チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 ポゴレリチ&アバド
今週の蒸し暑い中日の東京駅。
ほんとに湿度もたっぷりの暑い毎日だったし、いまも継続中だし、どうなっちゃうんだろ。
でも、この丸の内の行幸通りに立つと、皇居から東京駅舎まで、気持ちのいい風が吹き抜けました。
高貴なる風の通り道に、気持晴れる思いでした。
チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調
Pf:イヴォ・ポゴレリチ
クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団
(1985.6 @ワトフォードタウンホール、ロンドン)
何年ぶりかで、真剣に聴いたチャイコフスキーのピアノコンチェルト!
まじで、感動した。
なんて、詩的で、自由な発想に満ち溢れているんだろう。
幻想協奏曲と読んでみたい。
たしかに、初演者もたじろがせるほどに、超絶的な技巧が駆使された協奏曲ではあるけれど、そんな小手先の実感ばかりでなく、チャイコフスキーの交響曲がそうであるように、形式に収めこんだ構成感と、あふれ出る民族的感情、きたるべく後期ロマン派の前触れと、正統西洋ロマン派&ロシア・ロマン派とのせめぎ合い。
耳当たりのいいチャイコフスキーには、そんな複雑な要素がからみあっていて、鋭い感性の演奏家たちが真剣に取り組んだ場合に、チャイコフスキーがマーラーと同時代であったことを鋭敏に感じさせたりもする。
ポゴレリチの、念入りかつ情念的な解釈は、ヴィルトーソ的な存在とはまた別に、驚きの深淵さを漂わしていて、1楽章の長大なカデンツァでは、思いきり別の次元に聴く者の心を持ってかれてしまう何かがある。
その何かが、録音後もう30年近くを経過し、あざとさが先行するように感じられてしまうことを、FMやネットで確認しているのだけれど、ポゴレリチの最良のこの80年代の演奏に、異を挟む気持ちなど、コレポチもありません。
ともかく、この自由さ、フリーダムを謳歌するピアノには、窮屈な日々を送る聴き手に、明るさと先々の見通しの良さを開示するような説得力があります。
アバドとLSOの、完璧極まりいないポゴレリチの音楽への共感と、そのソロを際立たせる共演ぶりにも驚き。
ロンドン響の響きの厚さと繊細さ、各奏者のナイーブなまでの伴奏への徹底ぶり。
それもこれも、アバドの俊敏なまでの、ピアノソロへの反応ぶり。
後年のアルゲリッチとの共演ぶりとまったく異なるアバドのチャイコフスキー。
万人向きではないけれど、いくつかチャイコのピアノ協奏曲を聴いたあとに、聴いて欲しい演奏のなかのひとつであります。
ロンドンのプロムスの紹介のなかで、いまさらながらに気がついた、没後120年のチャイコフスキー。
聴き古したと思っていたこの曲。
本日、じつに鮮烈に、わが若き日々のこの曲の体験を思い起こしてくれました・・・・。
①コンサートホール・レーベルのマガロフとオッテルローのレコード。
②N響アワーでの、ウラディミール・ソコロフとN響(森正)との共演。
③カラヤン&ワイセンベルクの映画&ワイセンベルクとN響のテレビ放送。
④リヒテル&カラヤン、ウィーン響のレコード
⑤アルゲリッチ&デュトワ、ロイヤルpoのレコード(FM放送)。
こんな思い出をすらすらと書きしるすことができます。
いずれも40年くらい前という、いにしえぶり。
最近のこの曲の演奏は、どんな風なのでしょうか?
70年代オジサンに教えておくれでないか?
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コメント
私も、この曲を聴いてました。
オグドンとモントゥーのライヴでしたけど・・・。
夏の暑い夜には、昔から馴染みの曲を聴きたくなるようです。
ポゴレリチとアバドの共演を聴いたのも夏の盛りだったようです。
たまに聴くと、やはり名曲ですよね。
投稿: 親父りゅう | 2013年7月14日 (日) 00時13分
チャイコフスキーって、初心者向きといわれて敬遠しがちですが、オペラや声楽曲を聴き、ほぼ全曲を聴いてみると、改めてこの作曲家が偉大な西洋音楽の歴史の中でも、真に偉大な音楽を創造した人なのだということを感じずにはいられません。新潟で、アマチュア・オーケストラと共演したイリーナ・メジューエワのソロを聴いて、この協奏曲がピアニストの芸術性を余すところなく開示する音楽であることを実感させられます。
僕も、イーヴォとアバドの演奏は、この協奏曲の最高の演奏の一つ-否、オンリーワンの演奏であると常々思っていました。出来うれば、リミックスしてSACD化くれたら嬉しいな。ライヴのイーヴォのピアノの響きのゾッとする美しさは、比類ないものですので。
※確かに変てこな解釈をし勝ちなイーヴォですが、何度も聴きたいピアニストですね。テクニックはもちろん、ピアノという楽器をこの人ほどスケール大きく弾く人は他にいません…。
投稿: IANIS | 2013年7月14日 (日) 03時20分
お早うございます。初心者向けどころか、「感傷的なだけの安手な音楽」などと馬鹿にする人までいますよね。チャイコフスキー。黒田恭一さんが「美しい旋律が最も美しく聴こえるように創られてるんだよチャイコフスキーの曲は」と何かの雑誌で書いていたのを思い出しました。ポゴレリチ&アバドは未聴ですが、吉田先生が発売当時雑誌で絶賛していましたね。イーヴォのピアノは新ウィーン楽派みたいに聴こえると言ったのはいえよう先生だったと思いますが…欲しかったけど買い洩らした一枚です。
私が初めて聴いたこの協奏曲はアシュケナージがまだソ連にいたころソ連の指揮者&オケと共演した演奏でした。コンスタンチン・イワノフだったかな?有名なコンドラシンと共演したのは聴いたことがないのです。好きなのは若き日のアルゲ姉さんとデュトワが共演したやつです。アルゲさん、別府でパッパーノと共演して数年前この曲をやりましたが、相変わらずの天才ぶりでしたね。リヒテル&カラヤンのももちろん好きです。最近のこの曲の演奏傾向についてお応えすることは私にももうできません。申し訳ありません。
投稿: 越後のオックス | 2013年7月14日 (日) 03時49分
私の刷り込み演奏は、キング・世界の名曲1000シリーズのハンゼン(p)、サヴァリッシュ指揮RIAS交響楽団で、第2楽章冒頭のフルートの旋律が通常と違うので、後日他の演奏になかなか馴染めず困りました。
今回記事のポゴレリチ&アバドは、特に静かな部分の表現が丁寧で、曲の偉大さが味わえる逸品と思っております。
投稿: faurebrahms | 2013年7月14日 (日) 09時53分
親父りゅうさん、こんばんは。
ジョン・オグドンとはまた懐かしい名まえですね。
中高時代、よくEMIの音源を、たしかアニエバスとともに飾っていたビルトーソ・ピアニストです。
思いのほか渋く感じた、ポゴ&アバドのチャイコフスキー。初出も夏でしたか。もう覚えていないところが悲しいですが、いまもって、録音も含めて最高の1枚だと思います。
投稿: yokochan | 2013年7月14日 (日) 23時58分
IANISさん、こんばんは。
そうなんですよね、チャイコフスキーの音楽の立ち位置は、交響曲や管弦楽曲ばかりでなく、オペラと歌曲にその深遠さと劇的・緻密な創作能力の真髄を感じます。
わたしも、オペラ制覇を目指して数々併行して聴いてますが、メロディの宝庫であるとともに、劇の本質を見抜く能力に舌を巻いております。
マーラーに近い存在ではないかと。
このCDの音の素晴らしさは特質ものですね。
オケがシカゴみたいな求心力を感じるところも、アバドとポゴ君の一期一会でしょうか。
ショパンの2番は曲が足を引っ張りましたが、このチャイコは曲・演奏・録音の3拍子揃った名品でしょうね。
ポゴレリチの生は、聴かなくてはなりません。
いまならバッハを聴いてみたいです。
投稿: yokochan | 2013年7月15日 (月) 00時12分
越後のオックスさん、こんばんは。
クロキョウさんのお言葉は正しく、チャイコフスキーを評してますが、最近、わたしは、マーラーのような複雑な内面性を備えつつ、それを音楽ににおわすようなとこに着目するようになってきました。
アシュケナージにもそのような若き日の演奏があったのですね。マゼールとの、これも若いころの録音以来、手がけてません。
かつては大家もたくさん録音してましたが、最近は若手もあんまり録音しなくなったように感じます。
かつてはカラヤンのような人がいて、若手を抜擢して何度も録音していた曲目なのですがね。
投稿: yokochan | 2013年7月15日 (月) 00時33分
faurebrahmsさん、こんばんは。
キングの名曲シリーズ、ありましたね、覚えてます。
もりだくさんの詰め込みのLPもあり、お得なシリーズだったと記憶しますが、ハンゼン&サヴァリッシュのものは知りませんでした。
ダイアモンドシリーズもそうですが、いまあらたにワンコインぐらいでオリジナル復刻してくれたらヒットすると思うのですが。
そして、この曲のこの演奏、おっしゃる通りに静かな部分の詩的な演奏の素晴らしさ。渋すぎるほどに偉大な演奏でありますね。
投稿: yokochan | 2013年7月15日 (月) 00時42分