ワーグナー 「ファウスト」序曲 アバド、サヴァリッシュ指揮
5月の海は、青く明るいです。
夏になると気温の上昇で、遠くはもっとぼやけてしまいますから、冬の澄んだ空気も捨てがたいです。
でも、10~11月頃と並んで、1年で一番過ごしやすい美しい季節でありましょう。
6年前の台風の高波で、砂浜がえぐり取られてしまい、白砂青松が失われてしまった私の育った海。
バイパス復旧工事と護岸工事がずっと行われていて海に降りることもできない。
その工事もひと段落して、いっとき敷設されていた消波ブロックを活用した、人工リーフの整備が始まってました。
これは、浅瀬を作ることで、波の力を弱め、魚場を守ることになるといいます。
もともと、このあたりは水深が急に深くなっていて、海水浴も限られた範囲でしかできませんでした。
自然の脅威で奪われた環境を、また人工的に戻せるなら、それは実に喜ばしいことですが、そうもいかないようです。
子供のころから親しんだ海は、もう違った顔になりそうです。
ワーグナー 「ファウスト」 序曲
ウォルフガンク・サヴァリッシュ指揮 フィラデルフィア管弦楽団
ワーグナーには、オペラ作品以外にも同じくらいの数だけ、交響曲を含む管弦楽作品があり、10数曲が残されているほか、消失または破棄してしまったものは、もっと多くあるはず。
大半は、初期から中期にかけての作品が多くて、この「ファウスト」序曲も1840年の作曲で、「リエンツィ」と同じ頃のもの。
誇大な計画を思いついては実践しようとして借金を重ねるワーグナーは、妻ミンナと逃げるようにしてパリにやってきて、この芸術の都で一旗あげようとした。
かねてより計画中のグランド・オペラ「リエンツィ」を当地で上演してもらおうというたくらみでありました。
パリで第9を聴いて、という説もかってはあったが、今では、1839年ベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」の初演を聴いて、思い至ったのが「ファウスト」を題材とする大交響曲の構想。
しかし気の多いワーグナーは、1楽章だけを作曲して終ってしまい、パリ音楽院管弦楽団で演奏してもらおうとしたものの、そのままになりオクラ入り。
結局、初演は補筆改訂をして、1844年、ドレスデンにて。
さらに後年、改訂した最終稿が、いま一般に聴かれる版で、1855年チューリヒにて初演。
こんな、地味な経歴を持つ「ファウスト」序曲は、いまでもネクラで、ひっそりとCD棚の奥に潜む忘れがちな存在であります。
誰がどう聴いても、ワーグナーの音楽そのもの。
リエンツィの華やかさはまったくなく、どちらかといえば、オランダ人の救済のないバージョンに近い、暗くてシビアな音楽です。
しかし、そこはワーグナー。
音の運びがかっこよくって、何かを一身に背負いこんだ切迫感と、ヒロイックなひたむきさがあります。
だから意外とクセになる音楽なんです。
まさに、ここにもワーグナーの魔の手が潜んでいるのです。
堂々としていながら、超優秀なフィラデルフィアの明るい音色がワーグナーに解毒作用を及ぼす美しい演奏がサヴァリッシュ盤。
さらに今回、手持ちのワーグナー音源を漁ってみたら、そこそこ持ってました。
中学の時の初聴き、ブーレーズ&ニューヨークフィルは、明晰ながらかなり渋い演奏。
初期オペラ+無名曲ばかりで勝負したヤノフスキのデビュー盤は強烈。
カラヤンのプロデューサーだった、ゲルデス&バンベルクのあっさりした演奏。
ふくよかで雰囲気豊かなJ・テイトとバイエルン放送。
フランスとドイツ、ワーグナーが望んだ響きか・・・プラッソン&ドレスデン。
明晰で推進力豊かなカンテッリとニューヨークフィル。
そして、わたしが一番好きな演奏が、自家製放送音源CDRですが、アバドのウィーン時代とベルリン時代のふたつのライブ。
アバドは、なぜかこの暗い曲が好きで、2度の放送がありました。
ウィーンフィルとベルリンフィルのふたつのオケで聴ける楽しみは、アバドファン、ワーグナーファンとして、望外の喜びでして、ことにベルリン盤は録音も素晴らしくって、気合い満点。ときに、アバドのうなり声も聴こえます。
ベルリンフィルの重厚ながら、重たくならない壮絶サウンドは筆舌に尽くしがたいものがあります。
わたしの、ファウスト、ファースト・チョイスは、アバド(BPO)、ついで、サヴァリッシュ、ブーレーズ、カンテッリでしょうか。
5月22日は、ワーグナー200歳の誕生日です。
5月24日は、現田&神奈川フィルのヴェルディです。
まったくもって忙しくも、一生に一度とないアニヴァーサーリーが続きます。
明日はヴェルディです。
| 固定リンク
コメント
こんばんは
ムムッ!
今回のyokochan様の記事の導入部
ファウストが、その生涯最期に試みた一大工事と重なって…
確信犯でらっしゃいますな!
投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2013年5月19日 (日) 00時56分
Booty☆KETSU oh! ダンスさん、こんばんは。
いえいえ、まったく、そんな深遠な考えなどありませぬ。
このファウスト序曲には、ゲーテの原作とはかけ離れたような作品に感じます。
その点、声がないとイメージは薄いです。
投稿: yokochan | 2013年5月20日 (月) 23時20分
『ファウスト』絡みでしたら、脱線ですがシューマンの『ゲーテのファウストからの情景』を、アバド盤で所持しています。『ベルリナーーフィルハーモニカー&クラウディオーアバド/Vol.3』88697325372なる5枚組セットに、含まれているものです。以前Decca原盤でブリテン指揮の録音が在ったものの、それは手を出さずじまいに終わり、アバド盤で初めて接しました。曲も演奏も極上の素晴らしさで、『あぁ、物故した過去の名演奏家の遺産にのみ、しがみついて居ては駄目だなぁ。』と、しみじみ感じました。この録音に参加してくれた演奏家、担当プロデューサー及びエンジニア、企画にGoサインを出して下さったSONYの上層部の人々に、心よりの感謝を!
投稿: 覆面吾郎 | 2019年10月13日 (日) 09時09分
アバドのシューマンのファウストは、すでに記事にしました。
現在、シューマンのファウストは名曲として認知されましたが、これもまたアバドが積極的に取り上げ、広めたおかででもあると思います。
アバドの門下にあったとも言っていい、ハーディングもこの作品を深く愛し、録音もなしてます。
ご指摘のブリテンやアーノンクールなんかも聴いてみたいと思ってます。
投稿: yokochan | 2019年10月16日 (水) 08時38分
ワーグナーの管弦楽曲では、『クリストフ・コロンボ』を何処かのオーケストラが、やって呉れませんでしょうか。万難を排して足を運ぶのですが‥。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年11月29日 (日) 10時27分
クリストフ・コロンボ、J・テイトとバイエルンの録音を持ってます。
後、ヤノフスキの若い頃の録音に入っていたかどうか?
復刻されたCDではなかったのですが、記憶が定かでありません。
勇壮なブラス、リエンツィみたいな感じのかっこいい曲ですね。
投稿: | 2020年12月 1日 (火) 08時36分
yokochan様
私めの所持盤は、マゼール指揮ベルリン・フィルの、RCA録音です。『マゼール・グレート・レコーディングス』なる、CD30枚組セット(88697932382‥なる番号です)に収められている演奏です。この人の業師ぶりが、必ずしも超人気作品とは言えないかもしれない、この曲の本質と魅力を巧みに解明 した名盤では、ないでしょうか。
投稿: 覆面吾郎 | 2022年8月14日 (日) 08時07分
こんにちは、マゼールBPOのワーグナーは所蔵してますが、ファウストはなぜか収録されてません。
収録時間の関係でカットされたのでしょうか。
マゼールには、ワーグナーの全曲の録音を残して欲しかったものです。
投稿: yokochan | 2022年8月19日 (金) 08時36分
yokochan様
確かにマゼールには、ワーグナーの楽劇の全曲物の商業録音が、ございませんね。Telarcにピッツバーグ交響楽団を振った『ワルキューレ』第一幕は、ございましたが‥。1960年にバイロイトへ『ローエングリン』を引っ提げてデビュー、1970年に『指環』、我が国へは1963年に『トリスタン‥』の本邦初演も果たされて、ワーグナーのオペラにも深い表現力をお持ちなのにに、お忙し過ぎたのでしょうか。
投稿: 覆面吾郎 | 2022年8月21日 (日) 00時43分
yokochan様
マゼールの『ファウスト序曲』、かつてはBVCC-34037の番号で、BMGファンハウスより出て居たのに、お手持ちのアルバムからオミットされて居るとは、何とも残念ですね。このお方はキワモノめいた珍曲の方が、鋭敏な耳と卓抜した棒の技術をフルに生かし、本領発揮されると私めは思って居ります。
投稿: 覆面吾郎 | 2022年8月23日 (火) 13時55分