シュレーカー 「宝さがし」 アルブレヒト指揮
東京タワーの前に、雪。
冬の写真を遅ればせながら。
スカイツリーが出来上がったけれど、やっぱり、こちらの方が好きだな。
フランツ・シュレーカー オペラ「宝さがし」
「宝捜し」・・・・、というよりは、トレジャーハンターというような意味合いの方がいいかも。
女王の失われた宝石を探す男の物語、おとぎ話的でもあり、刹那的な男女の出会いと別れでもあります。
シュレーカー(1878~1934)はユダヤ系オーストリアの作曲家。
自らリブレットを創作し、台本も書き、作曲するという、かつてのワーグナーのような目覚ましい才能で、10作(うち1つは未完)のオペラを残している。
指揮者としても、シェーンベルクのグレの歌を初演したりして、作曲家・指揮者・教育者として、世紀末を生きた実力家。
シュレーカーのことは、弊ブログの大事な作曲家のひとりになっていますので、過去記事をご参照ください。
ドイツオペラ界を席巻する人気を誇ったものの、ナチス政権によって、ベルリンの要職を失い、失意とともに、脳梗塞を起こしてしまい56歳で亡くなってしまう。
その後すっかり忘れ去られてしまったシュレーカー。
マーラーの大ブレイクの影に、同時代人としてまだまだこのうような作曲家がたくさんいます。
しかし、いずれも交響曲作家でなく、劇音楽を中心としていたところがいまだ一般的な人気を勝ちえないところだろうか。
そして、今後も、このままメジャーになれず、かといって以前のようには埋もれないまでのチョイ地味作曲家たちで推移してゆくと思われます。
それでいいのだと思います。
エリス:ヨーゼフ・プロチュカ エルス:ガブリエレ・シュナウト
王 :ハラルト・シュタム 道化:ペーター・ハーゲ
巡査:ハンス・ヘルム アルビ:ヘインツ・クルーゼ
宿屋の主人(エルスの父) :カール・シュルツ
市長、作家:ペーター・ガラード 執事、ヘラルト:ウルバン・マルンベルク
地主:フランツ・フェルディナント・ネンドヴィヒ ほか
ゲルト・アルブレヒト指揮 ハンブルク国立劇場フィルハーモニック
ハンブルク国立歌劇場合唱団
(1989.5、6 @ハンブルク国立歌劇場ライブ)
ときは中世ドイツ。
プロローグ
王様が、道化を呼んで特命ミッションを授けている。(リブレットでは、独語がNaar、英語訳がFool、となっていて「馬鹿」じゃあんまりだから、道化ということで)
王妃が実は病気で非常に弱っている。
それというのも、大事な不老と美をもたらす魔法の宝石を失ったからとのこと。
手を尽くして探したが見つからない。
そこで、道化は、この国を行脚するトテジャー・ハンターがいると提案。
彼の名はエリスといって、吟遊詩人で、リュートを抱えていて、その楽器が宝物を見出すという。
さっそく、その男を連れて参れという王様に、晴れて宝石が見つかれば、わたくしめにも、可愛い妻を娶らせてくださいと約束を求める道化なのでした。
第1幕
結婚式を控えた宿屋の娘エルスと、若い地主が森を行くが、エルスは残忍なこの地主のことが嫌いでならない。しかし金持ちのこの男は、エルスに結婚の証しに、装飾品を授ける。(ところがこれが、王妃の失われた宝石から出来ていた・・・・)
いやでいやでしょうがない彼女は、古くからの彼女の雇い人アルビを呼んで、地主を殺して欲しいと依頼する。
宿屋にて、エルスの父が金持ちとの結婚に喜んでいるが、そこに市長や巡査、作家や名士などがやってきて、祝杯で飲み始める。
巡査はエルスに未練たらたら。
そこへ、吟遊詩人エリスがやってくる。彼はバラードを歌い、森で見つけた宝石をエルスにプレゼントする。地主が殺されたはずの森の近くで見出したもののようなので、驚くエルスだが、エリスに一目惚れしてしまい夢中に・・・・。
そして、森で死体があがったとの報に騒然となり、巡査はこの怪しい吟遊詩人の身柄を拘束する。
第2幕
街で悄然とすりエルス。そこに道化が現れ、道化は彼女のことが気に入り、いまリュートを担いだ青い目の吟遊詩人を探しているというと、それはエリスのことで、いま捕まってしまい、絞首刑になりそうとの告白を受ける。
よし、ではなんとかしようと約束する道化。
いよいよ、刑場に連行されるエリス。
エルスを見つけ、束の間の愛情を交わし合うふたり。ここでもバラードを歌うエリス。
ことを急ぐ巡査に、国王の使いが急きょあらわれ、処刑の中止を命じる。
この男には王の重大ミッションがあるから、即刻、宝探しに出立せよ!
エリスの探すものが、自分が持つあの宝石とわかり苦悩するエルス。
夜の逢瀬を約束して別れる。
しかし、エルスは求める宝石が自分のところから見つかっては大変と、アルビに、エリスに危害を加えない約束で、リュートを盗み出すことを命じる。
第3幕
夕刻、エルスは優しかった亡母の子守歌を回顧して歌う。
そのエルスのバルコニーにあらわれるエリスだが、リュートを奪われ傷心。
王への約束が果たせず、お咎めを請うのだ。
しかし、エルスは自ら王妃の宝石をさし出し、その出自は問わないということで、彼に託す。
そして、二人は、長い長い、そして超甘味なるキラキラした二重唱を歌い、さらに同類のオケによる間奏曲もまじえて、聴き手を官能の境地に遊ばせてくれるのであります。
第4幕
お城は、宝石が戻り、王妃が元気になったということで、大パーティが催され、誰もが浮かれている。エルスだけが元気がない。
エリスもヒーロー扱いだが、意地悪な宰相は、どのようにしてリュートなしでお宝を探し当てたのだ?と質問するが、エリスは、美しいバラードを歌って答える。
古き昔、王妃様がお持ちになる前、転々とした持ち主のおひとりから・・・・と。
しかし、巡査が、殺人実行犯アルビを逮捕し、そしてそれを教唆した女性がいると、申し立てる。
そこへ現れた道化は、王様に、あのときの約束、そう妻を娶ることの承認を求め、その女性はエルスと指さして、彼女を救うことに・・・・・。
エピローグ
数年のち
道化の求めに応じ、エリスは彼らの住む場所にやってくる。
エルスがずっと長らく病気に伏せっていてもう長くないと。
意識も薄く、茫然とするエルスを抱きつつ、長いバラードでもって彼女を慰め、死出のはなむけとする。
ほら見えるだろう・・・、エリスとエルス、そして子供たちが、彼ら恋人たちの宝を・・・と。
エルスは彼の腕の中で息を引き取り、道化が祈りを唱えるなか、音楽はクレッシェンドしてゆき、劇的に幕を閉じる。
幕
微妙だけれど、よく書けてる原作。
完成9作のオペラの5作目のこちらは、1920年にフランクフルトで初演。
大成功となり、ドイツ各地で4年間で350回以上も上演されたという。
これが成功の頂点で、その人気は少しずつ衰えてゆく、1930年代に入ると、ヒトラーの登場で、上演も制限・妨害されるなどして、徐々に輝きを失ってゆくシュレーカー。
ここまでの5作を聴いてきて、前にも書いたシュレーカーの特徴とお決まりのパターンが、ここでも踏襲されているのを感じる。
人間の欲望の尽きることのない性(さが)とそれへの肯定感
これをヒロインの女声に担わせている。
痛い女性・・・、といっては、世の女性陣に怒られましょうが、その彼女たちを愛情をもって、そして救済の暖かな目線でもって描いております。
わかっちゃいるけど陥ってしまう。
そんな彼女たちの歌う、没頭的な歌は、あまりに美しく哀しみに満ちてます。
対する男も、エキセントリックボーイでして、これもまたイタイ。
ドラマテッィク・ソプラノに対して、没頭的なヘルデンの要素を求められるテノール。
彼ら二人による濃厚でリキュールたっぷりのチョコレートケーキのような甘味極まりない二重唱は、あきらかに「トリスタン」的世界。
3幕のエルスの子守歌から、エリス登場後の濃密なる場面は、身も心もとろけてしまいそう。
もうたまりませぬ・・・・・・。
あと、音楽面での特徴のひとつは、底抜けな乱痴気シーンが必ずあること。
これまでのオペラにも必ずありました。
「宝さがし」では、4幕の王宮の場面。笑い声までも、世紀末してるし。
それと、物語の前段の説明や重要な場面が、複数人物で、語りともとれるシュプレヒシュティンメ的に早口で進行するので、展開があれよあれよというまに進行してしまう。
対訳がないと難渋このうえない。
そして、それらの快速シーンと対比して、先の濃厚ラブシーンなどは時間が止まったように陶酔の限りを尽くすので、その間のギャップが大きい。
こうした落差も、シュレーカーの音楽をイマイチと捉えてしまう要因なのかもしれない。
でも、何作も聴き、そして「宝さがし」も、ここ数年、ことあるごとに聴いて慣らしてきただけに、酔える3幕をピークに、シュレーカーの音楽の素晴らしさを身をもって体感できるようになってきました。
このCDは、ハンブルクで行われた歴史的な蘇演のライブでして、指揮者G・アルブレヒトあっての緯業であります。
アルブレヒトのシュレーカーのオペラは3つ、ツェムリンスキーも3か4つはあります。
ドライでそっけないときもあるアルブレヒトの指揮は、オペラを聴きやすくまとめ上げる能力にかけては抜群で、ワーグナーでも何度もそんな体験をしたことがあります。
ベタベタになりすぎない、スリムポーションの表現主義音楽の演奏にかけては、K・ナガノと双璧に思います。
エリスのプロチュカが素晴らしいと思った。
リート歌いのこのテノールは、ドラマティックな歌唱はその信条ではないと思うけれど、ここではそんなイメージをかなぐり捨てた熱唱。
日本びいきで、日本にも住んでいたんじゃなかったかな・・・?
ワーグナーでお馴染みのシュナウトは、同じアルブレヒトの指揮する「遥かな響き」でもヒロインをつとめていたが、ここでは、わたしはちょっとキツかった。
なにがって、このエルスは結構、アーとかエーとか叫ぶんです。
それがあまりに、キンキンで、耳が辛い。
そして、ちょっと声がフラットぎみ。
いや力強さはあるけれど、もう少しナイーブさというか、憎めないカワユサといいますか、そんな危ない女性であって欲しかったけれど、おっかさん風なんだな・・・。
でも立派な歌唱です。
ミーメ歌手のP・ハーゲが、とんでもなくいいです。
狂言回しの存在感ばっちり。
ハンブルクのチームは、日本に何度か来てますのでお馴染みの声ばかりで、安定感あります。
そんなわけで、シュレーカーの「宝さがし」でした。
音源で手に入るあと3作、徐々に紹介してまいります。
この「宝さがし」、後年、シュレーカーの手でオーケストラの組曲が作られ、メンゲルベルクとコンセルトヘボウによって初演されてます。
想像するだけで、痺れそう・・・。
シューレーカーのオペラ(記事ありはリンクあります)
「Flammen」 炎 1901年
「De Freme Klang」 はるかな響き 1912年
「Das Spielwerk und Prinzessin」 音楽箱と王女 1913年
「Die Gezeichenten」 烙印された人々 1918年
「Der Schatzgraber」 宝さがし 1920年
「Irrelohe」 狂える焔 1924年
「Christophorus oder Die Vision einer Oper 」
クリストフォス、あるいはオペラの幻想 1924年
「Der singende Teufel」 歌う悪魔 1927年
「Der Schmied von Gent」 ヘントの鍛冶屋 1929年
「Memnon」メムノン~未完 1933年
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コメント
おはようございます。“重たい”音楽ばかり聴いていた昨年までの頭と耳の疲れ休みに、グリーグ、シベリウス、プッチーニ、ドニゼッティなどの歌曲やロッシーニのオペラ(目指せ、全曲制覇!)ばかり集めている毎日ですが、yokochanさんの「体力」には恐れ入るばかりであります。
ドイツ=オーストリアの後期ロマン派音楽を探っていると、どうしても行き着かざるを得ないツェムリンスキーとシュレーカー、シュミットですね。yokochanさんのお蔭で、ことオペラに関しては情報不足に陥ることなく、大助かりであります。
「トレジャー・ハンター」は持っていますが、ストーリーを気にすることなく聴いておりました。ありがとうございます。「クリストフォルス」、「烙印を押された人々」、「はるかなる響き」も大いに参考にさせていただいております。今後とも期待してます!
投稿: IANIS | 2012年3月20日 (火) 09時03分
IANISさん、まいどです。
貴兄もさすがにございます。歌曲でも、コアなところばかり。
ドニゼッティの歌曲など、聴いたこともありませんし、ロッシーニのオペラ制覇は、世界的にも稀なることではございませんか!
わたしの後期ロマン派系への熱中も少しばかりマンネリ感が出てきましたが、こうして聴きこんで、想いを記事にすることで、さらに次への展開に弾みがつきます。
こちらのレーベルは、ときに独語訳のみで、英語訳が付帯しないこともあり、ツェムリンスキーなどは往生しますが、宝探しには幸いに英語も付されていて助かりました。
まだまだ聴きたいオペラがたくさんあって、この先困ったものです。
投稿: yokochan | 2012年3月20日 (火) 13時38分
オランダ放送局に、ネザーランド・オペラで上演されたマルク・アルブレヒト指揮ネザーランドフィルのLIVEが、未だに音源としてアーカイヴとして残っています。前座の放送が長いNTRの特徴ですが
NTR OPERA Live を検索すると2012年9月のアーカイヴにありました。今、録音中です。一生、観ることはないだろうという作品ですけど。
投稿: T.T | 2014年3月 8日 (土) 08時09分
T.Tさん、まいどお世話になります。
なにかとありまして、ご返信遅くなってしまいました。
2012年のアルブレヒトSchatzgraberですか!
ナイスな情報ありがとうございました。
シュレーカーのオペラ全作に挑戦中のなかで、このオペラの美しさと、イマイチ感は、シュレーカーの音楽そのものということで集約されていると思います。
さっそく、わたしも聴いてみます。
投稿: yokochan | 2014年3月11日 (火) 21時05分