ワーグナー 「パルシファル」 アバド指揮
六本木の桜坂より。
サントリーホールも至近。
土曜日に事務所からお散歩すること3時間。
霊南坂教会。
プロテスタント系の教会で、煉瓦造りの建物とそびえる尖塔と十字架が桜の中に毅然としておりました。
礼拝堂では、オルガンの練習中。
ひとり静かに聴き惚れてしまいました。
本日は、復活祭。
マタイ受難曲とならんで、欧米でこの頃に上演されるのが、「パルシファル」。
春の風物詩のようになっていて、日本の第9みたいなものでしょうか。
NHKのバイロイト放送も、いまのように年末全演目放送でなく、この時期に「パルシファル」だけを放送しておりました。
今日は、クラウディオ・アバドの指揮によるライブ録音で。(非正規ジャケットがヘンテコなので載せません)
ワーグナー 舞台神聖祭典劇「パルシファル」
アンフォルタス:アルベルト・ドーメン ティトゥレル:ハンス・チャマー
グルネマンツ:クルト・モル パルシファル:ロバート・ガンビル
クリングゾル:リチャード・ポール・フィンク クンドリー:リンダ・ワトソン
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン放送合唱団
テルツ少年合唱団
(2001.11.29@ベルリン)
大病を克服後、「トリスタン」に次いで取りあげたアバドのワーグナーが「パルシファル」。
ワーグナーに慎重だったアバドが、70年代後半からスカラ座・ロンドン時代で取りあげていたのが「ローエングリン」。
その後、満を持して、「トリスタン」に取り組んだのは98年。
特定のテーマのもとに組んだプログラムで秀逸だったベルリン時代。「愛と死」がテーマ。
そして、「パルシファル」が2001年で、まずはベルリンでセミステージ上演後、翌年のザルツブルク復活祭音楽祭で舞台上演、さらにエディンバラでも。
ローエングリン・トリスタン・パルシファルの3作こそ、ワーグナーが後世の音楽家たちに多大な影響を与え続けた音楽。
ローエングリンの音に宿る清らかな色彩、トリスタンの半音階的和声が生み出した感情表現の多彩さと無限旋律の妙。
そして、パルシファルはワーグナーが到達した舞台芸術の到達点で、音楽は室内楽的ともとれる緻密さにあふれていて、新ウィーン楽派やドビュッシーらの次ぎの扉をもそこにあるのを感じる。
この3つのワーグナーがいまのところ、アバドのワーグナーの最終レパートリーであるところがいかにもアバドらしい。
本来なら、あと「マイスタージンガー」、次は「タンホイザー」とアバド自身も口にしていただけに病気とベルリンのポスト離れはとても残念なこと。
あの大きな病が、アバドの考え方・生き方をすべて変えたのでしょう。
入手以来何度も聴いておりますが、アバドのパルシファルは明るく、かつ能動的だ。
1幕の最初の方こそ、少しばかり手探り感があるものの、聖堂に場面が移るあたりから音楽にキレと熱が帯びてきて、アンフォルタスの悩みなど、痛切極まりないオーケストラの没頭感に感動してしまう。
さらに、第2幕。前奏曲からオケの気迫が違って聴こえる。
うなりをあげる低弦はエッジが効いて鋭く、弦も金管も力が漲り熱気をはらんでいるんだ。
そして、クンドリーとパルシファルの場面。この楽劇で一番革新的だと思う音楽。
不協和音が鳴り響き、ダイナミックレンジが広い。
アバドの精緻かつ、暖かな解釈に高性能のベルリンフィルがしっかり応えているのを感じる。
3幕でもオケの雄弁さとアバドならではの明晰で、音を浮き彫りにしつつ歌わせる技が際立ち、合わせて透明感にもあふれていて、ワーグナーの音楽が一皮むけたかのような感をいだく。
「聖金曜日の音楽」にいたる感動的なクライマックスと、野の情景を描くオーケストラはあまりにも美しく、涙が滲んでしまうのだ。
最後の音が静かに鳴り終わって訪れる長い長い静寂。
聴衆の感銘を共感できます。
病後の痩身のアバドの行きついた心境を反映する素晴らしいパルシファル。
幽玄なるクナッパーツブッシュのパルシファルは、もちろん素晴らしく、この音楽のひとつの指標であるが、アバドのパルシファルの明るい美しさは、ベネチアで亡くなったワーグナーの地中海に対する思いを体現しているかのようで、曖昧さが一切ない澄み切ったもの。
アバドのワーグナーを聴くと、カラヤンやラトルでさえ、ましてはバレンボイムやティーレマンが重々しく感じてしまう。
もちろん彼らのワーグナーも大好きなのですが。。。
ザルツブルクでは、パルシファルがトマス・モーザー、クンドリーはウルマーナだった。
こちらのベルリンライブでのガンビルとワトソンはとてもいいです。
ガンビルは、かつてはモーツァルトを歌うリリックテノールだった。
唯一のウィーン訪問で聴いた「魔笛」のタミーノがガンビルだったから、こうしてパルシファルや、トリスタンまでも歌う重量級ヘルデンに成長しようとは思いもよらないことだ。
J・キング似の気品と悲劇性を備えたバリトンがかった声で、とてもよろしい。
お馴染みのワトソンの決死の感ただようクンドリーよし。
安定感と安心感抜群のザ・グルネマンツとも呼ぶべきクルト・モル。
深々とした美声のチャマーのティトゥレルに、驚くほど立派だったメトのアルベリヒ、フィンクのクリングゾル。
いまやワーグナーのバスバリトンロールの第一人者のドーメンは、もともと地味に活躍していたものをアバドが見出した歌手で、この頃はまだその発声に少々クセがあって、今ほどの神々しさがないかも。
面白いのは、テルツ少年合唱団にお小姓さんたちを歌わせていることと、ショルティ盤のように女声合唱に加えて天上の響きを醸し出していること。
放送録音のCDR化と思われ、ノイズが多少混じるものの、録音状態は極めて上々で、へたな某社録音よりよっぽど素晴らしい。
なによりもベルリン・フィルの凄さが実感できるのがいい。
ただ3幕に欠落がわずかにあります。
正規に録音されているはずのお蔵入りの「トリスタン」と、録音すらされなかったこちらの「パルシファル」。
アバドのワーグナーの完成系が正規に残されないのは残念極まりないことです。
復活祭の昼さがりに、窓外の桜を見ながら・・・・・・。
パルシファル 過去記事
「飯守泰次郎 東京シティフィル オーケストラルオペラ」
「クナッパーツブッシュ バイロイト1958」
「バイロイト2005 FM放送を聴いて ブーレーズ」
「アバド ベリリンフィル オーケストラ抜粋」
「エッシェンバッハ パルシファル第3幕」
「ショルティ ウィーン・フィル」
「バイロイト2006 FM放送を聴いて ブーレーズ」
「クナッパーツブッシュ バイロイト1956」
「クナッパーツブッシュ バイロイト1960」
「クナッパーツブッシュ バイロイト1964」
「レヴァイン バイロイト1985」
「バイロイト2008の上演をネットで確認 ガッティ」
「ホルスト・シュタインを偲んで」
「エド・デ・ワールト オーケストラ版」
「あらかわバイロイト2009」
「ハイティンク チューリヒ」
「シルマー NHK交響楽団 2010」
「ヨッフム バイロイト1971」
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コメント
こんにちは。寒い復活祭でした。こちら、満開の桜もありますけど、いつも行く公園はまだ七分咲きというところでした。
このパルジファルは聴いたことがないと思います。ギャンビルはロッシーニのアルジェのイタリア女のLDで知った人なので、ワーグナー歌手としての再登場にはびっくりしました。
ついこの間ホフマン出演の新たなパルジファル(コヴェントガーデン1979、指揮はショルティの病気降板で知らない方。スイスの人だそうです)を聴いたので、ちょうどその季節ということで、聖金曜日の音楽のあたりを載せました。YTの写真はそのころの公園です。よろしかったらのぞいてください。TBします。
パルジファルはなかなかなじめない曲でしたが、聴く慣れるとほんとうにいい曲だと思います。
投稿: edc | 2012年4月 8日 (日) 20時11分
euridiceさん、こんばんは。
ご返信遅くなりました。
寒い復活祭のあとは、急に気温もあがり、もう桜も舞い始めました。
明日の低気圧がまた心配で、桜も散ってしまうのでしょうか・・・。
アバドのパルシファルは非正規盤CDRでして、ジャケットは粗末ですが、内容は上々でした。
そしてギャンビル氏も立派なものです。
TBいただきありがとうございます。
カウフマンやフォークト、そしてなんといってもホフマンのロンドン上演は初聴きでした。
ショルティだったらどうなっていたでしょうね。
リストを拝見しまして、ゆっくりたのしませていただきます。
3幕の聖金曜日をピークに、パルシファルはしみじみと素晴らしい音楽ですね。
投稿: yokochan | 2012年4月10日 (火) 19時52分