ファリャ 「スペインの庭の夜」
浅草の夕暮れ。
華やかな仲店通りよりは、ぐっと落ち着いた伝法院通りの方が、宵闇どきはいい。
さらに、まだ明るいうちから飲めてしまう、煮込み横丁なんてのも最近は素敵なもんでさぁ。
浅草の夜は早ぇえ、てやんでぇ、長っちり(尻)はいけねぇぜ、旦那っ!
ファリャ 交響的印象「スペインの庭の夜」
ピアノ:ティモン・バルト
サー・ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
(1993.2@アビーロード・スタジオ、ロンドン)
ジャケットが、メイン曲の「三角帽子」なものだから、今宵のムーディなスペイン情緒あふれる曲とそぐいません。
しかし、イギリス紳士たちが襟を正して演奏しようと、なにがあっても、ここに聴かれるファリャの音楽は、スペインのそれ、そのもの。
ファリャ(1876~1946)は、その生没年からいったら、ドイツでは後期ロマン派~世紀末系、フランスでいえば印象派~近代といった時系列に属する人ですが、パリに学んで、フォーレ、ドビュッシーやラヴェルらとも親交をまじえながら、戦争の開始により、生まれ故郷のスペインのアンダルシア地方に居を移し、そこでスペインを常に思いつつ、作曲にいそしんだものの、最後は独裁フランコ政権の誕生で、アルゼンチンに亡命して、そこで亡くなっている。
最初から最後まで、スパニッシュ系のラテンの血とともに生きたファリャの音楽には、先にふれたとおり、これぞスペインという熱いたぎりと、独特のリズム、それに新古典的なシンプルさも加わって、ほかの誰ともことなるユニークなものとなってます。
特定の曲しか聴いてませんが、「三角帽子」や「恋は魔術師」のバレエと並んで、オペラ「はかなき人生」などは、スペイン情緒ムンムンななかに、ヴェリスモ的な情熱と甘い感傷が入り混じった名品です。
そして、さらに、わたくしが好きなのは、「スペインの庭の夜」。
以前、決定盤ともいえる、ラ・ローチャ盤を取り上げてます。
ピアノ協奏曲的な側面もあるこの曲。
アラビアの治下にあってエキゾティックな文化がとりわけ栄えた南スペインのアンダルシア地方。
3つの場面からなる、それぞれの地のまさに印象を幻想風に扱ったもので、グラナダの名所旧跡を思いつつ聴くと、まさにその情緒満点ぶりに、リスニングルームの蒸し暑い日本の夏が、物憂くけだるいアンダルシアの夏と化してしまうことでしょう。
1. 「ヘネラリフェ(庭園)にて」
2. 「はるかな踊り」
3. 「コルドバの山の庭にて」
1は、、まさにアルハンブラ宮殿。
すべての色彩が濃い。夜の音楽だけども、静かな中にも空気は濃密で、鼻腔をくすぐる花の香りと、おっと、黒髪のスペイン女性すらそこに・・・・・。
2は、遠くに聴こえるスペイン舞踏曲を、けだるい思いでやり過ごすの図。
時おり、リズムが高鳴り、興奮を呼びさます。
3は、ピアノのもろスペイン調のソロがたまらなく異国情緒を醸し出して、ときにセクシー。
イスラム調の建築物に漂ういにしえの雰囲気、スペインの夜のミステリアス感と、庭から漏れてくる甘い誘惑の香りとが聴く者を惑わせてくれる・・・・・。
夏の夜の音楽としては、これもまた定番のひとつでしょう。
昨日のイギリスとスペイン、こうも違うものなのか。
スペイン音楽が不思議とお似合いの、サー・ネヴィル。
アカデミーとの英国コンビとは思えないスペイン調だけど、やはりそこはマリナーさん。
すっきり爽やかで、最近名前を聴かないバルトのピアノもよいですよ。
音楽による旅は楽しいものです!
| 固定リンク
コメント