神奈川フィルハーモニー6月定期演奏会 CDコンサート
今日も紫陽花。
蒸し暑くて、どっかり降る雨。
でも、アジサイは毎年、同じように咲いてその風情を楽しませてくれます。
いまのところ、何があっても、几帳面な自然の一面ですな。
6月の神奈川フィルハーモニーの定期演奏会は、オール・シュトラウス・プログラム。
R・シュトラウス 歌劇「インテルメッツォ」 4つの交響的間奏曲
~暖炉のほとりでの夢想~
「変容」~メタモルフォーゼン
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
金 聖響 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
2012年6月22日 (金) 19:00 みなとみらいホール
いよいよ明日となりました神奈フィル定期。
先月のワーグナーと並んで、むちゃくちゃ楽しみなんだから。
このところ、忙しくて、その仕事がちょっとばかりキナ臭くなってきて明日はヤバイ感じだけれど、何がなんでも横浜に行ったるぜ。
実は、今回の3曲の中で、一番好きな音楽かもしれないのが「インテルメッツォ」。
シュトラウスのオペラをワーグナーやプッチーニとともに愛するわたくし。
すべてのオペラを一通り聴きつくし、舞台観劇も15作中、9作品まで体験しました。
そんな中で、少しばかり肌色の違うのが「インテルメッツォ」。
このところ何度も触れてますとおり、シュトラウス一家の家庭内物語ともいえる素材は、シュトラウスのオペラの中ではユニークなもので、ちょうどホフマンスタールと蜜月にあった時期なのに、台本はシュトラウス自身が編んだものでもあります。
ホフマンスタールとすりゃ、人さまの家庭の中にまで踏み込んだ台本はできないとしたワケでございましょうねぇ。
言葉の洪水のようなこのオペラの中にあって、劇中の雰囲気をしっかりと伝えるオーケストラ間奏曲を抜き出した4編からなる作品は、ほんとうは今回全部聴きたかったところだけれど、前半が長くなりすぎちゃうので、やむなしでしょうか。
でもできれば、ワルツと疑古典の「町人貴族」を思わせるような雰囲気あふれる1曲目はやって欲しかった。
そして、今回演奏される、2曲目の静かで甘味なる雰囲気の愛の夢想とも呼ぶべき音楽は、その名のとおり、陶酔境に誘う美しい音楽なんです。
こんなきれいな音楽を聴いてしまうと、オペラでは、そのあとに訪れる激しい嫉妬の嵐が信じられません。
シュトラウスの作曲の手腕の凄いところは、こんな風に、劇的に訪れる喜怒哀楽と、それに完璧に即したオーケストラの変幻自在の表現力。
一番、いい例が、「ばらの騎士」でもって、オクタヴィアンとの危ない火遊びに夢中になっていたマルシャリンが、賑やかに訪問する売り子や歌手、訴状を持った人々、そしてあつかましいオックス男爵らが大騒ぎする中、ふと自身の姿を鏡に写し出し、そしてふと感じる自分の姿と時の残酷なまでの流れ・・・・。
シュトラウスの音楽は、180度転換してしまい、急激に神妙に、そして歳を経たものだけがわかるアンニュイなる悲しみを表出しつくすのです。
ジェフリー・テイトとロッテルダム・フィルの爽やかで、6月の紫陽花のように清々しい演奏は、この曲にぴったり。
「メタモルフォーゼン」と先の「インテルメッツォ」との音楽の違いは、そのまま、それらの曲の成り立ちの違いにひとしいです。
ドイツへの鎮魂歌でありつつ、晩年を迎えたシュトラウスの自己肯定的な人生振り返りの音楽は、音楽による自己表現にたけたシュトラウスならではの作品かも。
わたくしは、シュトラウスのオペラを易々と聴くようには、この沈滞し深みのある音楽を簡単に聴くことはできないでいました。
事実、ほとんどの主要作品をblog記事にしてきた中にあって、この曲だけは例外的に取り上げておりませんでした。
自分でも驚いておりますが、エロイカが鳴ることがどうにもこれは尋常じゃなく思いこんでいて、音源はあっても、そのCDのほかの曲ばかりに耳がいったりしてました。
今回、手持ちの音源を総ざらいしまして、はたして、こんなに集中力と情熱に飛んだ曲だったっけ?と驚きを隠せずにおります。
印象に残った演奏は、深い情念に飛んだバルビローリ、その音色に疲弊してしまうくらいに美しいプレヴィンとウィーンフィル、そして、こだわりなく音をたっぷり鳴らして聴かせてみせたレヴァインとベルリンフィル。
このレヴァイン盤は、「ジークフリート牧歌」と「浄夜」というナイスな組み合わせで、カラヤンの亡霊が出てきそうな選曲でもありますが、ここにカラヤンの姿はまったく感じることなく、爽快なまでに、音楽にどっぷりと漬かり最大公約数的な音楽の楽しみを味わあせてくれるんです。
そして唸りを上げるベルリンフィルの弦も、ここでは明るくかつ明晰。
これもまたアリと思わせる素晴らしいシュトラウス演奏に思いますね。
「ツァラトストラ」は、小澤さんの音盤で。
サラリーマン生活初期、LP末期に発売され、即購入した小澤のシュトラウス。
このあと、「英雄の生涯」も続くわけだが、レコードも当時、特別価格で2000円じゃなかったかしら。
シュトラウスに関しての録音は、比較的奥手だった小澤さんは、このあとオペラも含めて次々に取り上げてゆき、同時に、マーラーの全集録音も併行することとなる。
手兵のボストンとの最盛期でもあり、ここでは、名コンマスシルヴァースタインの鮮やかなソロも楽しめます。
で、なによりも、発売時、このレコードのウリのひとつは、ボストンシンフォニーホールにおける録音の素晴らしさ。
派手さは一切なく、しっとりとしながら、芯のある音楽的な響きは、当時、手持ちだったメータやカラヤンとはまた違った意味で、ツァラの名録音と思ったものです。
いまでも、すこしばかりこじんまり感はあるものの、素晴らしい録音だと思います。
そして演奏は、そのこじんまり感が、ほかの人眼もはばからない肉食系の演奏にくらべ、あっさりしすぎていると思ったりもします。
メータやカラヤンは、バターやソースをたっぷりと上手に使った、一口で美味しいと思わせる濃厚なる味わいにも似ているのに比して、小澤さんの演奏は、醤油やかつお出汁を滲ませながら、素材、すなわち楽譜そのものを生のままに美味しく味わうに似た感触の演奏でございます。
小澤さんが、単身ヨーロッパ音楽社会に切り込みをかけた、その包丁さばきは、ここにも健在でして、和風出汁の味わいがさらに増している、との感を受けました。
こんな印象、大巨匠に対していけませんでしょうか・・・・。
ということで、今回、3曲ともに、比較的さっぱりと爽快なシュトラウス演奏を選んでみました。
聖響&神奈川フィルは、きっとそんな流れを汲んだ、そして美麗な演奏となることでしょう。
いやはや楽しみ楽しみ。
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