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2013年12月 8日 (日)

ブリテン 「グロリアーナ」 マッケラス指揮

Mitsui

日本橋の三井本館、夜のライトアップですよ。

半沢ドラマのロケ地としても、よく登場してました。

財閥の象徴、由緒ある重要文化財でございます。

わたくしのような、へっぽこな人間には、まったく縁もゆかりもござんせん。

Britten_gloriana

  ブリテン  歌劇「グロリアーナ」

 エリザベス1世:ジョセフィーヌ・バーストゥー
 エセックス公ロベルト・デヴリュウー:フィリップ・ラングリッジ
 エセックス公夫人フランセス:デッラ・ジョーンズ
 マウントジョイ卿チャールズ・ブラント:ジョナサン・サマーズ
 エセックス公の姉レディ・リッチ、ペネロペ:イヴォンヌ・ケニー
 枢密院秘書長官ロバート・セシル卿:アラン・オウピ
 近衛隊長ウォルター・ラーレイ卿:リチャード・ヴァン・アラン
 エセックス公の従者:ブリン・ターフェル
 女王の待女:ジャニス・ワトソン  盲目のバラッド歌手:ウィラード・ホワイト
 ノリッジの判事:ジョン・シャーリー・クヮーク
 主婦:ジェネヴォーラ・ウィリアムス
 仮面劇の中の精霊:ジョン・マーク・エインズリー
 式武官:ピーター・ホーア      街の触れ役:ジェイムス・ミラー・コバーン
 マウントジョイ卿の給仕:クリストファー・コルナール
 エセックス卿の給仕:ドミニク・キル

  サー・チャールズ・マッケラス指揮ウェールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団
                       ウェールズ・ナショナル・オペラ合唱団
                       モンマス・スクール合唱団
                       リュート:トム・フィヌカーネ

               (1992.12 @ブラングウィンホール、スヴァンシー)

16作あるブリテンのオペラ作品のうち、8番目。
これらの中で、「ベガーズ・オペラ(乞食オペラ)」は、ジョン・ゲイの作品の編曲・焼き直しなので、それを除けば15作7番目。

1953年、現女王、エリザベス2世の戴冠式奉祝として作曲された。
ちょうど、今年で60年。
ブリテンは、献辞に「この作品は、寛容なるご許可によってクィーンエリザベス2世陛下に捧げられ、陛下の戴冠式のために作曲された」としております。

原作は、リットン・ステレイチーの「エリザベスとエセックス」。
台本は、南アフリカ生まれの英国作家ウィリアム・プルーマーで、彼は「カーリューリバー」の脚本家でもあります。

1953年6月6日に、コヴェントガーデン・オペラハウスで、一般人はシャットアウトして、政府高官や王列関係者たちだけのもとで初演。
英国作曲界の寵児であったブリテンの新作オペラではあったけれど、初演の反応はさっぱりで、むしろジャーナリストたちからは、果たして女王に相応しい音楽だろうか?として攻撃を受け、連日非難が高まり、やがてこのオペラは忘れられていく存在となってしまった。
 そんな風潮も、どこ吹く風、なところがブリテンらしいところで、さらにオペラを極めてゆくこととなります。

ではなぜ、そんなスキャンダルもどきのことになったのか。

それは、オペラのあらすじをご覧いただければ一目了然。
物語の主人公はエリザベス1世、期せずして、1533年生まれ1603年没。
その別名が彼女を讃えるべく「Gloriana」グロリアーナでもあるわけです。

時は、1599年から1600年のこと。
登場人物たちは、歴史上実在の人物たち。
成功続きだった女王の治世も陰りが出てきて、生涯独身だったエリザベスにも老いが忍び寄っていた時期。
エセックス公ロベルト・デヴリューを寵愛し、彼は、一方で女王から信頼を受けていた政治の中枢、ロバート・セシルと敵対関係にあった。
ドニゼッティのオペラにも、エセックス公の名前の作品がありますね。

こんな背景を頭に置きながら、このオペラを味わうとまた一味違って聴こえます。

第1幕
 
 

 ①馬上試合の場面、エセックス公は従者とともに試合観戦中。
従者からの報告で一喜一憂。しかし結果は、マウントジョイの優勝。
女王から祝福を受ける彼をみて、エセックス公は、本来なら自分がそこに・・・と嫉妬をにじませる。
人びとは、エリザベス朝時代の女王を讃える歌「Green Leaves」を歌う。
そのマウントジョンとエセックス公は、やがて口論となり小競り合い。
そこに登場した女王のもとに、二人は跪き、彼女の仲裁で仲直りする。
人びとは、ここで再度「Green Leaves」を歌い、今度はフルオーケストラで、とくにトランペットの伴奏が素晴らしい。

「Green leaves are we,red rose our golden queen・・・・」 

この讃歌は、このオペラに始終登場して、その都度曲調を変えて出てきます。

 ②ノンサッチ宮殿にて。腹心のセシルとエリザベス。
彼は、女王に先の馬上試合での騒動の一件で、エセックス公への過度の肩入れは慎重に、と促し、女王も、それはわかっている、わたくしは、英国と結婚しています、と述べる。
 彼と入れ替わりにやってきたのは、そのエセックス公。
彼はリュートを手にして歌う。明るく楽しい「Quick music is best」を披露。
もう1曲とせがまれて、「Happy were he could finish」と歌います。
それは、寂しく孤独な感じの曲調で、ふたりはちょっとした二重唱を歌う。
オーケストラは、だんだんと性急な雰囲気になり、エセックス公はここぞとばかり、アイルランド制圧のための派兵のプランを述べ、命令を下して欲しいと懇願。
女王は、すぐさまの結論を出さず、公を退出させる。
ひとり彼女は、神よ、わたくしの信民の平和をお守りください・・・と葛藤に悩む。

第2幕

 ①ノーリッジ 訪問の御礼に市民が女王の栄光をたたえるべく、仮面劇を上演。
マスク役のテノールが主導する、この劇中劇の見事さは、さすがブリテンです。
そんな中で、結論を先延ばしにする女王に、エセックス公はいらだつ。
劇が終ると、人びとは女王のそばにいつも仕えますと、感謝の意を表明し、女王はノーリッジを生涯わすれませんと応える。
 ここでまた、Green leaves。

 ②ストランド エセックス公の城の庭
マウントジョイとエセックス公の姉ペネロペは恋仲。ふたりはロマンティックな二重唱を歌い、そこにエセックス公夫妻もやってくるが、最初は公は姉たちがわからない位置に。
エセックス公は、プンプン怒っていて、弟君は、何故怒っているのかとペネロペに問う。
自分の願いが認められなくて、イライラしてるのよ、と姉は答える。
やがてそれは4重唱になり、愛を歌う姉、どんだけ待たせるんだとの弟とマウントジョイ、自制を促すエセックス公の妻。
しまいには、女王はお歳だ、時間はどんどん彼女の手から流れ去ってしまう・・・・と3人は急ぐように歌い、ひとり妻は、ともかく慎重にと促す。

 ③ホワイトホール城の大広間 エセックス公の主催の舞踏会
パヴァーヌから開始。やがて公夫妻、マウントジョイとペネロペ入城。
夫人は豪華絢爛なドレスを纏っていて、マウントジョイにペネロペは、弟があれを着るように言ったのよとささやく。
ダンスはガイヤールに変わり、4人はそれぞれにパートナーで踊ります。
 そこに女王がうやうやしく登場。彼女は、エセクス公夫人を認めるなり、上から下まで眺めつくす。
彼女は今宵は冷えるから体を温めましょうと、イタリア調の激しい舞曲ラヴォルタをと指示。
音楽は、だんだんとフルオーケストラになり、興奮の様相を高めてゆく。
 ダンスが終ると、女王は、婦人たちは、汗をかきましたからリネン(下着)を変えましょうと提案し、それぞれ退室。その後も、モーリス諸島の現地人のダンス。
しかし、レディたちがもどってくるが、エセックス公夫人があの豪華な衣装でなく地味なまま飛び込んできて、さっきの服がない、誰かが着てると騒ぎ立てる。
そのあと、女王が大仰な音楽を伴って戻ってくる。
そのドレスは、なんとエセックス公夫人のあの豪華な衣装。
しかも、体に合わず、はちきれそう。
唖然とする面々にあって、婦人は顔を手でおおって、隅に逃げ込む。
屈辱を受けながらも、怒りに震える夫と、姉、マウントジョイには、それでも気をつけてね、相手は女王なのよ、とたしなめる健気な夫人。
 お触れの、お出ましの声で、元のドレスに戻った女王が登場。
エセックス公に、近衛隊長ラーレイが、大変な名誉であると前触れ。
そして女王が、「行け、行きなさい、アイルランドへ、そして勝利と平和を持ち帰るのです」とエセックス公に命じ、手を差し出す。
うやうやしく、その手をとり、エセックス公は感激にうちふるえ、「わたしには勝利を、貴女には平和を」と応えます。
明日、あなたは変わります、そして今宵はダンスを!クーラントを!
女王の命で、オーケストラはクーラントを奏で、やがてそれは白熱して行って終了。

第3幕

 ①ノンサッチ宮殿 女王のドレッシングルーム。
メイドたちのうわさ話。3つのグループに分かれて、オケのピチカートに乗ってかまびすしい。エセックス公のアイルランド遠征失敗のことである。
そこに当の、エセックス公が息せき切ってやってきて、女王にいますぐ会わなくてはならないという。
女王は、まだ鬘も付けず、白髪のままで、何故にそう急くのか問いただすものの、エセックス公はいまある噂は嘘の話ばかりと、まったく当を得ない返答。
何か飲んで、お食べなさい、そしてリフレッシュなさい、とエセックス公をたしなめ帰すエリザベス。
待女とメイドたちの抒情的で、すこし悲しい美しい歌がそのあと続く。

 秘書長官セシル卿を伴って女王登場。
セシルは、アイルランドはまだものになっておらず、しかもスペインやフランスの脅威も高まってますと報告。女王は、これ以上彼を信じることの危険を感じる。
女王は命令を下します。「エセックス公を管理下におき、すべて私の命に従うこと、アイルランドから引き上げさせ、よく監視すること。まだ誇りに燃えている彼の意思をつぶし、あの傲慢さを押さえこむのよ、わたくしがルールです!」と。

 ②ロンドンの路上 盲目のバラッド歌手が、ことのなりゆきを歌に比喩して歌っている。
少年たちは、セシルやラレーのようになろう、と武勇を信じ太鼓にのって勇ましく行進中。
エセックス擁護派は、王冠を守るために働いているのだ、女王は年老いたと批判、かれが何をしたのか・・・と。
バラッド歌手は、反逆者だと?彼は春を勘違いしたのさ、と。

 ③ホワイトホール宮殿 エセックス公の公判
セシルとラレーは、彼がまだ生きていることが問題と語っていて、女王が入廷すると、エセックス公に対する処刑命令が宣告される。その最終サインは女王。
「彼の運命はわたくしの手にゆだねられたのね、サインはいまはできない、考えさせて・・」と女王は判断を伸ばすが、セシルは、恐れてはいけません、と迫る。
女王は、「わたくしの責任について、よけいなことをいうのでありません」とぴしゃりと遠ざけてしまう。

ひとりになった女王は、哀しい人よ、と嘆く。
そこへ、ラレーが、エセックス公夫人、姉、マウントジョイを連れてくる。
彼らは、女王にエセックス公の助命を懇願にやってきたのだ。
まず、夫人がほかの二人に支えられて進み出て、「あなたの慈悲におすがりします。わたくしのこのお腹の子とその父をお救いください」と美しくも憐れみそそる歌を歌う。
これには、女王も心動かされ、嘆願を聞き入れる気持ちに傾く。
 その次は、エセックスの姉ペネロペが進み出て語る「偉大なエセックス公は、国を守りました・・」、その力はわたくしが授けましたと女王。姉は、まだ彼の力がこのあなたには必要なのですと説くと、和らいだ女王の心も、一挙に硬くなり、なんて不遜なのだ、と怒りだす。
食い下がるペネロペにさらに怒り、3人を追い出し、執行命令書を持ってこさせ、サインをしてしまう。

この場面での悲鳴は、エセックス公婦人、オーケストラはあまりに悲痛な叫びを発します。
ここから、音楽は急に、暗く寂しいムードにつつまれます。

女王は、大きな判断をして勝利を勝ち取りました、しかし、それは虚しい砂漠のなかのよう、と寂しくつぶやく。

遠くでは、エセックス公が、死の淵にあるいま、みじめなこの生を早く終わらせることが望みです・・・・。とセリフで語る。
以下は、セリフの場面が多く、音楽は諦念に満ちた雰囲気です。

女王は、自分はわたくしの目の前で、最後の審判をこうして行ってきました。王冠に輝く宝石は国民の愛より他になく、わたくしが長く生きる、その唯一の願いは、国の繁栄にほかなりません、と語る。
 外では、群衆の喝采が聴こえる。

  「mortua, morutua, mortua, sed non sepulta!」
 
女王がつぶやくように歌うこちら、ラテン語でしょうか、意味がわかりません。

セシルが再びあらわれ、女王に早くお休みになるように忠告するが、女王は、女王たるわたくしに、命令することはおやめなさい。それができるのは、わたくしの死のときだけと。
そしてセシルは、女王の長命をお祈りしますとかしこまります。

弦楽四重奏と木管による、寂しげな音楽のなか、女王は「わたくしには、生に執着することも、死を恐れることも、ともに、あまり重要な意味をいまや持ちません」と悲しそうに語る。

ハープに乗って静かに
「Green leaves are we,red rose our golden queen・・・・」が、合唱で歌われ、それはフェイドアウトするように消えてゆきます。

舞台では、ひとりにきりになった女王が立ちつくし、やがて光りも弱くなり、暗いなかに、その姿も消えていきます・・・・・・。

                    


このような、寂しくも哀しい結末。
老いから発せらる女王の嫉妬や、時間のないことへの焦り。
そして、ある意味、醜いまでのその立場の保全。
さらに、重臣たちの完璧さが呼ぶ、あやつり人形的な立場。

ブリテンは、エリザベス1世の人間としての姿を、正直に描きたかったのに違いありません。
一連の、ブリテンのオペラの主人公たちが持つ、その背負った宿命や悲しさ。
あがいても無駄で、そこに、はまりこんでしまう主人公たち。
その彼らへの、愛情と同情、そしてそれが生まれる社会への警告と風刺にあふれたブリテンの作り出した音楽たち。

クィーンだったエリザベス1世に対しても例外でなかったのです。
恩寵をあたえたエセックス公への思いを殺して、処刑のサインをする女王の苦しみは、短いですが、最後の10分間のエピローグに濃縮されてます。

当然に、当時の英国社会は、ふとどきな作品としてネガティブキャンペーンをはります。
音楽業界も、完全スルー。
ブリテンも、わかっていたかのように、静かにその評価を受け止めます。

まるでなかったかのように、ブリテンはその後も活動し、英国もブリテンをパーセル以来のいオペラ作曲家として処します。
大人の対応の応酬なのでした。

そして、このオペラをCDで蘇らせたのが、サー・マッケラスです。
ことしの、コヴェントガーデンで、上演もされました。
2世の御代、このオペラも冷静に受け入れられる土壌ができました。

曲中に溢れる当時の音楽や舞曲。
語りも駆使して、緊張感あふれる間をつくりだすブリテンの筆の妙。
オーケストレーションは最高に冴えてて、細かなところまで細心の注意と意志が張り巡らされた上質のオペラ作品だと思います。
後年、趣きある舞曲を中心として、このオペラから組曲を編み出してもあります。

オーケストラについては、マッケラスの繊細な目配りが行き届いてます。
歌手たちも、その名前をご覧ください。
いまにいたるまで、最高級の英国オペラ歌手たちが配されてます。

カラヤンも登用したバーストゥの位高くビンビンのソプラノは、まるでトゥーランドットのようでいて、かつ悲しそうな歌唱が十全。
ラングリッジの繊細だけど、一方的な歌も、これはきっとピアースと思わせる、そんな没頭ぶり。

ほかのおなじみの豪華歌手陣、みんな完璧でした。

編曲ものとした場合の「ベガーズオペラ」をのぞいて、ブリテンのオペラは、あと1曲。

そう、最後のオペラ「ヴェニスに死す」です・・・・・。

 
 

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コメント

CDの配役を見ただけで、当時とその後10年間のイギリス人歌手の層の厚さを思い知らされる陣容ですね。

ブリテンのオペラは、フィリップ・ラングリッジ主演1992年3月の’ヴェニスに死す’しか知りません。

投稿: ぶりぶり転々 | 2013年12月 9日 (月) 19時01分

ブリブリ、ブリテンは、わたしもよく使う常套句ですが、ぶりぶり転々には、まいりました。
おそれいりました。

そうなんです、この配役は、ほんとに素晴らしいですよね。
ブリン君とか、ラトルに重用されるウォータン、ホワイト氏も端役ですから。

ブリテンのオペラ全曲制覇まで、あと1作です。

投稿: yokochan | 2013年12月12日 (木) 00時25分

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