ワーグナー 「さまよえるオランダ人」 バレンボイム指揮
横浜みなとみらい地区にある「帆船日本丸」。
1930年・昭和5年建造で、50年以上現役だった帆船。
帆を張って風に乗って走る様子はさぞかし美しかったでしょうね。
高層ビルや観覧車とのコントラストもしっくりと溶け合ってます。
ワーグナー 歌劇「さまよえるオランダ人」
ゼンタ:ジェーン・イーグレン オランダ人:ファルク・シュトルックマン
エリック:ペーター・ザイフェルト ダーラント:ローベルト・ホル
マリー:フェリシティ・パーマー 舵手:ロラント・ヴイラソン
ダニエル・バレンボイム指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団
ベルリン国立歌劇場合唱団
(2001.5 ベルリン)
生誕200年のワーグナー。
まず第1回目の全曲サイクルは、初期3作(妖精、恋愛禁制、リエンツィ)を除く、主要7作を順に取り上げます。
初期作は、いずれも性格の異なる聴けばそれはまた面白い作品たちで、いずれもサヴァリッシュの音盤と「妖精」は舞台体験をそれぞれ記事にしてますので、ワーグナーの項目でご覧になってください。
ほかに有力な音源が少ないので、今年後半に手当てできれば、10作品のサイクルをやりたいと思ってます。
このようにして、全部まるごと味わわなくてはいられないワーグナーの魅力。
ひとは魔力とも言うかもしれませんが、初のワーグナーのレコード、「ベームのリング」に接してから、そう今年でちょうど40年ですから、わたしには慣れ親しんだお友達みたいな世界です。
指揮者でも、ワーグナーにどっぷりの人が何人もいます。
そのひとり、バレンボイム。
ピアニストとしてモーツァルトの弾き振りをしていたバレンボイムが、まさかこんなワーグナー指揮者になるなんて想像もできないことだった。
バレンボイムの初ワーグナーは、71年頃のイギリス室内管との「ジークフリート牧歌」。
そのあとほぼ30年で、初期作を除くすべての作品の全曲上演と録音をしてしまう。
日本でも、リング、ワルキューレ、パルシファル、トリスタンを上演・演奏してくれてる。
恐ろしいタフネスぶり。
ちなみに、ワーグナーを初期作を含む全作品をひとりの指揮者で聴けるのは、非正規も交えるとして、唯一サヴァリッシュのみ。
初期を除いては、ショルティ、カラヤン、バレンボイム、レヴァインでしょうか。
ヤノフスキが完成に近づいているのと、ティーレマンもいずれは。
あと自慢ですがね、自家製放送音源を含めて、シュタインも全作コンプリートしてますよ。
初期作品があるので、オランダ人は中期とも呼べる作品群とみてとれる。
それは、タンホイザー、ローエングリンとの3作で、ワーグナー自身も呼んだ「ロマンティックオペラ」という範疇で、神話や伝説に題材をもとめ、登場人物たちの個々の存在感も増して音楽の劇性もより強まっている。
なによりも、ライトモティーフの活用が堂にいってきているので、ドラマと音楽がより一体化してくる。
オランダ人では、因習的な形式などから脱却はまだできておらず、構成的にも少し散漫な印象を与えますが、ワーグナー作品の中では一番短いし、幕間をとらず、3幕一挙に連続することで、緊張感を保持しつつ一気呵成のオペラに転じることとなりました。
海を呪ったがゆえに、幽霊船に乗り永遠に大海をさまよう運命を背負った暗い宿命のオランダ人。そのオランダ人に心から同情する不思議女性ゼンタ、最後は自身が海に身を投げることで、オランダ人の呪縛を解き、二人昇天する。
ここに描いたゼンタというひとりの女性の行いが、「自己犠牲による愛の救済」で、ワーグナーはこのテーマを自作「タンホイザー」から突き詰めていくことなるわけです。
というのは、1841年完成のこの「オランダ人」の初稿は、音楽のうえでの救済によるふたりの変容がなく、1860年に序曲の演奏用にその終結部を改編し、おのずとオペラの終結部も書き加えることになったから。
トリスタンのあとあたりの時期です。
序曲はほぼ100%そのバージョンですが、オペラの方は、救済なしの初稿を取り上げる上演や録音も増えております。
私的には、慣れ親しんだ救済ありバージョンで、運命の二人が手を取り合って昇天してゆく場面はどうしても欲しいところです。
今回、発売以来久しぶりに聴いたバレンボイム盤は、しかし、救済エンディングなしのバージョン。
ローエングリンでも長めの初稿を採用していたので、この少しばかり原石のようなごつごつ感のある初稿による録音は、バレンボイムのこだわりとして、それが強い説得力でもって迫ってくる演奏となっている。
それにしても最初から最後まで、集中力が高く音はひとつひとつ迫真に満ちている。
分厚いオーケストラの充実ぶりも聴きもの。
かつてのスウィトナーの柔らかさと、ドイツのオケ特有の腰の座った響きがそれぞれに魅力的なのでした。
歌手は、ちょっと小粒に感じる。
イーグレンは声の威力は充分ながら、ちょっと大味。
シュトルックマンの少しクセのある声は、独特の雰囲気を醸し出していて、声量もたっぷりで聴きごたえありですが、わたしはかつてのT・ステュワートやアダム、ヴィナイ、クラス、FDといった往年の歌手の方を懐かしく思い出してしまうのです。
ホルも、驚きのヴィラソンの舵手も、いいけれどどこか遠く感じます。
しかし、ザイフェルトは素晴らしい。つややかな声と透明感にあふれた現代的な歌唱です。
オランダ人というオペラは、暗めのバリトンと、キツめのドラマティックソプラノを要する実は難しい作品なのです。
オケばかりよくてもダメなのは、かつてのカラヤンとショルティが、それぞれのスーパーオケばかりが目立ってしまい、やたらとシンフォニックになってしまうということにもなりますから。
この作品のわたしのベストは、ベーム盤であります。
「さまよえるクラオタ人」の「さまよるオランダ人」の過去記事
「デ・ワールト指揮 二期会公演」
「バイロイト2005年度」
「ショルティ指揮シカゴ交響楽団」
「新国立歌劇場2007年公演」
「コンヴィチュニー指揮ベルリン国立歌劇場」
「ベーム指揮バイロイト音楽祭1971年」
「サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場DVD」
「ライナー指揮メトロポリタン」
「サヴァリッシュ指揮バイロイト1961」
「ヤノフスキ指揮ベルリン放送管」
「ティーレマン指揮バイロイト2012」
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コメント
ワーグナーのテーマは「女性による救済」なんですね。
まるで「宇宙戦艦ヤマト」??
「オランダ人」のモノローグ「期限は切れた」は何度聴いてもいいです。
海の不気味さ、運命の過酷さ…
投稿: 影の王子 | 2013年1月14日 (月) 23時15分
影の王子さん、こんばんは。
お返し、遅くなってしまい申し訳ありません。
女性を救済のモティーフにするところは、マリア信仰にも通じますが、ワーグナーの場合は、破天荒な主人公がそれで救われるという無茶で勝手なところもありますので、かなり自己中ですね!
この物語は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」とも通じてますので、ヤマトも含めて、やはり北欧の神話につながるものなのでしょうね。
「期限は切れた」は、わたしもカラオケであれば歌いたいくらいに好きなものです。
投稿: yokochan | 2013年1月16日 (水) 23時33分