ヴェルディ 「ジョヴァンナ・ダルコ」 レヴァイン指揮
昭和9年の築で、西洋風であるとともに、ドームがイスラム風な雰囲気。
別の機会に撮った写真。
ライトアッイプもまた雰囲気が違います。
横浜の、そして日本の港の窓口を守ってきたその姿です。
ヴェルディ 「ジョヴァンナ・ダルコ」
カルロ7世:プラシド・ドミンゴ ジャコーモ:シェリル・ミルンズ
ジョヴァンナ:モンセラート・カバリエ デリル:キース・エルヴィン
タルボット:ロバート・ロイド
ジェイムズ・レヴァイン指揮 ロンドン交響楽団
アンブロージアン・オペラ・コーラス
合唱指揮:ジョン・マッカーシー
(1972.8,11@アビーロード・スタジオ)
ヴェルディ7作目のオペラは、「ジョヴァンナ・ダルコ」。
「ジャンヌ・ダルク」のイタリア読みです。
前作(二人のフォスカリ)に続いての、文芸作品をベースにした台本で、原作はシラーの戯曲「オルレアンの少女」。
2作続いたピアーヴェと変わって、ナブッコ以来の成功コンビのソレーラが台本製作。
そして、発注元も、ヴェネチア、ローマと他所の依頼作に注力していたが、かつての契約履行のためにも、スカラ座で、ということになったのが、1844年12月。
速筆だったこの頃のヴェルディにしても、翌1845年2月の初演という、3ヶ月で完成させるハイスピードぶり。
「ナブッコ」の大成功以来、各地よりオファー殺到し、スカラ座にも縛られることなく創作に集中しつくした4年間(1942~46年)、6作の新作を次々に発表するのであるが、「ジョヴァンナ・ダルコ」はその中ほどの作で、さしもの若いヴェルディも多忙のあまり、徐々に体調を崩してゆくことにもなります。
ジャンヌ・ダルク(1412~1431)は歴史上、実在の人物で、映画や小説にもなってますので、ご存知の方も多いはず。
フランス、ロレーヌ地方の農家に生まれ、13歳頃に神の軍団を率い、守護者ともいわれた大天使ミカエル(レクイエムの歌詞にも出てきますね)や、聖カトリーヌや聖マルガリタの声(天啓のようなものか)を聞き、イングランド支配下にあったオルレアンを解放すべしと進言し、やがてシャルル王太子の耳にも入り、ジャンヌ自身が兵の先鋒を担い、イングランド軍に勝利して、王太子もフランス国王シャルル7世となってゆく原動力となります。
ところが、政治にもまれ孤立したあげく、イングランド軍に捉えられたあげく、異端審問裁判を受け、火刑により厳しい処刑処分となってしまう悲劇の少女なのです。
のちに、裁判の見直しを経て名誉回復し、その死から500年近く経った1920年に聖人として列聖されることとなります。
シラーの戯曲「アルレアンの少女」では、ジャンヌは処刑でなく、戦場へ飛び出してゆき戦死する。
このどちらかといえばロマンティックに創作を施された戯曲をベースにしながら、さらに自由に手を入れたソレーラの台本では、ジャンヌは羊飼いの娘となっており、原作での恋愛の対象が若い敵将に対し、こともあろうに国王シャルル7世(カルロ7世)になっている。
しかも、ジャンヌの親父の羊飼いが、娘を敵に売り渡したり、はたまたをそれを反省したり、身分の違いを超えて国王と対等だったりと、おおよそ理解できない行動をとったり。
悪魔や天使の合唱も人間界の時空を超えて出てきちゃう。
これはある意味、後のマクベスの前兆ではあるけれど。
しかし、ジャンヌの死は、戦死として扱われ、最後には悪魔が負け昇天する。
イングランドに立ち向かう、勇敢な女性と、愛を知ってしまったがゆえの死。
ある意味、常套手段ともいうべき愛国路線。
正直言って、音楽は抜群によいが、台本が陳腐であります。
前作、「二人のフォスカリ」で、あれほど人間心理の域に切り込む新境地ぶりだったのに、またもや威勢のいいオーケストラがガンガンと鳴り渡る激情ぶりに戻ってしまった。
でも、オーケストラ好きには実に刺激的ですよ。
ダイナミックで、かつ激しい叩きつけるようなリズムに、ますます扇情的な扱いも堂に入ってきたズンチャッチャ節などが、聴き手の耳と心を鼓舞します。
ずっとこれじゃ参ってしまいますが、いつものように全編に散りばめられた美しいアリアも魅力のアクセントとなってます。
そして、悪魔と天使に代表されるように、合唱=軍団・集団に大きな役割を持たせて劇的な効果を高めているところも、これまで以上でしょう。
ちなみに、チャイコフスキーの「オルレアンの少女」もシラーをベースにしてますが、あちらは火あぶりでジャンヌは亡くなります。
ジャンヌを題材とした作品では、あとはオネゲルの「火刑台のジャンヌ・ダルク」でしょうか。
1429年フランス。
プロローグ
第1場 ドムレミイ村
フランス軍兵士とドムレミイの市民たちが集まって、イギリス軍の侵略に怒り、恐れて歌う。きっと、神様が助けてくれると希望を歌う。
そこに憔悴し、疲れ切った国王カルロが現れ、イギリス軍にもう降伏してしまいたい、森の奥のマリア像の下に自分の剣と兜を置くようにという夢のなかで神のお告げがあったと歌う。ハイCの超絶的なアリアであります。
人々は国王を止めるがカルロは、森の中の聖母マリア像へ祈りに出かける。
音楽は後の「マクベス」を思わせる嵐の光景となります。
第2場 夜の森
オークの茂れる森、空は荒れ模様。
教会の鐘が鳴り、羊飼いのジャコモが怪しい様子で出てくる。
彼は、娘のジョヴァンナが嵐の夜に必ずここへやってくるので心配して見張っている。
ジョヴァンナは、フランスを救うために必死に祈っている。
自分には、剣と兜は重すぎるのか。でも与えてほしい、と神に祈りつつ寝入ってしまう。
そこへカルロが現れ、神のお告げのとおり剣と兜をおいて祈る。
おまえは気がふれた女なのだと歌う悪魔と、あなたの願いを聞き入れた、フランスはあなたを通して自由を得るのだとの天使の声を聞いて、眼をさましたジョヴァンナは、そばに剣と兜があるのを見て驚く。
現れたカルロにジョヴァンナは、いきなり王と見破り、わたしが先導をします、今こそフランスを救うために起つべき時だと叫び、二人は戦地へ向かう。
これを見ていた父ジャコモは、あわてて追いかけるが、力尽きて膝をついてしまう・・・・。
第1幕
第1場 シャンパーニュの岩山
幾百の戦勝が、いまこの一日で吹っ飛んでしまった、とイギリス軍指揮官タルボットは嘆いていて、ジョヴァンナの働きで敗走したイギリス兵士たちには倦怠感が漂っている。
しかし、タルボットはジョヴァンナの奇蹟を否定したいところ。
そこに錯乱したジャコモが登場し、私はフランス人で、カルロのおかげでフランスがダメになる、父を裏切った娘のジョヴァンナをこともあろうにイギリス軍に渡すことを約束する。
第2場 ランスの宮廷の庭園
勝利したジョヴァンナは、父のもとと、家へと帰り平凡な娘に戻ることを願う。
しかし、カルロ国王はジョヴァンナに愛を告げ、ここに留まるようにと語る。
ジョヴァンナは、最初は拒みながらも、愛してます・・・と受けようとすると、そこへ天使の声が浮世の恋は哀しい~と警告が響く。
ジョヴァンナは驚き顔色を変えるが、カルロはそれを優しくなだめ、彼女も気を取り直し、やがてカルロはジョヴァンナの手をひいて戴冠式会場へと向かう。
爆発的なファンファーレの中、悪魔の「勝利だ~」の声。
第2幕 ランスの広場
陽気な軍楽隊。Viva! 群衆がフランスの勝利を祝い、国王とジョヴァンナをたたえる。
そこへ父ジャコモが現れ、父としての役割をとどめ、怒れる主の雷鳴とならなくては、と胸の内を歌う。
トランペットのファンファーレが鳴り響き、アカペラで主への讃歌。
親父ジャコモがしゃしゃり出てきて、天がわしをここへ使わし、自分を置き去りにした娘を非難する。戴冠式を終えて教会から出てきたカルロ国王の一行に向かって、あの森での出来事を覚えておいでか、ジョヴァンナは魔女だとジャコモが叫ぶ。
雷鳴が轟いたことに恐れをなした群衆もなんてこったと、それに和して非難を始める。
王は困惑し、何か反論するように、父も娘の言葉を促すが、なにも答えないジョヴァンナ。
やがて、ジョヴァンナは俗世の愛を受け入れたためと悔い、わたしの罪ゆえの永遠の怒りをかってしまったと歌う。ここでは、3人のソロと群衆の合唱との壮大なアンサンブルとなる。カルロは人々の心変わりを嘆き、運命を呪う。
第3幕 イギリス軍の陣営
フランス!とイギリス兵が叫び大砲が轟く。フランスから追放されイギリス軍に鎖につながれてしまったジョヴァンナ。
むごい運命を嘆き、確かに1度だけ愛してしまったが、いまはまた純なる気持ちで一杯と必死に祈って歌う。父ジャコモがそっと入って来てその様子を伺い、その無垢でピュアな姿を見て感動し、自分のしてしまったことを大いに反省する。親娘の二重唱。
ジャコモは娘前に行き、驚く娘の鎖を解く。ジョヴァンナは神の力をまた得た思いで、祖国へと向かうと決意、父も勝利の翼に乗っていくがよいと激励。
彼女は、父の剣を持って戦場へと走る。
要塞に登ったジャコモは、風のように飛び去り、白馬に乗ったジョヴァンナの活躍ぶりを見て歌う。
すぐさま、フランス軍の凱歌がきこえてカルロが入って来る。
カルロとジャコモは、お互いを認め、許し合う。
しかし、そこへ娘ジョヴァンナの戦死の報がもたらされる。
重苦しい葬送行進曲を伴ってジョヴァンナの遺体が担架に乗って運ばれて来る。
嘆く王と父。
奇跡的に、立ち上がる瀕死のジョヴァンナ。
自分が魔女ではないことを言い、恍惚としながら、天国が開いた、マリア様が路を示してくださる・・・金色の雲に乗って、高みへ登ってゆくわ・・・・・と歌う。
一同が嘆いていると、空から眩しい光が差し込み、戻っておいでと天使の喜びの声と悪魔の天の勝ちだと敗北の声が聞こえてくる。
人々は、栄光のオルレアンの少女の亡きがらにひざまずく。
幕
勇ましい音楽がたっぷりで、これでもかというばかり・・・
ちょっと疲れるのも事実。
アリアの数々も少しばかり生彩に欠くような気が。
それでも、プロローグのカルロの技巧を駆使したアリア、夢見るジョヴァンナのアリア。
ふたりで、戦場に向かう場面の人の気持ちを煽動するような迫力。
1幕最初のジャコモの能天気なまでに美しいアリア。
終幕の親娘の二重唱の素敵な様子。
こんな風に、ナイスな箇所もたくさんありますが、なんたって、親父ジャコモの妙に定まらに性格が変。
その気まぐれと、天の言いつけに背いたジョヴァンナの運命がリンクしているわけだが、どうもその辺が生煮えで、前作の深い心情ドラマはどこへ行った?って感じです。
でも、やはりヴェルディ。勇ましい序曲も含めて、ヴェルディのオペラの歴史の中に、ちゃんと存在価値は認められると思います。
オモシロ言葉~冒頭の民衆の合唱で、「ちゃっちーなぁ、血だぁ~」って聴こえるところがあります(笑)
今回は、レヴァイン初期の頃の録音。
活きがめちゃくちゃよかった若きレヴァイン。
音楽は活気にあふれピッチピチの鮮度です。
根っからのオペラ指揮者を感じさせます。
3人のお馴染みの歌手も万全。
テカテカのドミンゴ。
ピアニシモが美しい、あざといくらいのカバリエ。
マッチョなミルンズ。
個人的には、ミルンズのなみなみとした美声と憎らしげな二面性がかっこよく、好きだな。
というわけで、「ジョヴァンナ・ダルコ」でした。
ヴェルディ・オペラ、ブログ全制覇まであと8作。
| 固定リンク
コメント
アップしておいでの輸入CD、フランスVSMの2C-165-02378~80と言う番号のLP、共に所持しております。アックスとの共演の、ブラームス『ピアノ協奏曲第1盤ニ短調』国内盤BVCC-38360の冊子解説によると、これがレヴァインの初録音らしいです。豪勢な歌手陣を巧みなオケ統率で引き立て、作品の若干の弱さを補って余りあります。強いて不満を申しますと、,70年代初期から前半のEMI録音にありがちな傾向ですが、明瞭さに欠けて細部が聴き取りにくい音質ですね。尤も初出時の例えばイギリスプレスですと、もっと聴きやすいかも知れませんね。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年5月21日 (火) 10時44分
いまは活躍の場を失ってしまったレヴァインですが、70年代は、ともかくイキがよかったです。
72年にロンドン響とザルツブルクでやった幻想交響曲をFMでエアチェックしました、ものすごく早くてかっこよかった記憶があります。
その頃の、こちらの録音が初録音だったわけですね。
EMIの録音は、つねにムラがありまして、せっかくの演奏が・・と思うときがしばしばあります。
投稿: yokochan | 2019年5月22日 (水) 08時41分