ワーグナー M.V.夫人のアルバムのためのソナタ
この花、よく生えているけれど、なんていう名前なんでしょうね。
ちょっと怪しく、おっかない雰囲気ですよ。
ワーグナー
M.V.(マティルデ・ヴェーゼンドンク)夫人のアルバムのためのソナタ
ブルーノ・カニーノ
(1996.8.20 @草津)
ワーグナーのオペラ以外の作品は、初期の交響曲、いつくかのこれまた初期の序曲、合唱曲、歌曲、それにピアノ作品が残されております。
ピアノ曲は、以前取り上げた初期作「大ピアノ・ソナタ」、第1ソナタ、ポロネーズ、幻想曲、そして本日の「M.V.ソナタ」、さらに小品は数十曲。
いうまでもなく、MVとは、ヴェーゼンドンク夫人のことです。
ワーグナーのパトロンであったニューヨーク絹織物商のヨーロッパ側代表であった商人オットー・ヴェーゼンドンクの若き後妻マティルデ。
1852年、ローエングリンも終了し、リングへの構想に入った頃、39歳のワーグナーは、25歳のマティルデに会って、すぐにその美しさと聡明さに魅了されてしまう。
当時、まだ最初の妻、ミンナと連れ添っていた頃。
まったくやりますなぁ、リヒャルト様は。
その後のマティルデとの関係は、完全に恋愛関係にあり、その関係がかなり強くなりはじめた頃に書かれたのが、こちらのソナタ。
1853年の作曲と思われる。
本CDの解説によれば、「マティルデがワーグナーに美しい寝椅子をプレゼントしたお礼に作曲したものとされ、楽譜には、『それがどうなるか、あなたがたはご存知ですか?』という、神々の黄昏のセリフが謎めいて書かれてあった」とされます。
その黄昏のセリフとは、ブリュンヒルデの言葉だったと思います。
なかなかに意味シンな・・・・・。
リングの作曲に取り掛かった頃だけに、ワーグナーの頭の中には、因果応報、おごれるものは久しからず、、、などなどの思いがあったはずなのに、一方で、「トリスタン」への着想が芽生え、リングを一休み中断して、「トリスタン」の創作にのめり込んでゆくことになります。
1857年のことで、「ヴェーゼンドンクの詩による5つの歌曲」が同時に生まれることとなります。
熱い二人の関係が生み出した、「トリスタン」の世界。
その萌芽は、4年前の彼女の名前が冠された「ピアノソナタ」にあるわけです。
しかし、曲は10分あまりの単一楽章による自由な形式の音楽で、ソナタっぽくはなく幻想曲風です。
初期の大ソナタもそうであったように、こちらも多分にベートーヴェン風で、幻想的であるぶん、ベートーヴェン後期風でもあります。
ローエングリンとラインの黄金の間に書かれたわけでありますが、そんな雰囲気はあんまり感じない。
しかし緩やかに始まった曲が、華麗なアルペッジョを経ながら、徐々に盛り上がるところは、さすがにワーグナー、劇的であり、わくわくさせてくれます。
それもひと静まりすると、今度は熱い歌が待ってまして、じんわりと愛を語るような雰囲気になるという寸法です。
そのあとは、冒頭の緩やかな雰囲気に戻って優しく曲を閉じます。
たしかにワーグナー、されどワーグナーでございました。
悪くはないです。
イタリアの名手、ブルーノ・カニーノが草津夏期国際音楽アカデミーで弾いた演奏会のライブです。
明るいタッチが爽快で、とても気持ちのいい演奏でした。
濃厚でないワーグナーのやり方です。
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コメント
冒頭の写真の花は、シャガ(射干、著莪、胡蝶花、学名:Iris japonica)と存じます。アヤメ科の多年草だそうです。
投稿: faurebrahms | 2013年5月16日 (木) 23時26分
faurebrahmsさん、こんばんは。
感激です、早速教えてくださって。
シャガですね。
ということは、日本を舞台にしたマスカーニのオペラ「イリス」は、ヒロインの名前でして「あやめ」なわけですね。
いろいろとわかり、すっきりです!
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2013年5月17日 (金) 00時19分