ワーグナー 「ニーベルングの指環」④ バイロイト2013
緑の丘に響き渡る、ワーグナーのライトモティーフ・ファンファーレ。
劇場のバルコニーから、各幕の開幕を告げる金管ファンファーレは、放送の頭にも使われてまして、少年時代からおなじみ。
かつてのシンプルなものから、変化しつつあるような気もします。
いずれにせよ、演奏だけを聴いてるかぎりは、毎度書きますように、画像をみて、あれこれ想像をめぐらすのみ。
ワーグナー 「神々の黄昏」
ジークフリート:ランス・ライアン ブリュンヒルデ:キャスリーン・フォスター
グンター:アレキウサンダー・マルコ・ブルマイスター
ハーゲン:アッティラ・ユン アルベリヒ:マルティン・ウィンクラー
グートルーネ:アリソン・オークス ワルトラウテ:クラウディア・マーンケ
第1のノルン:オッカ・フォン・デァ・ダムラウ
第2のノルン:クラウディア・マーンケ 第3のノルン:クリスティアーネ・コール
ウォークリンデ:ミレッラ・ハーゲン ウェルグンデ:ユリア・ルーティグリアノ
フロースヒルデ:オッカ・フォン・デァ・ダムラウ
キリル・ペトレンコ指揮 バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
合唱指揮:エバーハルト・フリードリヒ
演出:フランク・カストルフ
舞台装置:アレクサンダー・デニュク
衣装:アドリアーナ・ブラーガ・ベレツキ
照明ライナー・カスパール
(2013.7.29 @バイロイト)
運命の女神、ノルン3姉妹は、どこか場末の劇場の歌手たちみたい。
しかもなに、そのお顔の血は?
運命の手綱を紡ぐなんてお話は、もう遠い遠い昔のことなのね・・・・・。
甘ちゃんの坊やを諭す母は、坊やにもっと世界を見ておいで、と語るのでした。
一方、違う世界のギービヒ家は、ニューヨークのスラムっぽいビルの狭間にあるバーガーショップだ。
パンクないでたちは、こんな連中からワーグナーの音楽が歌われることを強く拒絶したくなるもの・・・・。
ここへ到着したジークフリートと店主グンターは、血の誓いでもって、いやケチャッップの誓いか・・・兄弟に契りを結ぶ。
しかし、うしろにある旗が気になる。トルコと何?
まめぶ、いや、ケパブもある。
テレビデオもあるのは、1980年代か?
ブリュンヒルデの岩屋は、トレーラーハウス。
衣装も取り揃えました。どこぞの国からやってきた妹との会話。
第2幕~ブリュンヒルデをどのように籠絡した不明なれど、これは一足早く帰ってきて、グートルーネといちゃつく、無邪気なジークフリート君。
アメリカーンな光景じゃありませぬか。
野郎ども、これから目出てぇ催しものがあるぜーーーッ。
とハーゲンの呼びかけに集まったのは、パンク集団じゃなくって、予想に反した陰気で暗いオジサンたち・・・・・。
さきのグンターのお店は、「ドンナー・ハウス」だってさ。
しかし、どんな演出でも、バイロイトの合唱団は超強力ですな!
ブリュンヒルデの告発に、やたらと興奮している風のグートルーネを義兄弟ふたりが必死にとどめる図は、滑稽の極み。
そういえば、槍はどこだ?
そんなもん、あるわけねぇ!
黄昏を観たり、聴いたりするとき、だまし、だまされの、この2幕の緊張感が、たまらないのであるが、画像を見る限り笑止ものだな。
ブリュンヒルデが、ばかにされたグンターに、ジークフリートへの復讐をそそのかす場面では、「Siegfried Tod」の言葉は、いとも軽々しく歌われる。
第3幕冒頭では、これまたこんなふうになっちゃったラインの乙女たち。
わたしのイチオシ、ミレッラ・ハーゲンちゃんは左から2番目。
ラインの川面で戯れ、ジークフリートをからかう風には見えませんな。
そして、ジークフリート君は常に神経質そう。
もう、世の中、嫌になっちゃった風情ですよ。
瀕死のジークフリートは、この期に及んで、まだまだ弱々しい。
憐れももよおすこの死にっぷり。
ここでも、案の定、銃声らしきものが・・・・。
こちらは、指環だかなんだかしらんが、取りあいの末、義理の兄を叩き殺したハーゲン。
ぼこぼこにしてる音も聴こえますがな・・・・・。
まるで無法の悪ガキ・ギャングだがな。
おびえるグートルーネも少女風。
そこに厳かに登場せしはブリュンヒルデだ。
パンカーたちの中にあって違和感たっぷりだが、これが本来か?
それにしてもオバサンだな。
大団円は、実在するリアル、ニューヨーク証券取引所。
なんじゃこりゃ?
ここで、あの崇高なる自己犠牲の音楽が流れるのでありました。
もうこの読み替えを、ひもとき、想像することも嫌やだな。
1987年のブラックマンデーかいな?
アメリカの資本主義、夢は、一夜で崩壊するってこと?
まぁ、どうでもいい。
ワーグナーの音楽を、これら4回の舞台から想像し聴きとることは不可能。
唯一、ワルキューレがまともだった。
毎度思うことだが、こうした演出を否定するつもりはなく、そこにワーグナーの音楽があれば、すなわち、その音楽を殺さずに、理解したうえでの演出ならば由としたい。
だけど、これは好きじゃない。
面白そうだけど、面白いだけに終っていそう。
ワーグナー音楽の懐の深さを、かえって捻じ曲げることになったのでは。
つくづく、シェローや、G・フリードリヒ、クプファー、そしてトーキョー・リングのK・ウォーナーが懐かしい。
軽量級の歌手たちは、それなりによく歌ってます。
歌より演技に力が傾きがちなところもあるかも。
ライアンの声は相変わらず好きじゃない。
グンターのブルマイスターは、このなかでは一番のベテラン。
軽め・明るめだけど、この人は好き。
バイロイトで活躍が目立つ韓国系。ユンもそのひとりで、耳当たりのよさと言葉の確かさは、彼らの民族の強みか。いい声してる。
そしてブリュンヒルデのフォスターは、ワイマールのリングのDVDに出ているようで、ドイツでの実績をバイロイトで開かせたわけだが、黄昏の長丁場はお疲れぎみ。
しかし、同時進行プロムスのシュティンメと比べると、とくに彼女が急速に素晴らしくなっただけあって、声の魅力、アーティキュレーションともどもに大きな開きがあり、細やかな歌いぶりだけど、微妙にフラットしてます。
いまや最高のブリュンヒルデ&イゾルデになったシュティンメと比較しちゃ気の毒ですが、フォスターさんも、これからバイロイトでその声を磨いてゆくことになるのでしょう。
頑張って欲しいものです。
ペトレンコの指揮は、黄昏でも、万全の運転ぶりで、音は磨き抜かれていてオーケストラはきれいに、鳴りっぷりもよく、祝祭劇場の響きもまんべんなく楽しめます。
外観上は、レヴァインのように、ヘルシーで音が隅々までよく整理されていて、音楽の面白さを味わえるし、無理のない運びは、きっと歌手にとっても歌いやすいのでしょう。
しかし、音楽への踏み込みはもっともっと深くあって欲しいところ。
バレンボイムの勇み足を、先日書きましたが、でもやはりこうして全部聴いてみると、ペトレンコの力負けは明らかでした・・・・。
この演出とともに、5年間は、お付き合いすることとなるペトレンコの指揮。
こちらも、これからますます良くなっていくことに期待です。
神々の黄昏の激しいブーイングが早くもyoutubeに。
いずれ削除されるでしょうが、お借りしておきます。
音源でも、あの感動的な救済の動機が終りざま、即座のブーまたブー!
ブーもひとつの勲章でしょうが、このプロダクション、今後どのように受け入れられ、あるいは手直し・変化をしてゆくことでしょうか。
どうしようかしらねぇ~
エヴァとカトリーネさん。
2015年には、ワーグナー姉妹ふたりの契約上の任期も切れます。
おそらくその血筋を守るという前提のもとに再契約になるのでしょうが。
「やっぱりあの人に賭けるしかないわねぇ。」って、え?
ファッファッハ~
この怪しい男は、ヨナタン・ミーゼ(Jonathan Meese)さん。
2016年の「パルシファル」の新演出はこのお方に。
1970年、なんと東京生まれのドイツ人、画家・パフォーマーさん。
やばいよ、この感じ。
夢のバイロイト詣で。その気持にも陰りがさしてきたぞ・・・・・。
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コメント
やめたやめた。バイロイト詣とか。夢見ていた自分が愚かだった。もうやめたやめた!
前にも同じ感想を書き込みましたが、、、、
心のどこかで「いやいや、バイロイト音楽祭が、そんなハズはない!ネットの情報を鵜呑みしちゃいかん。バイロイト詣はワグナーファンの悲願。私も日々精進して、功成り名を遂げて帰郷し、生きている間に必ずやバイロイト詣を」と思っていました。
こんなんなんですね^^;無理です。はい、無理っす。
ドイツ人は自分の伝統文化をなぜドブに捨てることを良しとするのか。同じことを私たちは歌舞伎でやらないよ?さまよえる様のご指摘のように、アメリカの場末の劇場で同様の演出がされるならまだしも、なぜバイロイト音楽祭でこんなことを?
やっぱ無理です^^;だめっすね。
どっかでやってないかなー。ちゃんとしたワグナーの演奏と上演。
さまよえる様、みんなでお金を集めて日本で理想の指輪を上演する計画を立てませんか?^^;
投稿: モナコ命 | 2013年8月 8日 (木) 04時28分
モナコ命さん、こんばんは。
雨の方はいかがですか、心配しております。
そして、バイロイトもご覧のとおりの状況です。
それでも、かの地のしきたりは、劇場の響きは聴いてみたいとと思う気持ちは捨てられません。
でも、高いお金を使ってまで、こんなアホみたいな舞台をみせられることにも腹がたちます。
ドイツ人は優秀ですが、日本は、そんなドイツのオペラ界を追いかけずに、新国では、ほどほどにとどまっているところが慶賀とすべきか、憂えるべきか、それはもう個人の判断ですね。
時期監督、飯守先生のもとであれば、もしかしたら、世界の憂えるワーグナー好きを惹きつける上演の数々を、われらが東京で成し得るかもしれません!!
ご一緒に、理想のワーグナー事業をするのは、そのあとからでも遅くありませぬ!
新国が神々の黄昏を救済する!
夢のようです!
投稿: yokochan | 2013年8月10日 (土) 00時00分