ベートーヴェン 交響曲第9番 小澤征爾指揮
有楽町駅前の交通会館。
これは、開業47年の由緒ある商業ビルでして、大手町・東京駅から続く再築の波にあって、断固として残さねばならない建物です。
各県のアンテナショップ(とりわけ、北海道!)がたくさん入っていて、そこへ行けば、懐かしい言葉も聞けるような、地域と東京の接合点みたいな場所なんです。
そして、駅前で希少といえば、お隣の新橋駅前の、ニュー新橋ビル。
こちらも43年のツワモノ。そしてサラリーマンの聖地の極み。
都心のこれらのビルは、権利関係は複雑かもしれませんが、絶対に残していって欲しいものです。
ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調
小澤征爾 指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
アンブロージアン・シンガース
合唱指揮:ジョン・マッカーシー
S:マリータ・ネイピア Ms:アンナ・レイノルズ
T:ヘルゲ・ブルリオート Bs:カール・リッダーブッシュ
(1974.2.ロンドン)
ベートーヴェン交響曲チクルス、最終おおとりは「小澤の第九」です。
ジャケット写真にありますように、小澤さん、39歳の第9は若い。
これより28年を経たサイトウキネンとの第9は、聴いたことがありません。
ワタクシは、アバド、メータ、小澤が世界の若手指揮者三羽ガラスと呼ばれた時代を知る人間です。アバドが一番と確信しつつ、ハイティンクとともに、メータと小澤さんも、好きになって、ともかく聴きました。
EMIから、DG、フィリップスの専属となっての小澤さんの大活躍は、サンフランシスコ、ボストンの手兵の録音が中心となりましたが、合唱が入る規模の大きなものは、ロンドンで録音せざるをえないと言っていた時期がありました。
それは、各レーベル共通で、ロンドンのオケや合唱は規律正しく、腕前も上級、なによりもコストが抑えられるという点で、なくてはならない存在なところもありましたから。
しかも、この録音時は、世界を襲った石油ショックの影響で暖房もままならず、器材は発動機を使ったりの厳しい状況。
レコ芸で録音風景の写真を見たら、みんな厚着で演奏してる。
でも、われらが日本人、小澤さんの熱き指揮に、奏者みんなが一丸となって集中力あふれる熱演をスタジオ録音ながら成し遂げているんです。
70年代は、年末の第9は、日本フィルから新日本フィルへと引き継いで、ずっと小澤さんだった。
わたしも、70年頃から、テレビで長髪の大暴れ指揮者の第9をフジテレビで見ました。
同時に、大晦日には岩城さんがN響で第9。
読響では、若杉さん、4チャンネル。
いやはや贅沢な時代でしたよ。
そして、小澤さんと、朝比奈隆のリング目当てで、新日フィルの定期会員になって、数々の名演に接することができました。
「小澤の第9」は、70年代、何度か接することができました。
ずっと小澤さんの、かっこいい指揮を見つめてましたね。
スコアを完全に暗記していて、奏者への巧みなキュー出しは2楽章では完璧にはまりましたし、なによりも1楽章の熱中ぶりがすごかった。
小澤の第9は、1楽章から人を惹きつけ、独特なうねりに人を巻き込み、一気に終楽章の爆発的な解放感へと持っていってしまう、毎度熱くされてしまうものだった。
今回のベートーヴェン・チクルスは、「穏健」をテーマにしたつもりだったのに、期せずして、熱い小澤の第9を選択してしまった。
こちらの、ニュー・フィルハーモニアとの演奏は、先にあげた日本でのライブと同様に、集中力に富み、スタジオ録音とは思えぬライブ感と熱狂が味わえるのでした。
数十年ぶりに聴いたこの演奏、レコードで初めて聴いた高校時代のことを思いだしましたよ。
たしか75年の年末だったでしょうか、小澤ライブの興奮を引きづりながら、針を落とした2枚組のレコード。
一気に、異様な集中と興奮のもとに聴き進めました。
早めの展開ながら、実に柔軟かつしなやかな音は、ロンドンのオケゆえに生まれたところもあります。
聴きなれないフレーズや、驚くような内声部の強調とかもあったり、さらに、微妙にテンポを落としてみたりと、今聴いても新鮮極まりない思いを抱きます。
そして合唱の巧さ。
当時、小澤さんは、合唱は、ロンドンのものが最高だと何かで語ってました。
このレコードの4面には、リハーサル風景が収録されていて、その中で、小澤さんが、次の皆さんとの共演は、ベルリオーズの「ファウスト」と言った瞬間、オケとコーラスから喝采が上がっております。
この演奏の素晴らしさに加え、そんな状況を耳にして、日本人魂が舞いあがるのを覚えましたね!
それと、ここで注目は、ソリストのすごさ。
4人ともに、完全なワーグナー歌手!
ブリリオートは、カラヤンが見出したジークフリート。
リッダーブッシュは、カラヤンはともかく、あらゆる指揮者からひっぱりだこのバイロイトの常連バスで、早世が悔やまれる名バス。
レイノルズは英国メゾながら、バイロイトやレコーディングでのワーグナーに欠かせない。
そして、南アフリカ出身のネイピアは、65にして10年前に亡くなってしまったが、ベームやシュタインも登用した名美人ジークリンデです。
この4人が繰り広げる束の間の声の共演の贅沢も、当時の小澤さんの存在の大きさがうかがえます!
そして、うなってますよ、この時からう~うん、うんとね。
作曲開始から足掛け9年。1924年に完成された、ザ第9。
なにも書くことはありません。
1~3楽章の魅力、ことに歳を経たいま、第3楽章の悠久との思える平安の美しさには抗しがたい魅力を感じます。
贅沢な望みですが、いまの小澤さんの指揮で、枯淡の域の3楽章を聴いてみたい。
怒られちゃうかもしれませんが、小澤さんを聴いたのは、サイトウキネンのブラームスまで。
以降、ボストンを辞めてから、ウィーンの歌劇場のものも含めて、小澤さん離れをしてしまいました。
かつての頃を知っているから。
そしてもしかしたら、自分の聴き方が過去に軸足を置きすぎているからなのか・・・・。
以上、ベートーヴェン・チクルス終わり。
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コメント
この演奏を私は第9の最高の盤にしています。私も高校生の時にこれを聞きました。二枚組…でしたね。確か特典盤として、移動中の新幹線の中での小澤さんへのインタビューがついていましたっけ…。その時にも「寒かった」と言ってました。
高校生の時には、これをずっと聞き込んでいました。フルトヴェングラーのバイロイト盤などにも感動したけれど、高校生だった私には、こちらの方がずっと上に思えたものでした。ソリストも上手いし、それに合唱が素晴らしかった。
リハーサルもついてましたね。色んな事が思い出されますが、それはともかく、今もって私には唯一無二のものです。先週の日曜だったと思いますが、久しぶりにいくつかの第9を聞いてみましたが、どれもこの「熱さ」に欠け、感動とはほど遠く、残念でした。(みな日本人指揮者でした…)
小澤さんのサイトウキネンとの第9は、あの頃を知る私にはもう…。聞くべきではなかったと後悔しまくりました。
ところで、7番のジュリーニにも一票いれたくなりましたが…(笑)。
投稿: schweizer_musik | 2012年12月 8日 (土) 10時15分
こんにちは。
昨夜は眠くてTBだけ放りこんで寝てしまい失礼しました。
この演奏はすばらしいですね。
みなさん仰せのとおり、合唱も素晴らしいです。
第9で、合唱で聴かせる演奏って、あまりないですけど、これは別格ですね。
70年代の小澤征爾は本当に活き活きしてて魅力的でした。
今の小澤さんも嫌いではありませんが、あまりに蒸留水みたいになってて、こっちから入っていかないとだめな部分が増えている感じです。それも、ひとつの「境地」と言えるのかも知れませんが・・・。
楽しいチクルスでした。私も以前にしましたが、またやりたくなっています( ^ω^ )
投稿: 親父りゅう | 2012年12月 8日 (土) 12時06分
こんばんは♪
先日は書き込みを頂き、どうもありがとうございました。
この小澤さんの第九のCDは、私も購入当時色々と思い出があり、大切に聴いているCDの一枚です。
記事を拝見しながら、シミジミと当時を懐かしく思い出しました。
またイルミネーションの写真、素敵ですね。(=^・^=)
投稿: みーた | 2012年12月 8日 (土) 22時05分
schweizer_musikさん、こんばんは。
まったく同じ日々をわたくしも送ってました。
多感な高校時代、ベートーヴェンは絶対でしたし、数々の名盤に盲信していた時代でした。
そこに出た、日本人の第9でしたが、最高のオケ・歌手・合唱とそろった誇るべき内容に、興奮しまくり、小澤征爾が大好きになった時分でした。
特典も、リハーサルも共有の思い出です。
サイトウキネンは聴かなくてもいいかな、とコメント拝読し思ってます・・・・。
でも、いまだったら違うことになりそうですね。
投稿: yokochan | 2012年12月 8日 (土) 23時57分
親父りゅうさん、こんばんは。
「燃える小澤の第9」
このレコードが出たときのキャッチフレーズでした。
当時の小澤さんの音楽は、世界で、熱い指揮者としてひっぱりだこの存在として、受け入れられていたものでしたね。
いまの状況は、まさに、ご指摘の蒸留水系がどうもいけませんでしたので、距離を置いて久しいところです。
あの境地を味わえる自分は、もう少し先かなと思ったりもしますが、過去の音源に、より魅力を感じます昨今です。
ご覧いただきありがとうございました。
自分でも楽しかったです。
音楽を聴いてゆくうえで、ベートーヴェンを集中して聴くことも大事なこいとと、痛感しました。
投稿: yokochan | 2012年12月 9日 (日) 00時06分
みーたさん、こんばんは。
コメントどうもありがとうございます。
小澤さんの第9は、当時レコード2枚組4000円(でしたか?)を思い切って買って、擦り減るほどに聴きました。
そんな想いを共感いただける方々からのコメントを今回いくつか頂戴し、とてもうれしいです。
CD後の廉価版で持ってますが、今回聴いて、ほんと、懐かしかったです。
冬の空気にイルミネーションは映えますね。
投稿: yokochan | 2012年12月 9日 (日) 00時25分
第九の季節でもあり、クラヲタ様の高評価を読んで欲しくなり、本日やっと700円で、初期の日本盤CD(定価2,000円)を入手しました。美しさと充実感に満ちた素晴らしい演奏でした。ありがとうございました。
投稿: faurebrahms | 2012年12月20日 (木) 22時33分
faurebrahmsさん、こんにちは。
「燃える小澤の第九」お聴きになられましたか。
手放しでほめちぎってしまいましたが、記念碑的な演奏だと思ってます。
投稿: yokochan | 2012年12月22日 (土) 14時16分
yokochan様
2023年度明けましておめでとうございます。
この小澤さん初の『第9』、国内LP初出の際は確か第4面に、リハーサルが収録されて居たとか。是非耳にしてみたいですが、最近入手叶ったユニヴァーサル・ミュージックからの国内CD(SFSOとの『エロイカ』との二枚組では、当然未収録でございます。脱線ですが大晦日に留守録画して、年明けに拝見した井上道義さん&N響との同曲演奏会、76歳とお伺いしておりますが、指揮ぶりに御表情共に抑制の美学或いは枯淡の境地とは無縁のようで、嬉しく拝見しました。何でも、2024年度をもってタクトを置かれるとの話、何やら勿体ない感も致しますね。ブルーノ・ワルターやオットー・クレンペラーのように、80歳台まで頑張って戴きたい気も‥‥(笑)。
投稿: 覆面吾郎 | 2023年1月 4日 (水) 08時41分
ハルくん様
連投失礼します。当時の日本フォノグラム‥何と懐かしい社名でしょうか‥の小澤さんのニュー・ディスクのキャッチ・コピー。サンフランシスコ交響楽団との『英雄』が、『若き英雄小澤から迸るエロイカ魂!』、『新世界』は『今、新しい光を放つ郷愁の歌』でしたでしょうか。当時はレギュラー新譜の購入もままならず、『レコード芸術』の各社新譜の広告を懸命に、観ておりました!
投稿: 覆面吾郎 | 2023年1月11日 (水) 09時28分
覆面吾郎さん、ことしもよろしくお願いいたします。
本文にも書きましたがそのリハーサル風景は、なかなかの聞きもので、オケに愛されているのがすごくわかりました。
ボストンでも第9を録音してほしかったものです。
井上ミッチーさんは、きっぱりとされてますね。
投稿: yokochan | 2023年1月21日 (土) 11時08分