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2012年2月11日 (土)

ワーグナー オペラ管弦楽曲集成

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先週の暖かい雨のあと、冬晴れ。

東急線の大岡山の駅、東工大の敷地からの富士山。

同大学ご出身の元首相肝入りともいうべき太陽光パネル外壁ビルもほぼ完成。

このあまりに無粋な建築物が、丹沢山とその奥の富士山の眺望を阻害する。

阻害するか否か、たくみにそうならないように設計したのでしょうが、自然エネルギーを優先するあまり、風力と太陽光の設備が、日本の景色をこうして変えていってしまうことの方が、わたしには将来への問題をはらんでいると思うのだが。

いままであった発電設備をいかに安全に、いかに有効に機能させてゆくか、その方が短期的にも長期的にも理にかなっているのでは、と思うのですがね。
それを国民に不安なく安全にしっかり落とし込んでゆくこと、このあたりは、政治の問題でもありましょう。

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遠景。

誰もやってない、そして一度やってみたかった、ワーグナー主要オペラの管弦楽曲を異なる演奏によって取り上げるということ。

全曲を聴くことが、わたしには普通にあたりまえのことであるけれど、時間が取れないときは、オーケストラ版やアリア・モノローグ集で満足することとなるワーグナー。

初期3作はあえて外して(別な機会に)、オランダ人以降の7作を一挙に聴きましたよ。

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「さまよえるオランダ人」 ジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタンオーケストラ

ゆったりとしたテンポながら、オペラティックな緊張感と歌いまわしの自然さをもったレヴァインの音楽は、歌手にもオケにも、演奏しやすい、歌いやすいと評判。
明るく、解放感あふれるオランダ人は、このオペラの持つほの暗さや宿命感とは遠いところで、レジェンドの物語を解放してしまった感あり。いいです。
 レヴァインは、もう指揮台に戻れないのでしょうか・・・、メトは長期休養。
後釜は、ルイージか。ところてん式に、ルイージのウィーンやチューリヒのポストはどうなるんだろ・・・・。

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「タンホイザー」 ジュセッペ・シノーポリ指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団

このオペラを初演したドレスデン。不思議に全曲録音がいまだない。
危惧されたコンビだけれども、R・シュトラウスで最適の成果をあげ、ワーグナーも期待されたが、シノーポリの早世でコンビ解消。
渋さより、ドレスデンの持つ克明・明快さが指揮者によって引きたった素敵な演奏だ。

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「ローエングリン」 ルドルフ・ケンペ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

このオペラは、ウィーンの清純でかつ甘めの音色で聴くのがいい。
ケンペの全曲盤からのものと思われるが、ケンペとアバドのウィーンフィルのローエングリンがこれまで最強と思っている。
澄んだ弦の響きに、高貴で神々しいモンサルヴァートの騎士の姿を見る。

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「トリスタンとイゾルデ」 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル

何度も何度も演奏し録音したカラヤンの「前奏曲と愛の死」。
もう言うことはありませぬ。
ベルリン・フィルとは最後のトリスタン。
トリスタンの持つ「うねりと官能と情熱」を完璧なまでに表出しきったカラヤンの83年の録音。同時期のバーンスタインやK・クライバーのトリスタンを最も意識して、次ぎのトリスタンを夢見ていたかもしれない。
でもザルツブルクでのウィーンフィル、ノーマンとのトリスタンは、ちょっと違うような気が・・・。
次世代のトリスタンは、アバドとベルリン・フィルによって打ちたてられる。

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「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 
ピエール・ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィル

もっともドイツ的なモティーフのこの楽劇を、フランス人とアメリカのオケで聴くなんて、変だと思われましょうが、そんなことはお構いなしに無視しきって冷静にスコアを透かし彫りにしてしまった演奏。ラテンの風吹くマイスタージンガー、よいです。
全編ゆったりとしてます。
このコンビの来日公演で、マイスタージンガーを聴いたのは、もう37年前です。
近くにバーンスタインの姿もあった文化会館でした。

Wagner_knappertsbusch

「ニーベルングの指環」「神々の黄昏」~「ラインの旅、葬送行進曲」
ハンス・クナッパーツブッシ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

偉大な「リング」を、黄昏だけで代表させてしまうことに怖れ多い気持ちだが、時間の関係で、今回はクナの録音だけで。オーケストラル・リングは何度も取り上げてますもんで。
それにしても、U先生の想いと同じく、クナのワーグナーは巨大なのであります。
映像でその指揮姿が確認できるようになって、よけいにその思いは強まってます。
ともかく、音楽の構えが大きい。
とりわけリングのような大叙事詩的な作品になると、流れでもってぶっとく聴かせてしまう。
その抜粋版となっても同じことで、「ラインの旅」のおおらかさと悲劇の先駆けのような和音の聴かせ方は並みの指揮者では及ばぬこと。
そして、「葬送行進曲」の神々しさと英雄の死を悼む崇高さに、わたしは思わず感に入り、昨今の不堪な日々も想い涙ぐんでしまったのでした・・・・。

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「パルシファル」 前奏曲・聖金曜日の音楽
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

トスカニーニは、偉大なワーグナー指揮者のひとりだった。
バイロイトでも、戦前活躍し、ワーグナー家の信任も厚かった。
インテンポでかつ早めの演奏のイメージのトスカニーニは、ワーグナーではじっくりと腰を据えて長大な演奏を聴かせる。
たしか「パルシファル」は、最長演奏時間を誇っているのではなかったか。
レヴァインと似たワーグナーといったら叱られようか。
剛毅さもあるが、柔軟で伸びやか、かつ神聖な雰囲気と心持ちに満ちたトスカニーニのパルシファルは、クナばかりでない定番パルシファルだと思うんです。
全曲の記録がないのが残念。
聖金曜日のクラインマックスと美しくも晴れやかな歌は、花園のそれそのものです。

ここに登場した、7枚のCDは、わたしのCD棚にあるワーグナーのオーケストラ曲集のほんの一部。
全部で40枚くらいありました。
それと歌入りやアリア集も同じくらい。
全曲盤は100以上。

今回、登場しなかったワーグナー指揮者もたくさんで、フルトヴェングラー、ワルター、クレンペラー、セル、ベーム、ショルティ、バーンスタイン、サヴァリッシュ、スゥイトナー、シュタイン、ハイティンク、アバド、メータ、ティーレマン・・・・まだまだたくさん。

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コメント

管理人様、はじめまして。昨年からクラシックを本格的に聴き始めた者です。

クラヲタ初心者ですが、ワーグナーの管弦楽曲集だけは学生時代からちょくちょく集めていたので気になりました(きっかけといえば、当時よく聴いていたビーチ・ボーイズのメンバーがワグネリアンだったという事で)。ショルティ→カラヤン→バンスタ→フルヴェン→クレンペ→クナッパーツときて最近はヤンソンス&バイエルン響を聴いています。圧倒的快速で突っ走るカラヤンに何処かアメリカ的開放感の漂うCBS期バンスタ。ヤンソンスは(彼はシベリウスの印象が強いせいでしょうか)同じゲルマン系でも、ドイツよりむしろ北欧神話とフィヨルドを連想させるのが興味深く感じます。

話がヤンソンスに脱線しますが、バイエルン盤では「マイジン」「オランダ」「トリスタン」が未演奏ですんで是非ヘボウで聴いてみたいです…!

投稿: 世棲 | 2012年2月12日 (日) 01時25分

やはり、ジークフリートの葬送行進曲が大好きです。
この曲には「もう決して取り戻せないものへの哀しみ」
「死が全ての終わり」といった救いの無い暗さがあります。
私自身、この曲を聴くたびに
「もう二度と甦ることのない、かつて愛した女性たち」
を思い出してしまいます。
この曲は客観的になんて絶対に聴けません。

投稿: 影の王子 | 2012年2月12日 (日) 12時52分

世棲さん、はじめまして、こんばんは。コメントどうもありがとうございます。
ワーグナーをいろいろお聴きなのですね。
わたしも永らく聴いておりますが、演奏によってワーグナーの響きもマチマチで、それこそ作品の偉大さであります。

その違いを楽しむのもまたワーグナーの楽しみでもあります。
ヤンソンスのバイエルン盤は、若き日のオスロ盤と比べると雲泥の差がある出来栄えで、まったく気にくわなったオスロ盤が嘘のようでした。
そして、バイエルンとの来日公演で聴いたトリスタンは絶品でした。
いずれも記事にしております。
そして確かにコンセルトヘボウとも録音してもらいたい。
コンセルトヘボウのワーグナーは、シャイーはイマイチで、ハイティンク、ワールト以来しばらくありませんので。

投稿: yokochan | 2012年2月12日 (日) 22時20分

影の王子さん、こちらにもありがとうございます。
ジークフリートの葬送行進曲は、ワーグナー自身も、自分の長男の名前につけたくらいに思い入れのあるジークフリートの死だけに渾身の音楽となりました。
かつての演出では、ジークフリートの亡きがらを残し、真っ暗な中に、この崇高な音楽が鳴り響くという、忘れえぬ感銘を与えられた舞台に接したことがあります。

このあとに、ブリュンヒルデの自己犠牲による救済があるのですから、ワーグナーの劇作の天才性には脱帽であります。

投稿: yokochan | 2012年2月12日 (日) 23時37分

yokochanさん、こんばんはです。
今更何を・・・と不思議に思った今回のワーグナー管弦楽。でも、今のyokochanさんの多忙ぶりからすると、この選択もありですね。
ただ、抜粋を聴くと欲求不満になって全曲を聴きたくなり、1度トレイに入れてしまったら、どうしても全曲を通して聴かなければならなくなる恐ろしいオペラたちであります。管弦楽だけで聴いていると、どうしても「あの場面の続きは」とか「あの朗唱で次はこうなって」と、考えてしまってどうしようもなくなる。そういうわけで、i-Podに「オランダ人」から「パルシファル」を入れて通勤時間で聴く羽目になるのですが・・・。
さて、今回のチョイス。シノーポリとブーレーズは大賛成。カラヤンの「トリスタン」は、ノーマンのライヴで推したかったところです。それと、入手は難しいでしょうがシュタインのワーグナー、推薦しておきますね。

投稿: IANIS | 2012年2月13日 (月) 00時09分

クラヲタ様の40枚には完敗ですが、約25枚保有のワーグナー管弦楽曲集、一番好きなのはクレンペラーのパルジファル前奏曲です。また、皆様にカウントされなかった盤では、マゼールBPOのRCA盤も結構いけます。

投稿: faurebrahms | 2012年2月13日 (月) 06時21分

すごいよ^^;ワグナーの管弦楽ものだけでCD40枚!全曲ものは100以上って。。。極めましたね===尊敬。誰からヤボなこと言われても全部対応できますね。しかもさまよえる様はひけらかさないところがエライ。
私も最終的にクラオタ様のレベルになってみたい。「え?ケンペ盤?あー、ケンペ盤ね。うんうん、あーそうそう。確かに響きが薄いよね。え?サバリッシュ盤。君はどう思ってるの?うん、テンポが?え?そうそう。テンポが少し速すぎでしょ。サバリッシュの若い頃の録音だから仕方ないね」なんていつか言ってみたい^^私の場合は嫌なヤツになりそうです。。。

投稿: モナコ命 | 2012年2月13日 (月) 17時12分

IANISさん、こんばんは。
手抜きワーグナー全部聴きの巻でした。
やはり、同様に、これだけじゃ我慢できません悲しいサガ。
それでも、主要7作のオケ曲を全部連続聴きするということでの満足感は充分でした。
カラヤンとウィーンのザルツブルクライブは持ってますが、ノーマンの声がちょっと立派すぎて、却って辛く感じてしまうのでした。
そして、シュタインはウィーン盤はかつて記事にしました。バンベルク盤とN響盤も、なかなかのものでした。
シュタインって器用で、スマートな指揮者だったですね。
N響最後の客演での「パルシファル」3幕を観劇しましたが、クナばりの壮大な演奏で、シュタインは涙を流してました・・・・。

投稿: yokochan | 2012年2月13日 (月) 23時04分

faurebrahmsさん、こんばんは。
やはり、たくさんお持ちですね。
どうしても集まってしまうワーグナーの管弦楽集です。
クレンペラーの2CDセットを持ってますが、パルシファルはどんなだったか記憶がありませんので、今度確認してみますね。
そして、マゼール。
ベルリンフィル盤に、マイアーとのアリア集のバイエルン盤。どちらもマゼールらしからぬ、といっては怒られそうですが、堂々たる演奏だったと思います。
CBSのフィルハーモニア盤は未聴ですが、マゼールにワーグナーの全曲録音がないのが、とても残念です。

投稿: yokochan | 2012年2月13日 (月) 23時09分

モナコ命さん、こんばんは。
なんだかんだいって、何気に自慢しちゃってまして、すんません。
ご指摘のように、だいたい対応はできるかもしれませんが、本質的にワーグナーの音楽そのものが好きですので、演奏云々は二の次なところが、こんなに集めちゃった由縁でしょうか。
でも、音楽談義には、そんなちょっと鼻につく指摘をするヒトが必ず必要ですよ。
誉めてばっかりじゃ、進歩がないですからね(笑)

投稿: yokochan | 2012年2月13日 (月) 23時13分

今日は。お久しぶりです。神奈川フィルの演奏会、今回は行けて良かったですね。前回のヴァーチャルコンサートの文章はブログ主様の無念が伝わってくるような痛恨の文章でしたので。ブログ主様は最近辛そうにしておられることが多いですね。実は私も先月下旬から持病のうつが悪化して、主治医の「どん底状態がいつまでも続くということはありませんから。必ず回復期が来ますから」というお言葉を信じて忍の一字でした。冬も例年に増してきつかったです。
 時間が無い時にワーグナーの序曲やアリアだけを聴くということはクラヲタになってから私もよくやってきました。ブログ主様の指揮者&オケ選びは視野が広くて私みたいに偏っていませんね。私はオランダ人序曲はクレンペラー、タンホイザー序曲はハイティンクの全曲盤から。ローエングリンの1幕と3幕の前奏曲はグシュルバウアーの全曲盤から、指環はセルの管弦楽曲集から、それ以外はノリントン&ロンドンクラシカルプレーヤーズで聴くことが多いです。

投稿: 越後のオックス | 2012年2月19日 (日) 16時28分

越後のオックスさん、こんばんは。
お久しぶりですが、体調がすぐれないご様子。
わたしは実際大変な状況ながら、ある意味、不遇を嘆く寂しい親父ですが、越後のオックスさんにおかれましては、是非とも心安らかにお過ごしください。
音楽を聴くことが一番の薬ですが、そうもならないことは、わたしも重々体験してきました。
でも、音楽の力は強いものです。
ワーグナーで生き帰ってます。
ノリントンのワーグナーは、面白いですが、いまのわたしにはちょっと辛いかもです。
そしてグシュルバウアーは最高に素晴らしいですね。
ワーグナーのオケ曲を聴く喜びは、普段オペラで聴けない演奏家で聴ける多彩な喜びです。

投稿: yokochan | 2012年2月19日 (日) 21時46分

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