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2012年9月30日 (日)

ディーリアス 「フェニモアとゲルダ」 ヒコックス指揮

Toya_2

静謐な湖面を漂わせる洞爺湖。

数年前のものですが、ここでサミットが行われたのはもう大昔みたいに感じる。

日本も世界も、まったく変わってしまったけれど、北海道のこうした光景を思うにつけ、ずっと不変であって欲しい自然の姿です。

Delius_fennimore_and_gerda

  ディーリアス  「フェニモアとゲルダ」

 フェニモア:ランディ・シュテーネ  ゲルダ :ユディス・ハワース
 ニールス・リーネ:ペーター・コールマン・ライト
 エリック・レフストラップ:マーク・タッカー
 領事クラウディ:オーゲ・ハウクランド その妻:アンネッテ・シモンセン
 ゲルダの父:ステファン・クーション
 そのほか

  リチャード・ヒコックス指揮 デンマーク国立放送交響楽団/合唱団
   
                   (1997.5 @コペンハーゲン)
                   (ジャケット写真:北欧の夏の宵 リッカルド・ベリ)


印象的な絵のジャケットそのままのイメージのディーリアスの音楽。

スウェーデンのリッカルド・ベリという画家さんの作品です。
 ベリは、フランスのグレ・シュールロワンで、北欧の画家たちとともに活躍した人で、時期で言うと1890年頃。
そして、われらがディーリアス(1862~1934)が、同地に滞在し永久の住処としたのもその少し前。
北欧の風物を愛したディーリアス、きっとこの画家たちとも交流があったことでしょう。

そんなことを思わせる秀逸なジャケットです。

6つあるディーリアスのオペラないしは、オペラ的な作品の最後のものがこちら。
「イルメリン」「魔法の泉」「コアンガ」「村のロメオとジュリエット」「赤毛のマルゴー」「フェニモアとゲルダ」。

デンマークのヤコプセンの「ニールス・リーネ」に基づき、ディーリアス自身によるドイツ語台本によるもので、1910年の完成。
ケルンでの初演をもくろんだものの、第一次大戦の影響で中止となり、初めての上演は1919年のフランクフルトまで持ち越されることになった経緯がありました。

歌詞はドイツ語だし、初演場所もドイツ、物語の舞台はデンマークということで、英国色はゼロに近い。
それでも、出生と育ちがイングランドで、英国の血の流れていなかったディーリアスの音楽に強く英国音楽そのものを感じるのは、形式や構成よりも、流れ重視の自由な感覚中心の音楽がその最大の特徴にあるから。

「フェニモアとゲルダ」の舞台はデンマーク。
それもフィヨルドのある川岸の町とのことなので、スカンジナビアに近い北部。
北欧を愛したディーリアスならではのオペラ素材なのです。

副題は「ヤコブセンの小説による11の情景からなるニールス・リーネのふたつのエピソード」という長いものがついてます。
その標題どおりに、連続した短い11の場からなり、約80分間、静かに熱く物語は流れるように進行する。

  1910年頃のデンマーク

若い頃お世話なった領事の家に、作家ニールスと画家エリックの従兄弟ふたりが遊びにきます。領事の娘フェニモアはリュートを手に歌を歌いもてなします。

フィヨルドのほとり、フェニモアとエリックは恋に落ち、それを静かに見つめるニールスは哀しみます。

3年後、若い夫婦の元に、ニールスが訪問し、エリックは歓待します。
二人になったときに、フェニモアはニールスにエリックが酒に溺れ絵を書かなくなってしまったことを語る。一方陽気なエリックはウィスキーで乾杯。

エリックはニールスに、最近の悩みを語り、どうしたらいいかと相談するが、旅をするのがいいと答える。

久しぶりに筆を取ったエリックだが思うように書けない。そこへ、街から友人が何人もやってきて、飲みに行こうぜ、と誘う。出かけようとするエリックにフェニモアは、友達ならニールスがいるじゃないと制止するが、振り切り出てゆく。
涙するフェニモアに驚くニールスは慰める。

帰りを待つフェニモアに、朝になりしたたかに酔って帰宅したエリックは冷淡。

夏、川辺の森を歩くニールスとフェニモア・・・、ついに二人は禁断の愛を語ることに。

冬、そとは吹雪、フェニモアの元に電報が。それはエリックが車から投げ出され粉々になって死んでしまったというものだった。
悲報を持って、ニールスのもとへ駆けつけるフェニモア。

雪、フェニモアのただならない様子に驚くニールスは、事を聴いて、気の毒なエリックと涙を流し絶句。フェニモアを優しく慰めようとするが、フェニモアは激しく自分を責め、ニールスのことを激しく拒絶します・・・・。悪夢のようだと呆然とするニールス。

3年後、農夫姿のニールス。農場の先にはフィヨルドが広がり、遠くを見つめ、慰めを見出したニールス。農場の娘たちのハミングも聴こえる。

春、古い林檎の木に花がつき、チューリップも咲く農場。
ニールスは、議員の娘ゲルダを愛するようになり、彼女に結婚を申し入れ、ゲルダも歓喜に包まれ、父も祝福、妹3人の楽しい歌声でもって、喜びの幕となります。

                 幕

どうでしょうか、なかなか微妙な三流ドラマみたいな仕立てで、最後にはあれよあれよで幸せになってしまうニールス。

「フェニモアとゲルダ」・・・・・、ニールスが愛した二人の女性ということになるわけでした。

ゲルダは、ほんのちょっとしか出てこなくて、農場の物語をバランス的に厚くして欲しかったかも。

ですが、ディーリアスの全編リリカルで静的な音楽は極めて美しいものがありまして、オーケストラの微妙に変転し、色合いを変えてゆく淡い色調には魅力を禁じえません。
季節の変化もその音楽で聴きとり感じることができるのもディーリアスならでは。

出会いの春や初夏、死と別離の冬と雪・・・、そしてまた色とりどりの緑の春がめぐってくる。
人間の心の機微を見つめ、それを美しい自然でもって奏でたディーリスの優しい眼差しを想い、この音楽を聴くと涙が出てきます。
有名な間奏曲は、ニールスが辛い別れを経た情景⑩の最初と最後に聴くことができます。
ニールスとフェニモアの二重唱は、トリスタンばりの濃厚なロマンを感じます。

ことさらに声高に歌うことのない歌手たちは、このCDでは、英国や北欧の歌手たちが選ばれております。みんなクリアーですっきりした声です。
そして、ヒコックスは、デンマークのオーケストラを選択して雰囲気あふれる抒情的な演奏を残してくれました。
またこの録音には、波の音は、厳しい吹雪、グラスの音など効果まんてんの音が入ってます。

EMIには、メレディス・デイヴィス盤もあって、そちらもデンマークのオーケストラが起用されております。

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