ベルク 「ルル」 プティボン
みなとみらい地区にあったハートのイルミネーション。
バレンタインやホワイトデーを睨んでのハートでございましょう。
渇ききったワタクシには縁のないイベントにございます。
今日は、怖い女のオペラを。
ファム・ファタール
「魔性の女」
「場末の女」じゃありませんよ。
男中心に見た限りにおいての自身を破滅に追いやるような運命的な存在としての女。
「魔性の男」ってあんまり言わないけれど、どんなんでしょうね。
18禁の表示がDVDにあります(独語)。
ベルクの「ルル」
オペラにおけるファム・ファタールの最強が「ルル」かもしれない。
その「ルル」に果敢に挑戦したのが、わが愛しのパトリシア・プティボン。
ジュネーヴ、ザルツブルク、リセウ(ザルツブルクは別演出)と連続で舞台に立ち、キュートなプティボンを知るわたしたちに衝撃を与えるほどの体当たり的なルルを演じ歌った。
プティボンのレパートリーは広大で、古楽から現代曲まで、フランス・イタリア・ドイツ・アメリカ、あらゆる国の歌をカヴァーする多彩なもの。
オペラでは、役柄は限定的で、なんでもかんでもということはなく、彼女が気に入り、絞りこんだものだけを徹底的に突き詰めるスタンスだ。
パトリシアがルルという役柄のどこに魅力を見出しのか?
このDVDを観るとおおよそ理解できる。
(うさぎちゃんと、くたびれたピエロ姿のシゴルヒ)
大胆な、ほぼヌードを披露しながらも、それは本来のピュアなひとりの女性の姿。
その上に、相手方の男性によって替える様々な衣装に頭髪、化粧、そして何よりも彼女の細やかかつ大胆なる表情。
彼女の2度の来日公演のほとんどに接し、どこに彼女の本質があるかわからないくらいになって、そしてそこにこそ、彼女の魅力を感じたわけで、思えば、女性の持つ様々な姿を歌い見せつけることこそが、彼女の個性そのものだと思うに至った次第。
ベルク 「ルル」
ルル:パトリシア・プティボン
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢:ジュリア・ジュオン
シェーン博士:アシュレイ・ホラント
アルヴァ:ポール・グロウブス
シゴルヒ:フランツ・グルントハーパー
猛獣使い:アンドレアス・ヘール
画家:ウィル・ハルトマン
銀行家:クルト・ギーセン
医事諮問官:ロベルト・ヴェーレ ほか
演出:オリヴィエ・ピィ
ミヒャエル・ボーダー指揮 リセウ歌劇場管弦楽団
(2010.11@バルセロナ リセウ大歌劇場)
演出のピィは、わたくし、あんまり好きじゃない。
ファンタジー不足で、説明的すぎて、かぶりもの、露出大、リアルすぎ・・・・いずれも嫌い。
これまで、トリスタン、ホフマン物語をDVDで観たけれど、そんな印象ばかり。
赤、グリーン、イエロー、ブルーと原色のけばけばしさが充満する舞台。
舞台奥には、これまたお得意の鉄骨の回廊やステージがあって、ネオンで飾り付けられて、それらが常に右に左に動いている。
それらは、ときに大人のおもちゃのお店だったり、売春宿だったり、18禁映画館だったり、ホテルだったりするから、その猥雑ぶりたるや・・・。
そしてそこにうごめく怪しい人々は、モロにそれらの人たちで、まともにリアルな性描写がなされている。
ルルもそこにいって・・・・、あらもうダメ。
エロい雰囲気の娼婦さんたちが右に左にうろついていて気になっちゃうし。
映画館では、微妙な映像が垂れ流されてるし。
そしてそこはまた、警察の取り調べ室や病室にもなるから、リアル追及のアイデアとしては効果的なのだが、なにもそんなにまでして、モロにくどいくらいに表現することはないだろう。
観客の想像力をバカにしているとしか思えない。
ベルクの書いたト書きは、かなり詳細で台本のセリフと合わせると、確かに、そんなリアルなことになっちゃうかもしれないが、そこは、ベルクの雄弁な音楽が補ってあまりあるものだから、リアルな舞台は、ベルクの音楽への集中力を弱めることになって感じた。
ピィの意図は、裸のルルが偽りの姿に身をやつして、やがてサンタクロース姿の切り裂きジャックに刺され、裸に戻って昇天する・・・という魔性の女に救いを与えたものに思われた。
そのピィの狙いは、多面的な顔を見せるプティボンあってのものに思われるが、その彼女が実に素敵なもの。
まさに、プティボンの独り舞台。
弾けるように踊り歌うかと思ったら、濃厚かつエロティックな妖艶な眼差しで男どもを射すくめ惑わしてしまう。
目力の凄さ。お馴染みのクリクリまなこの感情表現力の多彩さ。
こうして映像を観るワタクシをもメロメロにしてしまう、プティボンの描き出すルル。
でも、そこに漂うのはどこか孤独な姿。
寂しそうなのです。
(Meine Seele~わたしの魂)
歌の多彩な魅力と積極さは、プティボンならでは。
コンサートでいつも感じる彼女の声量の豊かさと声の威力。
可愛いコケットリーな歌唱ばかりじゃありません。
フォルムが崩れる寸前くらいに地声でシャウトしたり、コロラトゥーラばりの涼やかな高音を巧みに入れ込んだりする技巧の確かさ。
そしてシェーン博士相手に歌う「ルルの歌」の入魂の歌唱に、わたしは鳥肌が立つと同時にベルクの甘味かつ宿命的な音楽に今更ながら魅せられてしまった。
グルントハーパーを除くと、有名歌手の名前はないが、いずれも個性豊かで、しっかりした歌唱と演技のひとばかり。
ゲュヴィッツ令嬢は、この役のスペシャリストのジュオン。
特異さをも漂わす完璧な令嬢の描写です。
ひと際存在感あるグルントハーパーのシゴルヒ、巨漢だが美声を聴かせるシェーン博士の英国出身のホラント(この人ブリテンのスペシャリスト)、アメリカのリリックテノール、グローヴスのアルヴァもよい。
リセウ歌劇場から発信される映像はこのところ大量で、意欲的な上演も多い。
いつからこうなったのかわかりません。
この劇場のいまの音楽監督が、ミヒャエル・ボーダーで、ボーダーは日本でもお馴染み。
新国の指揮台にも何度か立っております。
安定感と明晰さで安心して聴けるベルク。
オケの明るさも感じました。
欲をいえばその先がもっと欲しい。
ルルを聴いちゃうと、しばらくその音が耳にこびりついて離れない。
チェルハの補筆完成3幕版によるものでした。
これで、ルルのDVDは3つめ。
シェーファーのグライドボーン盤と、パッパーノのコヴェントガーデン盤。
過去記事
「びわ湖オペラ 沼尻竜典指揮」
「アバド ルル組曲」
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コメント
yokochanさんお持ちのDVD、あっしも全部持っておりますぜ。今回のはどうしようかと思い悩みましたが、塔でみたパティの演技に“ヤラれ”て、買っちまったのでした。まぁ、オーケストラの響きは仕方ないですね。リセウ劇場のオーケストラ、意欲は買うけれど。不満はあるとはいえ、新国のピットに潜る東フィルや東響がずっと上だと思います(東響、イイ!「沈黙」はかっ跳びました!)。
はっきり言って、上演の質といえばコヴェントガーデンのほうがいいです。これは、パティを見るためのものかなぁ。
でも、このオペラ、絶対にライヴで観てみたいです。yokochanさん、観たことあるんですよね?
投稿: IANIS | 2012年2月19日 (日) 20時45分
IANISさん、こんばんは。
沈黙、行こうと決したらチケット・ソールドアウトでした。
ご感想もまだ熟読してませんですいません。
悔やまれてならないものですから。
どうにもいけません。
久しぶりの神奈フィルも心から楽しめませんでした。
音楽を楽しめない無粋な日曜に観たプティボンのルル。
ベルクの音楽の凄さと常習性すら覚える五感の快楽におぼれました。
コヴェントガーデン盤は、歌手がそろってますし、演出のブレがありませんね。
ライブで体験したびわ湖上演は、ほどよい規模の親密な空間のハウスで聴くベルクを堪能しました。
今度日本で上演があるとすれば、ウィーンかベルリンでしょうか。
投稿: yokochan | 2012年2月19日 (日) 21時59分
こんばんは。
明日、大好きなシェーファーの初期七です。当方にとって今年一番の楽しみです。次がピオーですが。午前、仕事。午後新幹線出、帰り最終の予定ですが、体力がきつい。
投稿: Mie | 2012年7月 1日 (日) 18時29分
Mieさん、こんばんは。
今頃は、もう帰着されましたでしょうか。
シェーファーに気づき、チケット調べたら、すでに完売。
魅力のプログラムですし、残念でした。
おまけに9月のピオーも完売なんですね。
プティボンの朋友マノフ女史の伴奏も注目でした。
最近、こんなことなかりで、後手後手です。
投稿: yokochan | 2012年7月 3日 (火) 00時03分
こんばんは。
家についたのは11時30分でした。もう無理で、今日午前中は自主的お休み。良い部下に恵まれてます。午後のみのお仕事で良しにしました。シェーファーとても良い声でした。体型少しふくよかになられたようです。 声もオペラシティで聴いたときよりも滑らかでした。席は最前列ど真ん中、目の前で初期七聴けて幸せを感じました。サインも一番バッターでいただきました。サインはシェーファーではなくクリスティーネでした。
投稿: | 2012年7月 3日 (火) 19時56分
Mieさん、こんばんは。
楽旅お疲れ様でした。
真ん前での視聴、とても羨ましく思います!
いまが絶頂期でしょうか、シェーファーさん。
ベルクのあの曲を、そんな近くで聴けるなんてまたも羨ましすぎます。
一番乗りのサインは、クリスティーネですか。
いいなぁぁぁ~。
投稿: yokochan | 2012年7月 3日 (火) 22時13分