む前奏曲、盃を交わし激変する2人から岸に到着する場面のスリリングな興奮。
情熱に満ちた2幕の前奏と、駆け着ける切迫した愛に、濃厚かつ美しい二重唱。
そして後半の落胆ぶりと悲哀。
ヴェンコフの素晴らしいトリスタンと相まって、没頭感あふれる第3幕。
昇天するがごとくの神々しい愛の死。
スカラ座のオケの高性能ぶりと、明るめの音色がこうしたワーグナーに相応しい。
リゲンツァのイゾルデとブリュンヒルデは、ちゃんとした録音で復刻しておいて欲しいものだ。かつて、ニルソンがその引退にあたって、わたしのあとは、リゲンツァとリンドホルムがいるから大丈夫、と語ったことがあった。
リゲンツァのイゾルデは強靭で怜悧な先輩ニルソンのものとは違って、親しみのもてる女性的な存在を透明感あふれる声でもって歌いだしている。
彼女の情感豊かな優しいイゾルデは、気品もあり、とても好きなのであります。
何度も自慢しますが、ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演のリング通し上演で、リゲンツァのブリュンヒルデとコロのジークフリートを観劇したことが、いまや夢のようであります。
ヴェンコフのトリスタン。このブルガリア生まれのヘルデンテノールは、法律家・ヴァイオリニスト・バスケットボール・チェス、それぞれの名手という変わり種で、東側から彗星のように現れた遅咲きの歌手でありました。
肉太のヘルデンではなく、知的でかつ真摯な歌い口と、思いもかけない爆演歌唱する人で、トリスタンでは3幕にピークを築いていて、カルロスともども白熱の舞台となっている。
この人も何度か来日しているが、ウィーン国立歌劇場のトリスタンで予定されていながら、体調不良で来日せず、聴けなかった思い出があります。
モルの深みのあるマルケは安定感抜群。
ニムスゲルンのクルヴェナールは珍しいですな。なかなかいいです。
バルダーニはカラヤンとの共演も多かったザグレブ出身のメゾで、こちらも豊かなメゾでした。
イタリア・オペラの名脇役、ピエロ・デ・パルマが牧童を歌ってるのがスカラ座らしいところ。
モノラル録音で、聴衆の咳やイタリアらしいおしゃべりも気になるし、声が遠いものの、鮮明な音で、視聴に支障はまったくない。
聴衆が、幕を追うごとに熱狂してゆくのがよくわかります。
アバド時代のスカラ座の充実ぶりもうかがえる、カルロス・クライバーのトリスタンでありました。
スカラ座は、アバドのあと、ムーティ、そしてバレンボイムが音楽監督就任とのこと発表されましたな。どこもかしこもバレンボイムとなりつつある超人ぶり。
でも、これでアバドのスカラ座復帰がますます実現しそうな感じです。
クライバーのトリスタン 演奏タイム
Ⅰ Ⅱ Ⅲ
バイロイト74 77分 76分 74分
スカラ座78 74分 77分 72分
ドレスデン80~ 77分 79分 76分
※ライブでは、感興にあわせて、自在な演奏となっていることがわかります。
ちなみに、手持ちの最短と最長は。
ベーム66 75分 72分 71分
バーンスタイン 92分 80分 83分
トリスタンとイゾルデ 過去記事一覧
大植バイロイト2005
アバドとベルリン・フィル
バーンスタインとバイエルン放送響
P・シュナイダー、バイロイト2006
カラヤン、バイロイト1952
カラヤンとベルリン・フィル
ラニクルズとBBC響
バレンボイムとベルリン国立歌劇場公演
レヴァインとメトロポリタン ライブビューイング
パッパーノとコヴェントガーデン
ビシュコフとパリ・オペラ座公演
飯守泰次郎と東京シティフィル
ベームとバイロイト1966
ジョルダンとジュネーヴ
ティーレマンとウィーン国立歌劇場
沼尻竜典@びわ湖
サヴァリッシュ、バイロイト1957
大野和士@新国立歌劇場①
大野和士@新国立歌劇場②
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コメント
yokochanさん、ブログ開設6周年おめでとうございました。
お互い、呑兵衛で“泥沼”のような音楽にどっぷりはまった人生でございます。
これからもマイペースで頑張りましょう。
追記
ヘンデルのオペラ、断片とバスティッチョ以外収集完了。今度はロッシーニだっ!
投稿: IANIS | 2011年11月 6日 (日) 22時08分
今シーズンの終わりに定年を迎えるBayerische Staatsoper合唱団員です。Wenkoffは前の " Tristan und Isolde " 演出の時に何回かご一緒しました。小柄だけれど胸板の厚い人で、毎回異なった一口話を用意して来て舞台裏で男声合唱団員を笑わせてくれました。
投稿: 【篠の風】 | 2011年11月 6日 (日) 23時08分
IANISさん、こっそり書いておいた6周年に反応いただき、まことにありがとうございます。
そうですねぇ、まったくの泥沼。
酒も音楽も、依存症めいてきております(笑)
しかし、前者は自重しなくては・・・。
そして、貴兄の場合は、あと煙ですな・・・、失礼(笑)
ヘンデルオペラのコンプリート、おめでとうございます。すごすぎますよ!
そしてなんですと、次はロッシーニとはまた。
わたしも見習って、あと少しのブリテンを目指します。
投稿: yokochan | 2011年11月 7日 (月) 21時10分
篠の風さま、はじめまして。そしてコメントどうもありがとうございます。
バイエルンのオペラにご在籍とのこと。お読みして、もしかしたら、あの舞台、この舞台に、と、ご出演されていたのではないかと、思いを巡らせております。
ヴェンコフの逸話も、とても興味深いです。
彼のソロCDの解説書で読んだ、多趣味のマルチな人柄。うなずけるお話です。
映像や写真では、いつも困ったり、悩んだりした顔をしているヴェンコフのお人柄がよくわかります。
そうもありがとうございました。
そして、今シーズンの成功裏の無事終了を遠い日本からお祈りしております。
投稿: yokochan | 2011年11月 7日 (月) 21時18分
さまよえる様、お若いです!同い年とは思えない!この曲を今でも沢山聴いているんですね。尊敬!
私も20代30代のころは、トリスタンをそれこそ熱にうなされるように聴きまくりました。でもね、だんだん聴けなくなってきたんです。この曲って体力いるもん^^;
えんえんと続く愛の場面とか、ワグナーのこれでもかこれでもかっていう濃厚な表現は、ベームのすいすいテンポでやってもらっても、この年になるとしんどい。。。
もう、ステーキもパスタも無理なんです。お父さんはお茶漬けが好きなお年頃なんです。ビーフシチューじゃなく土瓶蒸しで日本酒を飲みたいんです。
ま、ごくごくたまーに突然聴きたくなって、ご案内のクラーバーのDG盤とかカラヤンのバイロイト盤とか、往年のベーム盤とか聴いてはいるけど、全曲は無理だー。そろそろ私もジョギングとか始めて、体力を付けようかと考え中です。それもビールを飲みながら考え中です。
メタボまっしぐらなお父さんなんです。
投稿: モナコ命 | 2011年11月 7日 (月) 21時35分
モナコ命さん、こんばんは。
いやぁ、若いとお誉めいただき恐縮に存じます。
でも、ワーグナーの諸作は、完全にわたしの体に溶け込んでおりますので、何の苦労も、疲労もなく、するすると聴くことがいつでもできます。
ワーグナー毒に、冒されてしまった慢性中毒症状の一端でございましょうや。
ですから、お茶漬け感覚で聴くワーグナーなのであります。
逆に、苦手なベルカントものなどは、わたしには、体が受け付けないものなのです。
いったい、どうい耳に体になってしまったのでしょうか。
と、発泡酒とウィスキーと日本酒を飲みつつ思う今日この頃であります。
投稿: yokochan | 2011年11月 7日 (月) 23時25分