ブリテン 「ヴェニスに死す」 ベッドフォード指揮
目黒川沿いのピンクのイルミネーション。
大崎から五反田にかけての目黒川沿いの桜並木が、冬の桜並木に。
目黒川みんなのイルミネーション2013。
クリスマスで終了してます。
かつての昔は、大崎駅周辺は、工場ばかりで殺伐と、何もなかった。
品川も同じようだったけれど、いずれも再開発でオフィスビル、高層マンション、住宅地と、職住の街に変貌を遂げました。
地域から出る食用等の廃油を集めて、バイオエネルギーとして、自家発電。
その電力を使ったイルミネーションで、完全還元。
良い試みです。
しかし、どこもかしこも、木にイルミネーションを施してます。
その木々への負担はないのでしょうか。
ブリテン 「ヴェニスに死す」
グスタフ・フォン・アッシェンバッハ:ピーター・ピアーズ
旅人、初老の伊達男、老いたゴンドラ引き、ホテル支配人、理髪師
芸人の座長、ディオニソスの声:ジョン・シャーリー=クヮーク
アポロの声:ジェイムス・バウマン
ホテルのポーター:ケネス・ボウエン
その他多数
ステュワート・ベッドフォード指揮 イギリス室内管弦楽団
イングリッシュ・オペラ・グループ
(1974.4@モールティングス、スネイプ)
ブリテン(1913~1976)の最後のオペラ。
前作オペラが、「オーウェン・ウィングレイヴ」で、そちらは1970年。
室内オケの繊細で鋭い響きを背景に、題材はゴシックロマン的なミステリーで、そこに反戦思想も交えた作品だった。
そのあと、ブリテンは、心臓に持病をあることがわかり、あまり体調はすぐれず、手術も行っております。
そんな中で、取り上げた題材が、この「ヴェニスに死す」です。
いうまでもなく、ドイツの19世紀末、ドイツの小説家、トーマス・マンの同名の小説がその素材。
マンは、千人の交響曲の初演に立ち会い、それがもとで、われらがマーラーに知己を得て、そのマーラーが亡くなった翌年にヴェニスを家族で旅をして、そのマーラーのことを念頭において、この小説を書きあげた。
その内容は、妻に先立たれ、娘も嫁いだ、功なしとげた著名な作家がひとりヴェニスを訪れ、そこで出会ったポーランド系の一家の少年に魅せられ、そこで彼にのめり込んでいき、最後は流行りのコレラに感染し、亡くなって行くという物語。
1971年に、ルキノ・ヴィスコンティが、映画化をして、そこでは、主人公アッシェンバッハは、作家ではなく、音楽家になってました。
そして、その風貌はマーラーその人なのでした。
音楽は、第5交響曲のアダージェットが、全編効果的に使われてます。
わたくしの記憶では、クーベリックの演奏のものが使われたのではなかったかと。
当時、中学生だったので、映画の中身などは知らないわけで、でも、その音楽だけは、よく流されていて、あの弦楽による美しいメロディーに魅せられたわけです。
そして、高校生の時に、ブリテンのこのオペラがレコード発売され、期しくも、それがブリテン追悼盤になってしまったのですが、それは買わないまでも、文庫本の小説を読んでみたわけです。
そこで知った、オホモチックな内容に、げげっ、となってしまったわけですが、長じて、ブリテンの音楽をほぼ大系的に聴くようになって、そんな怪しいものを見るようねフィルターは、すっかりなくなり、むしろブリテンの平和を愛し、弱者を思う優しい目線と、そのカッコいい音楽に魅せられるようになったのであります。
映画が1971年で、このオペラが1973年の完成ですが、ブリテンはその映画のことを知っていたのか、いなかったのか。
いずれにしても、この小説のオペラ化は、ブリテンにとって、きっと取りかからなくてはならない、運命的なことだったのだろうと思います。
確かに、美少年タッジオに魅せられてしまう、初老の主人公は、ブリテンそのものかもしれませんが、それはまた、少年を、「美」という概念に置き換えることで、われわれ一般人(?)も、たとえば、芸術に美を求めるわけですから、その心情はわからなくもないです。
しかし、まあ、このオペラの中で、アッシェンバッハが、タッジオのことを思い、身もだえするように、I love you、なんて歌ったりすると、背筋が寒くなって引いてしまうのも事実であります・・・・。
登場人物は、例によって男ばかり。
主人公アッシェンバッハは、お友達ピーター・ピアーズを念頭に書かれており、このオペラを「ピーターに」ということで、彼に献呈しております。
その主役テノールが、最初から最後まで出ずっぱりで、肝心の少年は登場せず、すべて彼の独白的な進行で劇が進められる。
この一人称的なあり方に、ほかの人物たちが、影のようにからみあって、その心象風景とともに立体的になるという仕組みであります。
このあたりは、毎度感心する、ブリテンの天才性とも思います。
しかも、からみの人物は7人いて、それはすべて同じバリトンで歌われます。
ホフマン物語を思い起こしますね。
主人公テノールが、極めて難役なのに加えて、このバリトンがまた、芸達者じゃないとダメなところが、舞台上演を難しくしております。
イタリア人の床屋が、陽気にイタリア訛りの英語で歌うって、そんな歌と歌詞、信じられます?
そうかと思うと、主人公を旅にいざなう深刻な旅人や、ゴンドラ船頭などは、曰くありげな怪しさと深みを出さなきゃならないし。
そして美少年クンは、オペラ上演では、パントマイムやバレエによって演じられます。
そこらへんも、見ててイメージをちゃんと掻き立てられる人材を得ないとダメですな。
その点、映画の少年は確かに美しいし、美しすぎるわよ。
このようにして、主人公アッシェンバッハ以外は、顔を持たない実態を伴わない存在のように思います。
ですから、よけいに、ホモセクシャル的な要素を、そのまま、美の賛美に置き換えることができると思うのです。
オーケストラの方は、前作と同じように室内編成で、打楽器・鍵盤楽器をふんだんに使用してます。
その響きの面白さは、その多彩さにあって、可視的でもあります。
まさに、至れり尽せりで、音楽が、その心象と実際の出来事を雄弁に語ってやみません。
一例をあげると、イタリアまでの船旅においては、蒸気船の音を、小太鼓のブラッシング・サウンドで巧みに表現していて、それを当時のデッカのソニックステージ録音が立体的に捉えていたりするのです。
そして、海の場面では、「ピーター・グライムス」の北海の荒涼サウンドとはまた違う、明るい、でもどこか引っかかりのある海の光景を描きだしてます。
さらに、ブリテンの音楽でお馴染み、日本や東南アジア訪問で身に付けた、東洋風なエキゾティックサウンド。そこに打楽器が混じり、ガムランのような響きも聴いてとれます。
同時代にありながら、保守的作風だったブリテンですが、どうしてどうして、ここでは斬新で近未来的な音楽ともとれますが、いかがでしょうか。
映像もいくつかあります。
ですが、これは舞台で体験してみたいものです。
(お墓でも、お友達同士)
初演者グループによるこのCDは、作者直伝的な圧倒的な存在。
ピアーズあってこそ、そしてそのピアーズが入魂の神的歌いぶり。
完全に同一化しちゃってます。
主人公と愛するブリテンに。
最近では、ラングリッジがヒコックス盤で歌ってますし、彼亡きあとは、ポストリッジとういうことになるのでしょう。
それと、シャーリー=クヮークのバリトンがまた舌を巻くほどに見事。
この役は、アラン・オウピという、たしかカナダ出身の歌手が得意にしていて、かれはブリテンのスペシャリストであり、ワーグナーも歌う歌手です。
それから、ブリテンのもとで、ずっとアシスタントをつとめていたベッドフォードが、病で指揮が出来なかった作者に変わって初演とこの録音を残しました。
素晴らしいオーケストラに、目覚ましい録音の良さでもあります。
ベッドフォードは、このオペラの各場に置かれたオーケストラ間奏曲をつなぎ合わせて、組曲として録音しております。
わたくしは、そちらで、その音楽を耳になじませてから、オペラ本作に挑んだので、割合楽に入り込むことができました。
※今回、あらすじは、別途追加とさせていただきます。
年末で忙しいのです、わたくしも。
ヴィスコンテイの映画の予告編を貼っておきます。
マーラーの風貌そのままのアッシェンバッハ。
これにて、ブリテンのオペラ15作(ベガーズ・オペラは編曲ものなので除外)を、すべて聴き、ブログに書くことができました。
アニヴァーサリー・イヤーに、いい思い出となりました。
そして懸案の「ベガーズ・オペラ」は、音源入手に成功しましたので、それはまた来年にでもと思っております。
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コメント
アン・マレーのご主人のフィリップ・ラングリッジ主演の’ヴェニスに死す’。なら、観ました。何度か、書きましたけど。
ブリテン最後のオペラ。ブリテンイヤーでもありましたら、巧妙な素材の話題提供に一票。
ワーグナー、ヴェルディが、この10月頃までは話題提供が多かったですよね。Media自体が。
その後、きちんとブリテンに各国とも触れていることは、やはり20世紀作品としての魅力への回帰。なのでしょうかね。。
さて、来年は 生誕150年のR.シュトラウス。ところが、ミュンヘン・ドレスデンも全部演奏の先行話題も無いです。
ワーグナー、ヴェルディ、ブリテン。集中的に取り上げたMediaは番組編成の段取り、音楽史に基づいている外国放送局もあったから面白いですね。
投稿: T.T | 2013年12月30日 (月) 10時41分
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%81%AB%E6%AD%BB%E3%81%99%EF%BC%8F%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E7%9B%A4-%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9/dp/B0000565Q9
この秋、ヴェニスに死すを、DVDを手に入れ、PCに取り込みました。まだ感想を書けるほど、見ていませんが。ブリテンのベニスに死すは、まだ聴いていません。強いて言えば、関連性のある、最後の弦楽四重奏曲が、メロディと響きがとても美しかったことを覚えています。
さて、リンクに張り付けたアマゾンを見ると、晩年のヴィスコンティ映画で作曲に携わったフランコ・マンニーニが指揮をして、 ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団が演奏したようです。クーベリック指揮ではないようです。
MTTのマラ8届きました。明日、そのことをこちらのブログで書いた後に、前回のコメントの続きに、ダイジェストで綴りますね。
投稿: Kasshini | 2013年12月30日 (月) 13時20分
今晩は、よこちゃん様。
年の瀬となりました。 あまちゃん総集編を見て、神棚に榊をあげ鏡餅を飾り 等々…
「ヴェニスに死す」と言えば映画しかピンとこない無知な私。ブリテンがオペラを書いていた事すら知りませんでした。映画ではビョルン・アンドレセン少年の容姿の怖いほどの美しさと、アダージェットの旋律の悲しいほどの美しさが衝撃的でした。
貴ブログには音楽に野球に猫ちゃんと大好きな話題が満載。一年間、本当に楽しませて頂きました。来年も宜しくお願いいたします。
それでは良いお年をお迎えください。
投稿: ONE ON ONE | 2013年12月31日 (火) 03時31分
T.Tさん、こんにちは。
いろいろ検索したら、このオペラは、海外ではよく上演されている様子。
日本では、1度ぐらいでしょうか。
ブリテン受容は、まだまだの我が国ですね。
アニヴァーサリー作曲家たちが、来年も引き続き、多く取り上げられることを願ってます。
そしてたしかに、ですよね、R・シュトラウスはちょっとさびしい。
投稿: yokochan | 2013年12月31日 (火) 09時32分
Kasshiniさん、こんにちは。
映画の方は、大昔にテレビで見たきりで、もう記憶は曖昧ですが、マーラーの音楽だけが耳に残ってます。
そして、ローマのオケの演奏だったのですね。
情報ありがとうございます。
映画が公開されたときに、あの少年のジャケットで、クーベリックのマーラーのダイジェスト盤が出てたものですから。
MTTの8番は、録音ものよさも含めて、楽しみですね。
投稿: yokochan | 2013年12月31日 (火) 09時41分
ONE ON ONEさん、こんにちは。
押し迫ってまいりましたね。
まったくそんな気分ではないのですが、わたくしの場合、普通の1日のように過ごし、普通に年を越しそうです。
昨日、あまちゃん、ずっとやっていたようですね。
最後の方を見ましたが、やっぱり、良くできたドラマでしたね。今年1番です。
映画のあの少年、たぶん、わたしと同じぐらいの年齢。
いまはどんなオジサンになってるんでしょうかね(笑)
今年も、いろいろと楽しいコメントは、バックアップのコメント、ありがとうございました。
来年も、頑張って楽しく更新できるようにいたします。
よいお年をお迎えくださいね。
投稿: yokochan | 2013年12月31日 (火) 09時48分
あけましておめでとうございます。
思い返せば、ブリテンの“ビリーバッド”がご縁で、yokochan様のブログにコメントさせて頂いてから、早くも一年程になるのですね!
今後も、内に秘めたる熱い記事、楽しみにさせて頂きます。
投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2014年1月 2日 (木) 22時01分
Booty☆KETSU oh! ダンスさん、こんにちは。
そして、あけましていめでとうございます。
もう、1年になりますか、はやものです。
ブリテンは、今後も大すきな英国音楽の中のくくりとしても継続して取り上げてまいりますので、これからもよろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2014年1月 4日 (土) 11時21分