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2013年3月 7日 (木)

サヴァリッシュを偲んで ジークフリート牧歌

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某公園の寒々しさの中に咲いた白いチューリップ。

硬いつぼみもありますが、緑の葉は春を先取りしてましたし、可愛いリボンが、ドイツ風な趣きを感じさせるのでした。

こんな早春の花を手向けなくてはならない訃報が、このところ相次ぎました。

日本の音楽ファンにとっては、忘れがたい、そして教授然としながらも親しみのある存在だったウォルフガンク・サヴァリッシュが、2月22日にドイツ、バイエルン州のグラッサウで亡くなりました。
享年89歳。

グラッサウを調べましたら、サヴァリッシュ先生が生まれたミュンヘンと、オーストリアのザルツブルクのちょうど中間にあるドイツアルプスのほとりにあるような街でした。
ここで、サヴァリッシュ教授は、奥さんが亡くなってから、そして2006年に引退後、ずっと過ごしておられたわけなのです。
ドイツ・オーストリア・スイス、そしてアルプスのイメージを持った素敵な街のようです。

サヴァリッシュといえば、N響なのですが、テレビやFM放送で始終接することで、ごく近い存在となっていった指揮者でありまして、あまりに普遍的なまでに近しい存在だったので、抜群の安定感と安心感を常に抱いていて、オーソドックスななかに安住する存在と思うようになっていきました。
しかし、オペラを聴くようになって、いつでも聴ける的な安心感から一歩も二歩も脱して、その誰にも真似のできない手際の良さと、複雑さ、重さを一切感じさせないスタイリッシュな音楽造りが、本当に素晴らしい意味での職人芸だと思うようになりました。

以来、サヴァリッシュによって聴いたオペラの数々、なかでも、ワーグナーとR・シュトラウスは、自分の中でも定番となり、いまでもその思いは変わりません。
残念なのは、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場を引き連れて何度も来演してくれましたが、それらの中の、R・シュトラウス、「アラベラ」と「影のない女」を観劇することができなかったこと。
でも、ワーグナーはふたつ体験することができました。
「さまよえるオランダ人」と「マイスタージンガー」です。
それらの思い出は、また書くことになりそうです。
ちなみに、サヴァリッシュが日本で指揮したオペラは、「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コシ・ファン・トゥッテ」「魔笛」「フィデリオ」「オランダ人」「マイスタージンガー」「ワルキューレ」「アラベラ」「影のない女」などでしょうか。
1974年には、カルロス・クライバーの「ばらの騎士」もあり、ライトナーも同行した豪華極まりない来演でした。

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 ワーグナー  ジークフリート牧歌 

   ウォルフガンク・サヴァリッシュ指揮 バイエルン国立歌劇場管弦楽団員

           (1991.5.4 @ノイシュヴァンシュタイン城、ゼンガーザール)


この録音は、サヴァリッシュのバイエルン・シュターツオーパー時代の最後の頃。
翌年92年には、日本に引っ越し公演を行い、「影のない女」を指揮し、同年同オペラハウスから手を引き、93年からはフィラデルフィア管弦楽団の指揮者となりました。
ワーグナーゆかりの、ルートヴィヒ2世のロマンティックなノイシュヴァンシュタイン城の豪奢なホールにてのライブ録音です。
カップリングは、自身がピアノを弾いての、「ヴェーゼンドンク・リーダー」で、メゾは、マリアナ・リポヴシェクです。

響きの良い居城のホールでのこの「ジークフリート牧歌」は夢見心地に誘う、まるで、リヒャルト・ワーグナーがいまそこにいて、コジマが真っ白なシーツのベッドの中に愛情にあふれて目ざめたような光景が目に浮かぶような、あまりにも素敵な演奏なのです。
オリジナルのそれぞれの楽器が一本の室内バージョンで、透明感とインティーム感あふれるチャーミングな演奏は、まさにサヴァリッシュならでは。

この演奏は、実は、わたしの好きな「ジークフリート牧歌」の最右翼にあるものです。
ワーグナーのアニバーサリーイヤーに、この演奏は取り上げようと思っていた矢先に、サヴァリッシュ先生の追悼の念を込めて取り上げることになるとは思いもよりませんでした。

同郷のミュンヘンの楽員たちと、気心のしれたアンサンブルを楽しむサヴァリッシュは、もうこの頃、劇場生活に別れを告げ、新世界へと思いを馳せていたのかもしれません。

カップリングの「ヴェーゼンドンク」は、同じリポヴシュクの歌唱で、フィラデルフィア時代に再録音があります。
ユニークなことに、そちらでは、ヘンツェの編曲バージョンを使用しております。
ふたつの録音は、またいずれの機会に取り上げたいと思ってます。

もうひとつ、サヴァリッシュの「ジークフリート牧歌」を。

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   ウォルフガンク・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団

                        (1960.3 @ウィーン)


こちらは、ウィーン交響楽団の首席指揮者時代。
先のバイエルン盤より、1分短い演奏時間ですが、そのテンポの違いをまったく感じることがなく、むしろ、ウィーン風のまろやかな響きも手伝って、ゆったりとして聴こえる。
60年代のサヴァリッシュは、バイロイト最少年齢でデビューしたあのライブ盤に聴かれるとおり、清新でテキパキと進む思いきりの良さがあって、当時のドイツ系の演奏のモヤモヤ感とはかけ離れた明晰さ勝負の演奏だった。
それは、カイルベルトとカラヤンよりもスマートな音楽造りだった。
ウィーン響とのワーグナーは、LP2枚分があるけれど、いずれもそんな気概にあふれているが、この「ジークフリート牧歌」は、オケのいい意味でのウィーン風な丸っこさが出ていて、とても大らかに聴くことができます。
いい感じなのであります。

ウィーン響とのフィリップス録音は、多くが廃盤ですが、オリジナルジャケットで、是非復活して欲しいと思います。
ハイドンの交響曲、ブラームスの交響曲・ドイツレクイエム、J・シュトラウス、シューベルトなどなど。

サヴァリッシュ追悼特集は、まだしばらく続けたいと思います。

サヴァリッシュさん、どうか安らかならんことを。

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ノイシュヴァンシュタイン城のゼンガーザール。

もう20年以上も前に行ったことがありますが、記憶は彼方です・・・・。

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コメント

深夜にお邪魔いたします。 今まさにサヴァリッシュ追悼番組としてバイエルンの「ワルキューレ」を放送しています。眠い目を擦りつつ鑑賞中です。モーツァルトと同じ名前を持つ(私は特にモーツァルト狂な訳ではありませんが)氏は、やはりN響との繋がりで馴染み深いマエストロの一人。一度でいいから生で見たかったな。非常に残念です。日本を愛してくれたマエストロに心から感謝です。ご冥福をお祈り申し上げます。

投稿: ONE ON ONE | 2013年3月 8日 (金) 00時54分

そうでしたか…。
 ほんとN響で数え切れないくらい聴きました。オペラではバイエルンとのワルキューレを聴きました 。高校生の時に貯金をぜんぶはたいての、初めての海外オペラでした。クナにはまっていたので、当時は少し物足りなく感じた記憶がありますが、今考えるとまとまりのいい、サヴァリッシュらしい指揮だったと思います。

 ほんとうにお世話になった指揮者という感じですね。
 ご冥福をお祈り申し上げます。

投稿: コバブー | 2013年3月 8日 (金) 09時09分

私がクラッシック音楽を聴き始めた頃はLPが高価だったのでテレビやラジオが頼りでした。
ちょうどその頃によく白黒テレビで視て、聴いたのが岩城宏之さん、森正さん、そしてサヴァリッシュさんん指揮するNHK交響楽団の演奏でした。
なかでもサヴァリッシュさんの指揮は格好よくていまでもよく覚えています。

最近その頃から親しんできた演奏家、ヴァン・クライバーン、マリー・クレール・アランが相次いで亡くなっています。なんだか寂しいかぎりです

投稿: パスピエ | 2013年3月 8日 (金) 16時40分

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投稿: christian louboutin slingbacks | 2013年3月 8日 (金) 20時58分

ONE ON ONEさん、こんばんは。
まさかワルキューレを放送しているとはつゆ知らずでした。
バイエルンでのリングはNHKが全部収録しましたが、映像はいまひとつとの評判で、DVDもろくに出ませんで、すぐに引っ込んでしましました。
わたしは、ビデオで収録し、その時に観たっきりもう20年以上が経ちました。
引退したサヴァリッシュ教授の年齢を考えれば、いずれ来るとの思いがありましたが、いざそのときがやってくると感慨深いものがありました。

合掌

投稿: yokochan | 2013年3月 9日 (土) 01時01分

コバブーさん、こんばんは。
74年のワルキューレをご覧になられたとは、これまた伝説級の経験をお持ちなのですね。
当時まだ無名だった、クライバーのばらの騎士も含めて、わたしには遠い存在でして、レコ芸の写真を眺めて、あれこれ想像するだけにございました。

N響とのワーグナー上演がなかったのが残念ですが、それでも幾多の名演をメディアを通じて聴くことができたのは、われわれ日本人にとって幸せなことでしたね。

合掌!

投稿: yokochan | 2013年3月 9日 (土) 01時16分

パスピエさん、こんばんは。
サヴァリッシュを筆頭に、続きましたね、懐かしの名前の方々のご逝去が。
ますます、年月を感じます。

わたしも、サヴァリッシュのテレビ放送にはお世話になりました。70年のベートーヴェン200年あたりから欠かさず見て聴いてました。
いつでも、どんな曲でも、颯爽と指揮する姿が凛々しく、背筋が伸びていてカッコよかったです。

合掌です。

投稿: yokochan | 2013年3月 9日 (土) 01時20分

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