神奈川フィル定期演奏会 前夜祭 アバドの指揮で
ベルリンフィルでは、アバドの思い出のための追悼演奏会が、25日に行われます。
アバドの朋友、メータの指揮。
マーラーの5番から「アダージェット」、ウェーベルンの6つの小品、ベートーヴェンの「皇帝」(ブッフビンダー)、R・シュトラウス「英雄の生涯」。
何度も取り上げ、共感し、常に指揮してきたマーラー。
新ウィーン楽派を得意にし、ことにウェーベルンを精緻に演奏しました。
ウェーベルンの母の死に捧げられたこの曲。
「皇帝」と「英雄の生涯」は、決してアバドそのひとが生きた人生に相応しいタイトルではないけれど、心優しいヒューマニストだったアバドを送るに、これもまた一興かもしれません。
いつまでも悲しんでいてもしょうがないです。
明日は、神奈川フィルの定期公演。
アバドは去ってしまい、これからは、心の中に生き続けるのですが、身近な神奈川フィルは、これからもずっと一緒です。
ブラームス ヴァイオリンとチェロのための協奏曲
Vn:石田 泰尚 Vc:山本 裕康
ワーグナー 「タンホイザー」序曲
R・シュトラウス 「ばらの騎士」組曲
サッシャ・ゲッツェル指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
(2004年1月25日(土) 14:00 みなとみらいホール
1月26日(日) 14:00 ミューザ川崎)
ウィーン生まれのゲッツェルさんの指揮は、きっと素晴らしいでしょう。
アバドの突然の逝去によって、音楽を聴く気持ちが少し萎えてしまったかれど、神奈川フィルを聴いて、その元気を取り戻せたらいいと思ってます。
その演奏を、自分としては、天国のアバドに捧げたいと思ってもいます。
仲間のみなさんとの、そのあとの乾杯も楽しみです。
明日の演目を、アバドの指揮で聴いてみました。
ブラームス ヴァイオリンとチェロのための協奏曲
Vn:ギル・シャハム Vc:ユジャ・ワン
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(2001.12 @イエス・キリスト教会 ベルリン)
ブラームス晩年の作品は、交響曲になる予定だっただけに、シンフォニックで、オーケストラ部分も分厚く、充実極まりない。
この曲は、第2楽章が好き。
大きく、澄んだ秋空に向かって、深呼吸するような、大らかでかつ渋い味わいにあふれています。
若いけれど、音色が豊かで美音の持ち主の2人のソロ。
アバドは、彼らを包み込むような、大きな度量と、繊細さでもって、ブラームスの枯淡の世界を第2楽章では築きあげてます。
アバドには、もうひとつ、シカゴ響を指揮して、スターンとマをソリストに迎えた音盤もありますが、ブラームスらしさでは、断然こちら。
ベルリンフィルのふくよかな響きは魅力的です。
ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1993.12 @フィルハーモニー ベルリン
2002.3 @ザルツブルク祝祭劇場)
ワーグナーには慎重だったアバド。
スカラ座で「ローエングリン」をとりあげ、そのあとに、ザルツブルク・ベルリンで「トリスタン」。同様に「パルシファル」。
ウィーンの国立歌劇場とベルリンフィルを一時兼任したときは、ワーグナーを次々に取り上げる勢いがあって、自身も、「パルシファル」の次は「タンホイザー」、そして「マイスタージンガー」と語っていました。
「タンホイザー」序曲は、2種類の録音がありまして、そのいずれもがライブで、それぞれに10年の歳月が流れてます。
演奏時間も含めて、ほとんど変わりはありません。
しかし、最初の演奏の方が、歌謡性にあふれ、響きは波々としてホールを満たしてます。
後年のほうには、よりシビアで切実感がありますが、どちらかというと、最初の方の明るさが好きだったりします。
この曲、というかワーグナーがそうなのですが、内声部がしっかりしないと、旋律だけのひょろひょろの演奏になってしまいます。
加えて、低弦の下支えや、おどろくほど雄弁なパッセージも聴きもので、その点、ベルリン・フィルの機能は最上級のものです。
カラヤンが、うなりをあげるほどの低音をビンビン聴かせたのに比して、アバドはずっと軽やかで、透明感があります。
ヴェーヌスブルクも、官能的というよりは、あっさりとした、薄化粧で安心したりもします。
アバドの指揮で、「タンホイザー」全曲を聴いてみたかった。
R・シュトラウス 歌劇「ばらの騎士」から 最後の3重唱
元帥夫人:ルネ・フレミング オクタヴィアン:フレデリカ・フォン・シュターデ
ゾフィー:キャスリーン・バトル ファーニナル:アンドレアス・シュミット
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1992.12 @フィルハーモニー ベルリン)
アバドは、「ばらの騎士」に関しましては、この最後の空前絶後の甘味なる美しさを持った三重唱しか録音しておりません。
大晦日のジルヴェスターコンサートのトリでして、92年のこの年は、R・シュトラウスがテーマ。
フレミングは、まだ駆け出しで、デビューしたてのころ。
そしてクラシック界は、バトル人気で湧いていた。
わたしには、そのバトルの虫歯が疼くほどの甘すぎる声に、魅惑的にすぎるシュターデのくすぐられるような美声の溶け合うさまが、あまりにも天国的で、夢見心地の陶酔郷なのでありました。
そのあとの、オーケストラの急転直下、機知に富んだエンディングが、アバドのあまりに鮮やかなアップテンポの演出に、思わず椅子から立ち上がりたくなる興奮を覚えるのです。
世の中に、美しいものはたくさんあれど、シュトラウスの書いたこの音楽は、その美しいものの最上級の存在ではないでしょうか。
「銀のばら」の献呈の場面、ゾフィーが、ばらのあまりの美しさと、芳香につぶやきます。
「この世でなく、天国に咲いたバラのようです。
これは、天国から私に届いた贈り物です」
この美しい歌もまた、マエストロ・アバドへ感謝を込めて、捧げたいと思います。
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コメント
ベルリンの「バラの騎士」三重唱、音楽的にも、視覚的にも美しかったですね。とくにシュターデは、そのドレスもカッコ良かった(メトの百周年のガラの時のよりもずっと)。バトルはトレーンと言うのでしょうか、長~い裾が印象に残っています。フレミングはステューダーの代役だったと思いますが、この後、彼女は別人のように美しくなりましたね。
昨秋、スカラ座の来日公演を楽しんだ時、お隣の席の方が、第一回のスカラの来日公演の「シモン」がいかに素晴らしいものであったのかを話してくださいました。うらやましかった。当時、地方在住の高校生には、東京でのオペラ公演など夢のまた夢。同時中継のラジオ放送を胸を熱くして聴いていました。まちがいなく、あの公演はわが国におけるオペラ公演の頂点のひとつだったと思います。
投稿: 名古屋のおやじ | 2014年1月25日 (土) 15時01分
アバド指揮 ベルリンPhil の演奏って、こんなに前になってしまうのですね。もう、20年以上経つのですね。
薔薇の騎士、現在のサイモン・ラトル、アムステルダム、ベルリン・シュターツオーパーでも取り上げているけど。。
やはり、ベルリン・フィルの常任指揮者であれば、避けて通れない演目ですね。。
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どこも、アバド追悼の曲目が、流れていますね。。。
曲目は、毎度おなじみの曲であっても。
その曲を真面目に耳を傾けて聞くのは、阪神淡路地震以来。。
その当時は、本当によく、コンサート会場で聴いたものでしたね。
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ベルリンフィルが、今度来日するときの、プログラムの〆の曲が『ばらの騎士』を持ってくるようになれば、良いのに。。
投稿: T.T | 2014年1月25日 (土) 19時16分
名古屋のおやじさん、こんにちは。
あのジルベスターの映像はビデオでいまだに大切にしてます。
みんな若かったですね。
そしてスカラ座の思い出を語る方。
きっとわたしも同じことを話すでしょうね。
あれは本当にすごかったです。
音源はカセットからCDRにして大切にしてます。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2014年1月26日 (日) 13時20分
T.Tさん、こんにちは。
退任して10年以上ですから、そうですね、カラヤンが亡くなったときまで遡るのがアバドのベルリン時代ですね。
アバドの追悼、世界中で行われてます。
アバドの人柄由縁ですね。
悲しみも、ひとしおですが、これからも多く聴き続けるつもりです。
ウィーン、ベルリン、ドレスデン、コンセルトヘボウにバイエルン。
ばらの騎士を聴きたいオーケストラたちです!
投稿: yokochan | 2014年1月26日 (日) 13時28分