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2014年2月27日 (木)

モーツァルト 「魔笛」 アバド指揮

Mco_abbado

グスタフ・マーラ・ユーゲント・オーケストラの卒業生からなる、マーラー・チェンバー・オーケストラも、アバドによって創設されました。

1997年に旗揚げ。

特定の都市に拠点を置かず、当然に本拠地としてのホールもない。
すなわち、コンサート・ツアー主体のプロ・オーケストラ。

やがて、音楽祭を中心に、準レジデント・ホールも絞られてきて、指揮者もアバドから、ハーディングに橋渡しがなされ、規模も変幻自在、楽員たちの自由意思を大切に活動する、有機的なオーケストラとなりました。

アバドのある意味、理想ともいえるこの形態は、ヨーロッパ各国の奏者たちの集いでもあります。
さらに、初期にはベルリン・フィルのメンバーが主体であったルツェルン祝祭管弦楽団は、いまや、このマーラー・チェンバーのメンバーたちも主力となっております。

若い奏者たちが、成長し、欧州各国で自由に活動し、さらに超ベテランたちに混ざってスーパーオーケストラの主体となっている。

アバドの理念、ここに極まれり、です。

さらに、アバドは、母国イタリアで、モーツァルト管弦楽団をスタートさせることとなります。

 よくよく見たら、マーラー・チェンバーは、日本に何度もやってきてます。

わたくしは、2006年、ハーディングに率いられて来日した折りに聴いております。

そう、多くの楽員が、そのまま、すぐあとに来日した、アバド&ルツェルンの日本公演に参画しておりました。

 その時の演目が、モーツァルトの後期3大交響曲。
繰り返し励行で、いずれも40分を要する大演奏。
しかも、異様なまでの緊張感と高テンションで、演奏する側も、聴く側もへとへとになりました。
こんなに密度濃い演奏で、モーツァルトの音楽は完璧ですから、もうこれ以上は無理です・・・的なスピーチをハーディングが行い、終電すら危うくなる時間を、クローズさせたのです。

アバドの指揮ぶりにそっくりな、若いハーディングの胆力に驚いたし、なによりも、オーケストラの異常なまでのモチベーションの高さに、舌を巻きました。

アバドの理念がたっぷり詰まった、あの頃のマーラー・チェンバー(MCO)が聴けて、ほんとうに貴重な経験でした。

アバドとMCOの録音は、オペラと協奏曲。

Mozart_zauberflite_abbado

  モーツァルト  歌劇「魔笛」

 タミーノ:クリストフ・シュトレール     パミーノ:ドレテア・レュマン
 ザラストロ:ルネ・パペ           夜の女王:エリカ・ミクローシャ
 パパゲーノ:ハンノ・ミュラー=ブラッハマン パパゲーナ:ユリア・クライター
 弁者:ゲオルク・ツェッペンフェルト    モノスタトス:クルト・アーツェスベルガー
 第1の待女:カロリーネ・シュタイン    第2の待女:ハイディ・ツェンダー
 第3の待女:アンネ=カロリーネ・シュリュター 第1の僧侶:アンドレアス・バウアー
 第2の僧侶:ダニロ・フォルマッチャ    第3の僧侶:トビアス・バイヤー
 第1の武士:ダニロ・フォルマッチャ    第1の武士:サーシャ・ボリス

   クラウディオ・アバド指揮 マーラー・チェンバー・オーケストラ
                   アルノルト・シェーンベルク合唱団
                   テルツ少年合唱団員
                            
                     (2005.9 @テアトロ・コムナーレ、モデーナ)


長らく、アバドを聴いてきて、そのアバドが「魔笛」を指揮するなんて、思いもよらないことでした。
珠玉のモーツァルトのオペラ作品にあって、「フィガロ」とともに、真っ先に好きになった「魔笛」。
歳を経るとともに、「魔笛」よりは、ダ・ポンテ3作や、イドメネオ、ティトゥスの方へと、気持ちが移っていきました。

Zauberflote_abbado_3

おとぎ話は、さることながら、このオペラの背景にあるフリーメイソン思想が、どうにも怪しくって、モーツァルトの純心無垢さが、それによってフィルターがかかっているような気がするのです。
 もちろん、そんなことを考えずに、普通に聴いてモーツァルトのこの魔笛の音楽は、素晴らしいし、素敵だし、あふれるメロディには、心も弾みます。

アバドの待望の「魔笛」は、そんなわたくしの偏屈な魔笛感を、軽くいなすように、音楽の喜びと美しさだけを感じさせるような、ある意味、ちょっと、魔笛から、醒めた感じが新鮮だったのです。
 ベルリン時代後期から、モーツァルトより前の音楽には、めだってピリオド奏法を取り入れてきたアバド。
その本格録音も、この「魔笛」でした。

初めて、ここでアバドの古楽奏法を聴いたときは、「アバドよ、あなたもか」と、ちょっとがっかりしましたが、それも束の間。
アバドの立場で、そしてその年齢で、このチャレンジ精神。
そこにまず、感服するようになり、そして、生半可の乾いたノン・ヴィブラートより、よっぽど、生気と潤いにあふれていて、こうあるのが必然、的な自信にも満ち溢れているのでした。

ほかのピリオド同系統のいかつい「魔笛」よりは、はるかに活きがよくって、楽しくて、微笑みにも事欠かない。
加えて、歌手や、オーケストラが、みんな若く、清冽でピチピチしているのも、アバドの魔笛のよいところです。
繰り返し申し上げますが、数々のポストを歴任した、超大ベテランの齢73歳の指揮者の大いなる意欲と、にこやかな微笑み。
これには、最大級の賛辞を捧げたいと思います。

ですが、それでも、わたくしには、「魔笛」は、長らく聴いてきたベームやハイティンク、サヴァリッシュ、スウィトナーらの大らかでたっぷりした音色の方がしっくりきます。

アバドには、ウィーン時代に、「魔笛」を取り上げて欲しかった。

そのうえで、もう一度、この晩年の「魔笛」があってもよかったです。
あと、ものすごく願わくば、「コシ」も、ちゃんと録音して欲しかった。

Zauberflote_abbado_2

若い歌手たちは、とてもいいです。
なかでも、タミーノのシュトレールの爽やかさと、気品を備えた完璧な歌唱は、素晴らしいです。
レシュマンのこれまた清廉で、嫌味のないパミーナも好きです。
ベテランのパペを除いて、みんな若い歌手たち。

ベルリン後のアバドは、オーケストラ奏者たちが、そうであったように、若手歌手たちとの共演を、とても楽しみました。
孫とも呼べる、彼ら、彼女たちは、オペラの舞台でも、アバドの歌の精神を、しっかり引き継いで、世界の舞台に立つようになっているんです。

アバドの「魔笛」は、2005年に、モデーナ、フェラーラ、レッジョ・エミーリア、バーデン・バーデンの4つの劇場の共同制作により企画され、それぞれで上演されました。
歌手たちは、ダブル・キャストでしたが、先に書いたとおり、いずれも若手。
翌年に、ルツェルンで日本にも一緒に来たハルニッシュもパミーノを歌ってますので、そちらも聴いてみたかったところ。

D_abbado

そして、演出は、アバドの息子、ダニエーレ・アバド。
父親譲りの知的な方なのでしょうか、舞台画像からして、とても生真面目な舞台づくり。
日本にもやってきてますね。
クラウディオそっくり。
 甥っ子の指揮者ロベルトは、アメリカで活躍中ですが、アバド・ファミリーの今後も、ファンとしては注目ですね。

「魔笛」を残したアバドは、次いで、ドイツ・オペラの流れをたどるように、「フィデリオ」に挑戦しました。
そちらは、またいずれ。

アバドとそのオーケストラ、まだ、しばらく続きます。

このところ忙しくて、一気にいけません。
ゆっくりと、その功績を振りかえり、偲びたいと存じます。

Zauberflote_abbado_1

  (ネットで2005年に入手したバーデン・バーデンのパンフレット)

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コメント

この中の良い線、「この人、良い所まで持ちあがっていくよ。」

タミーノ:クリストフ・シュトレール
 この録音の後、2010年には、ナラポート役で、ドホナーニ指揮の’Salome’歌っていますよね。実際、聴いています。
体制が変わってZurichから出て行って。今は、ドン・ホセ、フローを歌っているはずです。劇場は小さくても。
声が重くなっていく人と思っていました。

パパゲーナ:ユリア・クライター、
 今、ヨーロッパで引っ張りだこですよね。引っ張りだこになってきた頃、新国立劇場をキャンセルしましたよね。ダブルスケジュールで。

パパゲーノ:ハンノ・ミュラー=ブラッハマン、
 もう、オレストも歌える人になってどこでも通用するでしょ。

弁者:ゲオルク・ツェッペンフェルト、
 今はグルネマンツに幅を広げていますよね。 先だって、アムステルダム旅行計画の一部にミュンヘンがあって、アンドリス・ネルソンズのパルシファル第3幕(コンサート形式)にこの役を歌っていましたよね。OnDemand配信されていましたね。

パミーノ:ドレテア・レュマン
 この頃、もう出来上がっていた歌手ですよね。自分の声を守っている歌手の筆頭ですよね。海外誌もそのことは強く触れていますよね。今も、守っていますよね。
 日本には来ないと思っています。自分を守ってますから。
 バレンボイムの日本公演の’フィガロ’になる前、海外誌でもC.バルトリとレッシュマンがバレンボイムと’フィガロ’のダブルになっていて、軍配が上がっているのは、レッシュマンでした。バルトリを持ち上げつつ。
 買ってしまって行けなくなった’この4月’のベルリンでも(アムステルダムから戻ってすぐ計画を立てて私自身が受けたドクターストップ)、伯爵夫人を歌っているし。商売っ気あったら、今頃は’アリアドネ’’アラベラの主役’でしょ。
************
今は、CDの時代ではないので売り出した頃は、潰れていく寸前の危険性をはらんでいる時代だから。CDを作る気になっていた制作会社が今は淘汰されている時代だから。

インターネットをよく見ていないと、歌手の育っていく状況やその末路もわからない。。。。。。

投稿: T.T | 2014年2月28日 (金) 17時54分

T.Tさん、こんにちは、ご返信遅れてしまいました。

アバドの「魔笛」の魅力は、いまをこそ、活躍する若手のピチピチ歌手たちの清新な歌唱です。

各歌手につきましては、ご指摘のとおりに、それぞれが、素晴らしく、また当時が青くても、いまや、しっかり熟して、第一線を歩む歌手たちに成長してます。

オペラを聴く喜びは、こんなところにもありますね。
ネット上でも、わたしは、ちょっとでも気になったら、調べてbookmarkしますが、あとで、この人だれ?的なことにもなります。
ひと、それぞれの感性で、選び、自身が決めるスタンス。
それができるようになった、世の中なのですね。

投稿: yokochan | 2014年3月 4日 (火) 23時41分

昨年末か年明けと記憶しますが、ようやく図書館で借りたレヴァイン指揮ヴィーンフィル演奏ポネル演出1982年ザルツブルク音楽祭のDVDをようやく全部観ました。画質はVHS並と言われていますが、CDだとピンと来なかったこのオペラがとても素晴らしいなと思えてきます。
Windouw 8 PCに新調したので近いうちに、去年ラトルとベルリンフィルコンビが2013年4月バーデン=バーデン・イースター音楽祭でラトル自身初、ベルリンフィル自身も、液状での上演は初めてだった「魔笛」のライヴ映像をBDで見ようと思っています。
個人的に興味深かったのは、Youtubeで聴いた演奏の断片がよかったことと新進の奇才演出家ロバート・カーセンによる夜の女王とザラストロは2人で組んで、タミーノとパミーナの若いカップルに試練を与え、成長(啓蒙)させ、新しく生まれ変わらせるという計画であったという読み替え演出です。
youtubeで見れたトレイラーは、
http://www.youtube.com/watch?v=L11bd_Y3_vQ
http://www.youtube.com/watch?v=bRDkgjn2Srs
です。
他にもいくつ見た記憶がありますが、自力で見つけられたのは、ここまでです。
弁者は、ホセ・ファン・ダムが歌っているようです。
バイロイトの読み替え演出はあまり好きになれませんが、こういう解釈はアリかなと思ってしまうあたり、やはり私は、まだ青年世代なのだなと思えてきますね。
ベームも、魔笛を録音していますが、民音の招聘で、ヴィーン国立歌劇場の来日公演をしているのですよね。2-3日に知りましたが。ハイフェッツのモーツァルト弦楽五重奏曲に聴き入ったり、沈んだ時にモーツァルトのレクイエム ラクリモーサを聴いて心の中で泣き叫んだ日々でした。schweizer_Musikさんが取り上げていたK.452もピアノを、ヴァイオリン2,ヴィオラ、チェロ、コントラバスに編曲したもの、ハープとフルートのための協奏曲、クラリネット協奏曲に聴き入ったりでした。
あの騒動がきっかけで、モーツァルトの真意を理解できたことが、あの騒動での最高の収穫のようにも思えてきますね。まだモーツァルト関連で書けるエピソードがありますが、ここで筆をおこうと思います。
お互いに心身とも大変な日々を過ごされていると思います。
返事は、yokochanさんのペースでいいんです。
それでは。

投稿: Kasshini | 2014年4月30日 (水) 07時35分

Kasshiniさん、こちらにもありがとうございます。
レヴァインの魔笛は、これもまたNHK放送のビデオを持ってます。
あの時代の映像は、いまのクオリティからすると見劣りしますが、劇場の外壁をうまく活用したポネルのファンタジーあふれる演出だったです。

カーセンの演出は、実舞台でもいくつか観てますが、この人の説得力あふれる舞台は、小手先の解釈でなく、音楽に即した納得感あるものです。
 バイロイトの昨今の連中は、ワーグナーの音楽を無視したようなものがあるので、怒ってます。
読み替えも、音楽をしっかりと理解し、邪魔にならなければよいのです。

ベームは、日本では魔笛は指揮しておりませんで、フィガロだけだったかと記憶します。
ベルリンフィルとの音源は、ヴンダーリヒのタミーノの素晴らしさもあって、忘れえぬ演奏になってますね。

いろいろと、ご配慮ありがとうございます。

投稿: yokochan | 2014年5月 2日 (金) 20時19分

ベームのヴィーン国立歌劇場引っ越し公演で上演された演目は「フィガロの結婚」と「ナクソス島のアリアドネ」。他の指揮者まで広げると、「エレクトラ」、「サロメ」
「後宮からの誘拐」も上演されたようですね。ヴィーン国立歌劇場の来日引っ越し公演で、魔笛が上演されたのは1989年のようですね。

投稿: Kasshini | 2014年5月 3日 (土) 16時35分

「魔笛」は、当初、アーノンクールが予定されていながら、結局指揮したのは、グシュルバウアーだったかと記憶します。
わたしは、そのときは、アバドのボリスを観劇しました。
若いころは、給金を全部音楽に回してましたもので、外来オペラをかなり行きました。
いまは、S席6万以上、安席でも2万円以上。
もうこうなると、新国しか手がでません(笑)

投稿: yokochan | 2014年5月11日 (日) 11時38分

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