バッハ ゴールドベルク変奏曲 リヒター
モクレン(白木蓮)の花も、満開を過ぎて、華麗な香りを残しつつ散っていました。
3月のおしまいのころ。
季節の移り変わりのなかで、一番、劇的なのが、晩冬~初春。
しかも、ここ数年、いきなりの、まったくの春がやってくる感があります。
着るものも激しく替えなくちゃなんない。
オーバーを脱ぎ捨て、薄手のコートは手元に残しつつも、冬物のスーツやジャケットでは暑い。
街に新入社員が目立つようになる晴天の日は、ジャケットすら暑くなって、シャツ1枚で歩きたくなる昼時。
1年のうちで、一番、めんどくさい季節。
でも、爆発的にやってくる、春の美しさには、抗しきれません。
バッハ ゴールドベルク変奏曲
チェンバロ:カール・リヒター
(1970.4 @ミュンヘン)
なんか、とっても久しぶりに聴く「ゴールドベルク」
しかも、わたくしのような世代には、絶対的なバッハ再現者だったリヒターの演奏で。
「二段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」
日本語にすると、やたらと堅苦しく、娯楽性ゼロの音楽のように思えます。
バッハ自身による、この曲の名称なんです。
「眠れぬ夜のお楽しみにぃ~」、みたいな軽いタイトルを、間違ってもつけないとこが、バッハ様のいいところでしょうね。
アリア主題を、曲の最初と最後に置き、その間を30の巧みな変奏で埋める、しかも、それらは、フランス風序曲というドラマティックな作風を頂点に、曲順の倍数によって、形式を変えるという、緻密かつ律儀な作風になっているのです。
そんな、構成の姿に感づいてしまったら、本来の、お休みミュージックの機能はなくなり、いやでも、この素晴らしい音楽に、耳をとぎ澄まなくてはならなくなります。
わたくしが、音楽を聴き始めて、ほんのちょっとの間をおいて、目ざめたのがバッハの世界。
当時は、バッハ演奏は、カール・リヒターが最高峰にあり、レコードも当然に、リヒターを選んでおけば大丈夫、みたいな感覚でありました。
指揮も、鍵盤楽器も、リヒターであることが、定番でした。
リヒター以外に、ミュンヒンガーやクレンペラーあたりが指揮者として、ヴァルヒャとルージチコヴァ、アラン、グールドあたりが鍵盤奏者として、それぞれが70年代初めの、わたくしのバッハ演奏のイメージでした。
マリナーや、コレギウム・アウレウム、レオンハルトは、もうちょっとあと。
このリヒターによる「ゴールドベルク」の演奏は、当時、レコード2枚にカッティングされて発売されました。
繰り返しを全部おこなっての77分間は、まったく弛緩することなく、いつものリヒターらしい、厳しい造形を背景にしたシビアな音楽です。
当時は、4面のレコード面を、少なくとも3回、裏返したり、セッティングし直したりの作業が伴いました。
それが、いまや、1枚のCDで、連続して聴くことができる。
その革新ともいいたくなるような、一気聴きの、うれしさ。
そして、細部にわたるまで、気を配った、徹底した緻密な音楽造り。
余計な思い入れや、表情付けはゼロながら。
ドライだけど、バッハに帰依した演奏家の熱い思いが伝わってくる演奏です。
それにしても、冒頭のアリアが、散々に多彩な変奏や、鮮やかな演奏技法を味わったのちに、すべてを諭したように、静々と最後に、再現されるとき。
本当に、心から感動いたします。
どんな演奏、どんな編成を伴ったものでも、間違いなく、人の心を動かします。
今日はバッハでした。
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コメント
こんばんは
キビキビ弾かないとせっかくのフーガの輪郭は浮き立たず、さりとて、一定したリズムに気をとられすぎると、ただの機械演奏になってしまう
難しいもんでした
投稿: Booty☆KETSU oh! ダンス | 2014年4月 5日 (土) 01時11分
Booty☆KETSU oh! ダンスさん、こんにちは。
この曲は聴くに優しく、弾くに難しいのですね。
なるほど。
でも、聴く側は、どんなヴァージョン、どんな演奏でも、そこそこ楽しめちゃいますよね。
投稿: yokochan | 2014年4月 6日 (日) 13時29分