「皇帝」「英雄の生涯」 神奈川フィル定期 聴きどころ
定期演奏会にむけて、「神奈川フィルを勝手に応援サークル」のフェイスブックに書き記した記事を再褐します。
①ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 「皇帝」
もう何もいうことのない名曲中の名曲ですね。
申すことなど不要の音楽。
ピアノ協奏曲というカテゴリーの、人気・実力ともにおそらく筆頭に位置するでありまししょう「皇帝」。
三大Bとか三大ヴァイオリン協奏曲はあるけれど、三大ピアノ協奏曲ってあるとすればきっとその筆頭に必ずくると思われるのが「皇帝」。
これまでのお勉強でおわかりのとおり、ベートーヴェン中期の傑作の森の一環を占める傑作で、ナポレオンによるウィーン制圧と時を同じくして作曲が進められ、さらに持病の悪化で耳鳴りに悩まされる日々に書かれたわけです。
そんな苦境のなかとも感じさせないこの音楽は、協奏曲の王者たる、堂々とした佇まいと、高貴なる威姿、豪華さと清廉さも兼ね備える名曲なのです。
合わせて、従来の協奏曲の概念を打破する独自性は、奏者にカデンツァを自身が書いた音符以外は許さない、後の音楽ではあたりまえの姿勢を貫くことで際立っております。
さらに、長大な序奏があって、さぁ、本日の奏者は・・・、という感じで登場する古典派スタイルの協奏曲から完全に脱した意味でも革新的な存在なのです。
4番で確立したその方式、オケの序奏はなく、いきなりピアノが鮮やかなカデンツァで登場する。
ソロを弾きたてるオーケストラでなく、オーケストラもしっかりとその存在を主張する。
そんな点に着目して、是非聴いてみたいと思います。
また晴れやかな1楽章と、ロンド的な盛り上がりを見せる3楽章の間にある静謐な2楽章。
この抒情的な美しさこそ、ベートーヴェンの音楽の神髄。
ドイツ本流の大家、オピッツ氏を迎えて、神奈川フィルの個性がいかに引き立ちますか。
聖響ベートーヴェンは、ピリオドを継続するのか。
その場合の真逆と推測されるオピッツとの兼ね合いは?
こんなところにも着目したいですね。
②R・シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」
交響詩の大家であると同時に、それ以上にシュトラウスはオペラの人でありました。
34歳の作品である「英雄の生涯」を最後に、交響詩の作曲から卒業してしまうシュトラウスは、以降、家庭とアルプスのふたつの表題的交響曲を書くだけで、その生涯の残り半分をオペラの創作に費やすこととなります。
「英雄の生涯」は、その調整が変ホ長調で、いうまでもなくベートーヴェンの「英雄交響曲」を大きく意識したものです。
しかしその英雄は、R・シュトラウスそのもの自身なところが、恐れ多くも畏くも・・・なところでして、30代にして極めてしまったところが不遜なまでに恐ろしいところです。
それまでの、巨大編成による管弦楽作品を、世の評論家にけちょんけちょんにけなされてしまったシュトラウスは、自身をこの英雄にみたて、それら口さがない評論家筋を敵とみたて、あらゆる苦難に打ち勝ち、愛も得て戦って、有終の美を飾る物語を打ち立てて、交響詩としてしまったわけです。
実際にこの曲や、これまでの交響作品を聴いてみて、描写できないものはないと自負した老獪なまでの音楽づくりと、聴く者の心と耳をくすぐる天才的なまでの手法において、まさに、「ただモノでない!」という印象を与えられるのです。
まさに、「シュトラウスの勝ち」と今に至る後世が証明してみせ、いまや、音楽愛好家の人気曲のひとつとして君臨しているわけなのです!
1898年作のこの音楽、ベートーヴェンの「皇帝」とは89年の年月がありますが、その年月が短いと感じるか、いや、長いと感じるか、このあたりも今回のコンサートの聴きどころかもしれません。
4管編成の超フルオーケストラは、みなとみらいホールの舞台を楽員さんたちで、ぎっしりと埋め尽くしてしまい、まずは壮観な眺めとなることでしょう。
6つの場面からなる40分超の音楽。
通常コンサートマスターによって弾かれる、語り部のような難易度高いヴァイオリンソロが大活躍。
オーケストラにとっても、コンマスにとっても、難易度の高さでは最高度の音楽で、CDでも、名指揮者・名コンマス・名オーケストラの三拍子、さらには音響的にオーディオファンもうならせる曲でもあることから、名ホール・名録音・名エンジニアの三拍子も必要とされる大名曲なんです。
1.「英雄」 腹の底に響くヒロイックな名テーマは英雄の旋律。
2.「英雄の敵」 英雄を揶揄する批判の渦。
シュトラウスの腕の冴えを聴きましょう。
3.「英雄の伴侶」 まるでオペラの大恋愛物語のようなラブシーン。
英雄を支える伴侶の登場。
オーボエとヴァイオリンソロの濃厚な美しさ。
4.「英雄の戦場」 不穏な気配が舞台裏のトランペットで漂ってくる。
さあ、闘いだ!
強烈な攻撃に合い、猛然と戦う英雄。
オーケストラを聴く醍醐味はここに尽きます。
腹の底に響く大太鼓、戦闘的な小太鼓にトランペット。
うなりをあげる低弦。
伴侶たる妻も、健気に応援します(ヴァイオリン)。
やがて、勝利宣言のように回帰する、冒頭部分。
決然と響くこの場面を聴く快感は、
ある種エクスタシーにも通じます。
恐るべし、シュトラウス・マジック!
5.「英雄の業績」 闘いも収まり、自身の業績の回顧をする
ドン・キホーテ→ドン・ファン→ツァラ→死と変容→
ティル→マクベス→ドン・キホーテ
この流れは、探究してみたいテーマです。
6.「英雄の隠遁と完成」 曲調は静かに平穏になり、人生の終わりを感じさせる
ヴァイオリンソロもふたたび活躍し、
伴侶にみとられるなか、静かな終焉を迎える・・・・・。
このしみじみ感は、シュトラウスの音楽を聴く、
例えようもない魅力のひとつです。
なんといっても、石田コンマスに注目。
それと、活躍する楽器は、前々回のホルン協奏曲を思い起こしてください。
シュトラウスゆえに、随所にホルンの聞かせどころがあります。
あと、オーボエ。そしてチェロです。
音楽が完璧なまでによく書かれているから普通でも満足が得られますが、わたしたちは神奈川フィルの美しい音を知っております。
この曲の演奏でその威力が満開となることを期待します。
聖響さんも、飛ばさずに、大きな指揮をしてもらいたいと思ってます(なんて偉そうですね)。
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