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2012年7月22日 (日)

ブリテン 「ルクレティアの凌辱」 ブリテン指揮

Kurashiki_1

これはまた、だいぶ前の写真を探し出してきました。

倉敷の美観地区のひとコマです。

岡山は、かつて仕事でよく行きました。

関西でもなく、広島圏中国でもない、独特の雰囲気を持つ県との印象を持ってますし、ともかく車が多くて、どこも混んでるように思いました。交通の要衝でもあるんでしょう。

こちら倉敷も、ゆったりとしたイメージを持ちがちですが、車で走るとどこも混んでるし、大きな商業施設もたくさんあって、人がともかく多いです。
でもそれは一面かもしれません。
ゆっくりと行ってみたい街のひとつです。

この美観地区には、大原美術館があって、エル・グレコの官能的ともいえる「受胎告知」があります。
ほかにもフランス印象派の絵画を含め、日本画の名作もたくさん。

Britten_the_rape_of_lucretia

  ブリテン  「ルクレティアの凌辱」

   語り手:ピーター・ピアーズ         語り手:ヘザー・ハーパー
   コラティヌス:ジョン・シャーリー・クヮーク ユニウス:ブライアン・ドレイク
   タルクィニウス:ベンジャミン・ラクソン   ルクレティア:ジャネット・ベーカー
   ビアンカ:エリザベス・ベインブリッジ    ルチア:ジェニー・ヒル

     ベンジャミン・ブリテン指揮 イギリス室内管弦楽団

                       (1970.7 スネイプ)


16あるブリテンのオペラの中で、3番目の作品は、1946年の完成。
これで10作品目の当ブログ記事になります。

第二次大戦終了間もない時期に書かれたブリテン32歳の作で、前作は「ピーター・グライムズ」。
英国にオペラはブリテンありとパーセルの再来ともされた自国素材の自国物でもって大成功を収めたピーター・グライムズ。

もちろん、現在はその間の、いろんな英国オペラがふんだんに聴けるので、ブリテン以前のオペラもしっかりあったことを私たちは知っているのですが、「ピーター・グライムズ」のグランドオペラ的な大規模な編成と、英国の絶海を舞台にしたローカルさが、劇と音楽に、他の場所では考えられない完璧な符合を示している点、そして人物たちの心象に切り込むブリテンの筆致の素晴らしさが、英国最大のオペラ作曲家でありことを納得させてくれるのです。

そのあとに書かれた「ルクレティアの凌辱」は、一転、前作とかなり内容を異にするものとなった。
まず、素材が英国ものから、ローマ帝国誕生の前史という歴史劇に。
オーケストラが12人という小編成の室内オペラに。
合唱、すなわち団体や群衆がいなくなり、ソロ8人に。

こうして、室内オペラや史劇オペラのあり方を自身確立したブリテンは、これもまたひとつのパターンとして「カーリュ・リバー」などの教会3部作や、「ねじの回転」「オーウェン・ウィングレイブ」などを生みだすようになっていきます。

さて「ルクレティアの凌辱」は、「The Rape of Lucretia」が英名で、ちょっとただならないお名前で、その劇の内容も、まさにそう。
エトルリア支配下のローマの将軍の貞淑な妻が、野卑なエトルリアの王子に凌辱され、それを恥に思った彼女は自決し、それを気に怒れるローマがエトルリアを駆逐するという史劇。
男女ふたりの語り手が、舞台前左右に座り、観劇する聴衆と大昔の出来事の舞台との橋渡し役をやったり、舞台の狂言回し的な歌を歌ったりする。
注目は、というか、ブリテンの主眼は、彼らふたりに、キリストの教義を語らせ、イエスの殉教による痛みと救いなどを想起させ、いまも昔も変わらぬ人間のサガをこの史劇を用いて歌い込んでいるという点。
ローマ時代初期は、イエス誕生の500年以上も前であり、この設定はやや強引かもしれないが、人間の欲と権力悪、愛と救済、永遠のテーマは不変であり、平和主義者ブリテンの発想は天才的ともいえると思う。

室内オケは12人と書きましたが、そのうち楽器持ち替えでプラス4。
ピアノは指揮者が弾くという指定もあるので、楽器は都合17。
研ぎ澄まされた鋭い響きと、繊細な響き、小編成ゆえにできる多彩な響きの数々に、クールで熱いブリテンを聴く喜びがあります。
男声3人(いずれも低音)と女声3人(メゾふたり)の劇中人物の声の対比は見事で、男声たちの戦場や宴会における無機的で興奮さそう音楽の設定。
女声たちは、ルクレティアの家や庭の場面で、ハープや高音楽器による清らかなムードの音楽設定。
これらを結びつける語り役の場面では、同じようなモティーフが繰り返され異なる雰囲気を醸し出す。
さらに、興奮した王子が人妻の操を奪おうと馬上躍起になるところの間奏の音楽や、夜、その人妻を襲う場面も間奏曲で、処々想像を掻き立てる(?)こととなりまして、そのあたりの巧さも抜群。

 第1幕
語り手が、ドラマの歴史的背景を歌い、自分たちの役割をも語る。
「わたしたちは見守ろう、かつてキリスト自身の涙で濡れたそのまなこを通して」と。

劇の方は、3人の男たちの酒盛りで始まり、いま留守の間も、女たちは貞操を忘れ酒色にふけっているのだと歌い、ユニウスとタルクィニウスは言い争いを始め、それをコラティヌスが鎮め仲直りをさせる。
でも、ふたりは、いいよなぁ、奴の妻は貞節で美しいことにかけてはローマ一番と嫉妬する。
そして、それを奪ってやろうと、メラメラと燃えるエルトリアの王子タルクィニウスは、夜陰にまぎれてローマへと馬で疾駆する。

一方、戦地の夫を想い、乳母や待女と過ごすルクレティア。
そこに強引に現れたタルクィニウスは、欲望をひた隠し、王子であることも誇らしげに、皆にお休みを言い寝室に大人しく引き上げる。

 第2幕
語り手、それから舞台裏から、タルクィニウスとルクレティアを除く人物たちがローマ支配の異国民族を揶揄したように歌い、締めは、1幕の語りと同じ「わたしたちは見守ろう・・・」で、緊迫の劇の開始。

語り手ふたりが、あたかもタルクィニウスを導き、そして静かに眠るルクレツィアを歌う。
やがて、枕元にやってきたタルクィニウスは、ルクレティアを脅し、我がものになれと言うが、最後まで抵抗する彼女。
ついに、剣を抜き、強引に・・・・・。
激しい間奏曲のあとは、平和風の朝。
乳母と待女が花を集めて、ルクレティアの遅い目覚めを待っているが、そこに現れた放心したような女主人は、紫ランを主人コラティヌスに届け、これを贈るのはローマの娼婦、早く帰宅するように・・・と伝令を走らせるように命じる。
ただ事でないと判断した乳母は、知らせを止めようとしたが時遅く、コラティヌスとユニウスはいち早く帰還。
ルクレティアは意を決し、昨夜の出来事をすべて告白するが、夫コラティヌスは、心まで奪われるていないのだから恥じ入ることはないと慰めるも、わたしは永遠の貞女となりますといい、自ら命を絶つ。
彼女の亡きがらを皆で囲み悲しみのうちに、劇は終わる。

エピローグは、語り手たちは、キリストを歌い、悲劇への讃歌をここに終えると終結を宣言して幕となる。

                    

事件のあとの朝、ルクレティアの悲しみの歌は実に美しいものです。
それと彼女の自決後のまるでレクイエムのような清冽な音楽も、なかなかに感動的。

二人のストイックなまでの語り手は、もう言うことありません。
高貴なシャーリー・クヮークと美声だが性急な男を歌ったラクソンもいい。
そして、デイム・ジャネット・ベーカーの精緻な歌。

作者自演はこの作品永遠の定番ですが、競合盤ヒコックス盤も一度聴いてみたいです。

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