ディーリアス ピアノ協奏曲 カーロス
満開の河津桜と東京タワー。
桜の香りは薄いですが、タワーと合わせるとむせかえるような春の色合いを感じます。
芝も緑色になってきまして、季節はモノトーンの冬から、鮮やかな色合いの春へと、彩りを加えつつあります。
ディーリアス ピアノ協奏曲
Pf:ジャン・ルドルフ・カールス
サー・アレクサンダー・ギブソン指揮 ロンドン交響楽団
(1970 @ロンドン)
フレデリック・ディーリアス(1862~1934)の中期、1897年35歳の作ながら、当初は3つの楽章にきれいに分割された正統派コンチェルトだった。
でも、そんな若さでも、父親の財力を背景に、アメリカ、ドイツ、北欧、パリと、父のいる英国以外で、実業や音楽を気ままに学び、取り入れ、そして楽しむことが出来たうらやましい環境にあったディーリアス。
いまある私たちの環境において、どんな境遇にあれ、ともあれ贅沢なお話なのであります。
が、そこは時代性もありますし、なによりも、ディーリアスの人の気持ちや、自然をナーヴァスなまでに感じとった繊細な音楽を聴いてしまうと、結果、恵まれた環境をうらやむのは二の次。
作者の心情の豊かさに、共感し、同時に、作り出されるその音詩に、おののくばかりの自分を見出すのでございます。
このディーリアスの音楽への出会いで、その世界に一度共感してしまうと、一生着かず離れずで、長い伴侶となるのでございます。
さて、このピアノ協奏曲のテイストは、北欧。
後年のたゆたうような、旋律線が曖昧さの中に埋没してしまうような茫洋たるディーリアス独特の世界ではなく、冒頭からメロディアスな旋律がはっきりと存在し、それがグリーグ風なのである。
でもそれがグリーグのように、民族風でもなく、旋律線豊かな華やかさもなく、技巧的でもない。
単一楽章に構成され直した中に、3つの楽章のムードが収められ、幻想的なくくりの中に正統的な協奏曲形式の枠をしっかり保っている。
それは夢想的であると同時に、シューマン&グリーグ路線であるところがおもしろい。
オーケストラは、同じ作者の「ブリッグの定期市」や「北国のスケッチ」などの響きがする。
それと、2楽章相当の後半で聴かれる、チェロ独奏の切なく甘い嘆息には夜聴くと涙を禁じえないものがあります。
ピアノもオーケストラの一部と化してしまったようなディーリアス独自のファンタジー。
ソロが、こんなにも突出しない協奏曲って、あんまりないのでは。
ラストが、少しばかり、映画音楽的に感じるのはご愛敬。
インドの血の流れる、ルドルフ・カーロスはメシアンやドビュッシーのスペシャリストだった。
詩的で繊細なピアノは、自己主張も抑えめで、その控え目で均整の取れた音色はディーリアスのこの曲にぴったりと符合します。
ギブソンとLSOのすっきりとしたオーケストラも素敵なものです。
レコード時代は気になりつつも買わなかったこの音源を、CDで入手してから、もう20年以上が経ちます。
レーンとハンドレーのEMI盤も素晴らしいものでした。
いずれも、20年前の自分を思い起こすことのできるロマンとノスタルジーのコンチェルトにございます。
過去記事
「レーン&ハンドレーのディーリアス」
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コメント
只今、EMIのディーリアス・ボックスを聴き聴き、感想を記録している毎日です。録音は当然yokochanさんが以前ブログでアップしていたレインとハンドリー。それで、印象ですが、グリーグとサン=サーンス、それにドビュッシーの味付けをした音楽という印象。ディーリアスらしさといったらヴァイオリン協奏曲かな?でも、ピアノ協奏曲単体でみると、本当にいい音楽なのだなぁ、と素直に思いました。
カールスの録音があるとは思いませんでした。センシブルな曲だから、ヒューイットをソロにしてハイペリオンの録音がもし出たとしたら、きっと決定的な演奏になると思います。今後も大事にして聴いていきたい音楽ですね。
投稿: IANIS | 2012年3月25日 (日) 21時13分
IANISさん、毎度どうもです。
ご指摘のとおり、ディーリアスらしさでは、ヴァイオリン協奏曲、そしてダブル協奏曲に方に軍配があがります。
でも曲のサイズも合わせて、幻想的でかつメロディアスなピアノコンチェルトとしては出色。
次元は違いますが、アディンセルみたいに好きです。
カーロスのオリジナルカップリングは、たしかドビュッシーだったです。
そちらも聴きたいものです。
ヒューイットときましたね。
きっと良さげです。
オケはBBCウェールズ、指揮はワーズワースとかワトキンソンあたりでどうでしょうか。
投稿: yokochan | 2012年3月26日 (月) 22時50分
いつも、クラヲタ人様の記事に触発され、新分野を開拓させて頂いております。今日、やっとディーリアスのピアノ協奏曲をレインとハンドリーのCDで入手、想像通りの美しい曲で嬉しくなりました。
投稿: faurebrahms | 2012年5月 6日 (日) 19時47分
faurebrahmsさん、こんばんは。
ディーリアスの作品をお聴きいただき、とてもうれしく存じます。
レーンとハンドリーのEMI盤も実によき演奏ですね。
ディーリアスの一面を知る素敵な協奏曲です。
後年の感覚的な協奏作品も是非。
ブログでも再び取り上げる予定です。
投稿: yokochan | 2012年5月 6日 (日) 23時18分