コルンゴルトのオペラをつまみ聴く
開演30分前の新国立劇場。
久しぶりのこの劇場でしたが、ほんとうに居心地がいい。
音もほどよく響くようになってきたし、なによりも、われわれ観衆が、オペラを日常に楽しむという音楽生活が根をおろし、それに、ぴたりと符合するように、劇場側の最良の環境づくりや、もてなしがすっかり板についた感がありました。
往時は、かなりの頻度で観劇してましたが、いまは経済的にも厳しく、ねらった演目だけに行くようになりました。
そんな、お久しぶりさんにも、この劇場は優しく、心地よい空間を提供してくれました。
念願の、コルンゴルトの「死の都」の上演に接し、あらためて、すっかり、その音楽とドラマの素晴らしさの虜になりました。
月曜の観劇以来、手持ちの3音源を、とっかえひっかえ聴いてます。
あわせて、ほかの4つのオペラをつまみ聴きして、コルンゴルトの劇才と、素晴らしいメロディの噴出に、酔いしれております。
手持ちのCD音源。
わたくしにとって、モーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、R・シュトラウス、シュレーカー、ブリテンのオペラ音源は、宝のようなものです。
これらを、手にとり、眺めるだけで、お酒も美味しいし、とっても幸せな気分に満たされるんです。
こーゆーのを、ヲタクっていうんでしょうね。
コルンゴルトのオペラは、5作。
本ブログの過去記事へのリンクがタイトルに貼ってあります。
①「ポリュクラテスの指環」 1914年 17歳
B・ワルターが初演。17歳だというのに、なかなかに人の心、人生の教訓、夫婦愛などをテーマにしていて、奥行きあるコメディオペラ。
絶頂期に、一番大事なものをすてることができる??、っていう意味深いドラマでありますが、コルンゴルトの明るく素敵なメロディは、人生の深みとは遠く、軽いタッチで楽しませてくれます。
②「ヴィオランタ」 1915年 18歳
こちらもワルターの初演で、そこには、ベームもいました。ふたりは友達。
15世紀イタリアのヴェネチアを舞台にした、血なまぐさい、コルンゴルトのヴェリスモ的なオペラ。
夫もいる主人公は、妹を殺したと言われるかつての恋人を憎み、亭主に殺害を命じるが、登場した彼との愛がよみがえり、かわりに、彼女が殺されてしまうという情念ドラマ。
マスカーニやレオンカヴァッロのような血の濃さはありません。
ここでも、美しいメロディと巧みな劇性が、その年齢をまったく感じさせないのです。
③「死の都」 1920年 23歳
こちらは、もう申し上げるまでもありませんね。
今回の、東西の上演が、日本の音楽界に「死の都」=コルンゴルトのブームをもたらすか?
そうあって欲しい半面、しずかに、そっとしておいて欲しい気もいたしますのは、好きこその、我がままでありましょう。
かつて、ほんとうに、まったくネグレクトされていたコルンゴルトの再評価に一矢を投じたのが、ルネ・コロが歌ったラインスドルフ盤。
1977年にレコード発売されましたが、ファンだったコロが歌ってはいるとは知りながら、さすがに、見知らぬ作曲家のオペラ3枚組6,900円には、どうしても手が出ませんでした。
しかし、コルンゴルトを普通に演奏し、録音する動きは、ここから始まったといっていいかもしれません。
思えば、この演奏も、聴きすぎて、かえって記事にしてませんでした。
あらためて、聴き直してみて、R・コロの甘味なれど、抜群の威力と退廃感に感服してます。
そして、当時は、フランクとフリッツをなぜ、別の歌手でやったのか、面白いと思いました。
タンホイザーのエリザベートとヴェーヌスみたいな感じでしょうかね。
あと、いま気にいってるのが、フォークトのタイトルロール、ヴァイグレのフランクフルト盤です。ユニークなパウル。週末に取り上げようかな。
④「ヘリアーネの奇跡」 1927年 30歳
長大かつ、筋立てが複雑な歴史絵巻。
CDたっぷり3枚は、聴き応えもあるが、音楽はより近未来風な響きを醸すようになりつつ、随所にとろけるような美しい旋律があふれだしている。
ソプラノの主人公に、甘いテノール、悪漢風のバリトン、という構図は、コルンゴルトの常套。
暴君はびこる国に、やってきたさまよい人が、君主の妻も愛情もって解放し救うのですが、夫の暴虐の餌食に。最後は、まさに奇跡が巻き起こり、ふたりは昇天・・・。
ややこしいドラマの内容に、このオペラのみは、いまだに全貌をつかみきれず、弊ブログでは記事になってません。
音楽の方は、しっかり把握できたのですが、大概において、輸入盤の対訳なし、かつロングなもので・・・・。
年内になんとか、記事にしたいです。
ヒロインの、とんでもなく美しいアリアには、骨抜きにされてますよ。
⑤「カトリーン」 1937年 40歳
このオペラ、大好き!
ナチスの台頭で、完成していたこの作品も演奏されることなく、コルンゴルトは、アメリカに向かうこととなります。
こちらもCD3枚という、長尺ものですが、全作ほどに大胆な響きはなく、極めてロマンティックで、メロディアス。
なによりも、ラブロマンスなんです。
不幸が続く、主人公二人の愛なんですが、最後は、微笑ましく、涙も出てしまうようなハッピーエンドなんです。
フランスとスイスが舞台。
外国人将校で歌手の彼と、とひと目会って、恋に落ちた、可愛い女工カトリーン。
魔の手に落ちてしまいますが、運命の歯車で、助かり、スイスで、彼との愛息子とともに、宿を営みながら、彼の訪問を待ちます・・・・。
このオペラも、ほんとに好きで、主役たちの素晴らしいアリアに、ちょっとワルな連中の夢中な歌も、それぞれに素敵なもんです。
CDで指揮してるのは、名古屋フィルの指揮者になったブラビンスさんです。
あとひとつ、ミュージカル・ドラマとして、「沈黙のセレナード」がありまして、こちらは、ただいま練習中です。
「死の都」以外の上演も、なんとか体験してみたいものです。
3月のコルンゴルト月間、31日まで、もうしばらく続けます。
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コメント
こんばんは、よこちゃん様。
井上道義氏が咽頭がんで活動休止のニュースが報道されましたね。
若い頃は美男子で鳴らした氏も、最近はお茶目でユーモラスな(眩しい)親父さまといった風情で楽しませてくれています。
ミッチー氏はコルンゴルドの歌劇を随分前から積極的に指揮していたんですね。初めて知りました。
病魔に打ち勝って復帰して欲しいものです。 ミッチーの指揮で是非コルンゴルド聞いてみたいです。
投稿: ONE ON ONE | 2014年4月30日 (水) 20時43分
ONE ON ONEさん、こんにちは。
ご返信、遅くなりました。
ミッチーさんの発病の件、わたしも、心配です。
あのお人柄は、日本の指揮界で、とても大切な存在ですね。
演奏会形式での、「死の街」の日本初演者なのですから、もう一度、取り上げて欲しいです。
きっと、数か月のちに、元気に登場されるものと存じます!
投稿: yokochan | 2014年5月 2日 (金) 20時54分
初めまして、コルンゴルディアンの鶴原と申します。よろしくお願いします。
文中の「沈黙のセレナーデはただいま練習中」とはどのような意味でしょうか?上演予定があるのでしょうか?とても気になりまして・・・
投稿: 鶴ちゃん | 2015年1月16日 (金) 12時21分
鶴ちゃんさん、こんにちは。
以前にも、コルンゴルトの記事に、何度かコメントをいただいておりましたし、貴サイトもおなじみなんですよ。
作春の石橋メモリアルでのコンサートでは、たぶん、この方だろうなと思う、鶴ちゃんさんをお見かけしました。
あらためまして、よろしくお願いいたします。
で、「練習中」という発言に関しまして。
すいません、誤解を与えてしまうような表現をいたしました。
ここで書いた「練習中」とは、「自分が、いま、聴いて、馴染んで親しんでいる最中です」という意味でして、決して大それたことではなく、内容把握できたらブログ記事にしようという自分への思いでもあったのです。
失礼いたしました。
呑み助なもので、飲んべいの間では、正式乾杯の前のチョイ飲みを、練習中などと呼んだりもしております。
あしからず、申しわけありませんでした。
投稿: yokochan | 2015年1月17日 (土) 01時23分
了解しました。練習を終えて本番になるのを楽しみにしています。
投稿: 鶴ちゃん | 2015年1月17日 (土) 21時28分