ワーグナー 「ジークフリート」 レヴァイン指揮
横浜のColleteMareより。
真ん中はクリスマスマーケット。
こちらは、六本木ヒルズのマーケット。
ビールやウィンナー、プレッツェルも食べれる本格ドイツ風。
ドイツ各都市では、街の中心の広場で開かれる。
寒い夜に、グリューネワインなんて最高でしょうねぇ。
こちらはバイロイトのクリスマスマーケット。
バイロイト市のページには、今年の動画もありました。
→http://www.bayreuth.de/veranstaltungen/
bayreuther_christkindlesmarkt_554.html
ワーグナー 序夜と3日間の舞台祝典劇「ニーベルングの指環」。
第2夜は、楽劇「ジークフリート」。
リングのなかでは一番地味で、ほかの3作に比べ、これだけ単独で上演されることはまずない。
男ばかりの登場人物で、くどい昔話も多く、女声はせいぜい鳥が第2幕に、あとは知の女神さんがいりけれど、3幕まで、ヒロインの目覚めを待たねばならぬ。
上演の際、聴取は退屈してしまう。
1幕はジークフリートが剣を鍛え直すまで、2幕は龍との対決まで、3幕はブリュンヒルデが起きるまで(でも起きた後の二重唱は長過ぎの理解不能の会話)・・・・私は、慣れてしまったけれど、ほとんどの方に退屈誘う場面であります。
だから、演出も嗜好を凝らすこと多く、キース・ウォーナーのトーキョーリングは、お笑いや仕掛けも随処におりまぜた傑作の一品だった。
4時間の長丁場、8人の歌手が絡み合うが、その8人は、声質がそれぞれ異なり、コントラストは豊かなところはさすが。
ヘルデンテノール・キャラクターテノール・バスバリトン・バリトン・バス・アルト・コロラトゥーラ・ドラマティックソプラノ。全部違う。
その中心はいうまでもなくジークフリート。
あらゆるテノールの諸役の中でもトリスタンと並んでヘヴィーな難役のひとつ。
今回は、皆さん多くは聴かないであろう地味なジークフリートを選択してみました。
ワーグナー 楽劇「ジークフリート」
ジークフリート:ライナー・ゴールドベルク
ミーメ:ハインツ・ツェドニク
さすらい人:ジェイムズ・モリス
アルベリヒ:エッケハルト・ヴラシハ
ファフナー:クルト・モル
エルダ:ビルゲッタ・スヴェンデン
ブリュンヒルデ:ヒルデガルト・ベーレンス
森の小鳥:キャスリーン・バトル
ジェイムズ・レヴァイン指揮 メトロポリタンオペラ管弦楽団
(1988.4・5 @NYマンハッタンセンター)
独断のあらすじ
①ジークムントとジークリンデの子、人間社会の産んだ怖れを知らない独断の悪ガキ。
ジークフリートは、ありあまる力を今日も育ての親である恩人ミーメに向け、いじめたり脅しつけたりしている。
早く世界に飛び出して、おせっかいと冒険の旅をしたくてウズウズしているが、自分の出生の秘密を知ることや武器を手にするが第一。
孫の様子を常々伺っている、旧主国のさすらいウォータンは、指環を守る龍ファフナーをやっける武器を鍛える術をクイズ形式でミーメに伝授して、孫が指環を手にするように自分の手を下さずに仕向けるが、それが純でおバカな孫の悲劇を生むことに、そして自らの王国の崩壊を導こうとは思いもよらない。
元気な孫は、期待通りに、父親の遺産を鍛え直して、最強の武器を作りあげる。
傍らでは、ミーメがヒッヒッヒといいながら、育てた子供をやっける毒の飲み物を作ってるから、こっちもロクでもないお国の方なのだ。
②ロクでもない国のかつての統領アルベリヒは、思えば黄金を最初に盗み指環を作りあげた原初の人物。指環を後生大事に抱えている世界が見えないファフナーをお隣で見張っている。
同じ泥棒の親分さすらい人と、昔話に花を咲かせつつ、弟ミーメとの内部分裂もあって、一歩リードしているミーメの動向も気になってしょうがない。
ジークフリートは、ミーメの計略どおりに、森へやってきて簡単にファフナーを退治。
本来バカじゃないファフナーもようやく目が覚めて、ジークフリートに教訓垂れようと思ったが死んでしまう空しさ。
その返り血を舐めて鳥の声が聞き分けられるようになるという、まったくありえない話でもって、鳥からアドバイスをもらい、育ての恩人を簡単に殺してしまう酷さ。
おまけに鳥に、女を紹介してもらうといういい加減ぶり。
③さすらい人が知の女神エルダをなにゆえに呼び出したのか不明。
不安になって今後のことが知りたくて無理やり眠りから起こしたくせに、孫と娘が一緒になって救ってくれると、自分でこれからこうなると言いきって怒って帰れといってしまう無尽ぶり。
しかし、孫とのご対面で、槍を折られてしまうが、これも権力の世代交代の想定内の事件。
無邪気なジークフリートは、鳥に案内されてホイホイと山を超え火を超え、女のもとへ。
しかし、女を紹介されといて、ブリュンヒルデの武具を解いたとたん「Das ist kein Mann!」~男じゃない!とのたまうところは毎度不思議な場面。
目覚めたのは、自分の伯母。これもまた考えもののカップルなのでありますが、そこは目を瞑って、長大なヘルデンとドラマティックの大二重唱を聴きましょう。
ここでの二人の歌詞にはどうも接点がなく、禅問答みたい。
やがて意気投合するのは、最後に高らかに歌う「leuchtende Liebe、lachender Tod!」~「輝く愛と、微笑む死」という言葉。
輝く愛はともかくとして、微笑む死とはまたいったい。
愛と死への憧憬・・・、それはトリスタン的な世界。
昔からどうも謎だった言葉でありました。いまだに不明。
ともあれ、神の国から完全独立の、二人の短い新婚生活の始まりは爆発的な歓喜で終ります。
作曲時期が分断した第3幕があきらかに分厚いオーケストラと、錯綜するライトモティーフの高度極まりない扱いなどからして、1・2幕と一変している。
けれども1・2幕は抒情的で、歌手の妙技を楽しむことできる。
今回のライナー・ゴールドベルクは、豪華歌手を揃えたレヴァインのメット・リングの中では正直弱い。
喉に少しつかえのあるような発声は慣れるまで違和感あるが、丁寧な歌と明るめの声質が聴き慣れると悪くない。
コロ・ホフマン・イェルサレムの3人がヴィントガッセンの後継者的3大ヘルデンだったが、ゴールドベルクは、その中に入れなかった人。
本番に弱く、ショルティのバイロイトリングのジークフリート、ウィーンの監督になったマゼールのタンホイザー、いずれも出れなくなったりコケたりで大失敗。
でも日本ではスゥイトナーの指揮でマイスタージンガーは大成功。わたしも観劇。
ライブではうまくいかなくても、レコーディングはそこそこあります、不思議なゴールドベルクでした。
ツェドニクの抜群の巧さを誇るミーメは最高だけど、ゴールドベルクとの声の対比では判別が難しく思った。というよりジークフリートより立派に聴こえちゃう。
ほかの歌手の皆さんは完璧で、メットならでは。
バトルの小鳥は違和感あるけれど、ベーレンスのブリュンヒルデはもう言うことなし。
で、絶頂期のレヴァインは、じっくり腰を据えつつ、明るくてわかりやすいワーグナーを紡ぎだしている。
メットオケもレヴァインと一体で、いくぶんハリウッド的なサウンドではあるものの抜群のうまさ。
ということで、申し分ないオーケストラ演奏ではあるけれど、わたしには充足感がいま一歩。以前は新鮮に感じたものも、いまなら、バイロイトの臨時編成のオーケストラの方に、はるかな満足感を得る。
世界中のオーケストラで、ワーグナーが聴けるようになった今、各国のオケの個性も楽しめる贅沢が味わえるのでありますが、全曲盤、ましてリングとなるとやはりドイツ・オーストリア系のオケの凝縮された響きが欲しいのが本音です。
最終「神々の黄昏」は、もっと変わったオケで考えてますが、指揮者がカリスマってます。
参考タイム
レヴァインのジークフリート・タイム Ⅰ(85) Ⅱ(80) Ⅲ(84)
ベームのジークフリート・タイム Ⅰ(78) Ⅱ(68) Ⅲ(77)
ジークフリート過去記事
「ブーレーズ&バイロイト」
「ケンペ&バイロイト」
「カラヤン&ベルリンフィル」
「ヤノフスキ&ドレスデン」
ネットで見つけたバイロイトの街の様子。
おもしろい映像です。
そしてかなりの都会でした。
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コメント
さまよえる様はほとんどすべてのワグナー演奏をお聴きのご様子です。尊敬!聴いていない盤がなさそうです。
ご案内のレヴァイン盤ですが、おっしゃるようにジークフリートの水準がいまひとつのため心からは楽しめませんでした。
ブリュンヒルデはよいよ^^
あとミーメと小鳥もよいよ^^
でもなー、ジークフリートとかウォータンがちょっと。
どうしてもベーム盤の(ショルティ盤も同じ顔ぶれですが)名歌手達の印象が強く、そのレベルの歌唱を求めてしまいます。
レヴァインの指揮ぶりもオケの演奏もすばらしいのですが、なんかクリアすぎてワグナーらしい重さとか暗さがないような気が^^;
ベーム盤って意外にテンポすいすいの演奏なんですね。気がつきませんでした。
投稿: モナコ命 | 2011年12月26日 (月) 15時34分
モナコ命さん、こんばんは。
相当聴いてますが、最近のものは映像ふくめ、さっぱりです。
正直、むやみと音源発売多すぎます。
かつてであれば、少しづつ集めて制覇できましたが、いまや手が回らないほどの音源の渦。
安っぽくなってしまいました。
そして、昔のことは覚えてますが、最近のことはわからない。その典型です。
このゴージャス・レヴァイン盤、少しばかりテカテカしすぎですが、歌手はいいですね。
主役を除いて(笑)。
でも少しばかり、寄せ集め的なメトっぽさ。
やはり、ショルティ・ベームの60年代組は永遠です!
ベームの快速は、ワーグナーの真髄だと思ってます。
投稿: yokochan | 2011年12月26日 (月) 20時51分
>ライブではうまくいかなくても、レコーディングはそこそこあります、不思議なゴールドベルクでした。
ゴールトベルクは俗に言うノミの心臓で本番で極端にナーバスになる人だったらしいですね。
ショルティは自伝でもバイロイトでリハーサルの途中で逃げ出したゴールトベルクを批難してますが歌については誉めてますね。
リハーサルでの彼はとても素晴らしかったと。
日本では来日公演で間弾の射手のマックスやマイスタージンガーのヴァルターを歌っていますが、僕は映像で見ただけですが歌だけなら非常にいい歌手ですね(見た目は野暮ったいですが)。
あれで舞台度胸さえあれば極端に人材不足なテノールですからもっと売れてたんじゃないでしょうか。
ジークフリートもバレンボイム&クプファーの初年度にイェルザレムと分け合って歌ってましたが、イェルザレムが3幕ではヨレヨレだったのに比べゴールトベルクは何とか破綻せずに歌いきってました。(もっとも同じ主役でも「ジークフリート」と「たそがれ」ではハードさが違いますが)。
実際全曲盤のあるパルジファルはペーター・ホフマンやイェルザレムよりゴールトベルクの方が素晴らしいと思います。
もっとも個人的にはヘルデンテノールではコロが一番好ですがね。
投稿: | 2011年12月27日 (火) 05時44分
こんにちは、yokochan さん。 ご無沙汰しております。
yokochan さんのワーグナーエントリーは欠かさず拝読させていただいております。 yokochan さんとお近づきになれた因縁(?)の作曲家ですもの、見逃すわけには参りません。 それと「にゃんにゃんシリーズ」と「小便小僧シリーズ」も・・・(笑) さて、年末も押し迫ってまいりましたが、今年はあまりネット上でお話しする機会がなくちょっぴり残念でした。 まあ、その原因のほとんどは最近ではクラシック音楽関係のエントリーを書かなくなってしまっている KiKi 自身にあるわけですが・・・ ^^; でも、来年もよろしくお願いいたしますね♪(ちょっと気が早いかもしれないけれど)
憧れのバイロイトの風景はかなり意外!でした。 勝手に KiKi がイメージしていた雰囲気とは違いすぎる・・・・^^; 今はこれを記憶しておくべきか、見なかったことにするかちょっと悩み中・・・・。 これって現実逃避癖のなせる業ですかねぇ(苦笑)
投稿: KiKi | 2011年12月28日 (水) 16時18分
読み人知らずさま、こんばんは。
コメントありがとうございます。
蚤の心臓、ゴールドベルクですね!
ショルティのバイロイトのつまずきのひとつがジークフリートではありましたね。
そのときのブーレーズ時代からの続投ユンクが、のちにミーメになって帰ってきましたが、ゴールドベルクは、数年前のベルリンシュツオーパーの来演では、メロートを歌ってました。
懐かしい思いで聴きました。
クプファー演出でのゴールドベルクは黄昏で出てましたが、印象が薄いです。一度エアチェックしたものを確認したいと思います。
バイロイトでは、エリックを長く歌いましたね。
ゴールドベルクのソロアルバムを持ってますので、今度また記事にしたいと思ってます。
投稿: yokochan | 2011年12月28日 (水) 21時21分
KiKiさん、こんばんは。
こちらこそご無沙汰をしております。
押し迫ってまいりましたが、全然その雰囲気じゃありません。
年末を醸し出すのは、みずから聴くワーグナーばかりでございました(笑)
活字離れが進む私ですが、KIKIさんの読書量はホント尊敬しちゃいます。
電車では、スマートフォン。
家ではワーグナー。
活字が遠のいてます(涙)。
来年はちょっと頑張らなくてはと思ってます。
そして、小便小僧とネコはさらに続きますよ(笑)
ご期待ください。
いぬシリーズもやりたいのですが、たいてい飼い主さまが一緒なもので、肖像犬をいかにクリアーするかが問題なのです(笑)
投稿: yokochan | 2011年12月28日 (水) 21時35分
ジークフリート=ジーク(勝利)+フリート(平和)でしたけ?
私はゲームはしませんが「指輪」ってまるでゲームの世界。
剣とか頭巾とかのアイテムとか・・・
ワーグナーは「マイスタージンガー」以外は神話や古代の物語
に設定したので、作品が古びないのでしょうね。流石です。
それゆえ様々な解釈・演出が可能。
いつか「指輪」ナニワ篇とかでないかな?
「利息はトイチでっせ!」とウォータンに迫る巨人族とか。
この曲のCDはカイルベルトを聴いています。
どんなに強奏でもうるさくならないのが凄いです!
投稿: 影の王子 | 2012年1月 1日 (日) 10時21分
影の王子さん、こちらにもありがとうございます。
ワーグナーの劇作の才能は、多少の矛盾はありますが、ほんとうに素晴らしいものがあります。
時代設定が不特定性がありますし、人物が特異な人が多いので、いつの世も演出家も腕をふるいたくなるのでしょうね。
浪速リングや東北リングなど、地域性を生かした演出、おもろいですねぇ!
バンコクの劇場でのリングでは、あちらの神々になってまして、笑える(?)ものでした。
劇場のHPで少し観れます。
カイルベルト盤は、以前の不正規盤のボックスしか持ってないのですが、いずれは世評高い正規盤を手に入れたいと思っております。
投稿: yokochan | 2012年1月 1日 (日) 13時47分