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2014年2月16日 (日)

シェーンベルク 「ペレアスとメリザンド」 アバド指揮

Abbbado_gmjo

クラウディオ・アバドと、若い奏者たち。

アバドは、70年代の早い時期から、ヨーロッパ各地のユース・オーケストラを率先して指揮して、指導してきました。

そのような無私の姿勢も、かつての巨匠たちにには、なかった姿でして、ポストを持っていた一流オーケストラとの集中的な活動と併せて、若い演奏家たちとの協演を、とても大切にしていました。

アバドのような一流指揮者が率先すれば、そこにスポンサーも付き、アバドを創設者とした、若いオーケストラが、いくつか生まれました。

 ・ECユース・オーケストラ(初代指揮者)              1978

 ・ヨーロッパ室内管弦楽団(創設者)              1981

 ・グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ(創設者) 1986

 ・マーラー・チェンバー・オーケストラ(創設者)       1997

 ・モーツァルト・オーケストラ(創設者)             2004


若いオーケストラ以外にも、それとあわせて、プロのオーケストラも、いくつかスタートさせていることはご存知のとおりです(スカラ座フィル、ルツェルン祝祭管)。

前回、アバドのベルリン・フィルでの全霊を傾けた活動について書きましたが、あちらは、年間の指揮数は相当数で、芸術監督としての責務もあったから、それら以外に、初期のウィーンの兼務などは不可能に近いこと。
まして、指揮するたびに、楽員さんが入れ替わるなんて、アバド・クオリティからしたら許しがたいことでしたでしょう。

それらの重責のなかで、若い奏者たちとの交流は、いかにアバドにとって、嬉しく楽しいことでしたでしょうか。

ECユース・オケとの音盤は、ザルツブルグ78年ライブが、熱気ほとばしる、熱い演奏ですが、そちらは今後またの機会として、本日は、マーラー・ユーゲントとの演奏を。

Abbado_mahler_schoenberg_2

まず、思う、この秀逸なジャケット。

  シェーンベルク 交響詩「ペレアスとメリザンド」

    クラウディオ・アバド指揮 グスタフ・マーラー・ユーゲントオーケトラ
 


                     (2006.4 ウィーン・ムジークフェライン)

メイン曲、マーラーの4番の健康的ムードではなくて、爛熟世紀末、トリスタンの延長のようなシェーンベルクの音楽に、ぴたりと符合するんです、このジャケット。

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グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ(GMJO)は、オーストリアとハンガリーの若い奏者たちに門戸を広げる意味で、オーケストラ演奏経験を名指揮者たちのもとで積むというスタンスでスタートしました。
そしてすぐに、ヨーロッパ全域の若者を対象とし、さらに26歳までというラインも設定され、このオーケストラを卒業して、各地のオーケストラに旅立って行くというパターンが創出されました。
 このオーケストラの卒業生で造られた、マーラー・チェンバー・オーケストラについては、また次回となります。

 アバドは、若き日々から、シェーンベルク・ウェーベルン・ベルクの新ウィーン楽派の3人の音楽を、さかんに演奏してきました。
しかし、それには、諸所、段階がありました。
かつての昔は、このジャンルの音楽をコンサートのメインに据えるということは、なかなかに起こりえないこともその一因で、ウェーベルンの小品、ベルクの3つの小品、そのあたりを繰り返し演奏し続けました。

そして、有力ポストについて後、ヴォツェックやグレの歌などの、大きな作品に着手。
そんななかのひとつが、「ペレアスとメリザンド」です。

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この曲が大好きなものだから、アバドがいつ指揮するのか。
それが本当に待ち遠しかった。
かなり若い頃に、指揮はしているけれど、ベルリン時代の終わりごろに、「愛と死」のテーマのもと、集中して取り上げるようになりました。

わたくしのライブラリーには、2001年9月のベルリン・フィルライブがありまして、それはそれは、輝かしくて高貴で、美しい演奏で、ベルリンフィルの舌を巻くようなべらぼーなうまさも感じさせてくれる名演であります。
この時のプログラムは、F=ディースカウの語りによる「ワルシャワの生き残り」、P・ゼルキンのピアノによるピアノ協奏曲、というシェーンベルクの一夜なのです。
いまでは実現不能の、すごい顔ぶれです。

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(アバドには、ベルリンのフィルハーモニーとともに、ムジークフェラインもお似合い)

そして、2006年の4月には、GMJOとの欧州ツアーで、この曲と、マーラーの4番を取り上げていて、このときが、このコンビの最後の共演となっております。
結成いらい、各地を回りながら、毎年マーラーを中心に演奏してきました。
さらに、ウィーンモデルンでの現代音楽や、エディンバラでの「パルシファル」など、20年間のアバドとGMJOとの、幸せな結びつきでした。

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 (マーラーのときにも気になりました、パーカッションのかわゆい彼女)

この映像で見る若い奏者たちは、あたりまえだけど、本当に若い。
そして、その音色は、コクや音の背景も感じさせるベルリン・フィルの老練さには、足元も及びません。
 しかしながら、彼らの眼差しのまっすぐぶりは、アバドを尊敬の念を込めて見上げるその真摯な表情とともに、とても気持ちのいいものです。
ツアーを組んで、何度も何度も演奏してきているので、音楽はきっと自分の中に入り込んでいるはず。
だから、譜面を凝視しなくて、指揮者を見ながら演奏している場面の奏者も多々。
 アバドも、そんな彼らと、本当に楽しそうに指揮しています。
演奏が終って、何度も呼び返され、楽員たちもアバドに敬意を表し、立ち上がりませんが、アバドは自分ひとりが喝采を浴びることを、絶対にしない指揮者でした。
必ず、コンマスの手を取って、全員立たせてしまい、指揮台にも上がらず、一緒になってにこにこしてます。
 そんな謙虚なアバドは、相手が若者でも変わりありません。

シェーンベルクの青白い炎のような、甘味なるブルー系の音楽が、若いオーケストラの夢中の演奏から、静かに立ちあがってくるのを聴くことができました。

このDVDの良いところは、もうひとつ。

この曲の解説が冒頭に15分くらいあります。
シェーンベルクが凝って、そして編み込んだ物語の登場人物3人(ペレアス、メリザンド、ゴロー)を中心とするライトモティーフが、演奏シーンでもって紹介され、さらにブルー・グリーン・レッドの3色に置き換えることで、本編では、画面下に、その色のバーがほんのりあらわれるのです。
人物の心情がダブったりする場合は、二色になります。

観て、聴いて、シェーンベルクのペレアスへの音楽理解を深めることができるという、二重の楽しみがあるんです。

アバドが好きだった、マーラーとそのあとの新ウィーン楽派の作曲家たちの音楽。

若い奏者たちとの、生き生きとした表情は、この半年後、ルツェルンとの今思えば、最後の来日での、にこやかさとともに、病後、最良のコンディションにあったのでは、と思います。

若い奏者たちは、こうしてアバドや、ブーレーズなどの名手との貴重な体験を経て、プロ・オーケストラに旅立って行きましたし、なかなかポストもないことは、洋の東西ともに同じ。
アバドと仲間たちは、卒業生を中心とした、精鋭による、マーラー・チャンバー・オーケストラをあらたに創設したのでした。

次回は、マーラー・チャンバーとアバドの演奏をたどります。

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過去記事

 アバド&GMYOのマーラー4番

 バルビローリのペレアスとメリザンド

 ベームのペレアスとメリザンド

 エッシェンバッハのペレアスとメリザンド

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