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2013年9月 8日 (日)

ワーグナー 「ワルキューレ」 ゲルギエフ指揮

Tokyotower_shiba_2_2

もう終わってしまったけれど、赤いバラに、東京タワーはとてもお似合いです。

思わずハートマークが浮かんでしまう情熱や愛情を感じさせる赤いバラなのです。

Walkure_gerugiev

     ワーグナー   楽劇「ワルキューレ」

  ウォータン:ルネ・パペ           ジークムント:ヨナス・カウフマン 
  ジークリンデ:アニヤ・カンペ       フンディング:ミカイル・ペトレンコ   
  ブリュンヒルデ:ニナ・シュティンメ     フリッカ:エカテリーナ・グバノヴァ

  ゲルヒルデ:ジャンナ・ドンブロフスカヤ ルトリンデ:イリーナ・ヴァシリエヴァ
  ワルトラウテ:ナタリヤ・エフタフィエヴァ 
  シュヴァルトライテ:リュドミラ・カヌンニコヴァ
  ヘルムヴィーゲ:タチヤナ・クラフツォヴァ 
  ジークルーネ:エカテリーナ・セルゲーエヴァ
  グリムゲルデ:アンナ・キクナーゼ     ロスワイセ:エレーナ・ヴィートマン


    ヴァレリー・ゲルギエフ指揮 マリインスキー歌劇場管弦楽団

          (2011.6,2012.2 @マリインスキー・コンサートホール)


音源によるワーグナー作品の全曲シリーズ。

4部作「ニーベルングの指環」の序夜である「ラインの黄金」は、すでに6月に「ヤノフスキ盤」にて取り上げてます。
少し間が空きましたが、今回のリングチクルスは、できるだけ新しい演奏を取り上げ、現在のワーグナー演奏を確認してみることにもあるのです。
前回の「ライン」は、ワーグナーのベテラン指揮者、二度目のリング、しかも同一オーケストラで、ワーグナーの主要作品をすべて演奏し、ライブ録音していくという音源史上かつてない試みの一環。
ワーグナーを知り尽くした、隅々まで目配りをしつつ、高密度・高精度の演奏。
録音も最高級。

そして、第1夜「ワルキューレ」で選択したのは、ゲルギエフ盤

このブログをご覧の方々で、この選択に、?をお付けになる方もいらっしゃると思います。
だいたいにおいて、ゲルギーのことを信用してない。
というか、わからない。何度か実演も聴いているが、さっぱりわからない。
ちっともいいと思わない。
せわしなく、さらさらと流れて、いつのまにかゴンゴンと終ってしまう。
だまされた、どうも胡散臭いという雰囲気を感じてしまうのが常でした。

Walkure_gergi

そして加えて、2006年に行われた手兵キーロフ(マリインスキー)オペラとの来日「リング」上演。
本来なら無条件で飛びつくのに、ゲルギーだし、歌手はロシアのむにゃむにゃしたような名前の人たちばかり。これには触手が伸びませんでした。
しかも、この公演、11日間で、2サイクルをやるというエネルギッシュぶり。
さらに、頭を抱えたくなるようなヘンテコ風な舞台写真。

それらがいまでもトラウマにあることは間違いないことですが、それを乗り越えて、聴いてみたかったのが、ここに集った歌手たちの名前です。
ワルキューレたちは、マリインスキーのメンバーですが、主要な役柄は、いまをときめくワーグナー歌手たちが網羅されてます。
これを手始めに、この歌手たちによって「リング」4部作が録音されそうで、歌手たちのゴージャスさでいえば、近来にないものになるといえると思います。

そして、歌手に関しての期待は半分は満足できるところとなりました。
なんといっても、聴きたかったのが、カウフマンのジークムント。
初めてその声を聴いたときから、このバリトンがかったほの暗い声は、まさにジークムントと思ってきました。
その思いはここにかなえられ、ロブストな力強さも加わって、悲劇臭ただよう真っすぐなジークムントが誕生しておりました。
欲を言えば、カウフマンの声、というか歌い口には、少しの甘味さがあって、それが悲しみのジークムントの姿とは若干違うところか。
ヴィナイやキングやホフマンといった耳にこびりついた声を払拭できないのは、そのところ。

一番素晴らしいのが、予想通りに、シュテンメのブリュンヒルデ。
現代最高のブリュンヒルデ、イゾルデの歌声をここに完璧な録音でもって聴ける喜び。
声の表現の幅が大きく、どこまでも余裕を感じさせる高域と低域。
ニルソン、リゲンツァ、ベーレンスに並ぶドラマティックソプラノの完成系をここに聴く。
2幕における、ジークムントへの死の告知の場における気高さと神々しさ、3幕の父への必死の懇願。聴いてて涙が出てきました。

同じく泣けたのが、これもまたひっぱりだこのカンペのジークリンデ。
慎ましいタイプのジークリンデでなく、ジークムントをともに生死を貫こうとする強さを感じさせる素敵な女性。叫ぶことのない高音の美しさも特筆で、ジークフリートを身ごもったことを悟った瞬間の喜びの表出、泣けます。

ペトレンコのフンディングは、思いもかけず立派なもの。
定評あるゲルギエフチームのグバノヴァのフリッカもよかったです。

そして、いつかウォータンと思っていたパペであるが、これが思った以上に、どうだろうか?という感じなんです。
「Ghe~!」も表面的だった。
フンディング、マルケ王で何度も聴いてきたパペであるが、その美声がここではドラマを歌い出すことがなかった。
ともかく立派な声で、神々の長としての押し出しも見事なれど、煩悩に陥るウォータンの悩みは薄め。声の威力はありあまるだけに、ウォータンの感情の綾が薄れた感あります。
でも、最後の聞かせどころの告別のシーンでは、なみなみとした美声だけに、文句なしに耳のご馳走だった。

8人のワルキューレたちの声の威圧的なまでのすさまじさは、さすがはロシア。

Ring_gergi

で、ゲルギエフ

テンポは少し遅め~中庸。

 Ⅰ 67:48   Ⅱ 96:05   Ⅲ 72:43

うなり声がすみずみ聴こえる「ワルキューレ」ってどうよ?
バレンボイムも唸るけど、ゲルギーのは、どうもあの顔が浮かんできていかん。

しかし、その音楽は、意外なまでに細やかで、抒情性を引き立たせ、強圧的なサウンドを意識して排したような緻密なものだった。
ユニークな歌い回しや、初めて聴くようなフレーズの取り方、2幕最後の終わらせ方もユニーク。
マリインスキーとのコンビは、昔日のロシアの響きなどは、これっぽちもなくて、ヨーロッパナイズした洗練されたワーグナーだったのです。
しかし、わたしには、そこがいまいち大人し過ぎて、踏み込みも弱く感じて不満だった。
あまりに耳当たりが良過ぎるんじゃないかな。
そして、最後の感動的な告別の音楽が、思わぬほどサラリとして流して終ってしまった。
残尿感たっぷりのエンディングに、またしてもやられてしまった思いが募る。

今年ネットで聴いたPROMSのバレンボイムの硬軟巧みな雄弁さ、ペトレンコのオケと劇場の響きに助けられたドラマ感、これらと比べて、ゲルギエフは考え過ぎの演奏に思いましたがいかがでしょうか。

続編を続けて「ゲルギー・リング」を集めるか否かは不明。
でも思えば、いろんな国の「リング」が聴ける世の中になったものです。
しかし、ヤノフスキの2度目は是非とも完備したい。

次週は、神奈川フィルもピットに入る、神奈川県民ホールとびわ湖ホールの共同製作オペラシリーズで、「ワルキューレ」の上演があります。

そこへ向けて、もうひとつの「ワルキューレ」投稿、これまでのこのブログの記事をまとめて、もうひとつ書いておきます。

「ワルキューレ 過去記事」

「ベーム&バイロイト祝祭管弦楽団」

「ハイティンク&バイエルン放送響」

「新国立劇場公演 エッティンガー指揮①」


「新国立劇場公演 エッティンガー指揮②」

「二期会公演 飯守泰次郎指揮①」


「二期会公演 飯守泰次郎指揮②」

「テオ・アダムのウォータンの告別」

「ブーレーズ&バイロイト」

「メータ&バイエルン国立」

「ノリントン指揮 第1幕」


「カラヤン&ベルリンフィル」

「エッシェンバッハ&メトロポリタン公演」

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コメント

  今日は。ゲルギーの演奏は、あまり沢山聴いておりませんが、嫌いな指揮者でも苦手な指揮者でもないです。ナクソスミュージックライブラリーにマイリンスキーレーベルやロンドン響レーベルが加わっていますので、ゲルギーの演奏はCD買わなくてもかなり聴けたりします。リングをはじめとするヤノフスキの最近の演奏もです。ゲルギー指揮ロンドン響のマーラーなんてなかなか面白いと思います。ミュージックライブラリーで好きな時に聴けるのにCD欲しくなってしまうほどです。マーラーと言ったらブーレーズ指揮の交響曲と声楽曲が廉価セットで発売されますね。これも欲しいですね。コロン・リングのDVDも…本当にクラヲタはお金のかかる趣味です。初対面の人に「ご趣味は?」「クラシック鑑賞です」「高尚なご趣味ですね」なんてお世辞を言われることもありますが、自分じゃ高尚なんて思っていません。何でも欲しがる精神構造はアキバでアニメキャラクターのフィギュアやキャラクター商品を集めているヲタと大差ないような気がしますし、お金もかかりますし…

投稿: 越後のオックス | 2013年9月 8日 (日) 16時21分

指輪4部作へのさまよえる様の壮大な文章を堪能しました。何度も読み返して感動しております。私は例によってショルティのLPを聴いております^^;
そうなんですよね。ゲルギエフの前宣伝っていつも「ワイルドだろー(って古っ!)」ってあおってくるんだけど、実際はオーソドックスでサラッしてますよね。ダマされた感が強い・・・当初、ダマされやすい私はスペードの女王とかボリスゴドノフとかチャイコの交響曲とかストラビンスキーとかこの人のをいっぱい聴いたけど、結局なにも印象が残らない演奏でした。。私に聞き取る力がないんだなーって思っていました^^;

投稿: モナコ命 | 2013年9月10日 (火) 10時07分

追記します。
佐村河内さんの交響曲を指輪の第4夜っていうか5作目としてとらえていることに私も賛成します。思ってもみなかった。東京オリンピックも誇らしいけど、この作品を今生きている作曲家が作ったことを日本人として大いに誇りたい。また大感謝です。指輪の壮大なドラマをこの作品は1作だけでやってのけている。。。

投稿: モナコ命 | 2013年9月10日 (火) 10時10分

Last a few years has been to Ibiza, so met a person there whose style of presentation is very similar to yours. But, unfortunately, that person is too far from the Internet!…

投稿: vfb trikot schwarz | 2013年9月10日 (火) 22時12分

越後のオックスさん、こんにちは。
ゲルギエフは、嫌いじゃないけど、好きじゃない。
あのタフネスぶりと、ロシアの音楽へかける情熱は、極めて大きく評価してます。
プロコフィエフやチャイコフスキー、五人組のオペラへの取り組みなどはとくに。

マーラーはFMで日本でのライブを聴いたのみで、ロンドンでの演奏はまったく未聴です。
ブーレーズもようやく全集化ですね。
いまのところ、わたしはマーラーはお腹いっぱいですが、いずれきっとまた波がやってくると思います。
そのときはブーレーズでしょうね。

ヲタクの宿命ですよ、これは(笑)。
聴くヒマないのに、所有していないと我慢できない苦しみ。
同感ですよ!

投稿: yokochan | 2013年9月11日 (水) 11時05分

モナコ命さん、こんにちは。
秋の気配がしてまいりましたね。
ワーグナーもますます季節です(年中ですが)。
四半世紀前の記録ですが、お読みいただいて感謝です。
あれから何も進歩しておりませんが、あの時の体験は極めて大きいものでした。

そしてゲルギーに対する見解。
100%同意です。そしていまだにわからない人です。

ワーグナーのように、ひとつの音、フレーズから無限に世界が広がってゆく壮大かつ繊細な音楽の集成。
そんな風に聴いております。
世界の耳目が集まる日本で、佐村河内さんの存在がますます高まることを願ってます。

投稿: yokochan | 2013年9月11日 (水) 11時55分

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