神奈川フィル音楽堂シリーズ 武満徹と古典派の名曲①
今年はチューリップの開花も早い関東。
われらがベイの本拠地の足元、横浜公園のチューリップを見てきました。
大慌てで、桜木町にとってかえし、紅葉坂。
この坂で、これからはひと汗かいてしまう季節になりました。
春から初夏の風物詩ともなった神奈川フィルの音楽堂シリーズ。
今年は、「若い指揮者と神奈川フィルの首席奏者」、そして「武満徹と古典派音楽」というテーマで、なかなか素敵なプログラムが組まれてます。
武満 徹 「波の盆」
モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲
ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第3楽章
Vn:石田 泰尚 Vla:柳瀬 省太
ハイドン 交響曲第90番 ハ長調
川瀬 賢太郎指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2013.4.13 @神奈川県立音楽堂)
どうでしょうか、いい演目でしょう。
成功が約束されたかのようなモーツァルトも楽しみだったけれど、わたしには、美しい武満作品「波の盆」を神奈川フィルで聴けることが密かな願望であり、今回は喜びなのでした。
尾高忠明さんがCDも残し、演奏会でも折に触れとりあげる曲目。
氏はいつも指揮するとき、涙がでちゃうんですよ、とお話されてました。
わたしも、スマホに入れて持ち歩いていて、疲れたときとか、嫌なことがあったときに聴いたりしてます。
それだけ、癒しと緩やかな優しさにあふれた音楽です。
6つの場面が緩やかに進行するなか、突如あらわれるマーチングバンドはとてもスパイスが効いています。
この日、若い川瀬クンは冒頭から大きな手ぶりで意欲的に指揮をしますが、オケも聴衆もまだあたたまっておらず、音楽が遠いところにとどまっている感がありました。
しかし、ブラスが登場してピリッと引き締まり、終曲では涙が滲むほどに共感にあふれた麗しい演奏となりました。
美しい神奈川フィルの弦と、そこに絡み合う木管の妙。充分に味わえ満足でした。
願わくは、もう少し熟した指揮者との組み合わせでもう一度聴きたい。
この曲の弊ブログ記事→ドラマの概要も書きました。
石田&柳瀬のコンビによるモーツァルト。
悪いはずがありません。
石田コンマスの華奢でスリムなヴァイオリンは、モーツァルトのギャラントな雰囲気を、柳瀬さんの艶とコクのあるヴィオラは、モーツァルトの馥郁たる愉悦感をそれぞれにあらわし尽くしていて、素晴らしく味わい深い演奏でした。
2楽章の哀感の表現も素敵なもので、泣き節を聴かせる石田ヴァイオリンに、からみあうように共鳴し合う柳瀬ヴィオラ。
本当に美しい瞬間でした。
お二人を見ていてもそのお姿が対照的なのは当たり前ながら、上へ上へつま先立つようにして弾く石田コンマスに対し、どっしり構え、わずかに左右に動くだけの柳瀬ヴィオラ。
神奈川フィルの音を支えるお二人の演奏を鮮やかなアンコールもふくめ、堪能できました。
川瀬君の指揮は、生き生きと、そして柔らかくソロを引き立てることに徹し、自然と仲間をもりたてるオーケストラとなっておりました。
後半は地味だけれど、コンサートの最後に最適の隠し玉のような、びっくりハイドン90。
ザロモンセットの前で、いまひとつ地味なグループが、「オックスフォード」を含む90~92番。
普段ハイドンをあまり聴くことのないわたくしですが、90番は大昔にベームのレコードで聴いたくらいの記憶しかなく、今回、予習でネット上にあったラトルとベルリンフィルのライブを聴いてぶっ飛びました(笑)。
サプライズだから、演目パンフには書いてなぴりいし、事前の話もまったくなし。
で、始まりました90番。
ピリオドでもなく、両翼配置でもなく、普通がいいね。
序奏のあとほどなく始まる第1楽章。弾むようなリズム感がいかにも快活ハイドン。
川瀬クン、大振りだけど、やるじゃん。
このキレのよさと、のびのびと自由な感じは、迷いが一切なく爽やかな疾走感がイイ。
早いパッセージも難なく乗り越え、神奈川フィルのアンサンブルも完璧だし、拝見していて皆さん気持ちよさそう。
バロックティンパニも効いてる効いてる。
伸びやかな第2楽章は長調と短調の間を行き来する歌謡性にあふれた楽章。
ここで驚きの川瀬ジャンプが登場するとは。
なにも兄さん、そこまでとも思ったけれど、短調のとき、低弦の刻みを深く入れ込みたかったのでしょう。なかなか劇的な効果を生んでましたよ。
各楽器のソロも美しいものでした。
こういう場面もハイドンの音楽の魅力で、主席の皆様の妙技も味わえるのが楽しい。
3楽章のメヌエット。乗ってきた川瀬クン、ここでも微妙に跳躍を繰り返し、さらに驚いたことに、聴衆の方を半分見ながらのコバケン&ノリントン振り。
オーボエの鈴木さんのソロが素敵。
そして何が起こるか、やってくれるか終楽章。
元気に明るくガンガン進む快感は、幸せの週末気分にますます花を添えるようでワクワクしてしまう。
強弱のメリハリと、巧みな転調を鮮やかに描き分ける川瀬クンの堂々たる指揮も乗ってきました。オケもノリノリですよ。石田コンマスもジャンプのお株を奪われちゃったけれど、ガンガン弾いてます。
そして完全終結その1。
当然に、割れるばかりの拍手。
川瀬クンは、拍手に答えるようにこちらを向きますが、しばしの間(4小節)を置いてまたやりますよ的な顔になり、振り向いて終結部の再開。ざわつく聴衆。
譜面のページを大慌てで戻して、みんな再開。
そして、今度も威勢よく完全終結。ブラボーも出ちゃう。
聴衆の拍手に答えそうになる指揮者に、立ちあがって、何だよ終るのかよと迫るヤンキー一人! おびえた指揮者は、また終結部を繰り返すのでした。
今度こそお終い。無茶苦茶気合いをこめて、超ダイナミックなエンディングに、ほんとの最後を実感した我々聴衆が熱狂の拍手をしたことは言うまでもありません。
ハイドンの仕掛けたいたずらに見事に引っ掛かりましたよ。
大人しそうな真面目顔の川瀬クン、やりますよ実に。
妙にこねくり回さず、空回りしない若さがそのまま出ているのが、実に素直でいいです。
このところナイスな企画続出の神奈川フィル、今回も大正解のコンサートでした。
アフターコンサートは、野毛に降りて、いつもの居酒屋と思ったら満席。
近くの中華小皿料理のお店で、生ビール、ハイボール、紹興酒をたくさんたくさん飲んだのでした。
そしてこれもまたお約束の終電、東京湾半周の旅で帰還。
みさなんお疲れ様でした。ありがとうございました。
※記事はバックデートして、土曜日公開にしました。
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コメント
いいコンサートでしたね。さすがにハイドンはハデにひっかけていましたね。
石田とのやりとりもなかなか楽しませたし、客席とステージのアットホームな交流も印象的な気がしました。
それにしても、石田、柳瀬両氏はさすがでしたね。息もピッタリの対話。そしてオケが巧いと思いましたがいかがでしょう。
このシリーズ、次回も楽しみです。
アフターコンサートも盛り上がったようですね。こちらが終わってからなだれ込もうと思ったのですが、こちらも終わったら午前様でした。
投稿: yurikamome122 | 2013年4月14日 (日) 18時15分
yurikomameさん、こんばんは。
すっきり後味のよいコンサートでした。
ハイドンにはまるきりひっかかりました。
あのようなプログラミングや、舞台と聴衆の一体感などは、また神奈川フィルがあらたな道に踏み出していることを感じました。
そして名手ふたりに、若い指揮者とはいえ呼吸のばっちり整ったオケはとてもよく鳴ってました。
定期とともに、楽しいシリーズですね。
アフターは、あれよあれよで、時間がたってしまい、いつものとおりでした。楽しい土曜日を過ごしました。
投稿: yokochan | 2013年4月14日 (日) 23時50分