ワーグナー 「ニーベルングの指環」 ベルリン・ドイツ・オペラ来日公演記録 ①
ワーグナー 舞台祭典劇「ニーベルングの指環」
ヘスス・ロペス・コボス指揮 ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団/合唱団
演出:ゲッツ・フリードリヒ
舞台装置・美術:ペーター・ジコーラ
(1987年 10月30日、11月1日、4日、7日 東京文化会館)
ニーベルングの指環の通し上演、その日本初演が行われたのは、いまから26年前のベルリン・ドイツ・オペラの引っ越し公演。
10月17日から11月15日までの1か月間にわたって、3サイクル。
1回目は、横浜の県民ホールで、残り2回は東京文化会館。
ゼルナーに次いで、ベルリン・ドイツ・オペラの黄金時代を築いたG・フリードリヒの斬新な演出はその年、ベルリン市制750年の記念上演をそのまま、日本の劇場サイズに合わせて持ち込み、指揮は、音楽監督ロペス・コボス(Ⅰ・Ⅱ)、ハインリヒ・ホルライザー(Ⅲ)。
歌手も、豪華なベルリンのチームをそのまま。
ちなみに、この来日では、フィデリオをコンサート形式で全曲、ワーグナーコンサートなどを3回も演奏している豪華版。
いまでは考えらえない、まさにバブル期の出来事。
当時、まだぎりぎり20台だった私は、その薄給に鞭を打って、2回目のサイクルをS席の通し席で観劇しました。
これまでのあらゆる音楽体験で、その感銘は、最上位にくるほどの忘れ得ぬもので、いまでも数々のシーンや歌声が脳裏に刻みこまれております。
(ベルリンでの舞台)
ステージにタイムトンネルを据えて、そこから登場人物たちを出入りさせることによって、時空間を舞台上に再現してしまった、G・フリードリヒの秀逸な演出。
その装置をベルリンからそのまま持ち込もうとしたら、日本の文化会館の奥行きにはその長さが収まりきれず、わざわざ日本向けにストレートでなく、折り曲げたトンネルを製作するという本格的な対応。
こうしたことで、遠近感は薄れたものの、客席から見ていて、トンネルの奥から出てくる人物の影が側壁の写しだされ影が大きくなって近づいてくる、そこにその人物なりのライトモティーフがオーケストラピットから立ちあがってくると、その素晴らしいほどの効果に震えが来るくらいでした。
当時から、音楽日誌を書いていて、そこそこ詳細に舞台の印象もありましたので、ワーグナー生誕200年の今年、ここにその記録に少し手を入れて残しておきたいと思います。
「ラインの黄金」 10月30日
ウォータン:ロバート・ヘイル ドンナー:ゲルト・フェルトホフ
フロー:トニー・クレイマー ローゲ:ジョージ・シャーリー
フリッカ:ダイアン・カリー フライア:ケイ・グリーフェル
エルダ:ヤトヴィガ・ラペ アルベリヒ:ゴットフリート・ホルニク
ミーメ:ホルスト・ヒーステルマン ファゾルト:マッティ・サルミネン
ファフナー:ベルント・ルントグレン ウォークリンデ:キャロル・マローン
ウェルグンデ:バーバラ・フォーゲル フロースヒルデ:アニタ・ヘルマン
幕が開くと、奥へ続くタイムトンネル。
白い大きな布をすっぽりとかぶった人が(おそらくリングの東京人物を意味するのか)、ところどころに、立ち、または座っている。
オーケストラボックスは、1分間ほど、真っ暗。したがって無音。
そこから、低音で、あの開始音が始まる。
波のモティーフが盛り上がってくると、さきほどの人が、一人立ち、二人立ち、手前の布から上へ下へ動き、奥まで3枚ある白い布が、波のようにうねる。
その奥では、ラインの娘たちが、布をまとい走り回っている。
宇宙服を着たアルベリヒ登場。
ラインの乙女が、ときおり前へ出ては誘惑。
黄金は左右に動く、オレンジ色に輝く宇宙ゴマのよう。
アルベリヒは下からその玉を思いきり掴んで、右側に消える。
そのとき、突然にして波は消え去る。
ワルハラの動機とともに、いつのまにかウォータンが舞台で寝ている。
奥のドアから、フリッカが登場。その奥は紗幕がかかり、七色の光を受けたワルハラ城。
形は多方形の城。
ウォータンの動きは激しく活発。
巨人登場。高下駄を履き、ガタガタと歩く。手には鉄パイプ状の杖。
神々は、それぞれにベネチアの謝肉祭または舞踏会のような仮面をつけている。
フライアは連れ去られるときに、ウォータンは下界へ行く決心をしたときに(ローゲはそれを拾う)、ほかの3人は、ウォータンとローゲが下界から帰ってきたときに、その仮面を外している。
ニーベルハイムには、紐をつないでふたりで降りてゆく。
ニーベルハイムでは、左手からコンピューター付きの錬金工場が出てくる。
テレビが6台ついて、光眩い。(※当時はPCなどは一般的じゃなかったからテレビなんていっちゃってる自分)。
ベルトコンベアで黄金が上がってくる。
アルベリヒはマシンのカウンターで、機械操作してあれこれ指示している。
そこへ、右側の階段からウォータンとローゲが登場。
アルベリヒは、胸にチーフを射したスーツ姿で、ちょっとした成金タイプ。
かくれかぶとの場面では、驚いたことに見事な大蛇が出てきた。
カエルは、カウンターの上をほんとに、ぴょんぴょん跳ねてる。客席に背を向けカエルを捕まえる二人。そこはカウンター越しにカエルと思いきや、アルベリヒの手をつかんで引きずりだした。
小人たちは、ほんものの子供。ライト付きのヘルメット装着。
上の世界へ連れ出されたアルベリヒ。
紐に繋がれ、西部劇の悪人のよう。
タイムトンネルの穴は奥にふたつ。
囚われのアルベリヒ、指先をかざすと小人がぞろぞろと黄金を運んでくる。
ウォータンは、アルベリヒの手を槍で無理やり切り落としてしまい、その手は、ローゲがつかんで、わきのの方へ投げてしまう。
そう、縄や槍は、左右に武器置き場があったのだ。
巨人は大きな布を持ってきて、そのうえに黄金を乗せる。巨人はしゃがむことができないので、フライアが手伝う。
ファフナーは、かぎ型の金具の付いた杖の先で、上手に黄金をさばき、兄弟ふたりで引っ張ってゆく。
エルダは下からでなく、舞台奥から出てきて右袖に去る。
黄金を与え、フライアが戻ると、神々は輪になって談笑していて、笑う。
その間に巨人たちは兄弟喧嘩するわけ。
ドンナーはまん中に出てきて、スポットライトを浴びて雷を呼ぶ。
雷は、ほんとうにすごい音響だったし、照明もすごい。
続くフローの場面も、同じスポット。虹色のワルハラ城がくっきりと見えている。
そして、ウォータンと交代。
神々の入城は、それぞれ手を真横に広げ、二歩進み、二歩軽く下がる・・・という感じで進む。
ローゲは横で、笑っている。
あげくのはて、入城には加わらず、舞台左の袖から退場して幕。
以上、日記よりの転載。
多分に、稚拙で肝心な点を見逃してる感もありますが、そのまま書き写しました。
指揮や歌手のことは、最終でまとめてありますが、このラインの黄金で、初めて接して驚きだったウォータン役のロバート・ヘイル。
ヘイルは1938年テキサス生まれのバスバリトンで、地元やNYシティオペラでレパートリーを作り、その後ドイツで活躍したが、まさにドイツにて名をあげつつあった時の来日でありました。
録音も、デッカが途中で断念してしまった、ドホナーニのリングのウォータンと、オランダ人、そしてサヴァリッシュのリングの映像にもウォータンで出ております。
なめらかな美声と、押しの強いバス・バリトンの声は、文化会館に、大オーケストラを圧するようにして響きわたったのでした。
続く。
| 固定リンク
コメント