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2014年2月 4日 (火)

ブラームス 「運命の歌」 アバド指揮

Abbado_bpo

1989年10月、クラウディオ・アバドはついに、ベルリン・フィルハーモニーの芸術監督に選出され、ミラノ、ウィーン、ベルリンを歴任し、カラヤンのたどった道のりを踏襲した、唯一の指揮者となったのでした。

しかし、アバドは、カラヤンとはまったく次元の異なる存在であり、大巨匠然とはならずに、謙虚に、しかも、ベルリンはひとつの完成形で、そのあとにもまた、新たなステージを自ら設けるという、誰しも成し得ないことを達成したことは、みなさまご存知のとおりです。

ベルリン時代のアバドに至るにあたり、カラヤンのあと、いかにしてアバドが選ばれたかを、当時の記録などに基づき書いておきたいと思います。

1989年4月、長い在期の帝王君臨時代であったカラヤン期の終了、そしてその7月の驚くべきカラヤンの死去。
当時のクラシック音楽ファンにとって、アンチであっても、カラヤンとベルリンフィルの関係の終了と、その突然の死は、それぞれの聴き手の、クラシック音楽との関わりの中でも、ひとつの時代の終了という風に受け止められました。

カラヤンの死から3カ月後に、ベルリンフィルの楽員たちの選挙によって選びだされた次の指揮者が、アバドと公表されたときは、世界中が、あれ?っという感じの受け止め方だったと思いますし、アバドファンのワタクシでさえ、え?って感じだったのです。

当時のアバドは、スカラ座とロンドン響を卒業したとはいえ、ウィーン国立歌劇場の音楽監督として、ウィーン市自体の音楽責任者のような立場にあって、多忙を極めていた時分です。

19891116abbadoantrittskonzert_reinh

1989年10月8日に、ベルリンフィルの楽員総選挙が行われました。

その模様を、当時、NHKFMが、アバドの就任特集の中で、放送しまして、わたくしは、一喜一憂しながらメモを必死に取ったのでございます。
インタビューアは、亡き黒田恭一さん。
レポーターは、1959年から2001年までの長きに渡り、ベルリンフィルのヴィオラ奏者をつとめられた土屋邦雄さんでした。

・10月8日の本選の前に、楽員ぞれぞれが3人の候補指揮者を書いて投票。

・その予備選で選択された指揮者が13人

 「アバド、バレンボイム、バーンスタイン、ハイティンク、ヤンソンス、クライバー
  クーベリック、レヴァイン、メータ、ムーティ、小澤、ラトル」
(abc順)

・10:00  13人を8人に絞り込む投票を、ジーメンスビラで行う。
 外部との連絡シャットアウト、缶詰状態。

 「バーンスタイン、ハイティンク、クライバー、レヴァイン、マゼール、ムーティ
  メータ、ラトル」


  この時点で、アバドはもれています・・・・

・上記8人から、そもそも受諾の意思なしの3人を除外。

 その3人は「バーンスタイン、クライバー、メータ」

・しかし、ここで、新たなルールが発動。
 辞退者が出た場合は、最初の選出者を再度交えて投票とのルール!
 ということは、13-3=10人。

 この10人の指揮者に対して、楽員たちが、その思うところを、推薦演説。

・再度の投票で選択された6人

 「アバド、ハイティンク、レヴァイン、マゼール、ムーティ、ラトル」

 ここで、いままで後手に回っていた、アバドを押す声が次々に高まり、数十人が演説。
 クライバーが無理なのだから、アバドを、という声も!

・2回目選出投票で3人

 「アバド、ハイティンク、マゼール」

・3回目選出投票で2人

 「アバド、ハイティンク」

・最終投票→打診→OK 「アバド」note

土屋さんも語っていた、「どんでん返し」という言葉

もしも、あらたなルールがなければ、アバドではなく、ハイティンクか、マゼールだったかもしれない、ベルリン・フィルの指揮者。

まさに「運命の力」、「運命の歌」でございました。

われわれ、アバドファンにとっては神の差配だったのでした。

もちろん、わたくしは、アバドと同時に、ハイティンクも大好きなので、それはそれ、結果オーライだったのですが、マゼールが嫉妬に身を焦がしたのも、ベルリン・フィルの指揮者という世界最高峰の地位のなせる技なのでしょう。

人一倍謙虚なアバドは、すんなり受け入れ、天下のベルリンフィルを、すんなりと、別次元の高性能オーケストラに変貌させてしまいました。

こんな経緯を知るにつけ、アバドの音楽性がよくわかります。

静かに微笑む知的な感性ですが、それが人を魅きつけ、いつしか、この人なら安心、という風に思わせ、やがて心酔させてしまう魅力の塊。

それがアバドです。

Abbado_brahms3

 ブラームス 「運命の歌」

         
交響曲第3番 ヘ長調

  クライディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

アバドにとっても思い入れの深い作曲がブラームス。

それ以上に、ベルリン・フィルとしては、ベートーヴェンやブラームスをいかに指揮してくれるかが、一番大事なポイント。

アバドの芸術監督選出のポイントとなる演奏会が、1989年9月、カラヤン亡きあとのシーズンオープニングの演奏会に招かれたアバドの指揮のものでした。

プログラムは、こちらのブラームス2曲と、間に、ポリーニを招いてのシューマンの協奏曲。

これが実に素晴らしい出来栄えで、ライブにおけるアバドの感興あふれる素晴らしさに、楽員たちは引き込まれてしまったのでした。
ことに交響曲が凄かったと。

いまあるCDは、それらの演奏会のもではありませんが、アバドらしく、しなやかさと歌心にあふれた、安心の名盤です。

ことに、「運命の歌」は、とても地味な音楽ですが、アバドによって広まられ、またアバドによって、自分でも好きになった曲です。

こちらの記事で書きましたし、シュナイト&神奈川フィルのとんでもない名演にも接してます。

ヘルダーリンの詩に基づく、悲劇的な内容のテキストですが、ブラームスのつけた音楽は極めて生真面目で、かつほどよい甘さもあり、安らぎや癒しの面持ちにもあふれてます。
 アバドは、この曲が大好きで、若いころからずっと演奏し続けてきました。

Abbado_rinaldo_2Abbado_holderlin_2


デッカ時代のニュー・フィルハモニア盤、DGのベルリンフイルとのブラームス全集の一環、CBSへの、ヘルダーリン特集のライブ。
これらが正規録音3つ。
 さらに、ベルリン・フィルの退任演奏会でも、この曲を指揮しました。
2002年4月の最後の定期演奏会です。

この曲に、ここまで全霊を打ち込んだ指揮者は、アバドをおいてほかにはおりません。

アバド亡き日々、わたくしは、この曲を前にも増して、4つの録音をその機に応じて、聴き続けております。

きっかけの始まりと、その終わりにあった、ブラームスの「運命の歌」でした。

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コメント

今晩は。ブログ主様は日本一のアバド・ファンかもしれませんね。芸術家であれ、異性であれ、小説や漫画のキャラ(笑)であれ、誰かにここまで夢中になれるなんて本当に素晴らしいことです。私は指揮者だとガーディナーがいちばん好きですが、ブログ主様のアバド熱には絶対に負けます(笑)。ヘルダーリン、本当に素晴らしい詩人ですね。唯一の長編小説「ヒュペーリオン」は、ギリシア独立戦争に参加するドイツ人青年ヒュペーリオンのお話ですが、恋人のディオティーマと巡り合うシーンが本当に感動的で、ワルキューレ第1幕後半の兄妹の二重唱に匹敵するものがあります。筑摩書房版手塚富雄訳で大学時代に読んでいるのですが、切ると血が出るような熱くて勢いのある文章で…絶好調の時のアバドやクライバーの演奏のようです。ちくま文庫版の最近出た新訳や岩波文庫版でまた読むつもりなんです。これほどの大詩人の文章に負けない音楽を創ったブラームスにも、その詩や音楽に負けない名演をベルリンフィルでやったアバドにも全く脱帽です。

投稿: 越後のオックス | 2014年2月 5日 (水) 00時23分

越後のオックスさん、こんにちは。

お誉めいただき、舞い上がるような心境です。

ブログプロフィールにもありますが、アバド、ワーグナー、英国音楽、オペラ、ベイスターズ、そしてプロフィールを変更しなくちゃなりませんが、神奈川フィル。
これらが私のみたいな存在なんです。

こんな風に夢中になること、おわかりいただける心情・信条だと思います。

ヘルダーリンは、アバドによって名前を知った人ですが、残念ながらそれ以上ではありません。
文学系では、越後のオックスさんは、さすがです。
わたくしなど、足元にもおよびません。

きっと、アバドも好んだ作者なのでしょうね。
この機に、本屋さんをのぞいてみます。

アバドは、このように、シーズンごとに、特定のテーマを設定してプログラムを組みました。

投稿: yokochan | 2014年2月 5日 (水) 22時43分

佐村河内を誉めてた奴、耳鼻科、病院に行くべき。クラシックを語る資格なし。答えは私大非常勤講師のやっつけ仕事でした。

投稿: | 2014年2月 6日 (木) 17時19分

ご無沙汰しております。

ヘルダーリンとブラームス、この取り合わせが、私としては興味深く思いました。

今までも、様々な作品や作曲家をこちらで教えて頂きました。今後もこれまで同様に、記事を楽しみにさせて頂きます。

投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2014年2月 6日 (木) 17時34分

今晩は、よこちゃん様。
マエストロアバドとの別れ、この度の件と余りに辛過ぎる出来事に貴殿の心が壊れてしまうのではないかと心配です。
様々な報道に様々な中傷が飛び交っています。切ないです。 ですが…どうか忘れないで下さい。
交響曲「HIROSHIMA」で得た感動は貴殿が私にくれた素晴らしい贈り物であるという事を。
泣いて下さい。酒に溺れて下さい。でもまた立ち上がって下さい。
このコメントに返信は要りません。返答するのも辛いはずなのに律儀に返す貴殿の誠実さが痛々しいのです。 今日は一方通行ですよ。お願いします。

投稿: ONE ON ONE | 2014年2月 6日 (木) 21時44分

Booty☆KETSU oh! ダンスさん、こんにちは。

わたくしの音楽の師匠のような存在でもあった、マエストロ・アバドあってのことです。

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

ブリテンも今後聴き続けていきます。

ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2014年2月 6日 (木) 22時27分

私大非常勤のやっつけ仕事で、結構ではないですか。
我々庶民は、周辺事情を語るのが楽しみなんです。
野球ファンがみな野球の名手ですか?
知識を貯めて語り合うコミュニティこそが、アマチュアのクラシック界の良さなのです。

投稿: | 2014年2月 6日 (木) 22時28分

ONE ON ONEさん、こんにちは。

禁を破って、お返しいたします。

ありがとう。

お心使い、涙がでました。

投稿: yokochan | 2014年2月 6日 (木) 22時38分

読み人しらずさま、こんにちは。
コメントありがとうございました。

個人が趣味で、それが高じて、オタクになり、ブログやってます。
これで、メシを食ってるわけではないので気楽なものです。

ごひいきを作って、追いかけるもよし、嫌いなものをイヤというのもよし、それがいいところですね。

今回の件は、まだひと波乱ありそうですが、冷静に見守りたいと思います。

投稿: yokochan | 2014年2月 6日 (木) 22時50分

はじめまして、よこちゃんさま。
私は長年、あなたのブログを
読ませていただいているものです。
今まで何度お便りしようかと思ったことでしょう。
私は1959年生まれ、きっとあなたとほぼ同じ年齢と
思っています。
いつも、そのすばらしい内容とあなたの音楽に対する
熱意に感銘をうけています。たくさん、勉強もさせて
いただいています。本当にありがとうございます。
私も40年近く、ABBADOを敬愛し続けてきたものです。
明けても暮れてもABBADO一筋に生きてきました。
でも生演奏を聞けた機会は数回でした。今はとてもそのことが悔やまれます。2012年スカラ座演奏会に行くことが
できたのは(17年ぶりのイタリアでした)本当に神様の贈り物でした(そのいきさつについてはいろいろあるのです)その際にミラノのABBADIANIの皆さんと交流も生まれ、ずっとメールのやりとりが続いています。
ABBADOとの別れはあまりにも突然で、今でも信じられません。信じたくありません。まだ映像は見ることができません。よこちゃんさまのABBADO追悼特集を愛おしく読ませて
いただきながら、静かに偲ぶ毎日です。あなたの記事は
宝物ですよ。プリントアウトしてファイルに整理しています。いつか是非是非お会いして大好きなABBADOの事を
語り合いたいと思っています。こんなに悲しくて、まだまだ静かにあの方を偲び続けたいのに、佐村河内氏のこの騒ぎ。よこちゃんさまの心中を心からお察しします。
そうです、まわりの雑音にふりまわされることはゴメンです。引き続き私たちのABBADOを偲び続けましょう。心から
応援していますから、がんばってください。
「今度はどんな記事かしら・・」と楽しみに待っています。今後ともよろしくお願いいたします。
それから私も猫大好き人間です!

投稿: 八王子のSOKO | 2014年2月 7日 (金) 12時47分

横入りして失礼します。
八王子のSOKOさん!
同級生ですね^^

投稿: モナコ命 | 2014年2月 8日 (土) 07時37分

八王子のSOKOさん、こんにちは。
そちらはかなりの積雪ではありませんか?

舞い降る雪をみながら、聴くアバドのチャイコフスキーは、本日、格別です。

いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
そう、ほぼ同じ、58年です。
そしてアバド視聴歴も同じく、ですね。
とてもうれしく存じます。
なんか、お誉めいただいちゃって、こそばくて恥ずかしくなっちゃいます。

2012年のミラノは、スカラ座でのマーラー6番の時ですか?
いやはや、羨ましいですね。
きっと壮絶な演奏だったのでしょうね。
それこそ、是非その感想をお聞きしたいと思います!

アバドへの思いに日々浸っていたのに、世間を揺るがすこの騒ぎ。
確かに、弊ブログでは、積極的に佐村河内氏を取り上げてきましたが、いまはそれでころでないのです。
 もっとも大切なアバドとの別れに、全霊を込めて、そして自分を振り返る意味で、記事を多くしたためたかったのですから。

八王子のSOKOさんは、ほかのアバド好きの皆さまからの応援もいただき、心強く思い、しばらく継続いたします。

あたたかく、心のこもったお言葉、ほんとうにありがとうございます。感謝いたします。

ねこは、いいですね!

投稿: yokochan | 2014年2月 8日 (土) 14時25分

モナコ命さん、横入りの、さらに横入り、失礼します。
みんなおんなじですね。(笑)

引き続き、よろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2014年2月 8日 (土) 14時39分

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