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2012年8月11日 (土)

ヴォーン・ウィリアムズ 「Riders to the Sea」

1

海に漕ぎ出す人々。

「Riders to the Sea」

この題名のオペラを作ったのは、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872〜1958)。

V・ウィリアムズ(RVW)は、一般には、「グリーンスリーヴス幻想曲」や「揚げひばり」で知られていると思いますが、それらのイメージでいくと、いかにも、英国の田園情緒あふれたカントリーサイドの緩やかな音楽の作曲家となろうかと存じます。

しかし、RVWは、実に多面的で多彩な音楽造りをした人です。
9つある交響曲を順番に全部聴けば、その多彩な顔つきを、ほぼ理解できるものと思います。
かの抒情的な作風は、ほんの一面で、思いつくままに列挙すれば、スペクタルな映画音楽風、不協和音鳴り響くシャープな厳しさ、教会旋法も意識した宗教風、エキゾティックな東洋風、英国各地の民謡をベースにした懐かし風、ユーモアあふれる洒脱風、ミステリアスな神秘主義風・・・、まだあったかな。。。

ゆえにとらえどころのない作曲家に見られるのもやむなしだが、そのパターンにハマると、どこにもかしこにも、RVWの音を確認できるようになるから、その作品を複数のジャンルで次々に確認したくなる。

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  ヴォーン・ウィリアムズ 「海へ漕ぎ出す人々」

   マウーリャ:サラ・ウォーカー  キャスリーン:イヴォンヌ・ブレナン
   ノーラ:カスリーン・タイマン   バートリー:ヒュー・マッケイ
   女:  マリー・シェリダン・デ・ブラウン

   ブライデン・トムソン指揮 Telefis Éireann コンサートオーケストラ

                        (1988 アイルランド)


RVWには、オペラないしは、それに準じる作品が7つあります。
そのなかで40分ほどの1幕オペラがこれです。

ところがコンパクトだけど、その内容は救いのない人の死が横溢する暗い内容なのです。

ミリントン・シング(1871〜1909)というアイルランドの劇作家が、イエーツのアドバイスで訪れたアラン島のイニュシュマン(ニットで有名です)というところで、その自然や人にインスパイアされて書かれた同名の詩劇をほぼそのまま台本として作曲されたもの。

1925年より構想を練り、1937年に、マルコム・サージェントの指揮によって初演されていて、今でも英国やアイルランドでは上演されております。

シングの書いた劇中の言葉は、アイルランドの方言で、わたしにはわかりませんが、独特の言い回しとかあるみたいです。
アイルランド北西部の厳しい海が、主役のような凄惨な内容のオペラ、簡単にその筋を。

10

アイルランド最北西部の島の貧しい家。
母マウーリャと、その娘キャスリーンとノーラ、息子のバートリー。
外は、波の音も聞こえ、風音も強い。
忙しく家事をするキャスリーンは、寝室で落ち込んでいる母を気遣っている。
そこへ、ノーラが駆け込んで来るが、彼女が手にしていたのは、兄弟のマイケルのものかもしれない衣服の一部。
神父が、北の海で溺れた男の衣服を届けてくれたという。
母親が起き出す気配に、その衣服を隠す2人。
母が居間にやってくると、そこに息子のバートリーが帰ってきて、意気揚々としている。
船を駆って、コネマラの街(ポニーで有名)に行って、馬を売ってこようと、縄などの準備に入る。
母は海は荒れているから留まるように懇願するが、バートリーは受け入れず出ていってしまう。
娘たちは、母に、息子の安全と祝福を祈らずに出ていかせてしまったのだから、パンを持って早く追いかけるように言い、母も慌てて出てゆく。

6

 その間に、さきほどの衣類を調べる姉妹は、それがマイケルのものだとわかってショックを受ける・・・・。
ほどなく哀しみのうちに帰ってきた母。
息子には会えなかったが、その彼が跨る馬に、マイケルが見えたと語る・・・。
キャスリーンは、実はマイケルは・・・と溺死したことを母に話し、ショックを受けた母マウーリヤは、淡々とこれまでの悲劇を語る。
夫を海で亡くし、その父も、さらに息子たち5人も海で亡くしてしまったと・・・・・。
 そこへ、村人たちが、若い男、すなわちバートリーの遺体を運んでくる。
悲しみに暮れる一同。

9

母マウーリヤは、アイルランドの古謡を息子を聖水で清めながら歌う。
「わたちたちに、これ以上ができようか。人はみな、永遠に長くは生きることができない。それでよしとしなくてはならない・・・・」
  外は、風と波の音。

          幕

どうですか?この暗澹たる内容。
RVWの音楽も、暗く陰湿で、ずっと短調のまま。大きなフォルテもなく寂しいだけ。
この劇の内容に、よくもこれだけぴったりの音楽をつけたものです。
RVWの語法としては、交響曲で言うと、第4番、6番、7番あたりと波長が合います。
とりわけ、海の荒涼とした雰囲気とミステリアスな女声合唱のアカペラは、7番南極交響曲の雰囲気そのものです。

なぜ、ここまで救いのないオペラを書いたのでしょうか?
ブリテンの「ピーター・グライムズ」も厳しい海を描いたオペラですが、あちらは、ピーター個人と群衆があって、背景に海がある。
でも、RVWのこちらは、主役は声を発しない海のように思えるのでした。

原作者シングと同様に、アイルランドの厳しい海に生き、その海なくしては存在できない人々とその人々を支配するかのような「海」を描きたかったからに違いありません。
あの大震災もあったものだから、昨年、このオペラを取り上げることは控えてきました。
自然の前には無力な人間ということでは同じ。
そして、それを受け入れ、淡々とそして力強く生きてゆく人間がいる。
1900年ごろの物語ですが、いまや船舶が安全となり、彼の地も海への備えもきっと増しているでしょう。
第一次大戦を経験し、次の戦争も始まった頃。それでも、海へ漕ぎ出す人々を描きたかったRVWの心情がわかるような気がします。

こちらのDVDは、アイラの寂しい海辺の村の雰囲気を実によく出してます。
母のウォーカーの疲れきった、でも、すべてを受け入れる意思を持った女性をよく演じ、歌ってます。
オケが少し解像度悪い録音ながら、ブライデン・トムソンの男性的でシャープな音造りは、この曲に合っております。

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  ヴォーン・ウィリアムズ 「海へ漕ぎ出す人々」

   マウーリャ:リンダ・フィニー     キャスリーン:リン・ドーソン
   ノーラ:イングリット・アットロット   バートリー:カール・ダイアモンド
   女:  パメラ・ヘレン・ステファン

   リチャード・ヒコックス指揮  ノーザン・シンフォニエッタ
                    
                     ザ・シンフォニア・コーラス
                        (1995.3 ゴスフォース)


もうひとつ、こちらはCD。
演奏だけなら、こちらの方が精度が高くよろしい。
ヒコックスの誠実な指揮によるオケもいい。
なによりも録音が素晴らしい。
あと、カップリングの2曲が、このオペラと旋律的にも関係があるものを選んでいて、全体として聴き応えがあります。

多くの方にお勧めはできませんが、RVWの魅力を味わえるオペラであり、RVWのいろんなお顔を確かめたい方は是非どうぞ。

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