ドビュッシー 交響詩「海」 アバド指揮
ベルリン・フィルの退任を告知しおたおり、退任後は、ずっとあたためていたことがあるんです、と静かに話していたアバド。
その言葉は、ルツェルン音楽祭管弦楽団の立ち上げで、現実のものとなりました。
2002年にベルリン・フィルを退任、そして2003年8月に、ルツェルン音楽祭でスタート。
マーラー・チェンバーの稿でも書きましたが、そちらのメンバーもルツェルンの母体に。
1938年に端を発する「ルツェルン音楽祭」は、ブッシュやトスカニーニ、アンセルメ、ワルターらの指揮者が登場し、そのオーケストラは、スイス・ロマンドを中心とした、スイス国内のオケメンバーによるもの。
いくつかの歴史的な録音で、いまも聴くことができます。
その後は、外来オーケストラを主体とする名音楽祭になってゆくのですが、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オケが、そのレジデントになってのち、アバドの声掛けによる、新生ルツェルン音楽祭オケの誕生となります。
毎年、10年間にわたって映像と実演によって接してきましたが、不変のメンバーもいますし、常にそこには、スタープレイヤーと、若手とが、真剣勝負のように演奏する姿を見せてくれました。
2003年のスタート演目は、ふたつ。
① ワーグナー 「ワルキューレ」~ウォータンの告別
ブリン・ターフェル
ドビュッシー 「聖セヴァスティアンの殉教」
交響詩「海」
② マーラー 交響曲第2番「復活」
ドビュッシー 交響詩「海」
クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン音楽祭管弦楽団
(2003.8.14 @ルツェルン 複合文化センター)
子供時代、ドビュッシーの「夜想曲」を聴いて指揮者への道を誓ったアバド。
「夜想曲」は、ボストン響との録音などで、早くからレパートリーとして取り上げてきましたし、「牧神」「イベリア」「セヴァスティアン」、ことに、「ペレアスとメリザンド」は、繰り返し上演し、ことさらの愛情をそそいだドビュッシー作品です。
しかし「海」を指揮するのは、2000年に入ってから。
マーラー・ユーゲントとのツアーで、その演目は、バルトークの弦チェレ、アルゲリッチとのラヴェル、そして、「海」です。
FM放送もされ、わたくしは、アバドの初レパートリーのバルトークとともに、「海」のドラマティックな推進力あふれる演奏に聴き入りました。
そして、このルツェルン。
アバドのルツェルンの「海」は、GMJOの時よりも、さらに若々しく、明るく、しなやかな演奏になりました。
見渡す限り、すごい顔ぶれのオーケストラ・メンバー。
コンマスは、ブラッハー、クリスト、ポッシュ、グートマン、ハーゲンSQ、パユ、マイヤー、ザビーネ・マイヤー、ジェンセン、フリードリヒ・・・・、もう枚挙にいとまないくらいに勢ぞろい。
その彼らが、病を克服し、すっかり元気になったアバドの指揮のもとで、全霊を込めて演奏に熱中する様子は、映像で見ていてすっかり引き込まれ、感動してしまう。
そして、その彼らの奏でる音の輝かしさといったらない。
無尽蔵と思われるレンジの広さに、音の溶け合いの美しさ。
名手同士が、お互いに音を聴きあいながら、アバドの指揮を見上げるように演奏。
アバドは、ときに笑みを浮かべながら、いつものように、左手をぐるぐると回すように指揮をしてます。
本当に、音楽が大好きで、夢中の様子。
そんなアバドが、もういない・・・・、そう思うと、ドビュッシーの音楽で泣けてきた。
トリスタンとパルシファルに集中していた当時のアバド。
このドビュッシーは、さらに2000年代にも集中して取り上げた、マーラーや新ウィーン楽派といった音楽の流れの中に、しっかりと位置する、演奏に思いました。
大編成でも、決して濁ることのないアバドのドビュッシーの明晰な音楽詩は、ルツェルンという高性能かつ、アバドの意を完全掌握するスーパー・オーケストラでもって、な完璧ものとなった思いがします。
明るさと、きらめきを感じる、陽光あふれる海の光景。
この輝かしくも、透明感あふれる「海」は、かつてのアンセルメやミュンシュ、マルティノン、デュトワらの伝統的な演奏とも、ブーレーズの知的な明晰さとも、カラヤンやプレヴィン、バレンボイムらの交響詩的な聴かせ上手の演奏とも、まったく異なる、ユニークな演奏に思います。
この映像には、「セバスティアン」は収録されてますが、「ワルキューレ」はなし。
非正規盤CDRで、全曲を1枚のCDで聴くことができます。
いずれ、ちゃんとしたCDでも発売して欲しいと思いますし、2009年のベルリン・フィルとのライブも音源化して欲しいと熱望します。
喝采を受けるアバド。
会場には、ハイティンクの姿を見受けられました。
ハイティンクは、アバドのピンチヒッターとして、何度も急場を救っていただきました。
オーケストラ、ソリスト、ほかの指揮者たちから、みんなに愛されたアバドです。
ルツェルンの記録、もう少し続けたいと存じます。
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