マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」 ノイマン指揮
またも東京タワーですんません。
その足元恒例の鯉のぼりが、うららかな風に乗って気持ちよくそよいでおりました。
昨日は、冷たい雨の東京。
金曜締切りが間に合わず、各方面に、ごめんなさいでした。
愛する神奈川フィルのモーツァルトも聴けずじまい。。。。
こちらも先週撮ったもの。
桜と東京タワー。
事務所の徒歩圏なので、住んでる通勤圏にあるスカイツリーより近く感じる東京タワー。
いつまでも、ずっとあって欲しい。
今日もマーラー。
マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」 変ホ長調
S:ガブリエラ・ベニャチコヴァ S:インゲ・ニールセン
S:ダニエラ・ショウノヴァー Ms:ヴィエラ・ソウクポヴァ
A:リプシェ・マーロヴァー T:トマス・モーザー
Br:ウォルフガンク・シェーネ Bs:リヒャルト・ノヴァーク
ヴァーツラフ・ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
チェコ・フィルハーモニー合唱団
キューン児童合唱団
(1982.2 @プラハ芸術家の家)
いよいよ、8番。
そう千人です。
オペラを書かなかったマーラーの、オペラともいうべき交響曲。
第1部を1楽章に、第2部を3つに分けた楽章に。
4章の交響曲の体裁は保っている。
素材との関連からいくと、第1部はカンタータともいうべき讃歌。
長大な第二部は、ゲーテの「ファウスト」の最後の場面。
これはまさに劇音楽的。
いろんな感情やパロディを内包する非標題音楽としてのマーラーの交響曲。
8番では、そういった趣きは控えめで、ここでは聖なる世界が輝かしく描かれているように思える。
「ファウスト」につけられた音楽は、たくさんありまして、それらがみな傑作揃いなところが、このゲーテの原作の偉大なところ。
シューマンの「ファウストの情景」、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」、ワーグナーの序曲「ファウスト」、リストの「ファウスト交響曲」、グノーのオペラ「ファウスト」など。
その系譜にあるマーラーの8番。
何が作曲家たちを「ファウスト」に向かわせるのか。
>悪魔と魂を担保に契約をしてしまったファウスト。
若返り、恋人グレートヒェンと恋に落ち、やがて死へと導いてしまう。
正邪の遍歴とともに栄光を掴んだかに見えたファウストにも悪魔による終止符が。
しかし、その死にあたり、悪魔を阻んだのが天使たちで、さらにそこには聖母マリアに祈るかつての恋人グレートヒェンの姿。
ファウストの魂は、清らかな祈りによって昇天する。<
こんな超概略なれど、そこにある源流は聖母マリア、しいては女性による救済。
まったく身勝手な男性社会にあって、男たちが求めた女性への憧れ。
キリスト教社会でしかありえない思想に思う。
マーラーの感動的な8番の第2部には、このファウストの核心部分が描かれているのです。
第8交響曲は、CD時代になって飛躍的に録音が増えました。
かつてはレコード2枚も、1CDに収まり、ただでさえ目一杯にお金のかかる録音ゆえ、ライブで一気に収録してしまうことができるようになったのは、演奏と録音技術の向上にほかならない。
バーンスタインとハイティンクしかなかったこの曲の録音に、鮮やかに登場したのは、ここでもショルティ盤。
シカゴのヨーロッパ遠征の勢いをかってウィーンで録音された永遠の名盤。
その後、飛躍的に増えたCDと、日本での演奏回数。
わたしは、コシュラー&都響、現田&藤沢ぐらいしか実演はありませんが、いずれある、まだ見ぬ、聖響&神奈フィルの演奏を夢見ております。
ノイマンのマーラーは、まだその全部を聴いておりませんが、わたしにとって遅れてやってきた演奏でした。
アメリカやドイツ・オーストリア、そしてオランダ・イギリスのオケに比べて、チェコのオケによるマーラーは、そのローカル性ゆえに少しばかり敬遠してきたものだったのです。
ボヘミアつながりで、そのマーラーは本質のひとつなのかもしれないのに・・・。
弦出身のノイマンが、弦の美しいチェコフィルを振るとこうなる的な場面は、第2部の前半、緩徐楽章にあたるところ。
森の神秘と深さを思わせるような音楽を、清冽な美しさで描いている。
感動的な神秘の合唱や抒情的な場面での素晴らしさが際立つが、この音楽にイメージする壮大さにも欠けてはいない。
冒頭のホールに響き渡るオルガンに導かれるカンタータ的な第1部では、生真面目に輝かしさが突出するのを抑制しながら少しゆっくりめのじっくりとした解釈。
祝典的な雰囲気は薄めで、合唱ばかりが目立ってしまいがちな1部で、オケがどんな風に鳴っているかを確認できる見通しのよさも、このノイマン盤の特徴かも。
2部では、独唱がそれぞれにアリアのようなソロを歌い継いでゆくが、オペラ経験も豊かなノイマンらしく歌とオケとのバランスがとてもよろしい。
このあたりは、アバドやショルティの千人も素晴らしいと思う。
最後の高揚感を、マーラーの音楽の持つ崇高さと、希望の輝きとを、その音楽の力だけでもってつくりあげてしまった感のあるノイマンの演奏。
普通に、はなはだ素晴らしいノイマンの「千人」です。
歌手たちは、実績のあるベテランばかりで、ワーグナー歌手でもあり。
ソウクポヴァはベームのリングの出てますし、モーザーはリリックから、トリスタンも歌うヘルデンに躍進した人。
ただノヴァークのバスは、わたしにはちょっとクセありすぎに思った。
例によって、わたくしのこの曲の聴きどころを。
「きたれ創造主たる霊よ」と始まる第1部は、その壮大さが少しばかりうるさくて苦手です。
それでもオケに注目して聴いてると、いつものマーラーの対位法を凝らした巧みな音楽造りが楽しめます。
「ファウスト」の第2部は、そのすべてが大好き。ずっと感動しっぱなしのワタクシ。
法悦の神父と深奥なる神父のふたりの歌が好き。
児童合唱も出てきて天上風になったあと、いよいよ2部の歌手の主役ともいうべきテノール、すなわちマリアを讃える学者の恍惚としたソロが入ってくる。
続いて、オルガンとハープにのったヴァイオリンの極めて美しい旋律。
泣けるぜ。
やがて罪を重ねた聖書上の女性たち、そしてヒロインのグレートヒェンも登場して、先の主題を中心に透明感を増しながら音楽は進んでゆく。マンドリンも清らか。
感動するぜ。
最後は、マリアを讃える学者が「Blicket auf」と入ってくる。
この歌は、ワーグナーのテノールアリアに比すくらいに好き。
そして「神秘の合唱」ですよ。
第1部の冒頭も回帰して、ついに宇宙が鳴り響いちゃってます。
熱いぜ!
いっさいの無常なるものは、ただ影像たるにすぎず。
かつて及ばざりしところのもの、ここにはすでに遂げられたり。
永遠に女性的なるもの われらを引きてゆかしむ
(森鴎外訳)
マーラー 交響曲第8番 過去記事
「バーンスタイン&ウィーンフィル」
「小澤征爾&ボストン交響楽団」
「若杉弘&東京都交響楽団」
「現田茂夫&藤沢市民交響楽団 演奏会」
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コメント
今晩は、よこちゃん様。私は壮大なるこの曲、バーンスタイン盤を聴いております。若杉/N響の演奏会の放送が一昨年でしたかあった時、日本人だけの手による演奏でも素晴らしいなと思いました。
今日、ベイVSジャイアンツ戦を我が住む町から一番近い地方球場(新潟ハードオフ・エコスタジアム)まで観戦に車で行って参りました。投手戦というか貧打戦…あ~ぁ、時間切れ引き分けと諦めかけた11回裏、サヨナラホームラン!やってくれました中村紀が…歓喜の雄叫びをあげながら、見知らぬ人達とハイタッチ!イヤ~感激したですよ~。楽しかった~。スターマングッズも買い求めた甲斐がありました!一緒に連れてった甥っ子も興奮してたみたい。私は子供がおりませんので、いつまでこの子が付き合ってくれるかなぁ。せいぜいあと1~2年かなぁ。とはいえ、運転を心配しながらはるばる行った価値は充分あった試合にご満悦なわたくしなのでありました☆
投稿: ONE ON ONE | 2012年4月15日 (日) 21時59分
ONE ON ONEさん、こんばんは。
やったぁ!
嬉しいっす!
新潟での巨人戦、しかも万感のサヨナラ勝ちに立ち会われたことに羨望の思いです。
甥ごさんもさぞかし喜ばれたでしょうね。
新キャラ・スターマングッズ、わたくしも欲しいです。
ちなみに父親ゆずりのベイファンだった息子は、ベイ離れを起こしていて、勝敗に熱くなっている父を醒めた目で見ております。
観戦お疲れさまでした。
そうそう、千人交響曲は、いまや日本のアマチュアでも演奏してしまいます。
技術ではクリアしても、最大の難点はコストであります。
投稿: yokochan | 2012年4月15日 (日) 23時52分
こんばんは、よこちゃん様。ベイスターズまたカープに黒星★どうしちゃったの~(叫)同じカードで勝ち星なしの6連敗って、いったい…
投稿: ONE ON ONE | 2012年4月19日 (木) 23時09分
そうなんですよ、ONE ON ONE さん、もう言葉もありませぬよ。。。。
しかも得点能力ゼロ。
も~やだぁ。
投稿: yokochan | 2012年4月20日 (金) 16時53分
やったね、ベイスターズ2連勝!巨人が最下位の5位浮上。一昨年のコメントなしにしておくれ~(ゴメン)
投稿: ONE ON ONE | 2012年4月21日 (土) 23時00分
一昨年→×
一昨日→○ でした。(ゴメン×2)
投稿: ONE ON ONE | 2012年4月22日 (日) 09時27分
こんにちは、2連勝も束の間、またもいやな負け方となりそうな日曜日でございます。
連勝の難しいチームですが、少なくとも連敗しないようしなくては・・・・。
それに引き換え、ヤクルトはそつなくやっておりますなぁ(羨望)
投稿: yokochan | 2012年4月22日 (日) 16時37分
yokochanさんこんばんは!! yokochanさんのコメントにまたまた通じるところがあり、嬉しくなり投稿させて頂きます。
以下の文章は、1年前のちょうど12月に、デュトワ指揮N響のマーラー8番を聴いた際の感想です。
『......事前にテキストとなったゲーテの「ファウスト」を読み、今までにない意気込みで臨んだマーラー8番のコンサートには、完全にノックアウトされてしまった。 N響も、若杉弘以来実に20年振りの演奏!、 この曲は滅多にお目にかかれない代物。 NHKホールの壇上は人、人、人で埋め尽くされ、総勢500名くらいかも? 2部構成約90分の大作であるが、時間の流れが半分に感じられた程の濃密な音楽に、思わず釘付け状態。 第1部はラテン語の聖歌で怒涛の賛歌!! あっという間に約30分経過、次に問題の約1時間を要する第2部へ。 ゲーテの大作「ファウスト」第2部第5幕の終幕の場は、贖罪の女(グレートヒェン)がキーパーソン。彼女はファウストに誘惑され懐妊し、さらに兄と母を殺され自らも捨てられ、挙げ句の果ては我が子を水中に捨て死なせた罪で牢獄に捕らえられ処刑される、悲劇の元カノ。 なのに、ファウストが地獄に行くか天国に行くかの最後の瀬戸際に、聖母様にすがりついてファウストを擁護し、晴れてファウストは天国へ。 「永遠に女性的なるものが、私たちを(天国へ)引き上げる」とのラストの合唱のメッセージは、僕には強烈なメッセージとして刻印された。 だいたい何故戦争が無くならないのか?....何故原発事故は生じ、空前の不幸を日本国民に与えたか?....。大きな話にしてしまえば、「人類の男性的なるものの界」という文明論的なテーゼの提起であり、極めて今日的な問題提起じゃないか? それに「人間は弱い存在であることの確認」と 「救済」のメッセージ。 2部の途中からは、聴いていて慟哭状態に、涙が止まらなくなり一気に終局へ。 日本はキリスト教文化圏には属していないし、個人的にも無神論者であるが、マーラーの8番は、人間に関する普遍的な真理を、類まれな音楽技法を駆使することにより、描きつくしてしまったような気がする。 本日、この偉大な芸術にがっつり向きあえたことに感謝、感謝...』
というわけで、個人的には年末に「ベートーベンの第九」より聴きたいマーラーの8番でした。 長くなってすいませんでした!!
投稿: 山元 光 | 2012年12月11日 (火) 23時14分
すいません、勝手に投稿しておきながら、誤植です。
×「人類の男性的なるものの界」→ ○「人類の男性的なるものの限界」でした。
投稿: 山元 光 | 2012年12月11日 (火) 23時20分
山元光さん、こんばんは。
わたしも実は年末はマーラーの8番派です。
マーラーの作品の中で、もしかしたら1,2といえるくらいに好きな曲です。オペラ・声楽好きだからかもですが、やはり、「ファウスト」がそこに描かれているかもしれません。
コメントの内容、とても同意しながら拝読し、そして合点の行く思いです。
深夜ですが、いますぐにでも聴きたくなってしまいました。この曲、壮大さを纏ってますが、実は静謐で静かな部分にこそ、その本流があるようにも思います。
自分勝手の人間の王様的存在、ワーグナーが生涯、女性による救済をテーマにしたことも頷けます。
そんな視点で、年内、もう一度、千人を聴きたいと思ったりしてます。
コメントどうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2012年12月12日 (水) 23時38分
yokochanさん、ご無沙汰です。
また山元光さん、はじめまして。
私自身、マーラーで1番聴いたのは、この8番です。
実は、あまり通しでは聴きません。
バッハのモテットを世紀末ウィーンスタイルのようにしたてた第1部、また第2部の終わり、神秘の合唱をとりわけ好んで聞いています。
マラ8の第1部は、アニメで近年で2つ使われていました。
涼宮ハルヒの憂鬱 最終話では第1部の展開部が、個人的には、何がいいのかわからない使い方だったのですが、ファンからは怒鳴られそうですが。
また、のだめでも第1部の冒頭が使われていましたね。
第1部では、天から地へ、第2部では地から天へ昇天する様、これを、第2部は、エロスの誕生と解釈することもできるかと思います。元々の構想を考えれば。
さて、私自身が、大のゲーテファンでもあります。
若きヴェルテルの悩み、ファウスト、箴言と省察、芸術論、新潮社から出ている詩集、格言集は、今まで読みました。
ファウストは、モーツァルト以外作曲できないとゲーテは考えていたようですが、あの見事なフィナーレを聴けば払拭しうるものだと思っています。
「永遠に女性的なるものこそ、我らをさらなる高みへと引き上げる」この歌詞は、私もとても好きです。きっとゲーテの悟りだったのだと思います。
私は、いつか富士山へ登ろうと思っていますが、ご来光の瞬間、マラ8の最期か、シェーンベルクのグレの歌の最期を、BGMとして聴いていようと思っているくらいです。
投稿: Kasshini | 2012年12月14日 (金) 19時49分
Kasshiniさん、こんにちは。
マーラーは万遍なく聴いておりますが、8番はやはり大作。
全部聴かないとすまないわたしですから、なかなか始終聴く訳にはいかず、特別なときに、ということになります。
ファウストに題材を求めた作品がたくさんある中で、この曲は、シューマンとグノーと並んで、一番好きなものです。
ゲーテは、ウェルテルぐらいにか読んだこともなく、アニメもまったく無知のわたくしですが、この曲の第2部後半には、まったくもって霊的なまでに感銘を受けます。
ご来光に相応しい音楽ですね。
投稿: yokochan | 2012年12月15日 (土) 09時52分