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2012年7月29日 (日)

ヴェルディ 「アイーダ」 アバド指揮

Gijido

ニッポンの最高立法機関の国会議事堂。

わたしたちが直接に、間接に選んだ議員さんたちが集う場所。

近くのビルから覗いてみました。

ここに集う期間限定の方々に、真の愛国心を持つ方々がいらっしゃるでしょうか。

そもそも、われわれ国民にも、そんな強い気持ちを持つ人々がいるのだろうか。

敗戦の時から、愛国心を口にすることが少し憚られる風潮になり、日の丸も遠い存在になり、そのまま社会は芳醇を迎えてしまい、ずっとのんべんだらりと過ごしてきてしまった。

オリンピックやワールドカップのときだけ、ニッポンニッポンと熱くなるわが国民。

もっと大事なことは曖昧な政治の中に封じ込められてしまい今日に至るの図式です。

Verdi_aida_abbado

  ヴェルディ   アイーダ

  アイーダ:マーティナ・アローヨ   ラダメス:プラシド・ドミンゴ
  アムネリス:フィオレンツァ・コソット アモナスロ:ピエロ・カプッチルリ
  ランフィス:ニコライ・ギャウロウ   エジプト王:ルイジ・ローニ
  伝令:ピエロ・デ・パルマ        巫女:ジョセラ・リージ
 
    クライディオ・アバド指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団/合唱団

                      (1972.8 @ミュンヘン)


ヴェルディ(1813~1901)。来年、ワーグナーとともに生誕200年の年を迎えます。

われわれ他国民からみると、どちらも偉大なオペラ作曲家として、血沸き肉踊り、歌心と知的な好奇心を大いに刺激し続けるカリスマであります。

しかし、ドイツ人からみたワーグナーと、イタリア人からみたヴェルディとでは、だいぶ様相が違うように感じます。
「われらがヴェルディ」と、きっとイタリア人なら思うでしょうが、ワーグナーの場合はそうはいかないと思います。
ワーグナー自身にもゲルマン至上という思想があり、ドイツとワーグナーには、いろいろな尾ヒレがつきまとってしまう。
 支配され属国であったり、たえず内紛も絶えなかったイタリアにあって、祖国愛と史劇の素材選びでもって聴衆の心を常に掴んできたヴェルディ。
そんなヴェルディのあるイタリア人がなんだか羨ましく思えるんです。

今日は、ヴェルディの中でも、断トツの人気オペラの「アイーダ」を。

エジプトのオペラハウスのこけら落しにと作曲依頼があったアイーダは、エジプトという壮大な歴史背景をもとにした、エジプトとエチオピアのふたつの祖国に揺れ動く、愛と憎しみの人間ドラマであります。
 フルスペックのグランドオペラなものだから、晴れの日用の上演演目として上演されることも多いのです。
NHKホールの開館の一環でも、この「オペラ」は上演されましたが、その1年前、1972年に、ミュンヘン・オリンピックの開催記念にイタリアから、スカラ座が豪華キャストを引き連れて引っ越し公演を行ったことも、このオペラの上演史的に大きな出来事だったはずです。
Abbado (1972、ウィーン芸術週間のアバド)

指揮は、申すまでもなく、当時すでにファンだったクラウディオ・アバドです。
NHKのFM放送も聴き、録音し、初めての「アイーダ」に興奮しっぱなしの中学生のわたくし。指揮もしまくりでしたよ。
当然、若いものですから、前半の華やかなふたつの幕ばかり。
後半の、祖国と恋人との間にゆれる心理描写を巧みに描いたこのオペラの静的な部分に耳が行くようになるのは、もう少し歳を経てからですが、こうして決して良好ともいえない音源に接してみて、アバドは剛と柔、じつにしなやかな音楽を繰り広げているんです。

特別なシテュエーションも後押しして、最初から最後まで、熱気の渦が取りまいていて、前半の各場のエンディングや華やかなバレエに合唱などの終結部は興奮の極みとなっております。
が、しかし、そこはアバドで、実に整然と、ピシリと決まっております(一部先走りもありますが)。
それとともに、主役たちの名アリアがそれぞれ持つ愛とその苦難を雄弁に、そして時には繊細に歌い込むオーケストラの素晴らしさは、スカラ座のオケのすごさも相まって、アバドの指揮のすごさだと思います。
一番の聴きどころは3幕のアモナスロとアイーダの二重唱の緊迫した場面。
父の無事に安堵する娘に、敵の将軍ラダメスから進軍径路を聴き出すようにと迫る父王。
愛する祖国と敵国の恋人との間に揺れ動くアイーダの心情。
ここにおけるオーケストラの怒りと涙の痛切の響きはどうだろうか!
このあとの、ラダメスとアイーダの二重唱の高まりと、その後の急展開の裏切りと捕縛。
手に汗握る超スペシャルな名演でございますよ。

当時、最高峰の歌手を揃えた配役も素晴らしい。
ビンビン響く声、また声。
ヴェルディを聴く喜び、ここに尽きます。
輝かしさ一杯のドミンゴ、強靭なコソット、力強さと明晰さのおりなすカプッチルリ、深くて美しい厳粛なバス、ギャウロウ、王様スペシャリストのローニ。
そして、思いのほか美しい声を聴かせるアローヨ。あんまり録音には恵まれなかったアローヨだけど、繊細で細やかな表現の「わが故郷」は感動します。

放送録音による音源で、ヒス音による音汚れも目立つし、プロンクターの声がうるさいが、この名演の記録としては申し分ない音質です。

この音盤を聴き、いつも思うことは、これがすぐにでも正規録音されなかったこと。
EMIが、アローヨをカバリエに変えて、ほかの配役はそっくりそのまま、若獅子ムーティを起用して録音してしまった。
商業録音がビジネスとして成り立つ贅沢な時代でもあり、DGがEMIに負けてしまったことが、アバドファンとしてはむしょうに悔しかった。
(もちろん、ムーティ盤も喜々として聴きまくったのですがね)

Aida_abbado_1980

その後10年近くを要して実現したアバド&スカラ座のスタジオ録音は、それはそれで素晴らしいのですが、このミュンヘン盤を知る者には、ちょっと遠くでなっているような印象を受ける。クライバーのボエーム録音がキャンセルされ、急遽順番が回ってきた録音とのことで、シモンやマクベスのような集中力あふれるヴェルディにはならなかったのでは。

1972年のミュンヘンオリンピックは、いまでも覚えてるのが体操の塚原の月面宙返りと、男子バレーの時間差攻撃などの多彩なスピーディな攻め、そして水泳の田口選手。
いまや各国が、それらを進化させて強くなっているが、そのベースは、ミュンヘンにおける日本選手たち。
 そして、忘れられない事件が、パレスチナゲリラによるイスラエル選手村へのテロ攻撃。
西ドイツは要求を飲み、人質を持った犯人たちの空港への脱出ルートを作ったが、空港で銃撃戦となり犯人を一部捕獲はしたものの、選手である人質ほか、多数の犠牲者を出した。
この血なまぐさい事件は、テレビでも中継されたし、週刊誌で血に染まった空港などもみて、恐怖を味わったのを鮮明に覚えている。

犠牲者の追悼式では、ルドルフ・ケンペ指揮するミュンヘン・フィルによって、「英雄」の第2楽章が演奏され、それもテレビで観ました。

いまから40年前のオリンピックは、こんな風に、なにもかも劇的で、私にとっては忘れられないものなんです。

いまや、西も東もなく、おかしな国は若干ありますが、均衡が微妙に保たれた各国によるスポーツの祭典となっております。
いっときの愛国心を試すお祭り、どちらさまもお楽しみあれ。

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コメント

今晩は、よこちゃん様。
何やらイベント事の時だけ熱くなる国民性…仰有る通りですねぇ。北京のメダリストで、今も誰もが覚えているのは北島選手くらいなのでは?と思ってしまいますが、さて如何でしょうか?
民主党には失望させられるばかりにございます↓
政権交代時には、散々良い事ばかり言ってましたが、リップサービスに終わりましたな、ハハッ(泣き笑い)
蓋を開けてみたら、公約どおりにいきません、方向転換やむを得ずいたします。国民の皆様、ご協力下さいてな感じの総理に、何となく納得してるみたいな昨今…ふぅ(ため息)
こんな事、許しちゃってよいのか!
諦めがいいのも国民性かいな?
これでいいのだ(野田にかけてみましたよ)とはとても言えませぬ、わたくしは。
今日の阪神戦、3タテとはいきませんでした。残念です。

投稿: ONE ON ONE | 2012年7月30日 (月) 00時27分

えらい!そのとおり!ミュンヘンオリンピック!昨日のように覚えています。選手村襲撃事件ではバーンスタイン(じゃなかったかも)のエグモント序曲を覚えています。泣ける。
ドミンゴ、カプッチルリ、ギャウロフの3主役さえ揃ってくれるとソプラノは誰でもOKな私^^;いかんなー。
今、このレコード(!)を聴いてみました。
すごいじゃないか!
ずっとムーティがベストと思っていた私の凡耳にも演奏の水準の高さがはっきりと!
イタリアのヴェロナの野外オペラでこの3幕を聴いていた興奮した私は、隣の妻に「おい!今の場面!すごいな!」と話しかけました。隣で妻は熟睡していました。ついでにまわりの客も熟睡していました。私の座った席はど真ん中のどまん前一番いい席だったのに、全員熟睡中でした。キミタチ。。。なにしにきた。。。
このたびのオリンピックで平岡が準決勝で倒した相手がイタリアのヴェルディという選手でした。
平岡!ヴェルデイを倒したのか!さすがだ!おろかな私はさまよえる様のブログを見て興奮し、今晩はSP盤でジーリの演奏を蓄音器で聴こうと決心したところです。


投稿: モナコ命 | 2012年7月30日 (月) 18時55分

ONE ON ONEさん、こんばんは。
虎のお尻も見えてきたんですが、そうは甘くはないですね。
番長、残念。

わたしも、北京の金選手は覚えてません。
そもそも、北京の前がどこだったかも不明です。
東京オリンピック以降のあのあたりなら鮮明なのですが・・・・。

それにしても面倒くさい政治に政局にございますね。
民主党にこぞって投票してしまったのは、政権交代、という、あの青白い無表情の鳩の言葉に酔ってしまったからなのでした。
ずっとこんな感じでニッポン行ければ平和なんですが、いいかげんマズイ状況ですね。
あぁ。祖国なり!

投稿: yokochan | 2012年7月30日 (月) 21時58分

モナコ命さん、こんばんは。
ミュンヘンの半年後は、札幌五輪でしたね。
その札幌に、ミュンヘンフィルがやってきて、皇帝やブラームスを演奏しテレビで見ました。
ジャンプの3タテと、ジャネット・リンの愛くるしいフィギアスケートが忘れがたいです。
 ということで、昔のことはやたらと覚えているんです。

ドミンゴ、カプッチルリ、ギャウロフの出演した音盤の所有比率はわたしもやたらと多いです。
ムーティじゃなくって・・・と、何度も思いましたが、いまや、この盤で我慢ですし、大満足です。

本場ヴェローナでも、そんなことなっちゃうんですね。
腹立たしいし、もったいないこと極まりないですよ。
で、平岡選手のがんばり、そうだったんですか。
普通にヴェルディさんいるんですねぇ。

投稿: yokochan | 2012年7月30日 (月) 22時09分

今晩は。いや~、オリンピックの流れで話が札幌に行くとは!笠屋・今野・青地の日の丸飛行隊や札幌の恋人ジャネット・リン、愛らしい人でしたね。銅メダルの彼女しか覚えてない(笑)…懐かしいですなぁ(涙目)
ミュンヘンは男子バレーの横田・森田・猫田(名前がねこたですよ!ね…こ…た)
その前のメキシコは女子体操のチャスラフスカ。後のモントリオールは何と言ってもコマネチ!で決まりでしょうか。いやいやまだまだマラソンのアベベの二連覇。君原の銀メダル。日本男子体操の加藤沢男、その後は塚原・具志堅・森末というスター達。女性ではバレーの白井貴子、横山樹里、江上・三屋の黄金コンビ…数えたらきりがないですね。確かに今よりも夢中になってテレビに家族中釘付けでしたね。本当に昔のヒーローヒロインはよく覚えているものですね。

投稿: ONE ON ONE | 2012年7月31日 (火) 21時31分

ONE ON ONEさん、こんばんは。

いやぁ、出てきますねぇ、懐かしい、そして私の脳裏にあって、すらすら出てくる名前が!
アニメでも夢中になった男子バレー。猫田さんは早くに無くなってしまったんでしたっけ。あと大古ですよね。

もう最近のことは、どうでもいい。
全然思い出せません。
昨日会った人の名前すら思い出せません。
ひぃぃーーー、やばいねこれ。

でも過去の思い出に生きることも大事です。
老母も、昔のことや家系のことをあきれるほど見事に語ります。
大事なことですね。

大好きなイギリスでの開催だから、今回は、忘れないようにしよっーと。

投稿: yokochan | 2012年8月 1日 (水) 00時19分

yokochan様
女子水泳バタフライ100mで、青木まゆみさんが、遠山の金さんの桜吹雪のようなデザインの競泳着を纏い、金メダルを獲得すると言う偉業を成し遂げたのも、この五輪大会でありました。ただ、あのような忌まわしく不幸な事件が勃発しながらも、競技大会を何事も無かったかの如く続行したのも、今日の感覚では信じられない思いも、ございますが‥。音楽とは全く無関係のコメントと成りました。御許しのほどを。

投稿: 覆面吾郎 | 2022年6月29日 (水) 10時48分

青木まゆみさん、そうです!いらっしゃいました!
ミュンヘンオリンピックの表紙が田口選手の毎日グラフかなにか忘れましたが、特集本を持ってましたが、どこかへ行ってしまいました。
その雑誌のなかにも、血でそまった空港の写真もあって、中学生にはショッキングにすぎました。
 少し前の日本人テロリストが、さきごろ釈放され、それを歓迎してしまう一部マスコミや、コメンテーターの存在に、恐怖を感じてしまいました。

投稿: yokochan | 2022年7月 4日 (月) 08時44分

クライバーがキャンセルした「ボエーム」はアバドの「ヴェルディのレクイエム」に振り替えられたのではありませんか?
間違いなら失礼をお詫び申し上げます。

投稿: どうでしょう? | 2024年5月 9日 (木) 17時05分

ご指摘ありがとうございます。
自分の思い違いだったようです・・・・
それほどに、アイーダがややおとなしく感じてたものですから。
レコ芸を調べまくりましたら、某評論家氏が「アバドのヴェル・レクは慎重に企画されたレコードではないと、耳にしたことがある」「クライバーがまたぞろ、おっぽりだしたので、その急にできたスケジュールの合間を縫って、アバドがヴェルレクの録音を完了させたというニュースを読んだことがある」と書いてました。
アバドとスカラ座にとっては、日ごろから演奏していた曲なのですぐに準備ができたのでしょうね。
あらためまして、ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2024年5月25日 (土) 10時30分

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