プッチーニ 「トスカ」 コリン・デイヴィスを偲んで
東京駅丸の内口。
まるでジオラマのような、箱庭風の景色。
郵便事業会社の「KITTE」の展望エリアから覗いてみました。
無機的なビル群に、欧風な昔を再現した駅舎。
それを結ぶ計算されつくした道路の構造。
これを美しいと見るか、そうでないと見るか。
わたくしにはわかりません。
超高額な賃料を対価に、このあたりで機能する会社の数々は、地方はブランチにすぎません。
東京ばかりの一極集中は変わりようがありませぬ。
そんなわたくしも東京にしがみついてるんですが、地方への仕事や富の分配はずっとなされぬままに終わるのか。
プッチーニ 「トスカ」
トスカ:モンセラット・カバリエ カヴァラドッシ:ホセ・カレーラス
スカルピア:イングヴァル・ヴィクセル アンジェロッティ:サミュエル・ラミー
スポレッタ:ピエロ・デ・パルマ 警部:ウィリアム・エルヴィン
堂守:ドメニコ・トリマルキ 羊飼い:アン・マレイ
サー・コリン・デイヴィス指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
〃 合唱団
(1976. @ロンドン)
亡きサー・コリン・デイヴィスは、デビューしたての時からモーツァルトのスペシャリストとして、そのオペラの数々を手掛けてきて、ウェールズのオペラ団からスタートを切り、グライドボーン、コヴェントガーデンと英国内のオペラハウスで活躍をして、ついには、英国以外、独仏米のハウスでもあらゆるオペラの第一人者として認められる存在となりました。
「魔笛」以外をほぼ録音したデイヴィスは、コヴェントガーデンでの上演の数々を併行して録音するようになりました。
それは、70年代中ごろのフィリップス傘下の歌手たちとの共演で、華やかさはないものの、中身の濃い充実したものばかりだったのです。
その歌手たちは、カバリエ、カレーラス、シュターデ、リッチャレッリなどのスターたちです。
デイヴィスがイタリアオペラ?、と当時誰もが思ったのです。
その最初が、「トスカ」。
その後、「ボエーム」「仮面舞踏会」「トロヴァトーレ」と続きますが、イタリアオペラはその後、ミュンヘン時代まで録音されることなく、フランスものと、ドイツオペラが中心となります。
デイヴィスのイタリア・オペラは、ヴェルディにおいては解放感と爆発力が不足し、プッチーニにおいては歌心が不足しますが、どちらもオーケストラの充実ぶりにおいては、70年代以前のそれまでの歌中心のオペラのあり方からすると、全体の統一感が豊かで、シンフォニックで、歌手の突出感がなく、そのオーケストラのうえに歌が成り立つ安定感が先だつものでした。
イギリスの作り出す音楽が、本場のイタリアやドイツ、フランスを上回るシーンが続出したのもデイヴィスがオペラで活躍した時期と同じくします。
それは「普遍的」の一語に尽きると思います。
デイヴィスの指揮するオペラの数々は、その普遍性こそが魅力。
危なげなく、安全で、どこもかしこも完璧。
突き抜けた個性はないけれど、普遍性こそ突き抜けた個性。
デイヴィス、そしてハイティンクの指揮するオペラはいずれもかっちりしたオーケストラが主体となって、そのうえに端正な歌唱が乗っかる充実の中庸の美しさがあります。
デイヴィスのオペラの最高傑作が「トスカ」です。
聴きあきない、音像だけの、最高の芸術作品のひとつです。
プッチーニの巧みなオーケストレーションを感じ取れるし、隅々まで鳴り響く機能充実のコヴェントガーデンオケ。
カラヤンのような濃厚な味付けがなくとも、スコアに書かれた音を完璧に再現するだけで、プッチーニの濃密でラブリーな音楽が響き渡るという妙。
ピーク時にあった歌手たちの声の饗宴。
それらをつかさどる、指揮者コリン・デイヴィスの力です。
この録音の前後に、カヴァリエとカレーラスは、NHKのイタリアオペラで来日し、伝説の「アドリアーナ・ルクヴルール」に出演した。
わたしの生涯、忘れえぬ舞台体験のひとつです。
さらに79年には、デイヴィス率いるコヴェントガーデンの引っ越し公演で、同じ顔ぶれの「トスカ」が上演され、NHKでも放映されました。
テレビで観ましたが、カバリエに圧倒される見た目のカレーラスでしたが、圧倒的に声が素晴らしかったカレーラスです。
カラヤンの「トスカ」録音と時期がかぶり、東京とベルリンを往復したカレーラスの話も有名になりました。
さらにカヴァリエの見た目巨大、聴いた耳、繊細のトスカは、カラスの復活舞台がコケテしまったあとの横浜上演で、完璧なまでの歌を生放送で聴き観劇もして、圧倒されました。
「歌に生き、恋に生き」は、もう最高。そのピアニッシモの美しさは、いまにいたるまで誰も凌駕できません・・・・。
これらすべてのトスカ体験の音源における、もっとも安心感ある記録が、このデイヴィス盤です。
ふたりの歌手の最高充実ぶりは、この音源のみで味わえます。
スカルピアが、わたしには今一つですが、カラス以降の「トスカ」はこれ、デイヴィス盤につきます。
サー・コリン・デイヴィス。安らかならんことをお祈りいたします。
| 固定リンク
コメント
こんにちは。
サー・コリン亡くなったんですか。ここにきて知りました。イギリスの巨匠がどんどん亡くなっていきますね。さびしい限りです。
このジャケット懐かしい!カバリエ・デラックス。まだレコードの時代でしたね。もしや、生カバリエ体験者なのですか?羨ましいです。私は子供の頃テレビで来日公演を見ました。当時カレーラスって絶対カバリエの愛人だと思ってました(違うでしょうけど)。
ディヴィスと言えば、どうもあのハルサイのイメージが強いのですが、まだ売ってるんでしょうかね。
投稿: naoping | 2013年4月20日 (土) 10時40分
naopingさん、こんにちは。
そうなんですよ、英国指揮者はひとり、ふたりと次々に・・・・。
カバリエのトスカは、ほんとにデラックスですねぇ。
歩くのさえ難儀なトスカに、つぶされそうなカレーラスのカヴァラドッシ。
アドリアーナでしたが、NHKホールのステージぎっしりのカバリエと豆粒みたいなカレーラスでした。
いい思い出です。
カレーラスは、さすがにカバリエは選択せず、リッチャレッリを選びました。
デイヴィスのハルサイは、いまでもで元気に現役ですよ。
いいですね、あれは。
投稿: yokochan | 2013年4月20日 (土) 15時48分