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2013年7月28日 (日)

ワーグナー 「ニーベルングの指環」① バイロイト2013

2013bayreuth

25日から始まった、ワーグナー生誕200年・没後130年のアニヴァーサリーに沸くバイロイト音楽祭。

わたしのワーグナーとの付き合いのなかで、聖地バイロイトにおける、そのアニヴァーサリーで、記憶に残るものは、1976年の音楽祭・リング100年の「シェロー&ブーレーズのフレンチ・リング」。
1983年の生誕170・没後100年の「ホール&ショルティのブリテッシュ・リング」。
ワーグナー・アニヴァーサリーではないけれど、2000年、「フリム&シノーポリのミレニアム・リング」。
いずれも、だいたい5年から6年周期で行われる「リング」新演出によるものばかり。
 もちろん、ほかの作品においても、初演年をリンクしたアニヴァーサリーはあったし、ウォルフガンク・ワーグナー亡きあとの、新体制スタートの年も記憶に新しい鮮烈さでありましたが、やはり新作「リング」の年は格別の思い出となります。

そしてなんといっても、1976年のバイロイト100年のシェロー演出はスキャンダラスであり、革命的であった。
大学生だったわたくしですが、いまでも鮮明に覚えてます。
情報伝達のスピードが、いまとは比べ物にならないくらいに遅いアナログ時代。
海外クラシックの情報源は、レコ芸や音友、FM雑誌、そして新聞の夕刊の文化欄ぐらい。
シェロー・リングのバイロイトでの、話題は、初年度は聖地では受け入れることのできないものとしてブーレーズの素人のような指揮とともに、非難の的となりました。
「シェローよ、何をする、何をしたのだ!」という、ジークフリートを殺したハーゲンに浴びせるグンターの台詞をもじった言葉が、各紙の冒頭を飾りました。

ところが、そんな情報が入ってくるのは、8月に入ってから。
舞台写真が見れたのは、9月とか10月。
そして、その音楽を日本で耳にすることができたのは、12月の年末のNHKの放送。
5か月にわたって、どんな演奏なのだろうという渇望を抱き続けなくてはならないのが、バイロイトのその年の様子なのでした。

ところが、なんということでしょう、いまや、ドイツのバイロイトでの上演の模様が、その日、その時のリアルタイムで確認できる時代に。
日本は夜中なので、そんな時にはストリーム放送。
期間限定で好きな時に聴ける。
そして、欧州の場合、画像の規制はそんなに厳密でないから、高画質の写真も手に入れることができる。
わたしも、それを拝借してブログに活用させていただいてますが、入手元を明記するようにはしてますものの、このあたりは微妙ですね。

さて、大アニヴァーサリーの新作「リング」の演出家は、フランク・カストルフ:Frank Castorf
という方。

Frankcastorf

このオジサンは、旧東側出身の演劇系舞台演出家。
これまで数々の賞をその舞台や、論文などで取ってきたみたいだけど、オペラ演出はあまりないみたい。
でもいまやそんなことは関係なく、演劇的な演出重視のドイツにあって、ヴィム・ヴェンダースの降板により、この人が選ばれたのは必定の出来事だったのか。
フライエ・フォルクスビューネというベルリン三大劇場を率いるカストルフは、かつて日本でもその上演記録があるようだが、社会主義を体感した自身の思いを舞台に反映させる人のようで、資本主義の曲がり角や、その終焉を眼目とすることが多いみたい。

いまのところの情報は、画像と、ドイツ紙のレポートのみだが、そこから推察できるのは、「アメリカ資本主義の行きつく先と、そこから逃れられない世界」とでも、私的には想像しました。

なんだかねぇ~

なにも聖地バイロイトの、記念すべき年に、こんな風なのを持ってこなくても。

「ワルキューレ」の第2幕で、ウォータンが、妻に正論でもって負かされ、自分の築いてきたものが、いまや敵陣アルベリヒの影の軍団に奪われようとしていることを悲嘆にくれ、「Das Ende, Das Ende!」と歌うが、それはまさに清き正しき古えのワーグナー芸術の「終末、お終い」なのか!

今回のリングの大きな捉えどころは、神々は資本主義をひた走り、アルベリヒらの地下軍団は対抗勢力としての社会主義。
そんな感じかな。
ふたを開けたら大違いかもしれませんが。。。。。

R1

黄金=指環は、いったいどこにあるんだ?

剣や槍、ドンナーの槌、金床などの「リング」につきものの象徴物は?

はなからそんなものを無視してしまう勢いの演出だから、ラインの乙女たちは、アメリカの娼婦となり下がってしまった。

R2

神々たちが住まうのは、60年代アメリカのR66沿いのモーテル。

ラインは、ちゃちなプールに、ウォータンはピンクのスーツの胡散臭いブルーフィルムの製作会社の社長。

R8

エルダを呼びだし、いかがわしい雰囲気と撮影隊。
ご丁寧にスクリーンで確認もできます、お客さんいかが?

巨人たちは、アメリカの労働者か。

R4

このアメ車を、神々さんたちに売りつけようというのか。

R10

どっちが先か?
ギャングに出世したのか、その逆か?
時系列不明の巨人たちのその姿。

R6

囚われのアルベリヒと、さらに金ぴかのミーメ。

ふたりとも捕まってしまうのは斬新すぎ。

R7

捕まるまえのアルベリヒ・ローゲ・ウォータンの三者会談。

アルベリヒが大事そうに持つアヒルちゃんが、お宝か?

しかし、捕らえられ、金品奪われたアルベリヒは資本主義に決裂するのだろうか・・・・

R9

どうもこれが原作にいうところの、神々のワルハラ城への入場というところか?

チープなアメリカン・ドリームを夢見る神様たちを記録中。

思いきり、写真だけで、想像を膨らませてみました。

こうしてあれこれ、思いを巡らせてみるのも、遠い日本にあっての今のバイロイトの楽しみ方。

音楽の方は、やたらと素晴らしいですよ。

長くなるので、「ワルキューレ」とともに、本日の次の記事で。

※画像は、バイエルン放送局のサイトから拝借しております。

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コメント

あかん^^;こういう演出、あかん^^;フランク氏は東ドイツ国立歌劇舞台演劇協会の理事(こういうポジションはないです)とかで国立スポーツ芸術省(この省もありません)から何度も栄誉賞とかもらってるエライ人なんでしょうね。国営放送を何年も見てると、こういう分からん演出をしちゃうんでしょうね。。。あかん警察に逮捕してほしいです。
バイロイト詣を生涯の目標としている私としては大いに失望してしまいます。昨今のモダンな演出はフルイ頭の私にはほとんど楽しめません。その中でもドイツ系のとりわけワグナー作品の演出は楽しめない。ヒドイ。。。その点ウィーン国立の演出はクラシックでオジサン向けで喜ばしい。
とにかく、指輪でこういう演出は困っちゃうなー(山本リンダです。リングとかけてみましたがムリすぎました。フランク氏の演出よりムリでした^^;)。

投稿: モナコ命 | 2013年7月28日 (日) 21時43分

スピード感のあるご紹介で、さすがです!なにげに、面白そうな演出かも、と思いました。あちらの演出は嫌われてなんぼ、というのもありそうですし、オペラシステム自体への批判も入っているのかなあ、などと想像しました。着飾ったお偉方がこの舞台を観ている姿を想像するのも、なかなか刺激的です。

投稿: Shushi | 2013年7月28日 (日) 23時08分

モナコ命さん、こんばんは。
ほんまにアカン、逮捕ものですが、最近こちらも慣れっこになってきてしまって、感受性がマヒしてしまったようです。
映像映えするような演出ですね。
というか、昨今の演出は、DVD化することも意識しているものが多く、舞台ではきっと細部にこだわりすぎて違和感とともに理解不能に陥るんだと思います。
バイロイトは、その素晴らしい音響を楽しむだけの場所になりそうです。
でも、ウィーンもそこそこヤバクなってきてるようですよ。時間の問題です。
アメリカと日本だけが伝統的な演出国家となるかもしれません。
新国のキース・ウォーナーのようなポップでありながらも、音楽をちゃんと理解した演出ならばリンダもOKかもです。

投稿: yokochan | 2013年7月29日 (月) 00時58分

Shushiさん、こんばんは。
バイロイトは、代変わりしてから、こうした傾向に拍車がかかり、そしてすっかり定着しました。
先を走っていたドイツのほかの劇場に追いついてまた、他がどんどん過激になっていく。
オペラを日常の楽しみとする老若男女が日々、どう思っているか知りたいところですね。

投稿: yokochan | 2013年7月29日 (月) 01時03分

yokochanさん

 おおっ!!、懐かしいバイロイトの風景ですね!!。18年前住んでいた頃一度だけ、確か150マルクでしたがチケットが手に入り、タンホイザーを最前列で観た一生の思い出が湧いてきます。
 ただ、この演出は??。この翌日のも拝見しましたが、翌日のはなかなか良いのでは?
 この続きを期待しております。

投稿: 安倍禮爾 | 2013年7月29日 (月) 18時00分

安倍禮爾さん、こんばんは、どうもご無沙汰してます。
バイロイトの丘のこの劇場を見ると、お住まいになってらっしゃったという安倍禮爾のお名前をいつも思い出します。
昨夜も、たまたま、劇場内部まで、取材することができたという方にお会いし、涎を流していたばかりです(笑)。

ワルキューレは、ブーもなく、すんなり終わった様子です。
ジークフリートはまだ最後まで聴いてませんが、先行画像を見る限り、違和感と笑止的な雰囲気ですよ。
週末にレビューします。

投稿: yokochan | 2013年7月30日 (火) 23時18分

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