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2012年5月19日 (土)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウを偲んで

Df_deiskau

不世出と呼ぶに相応しい大歌手、ディートリヒ・フィシャー=ディースカウが亡くなりました。

1925.5.28~2012.5.18。 

87歳の誕生日を前に逝去。

92年に歌手生活に終止符を打ち、この20年は後進の指導や朗読など静かな余生を送ったフィッシャー=ディースカウ(FD)。

音楽を聴きだしたころからずっとずっと現役で、引退後も変わらず聴いてきて、ずっとそばにいた万能歌手がFDでした。
歌曲もオペラも宗教曲も、困ったとき、FDを選択すればハズレがなく、いつも満点の歌唱。
うま過ぎる歌唱、その計算されつくした知的な歌いまわしは、言葉への入念な感情移入も伴い、好みの分かれるところではありました。
 ですが、わたくしは、そんなFDが好きでした。

全集魔として古今東西網羅された歌曲の数々は、そのほとんどがFDが刷り込み。
宗教曲は、リヒターのバッハには必ず登場していたから、こちらもFDばかり。
オペラでは、FDはどちらかというと二番手に選択される役柄が多かったかも。
聴き慣れたモーツァルトやイタリアオペラやワーグナーも、FDで聴くととても新鮮で斬新だった。
FDの、スカルピアやイャーゴ、ファルスタッフ、オランダ人、ウォータン、ザックス、ヴォツェックは私には最高の歌唱だと思ってます。

 ワーグナー 「ワルキューレ」~「ウォータンの告別」

    ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団


クーベリックのワルキューレも貴重だけれど、FDのウォータンは、ラインの黄金以外はこれが唯一。
オーケストラともども、明るく南ドイツ風で、滑らかなワーグナーはとてもユニーク。
一語一語かみしめるように、愛娘との別離を歌うFDのウォータンには泣けます。

Mahler_das_lied_von_der_erde_bernst

 マーラー 交響曲「大地の歌」~「告別」

     レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


そして、本当の告別です。
Ewig Ewig が、リアルに切なく、FDとの永久の別れがつらいです。
いずれも、指揮者も歌手も、みなこの世になくなってしまっているんですね。

Schubert_schwanengesang_fd

 シューベルト 歌曲集「白鳥の歌」~「鳩の便り」

       ピアノ:ジェラルド・ムーア


FD60歳に発売された、自身の絵画をジャケットにあしらったシリーズの1枚。
何度も録音し続けたシューベルトの3大歌曲集。
「冬の旅」だけでも、いくつ録音があるだろう。
それぞれが独特の完成度を誇り、常に新しくチャレンジし続けたFD。

今夜は、「白鳥の歌」から、ザイドル詩によるシューベルト最後の歌曲「鳩の便り」を。
シューベルト晩年の死の影をたたえた音楽の中にあって、「鳩の便り」は明るく抒情的で、その旅立ちは暗くなく、愛らしい便りを運んでくれそうだ。
FDのさりげない歌い口の巧さが、シューベルトの歌心の本質をしっかりとらえてます。

歌手が亡くなるといつも思い、書くこと。
それは、現役から退き、過去の音源でしか聴けなくなってしまった歌手たちが、亡くなるときにだけ再びクローズアップされる。
わたしたちは、その現役時代にあった時代の自分のことを思い、その時間の経過に空白感を想う。

FDの死は、やはりとても寂しいものでした。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウさんの安らかな眠りをお祈りいたします。

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コメント

引退してすでにかなりの日々が経っていますが、やはり残念に思います。私も同様に音楽を聞き始めた頃からずっと彼は大スターでしたので、とてもとても悲しく思います。
彼のおかげで復活した歌曲も多く、いろんな意味で今後彼を越える存在というのは出てこないのではないかと思います。ジェラルド・ムーアとのコンビでの1950年代から1960年代の数々の録音がやはり私には魅力的ですが、f引退直前でもそれほど声が落ちなかったのも、バリトンという声質を考慮しても凄いことでした。
あげておられるバーンスタインとの大地の歌もしびれましたねぇ。オットー・クレンペラー盤、ワルターのステレオ盤などとよく聞き比べをして楽しんだものでした。
ムーアとの「白鳥の歌」はしばらく胸がいっぱいになって聞けそうにありません。あれは一杯想い出が詰まっているので…。
やはり大歌手中の大歌手、偉大な音楽家でした。

投稿: schweizer_musik | 2012年5月19日 (土) 07時12分

昨日、訃報を知りました。

yokocanさんが仰るとおり、彼によって知った音楽は膨大なものでした。オペラこそ彼の影響受けなかったとはいえ、ドイツ歌曲のほぼ全ては彼のお陰です。ただ、90年代に引退した以降、僕のFD離れが起こって、ヴォルフのリート以外は持っていませんが。

しかし、フィッシャー=ディースカウという道標の存在は、本当に絶対的なものであり、今後もそうであり続けることでしょう。
ご冥福をお祈りします。

投稿: IANIS | 2012年5月19日 (土) 19時24分

これほどの歌手はいなかった。
テナーでないのに「この人が歌うならこのオペラセットを聴きたい」と思わせたバリトンはいなかった。
むずかしいことはよくわからないが、FD様を聴いて何度ないたことか。亡くなったんですか。。。
年齢的には当然といえるかもしれませんが信じたくありません。一度も実演に接することができませんでした。
同時代のヘルマンプライは2度も聴くチャンスがありませいたが、FD様は田舎のコンサートにおいでいただけなかった。。。悲しい夜になりました。
今日はFD様のLPレコードを聴いて一人で通夜をします。
悲しい酒を飲みながら聴きます。
涙とまらず。。。

投稿: モナコ命 | 2012年5月19日 (土) 22時23分

schweizer_musik先生、こんばんは。
シュヴァルツコップとならんで、この人ならばという絶対的な存在。
指揮ならカラヤンみたい、もしくはリートの世界でとらえるならば、それ以上かもしれませんでした。
EMI時代とDG初期が、ご指摘のとおりの最高の音源です。
バッハ、シューベルト、シューマン、マーラー、ヴォルフ・・・。
いずれも最高の歌唱を残してくれました。
バリトン版では、FD以上は考えられない「大地の歌」です。
ムーアとのシューベルトに、エッシェンバッハとのシューマン。
伴奏者の選択もFDならではでしたね。
寂しいです。

投稿: yokochan | 2012年5月19日 (土) 23時19分

IANISさん、こんばんは。

そうなんですよね、歌曲の多く、いやほとんどすべては、アイヴズなどのアメリカ系もふくめて、FDから発聴きとなってます。
唯一は、フランスもの・ロシアものだけがFD以外の感ありです。
FDのヴォルフは、廃盤でしょうか、バレンボイムとムーアのDG・EMIともに国内盤で探してます。
歌曲は、歌詞対訳がないと辛いもので、FDのアンドロジーをこの際望みたいところです。

ともかく、おっやるとおり、今後ともに、FDはFDの存在であり続けることだと思います。

投稿: yokochan | 2012年5月19日 (土) 23時34分

モナコ命さん、こんばんは。

いつか来る・・・・、と思っていた、FDの死でした。
こうして来てしまうと実感がありません。
FDが歌ったCDやレコードは、どれだけ持ってるか、思えばさっぱりわかりません。
指揮者だと、すぐにリストが出来そうなのですが、歌手の場合はひょんなところに登場してるからわかりません。

でも、FDは、そんな中でも燦然と輝く声でもって、忘れられない存在の役柄が多いです。

わたしは、FDはおろか、プライも聴き逃しました。
うらやましいです。。。

そして、FDの歌声が永遠たらんことをお祈りしたいです。

投稿: yokochan | 2012年5月19日 (土) 23時40分

再びこんばんは、よこちゃんさま。NHKの「らららクラシック」という番組で今まさにこの方のマーラーの「さすらう若者の歌」を放送しておりますよ。63歳の時の映像だそうですが、若々しい歌声ですね~ 立ち振舞いも、とても礼儀正しく真面目で素敵な紳士でいらっしゃいますね。送らばせながらご冥福をお祈りします。

投稿: ONE ON ONE | 2012年6月24日 (日) 22時04分

ONE ON ONEさん、こちらにもありがとうございます。

その「ららら・・」というにはいったいなんだったのでしょうか?

息子とバットマンの映画に見入っておりました。。。不覚なりぃ~・・・・・。

FDは貴族のような、そして知的なクレヴァーな歌手でございました。
あの声は、ずっとずっと脳裏に残り続けることでございましょう。
寂しいです。

投稿: yokochan | 2012年6月25日 (月) 21時56分

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