神奈川フィルハーモニー第300回定期演奏会 川瀬賢太郎指揮
6時38分で、まだこの明るさ。
あと22分で開演、急げ!
そう、この梅雨空を吹き飛ばすような、あっぱれ、爽快なマーラーを、この日、堪能することとなりました!
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第300回定期演奏会
マーラー 交響曲第2番 ハ短調 「復活」
S:秦 茂子 A:藤井 美雪
川瀬 賢太郎指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
神奈フィル合唱団
(2014.6.27@みなとみらいホール)
記念すべき300回定期演奏会。
その第1回は、1970年にさかのぼります。
ペルゴレージのスターバト・マーテルとモーツァルト40番でした。
そして44年後の300回は、4月より、公益法人制度改革にともなう移行処置の厳しいハードルをクリアしての新スタートと、新たな指揮者体制のもとでの、まさに「復活」という曲が相応しい演目となりました。
満員御礼の客席に、100人超の合唱と同様のオーケストラで、ステージもぎっしり。
見た目のビジュアルも充実極まりないです。
若武者のように颯爽と登場の川瀬さん。
ビシッと渾身の一振りで、弦の緊迫のトレモロ、そして、激しい低弦の出現!
少しばかりモヤっとしたけど、すぐさまにピシリと立ち直り、音は次々、バイバシと決まる。
マーラーの音楽は、スコアに回りくどいくらいに、指揮者や奏者への指示は書かれてます。
ちなみに、冒頭の部分は、「指揮者への注意:主題の第1小節目、低音弦の音型はおよそ、♩=144の速さで激しく突進するようにすばやく奏する。しかし、休符は♩=84-92のテンポで。4小節めの小休止は短くーーいわば新しい力へと身構えるための小休止のように。」
な~んて、書かれてます。テンポの表示以外は、なんのこっちゃ的な指示であります。
マーラーの演奏には、スタンダートはないと思います。
ですから、こんなややこしい、きめ細かい指示をそのままにスコアどおりに演奏するにしても、その指示をどう読み取るかの感性次第でも、無限大の解釈の可能性があります。
この日の、川瀬&神奈川フィルのマーラーは、そんなめんどくさいことは抜きにして、きっと指揮者が素直に感じたまま、そしてそれをオケがしっかりと受け止めて、そのまま音にした、そんな感じの演奏でした。
4月のブラームスでは、あまりの名曲ゆえ何かの足跡を残さねばという思いが、わたくしには、ちょっとあざとく感じたものですが、今月のマーラーには、そうしたものは微塵も感じることなく、曲のよさと、神奈川フィルが本来持っている美音とを、しっかりと受け止めることができました。
1楽章の随所に感じた、新鮮な発見。
ヴィオラを中心に内声部を巧みに浮かびあがらせたり、カタストロフの不気味さも腰を据えたように重いテンポでもって際立たせてみたり。
そして、いつも注目して聴く、低弦がうごめくように這い上がってきて、そこにイングリッシュホルンが乗るところ、ここの場面の緻密さはCDで聴くアバドの演奏のようで、ほんとうに耳がそば立ちました。
そして歳とともに、しみじみと聴けるようになった、2楽章と3楽章。
デリケートに親しみを込めて演奏された2楽章は、とてもチャーミングで、弦のみなさんが、楽器を抱えてのピチカートに、ピッコロとフルート。
可愛い。
川瀬さんの指揮も、腰も振って表情豊かで、そっくりそのまま音楽にそれが反映されてます。独唱のお二人も、それをにこやかに見守る。
バシっと決まったティンパニの入り、ムチも入って、流動感豊かな3楽章も楽しい聴きもの。
ほのぼのトランペットも夢ごこちの音色で、素晴らしい。
そして、この楽章後半にあらわれる不吉の予感。そこへの展開と対比も鮮やか。
休みなく続く4楽章「原光」。
「O Röschen roth !」と、アルトの藤井さんの深~い声から始まる。
このあたりから、涙が出始める。
実は、前日、ネットで、クラウディオ・アバド追悼コンサートを見て、マイアーがこの曲を感情を込めて歌うのを聴いてました。
そのときの思いがよみがえり、思わずぐぐっと来てしまった。
「おお、くれないの小さきバラよ! 人間は大きな苦難にとざされている。
むしろわたしは天国にいたい。
わたしは、一本の広い道にたどりついた。
するとひとりの天使が来て、私を先へ進ませまいとした。
いいえ、私はそうはさせまいとした。
神様のもとから来て、また神様のもとへ戻るのです。
神様はきっと一筋の光を私にくださって、永遠の至福の命にまで、
わたしを照らしてくださるに違いない。」
この詩の言葉が、そのままに身に、心に沁み込むような静謐な演奏でした。
安定の石田ヴァイオリンソロも美しい。
泣けました。
そして大爆発の終楽章。
もう息する間も与えてくれず、わたくしは、それこそ前のめり、斜め前傾姿勢のようにして、聴き惚れ、聴きつくしました。
次々と現れる変転する聴きどころは、もう聴きつくした曲ゆえに、ここはこうして欲し~い、的な思いがそれぞれにあるのですが、それらを、まさに、こちらの思いどおりに、しっかり踏んでいただき、溜飲下がりっぱなし。
素直に、マーラーの音楽の持つカッコよさをも体感。
気持ちいいのだ。
この呼吸感のよさ。
オーケストラもきっと演奏しやすいのではないでしょうか、この指揮は。
川瀬さん、持ってる!
そんな思いをひしひしと感じながらの終楽章。
最初は席に着いたまま、静かに歌い始めるクロプシュトックの讃歌。
そして加わるソプラノ。
秦さんの透き通るような高音が、すーーっと突き抜けるように耳に届く。
鳥肌がたつほどに感動しましたよ。
帰りに出口のところで、出ていらした秦さんに、そのことをお話ししました。
気さくで素敵な方でしたよ。
そして怒涛のクライマックス。
わたくしはもう感動のあまり、唇がわなわなとしてしまいました。
そして滲むしょっぱい涙。
地に足のついた、確実なエンディングを築き上げた川瀬さんの指揮ぶり。
一緒に育っていく指揮者と、若い奏者も増えたオーケストラ。
われわれ聴衆も、そんな新鮮な組合わせに、これからも、新しい力をいただくことができそうです。
そんな誇らしい思いで、一生懸命に拍手しました。
そして、いつも演奏会終了後、指揮者・奏者全員・楽団事務局・幹部のみなさんが全員で、われわれ聴衆をお見送りしてくれるのも、ふれあいを大切にするこのオーケストラならでは。
全員、おひとりひとりに、こちらもありがとうと、激励を差し上げたくなりました。
神奈川フィルを応援してきて、うれしい思いで一杯でした。
そして、コンサートのあとは、お約束のWe Love 神奈川フィルの懇親お食事会(一杯会)。
素晴らしい演奏会のあとは、言葉もはずみ、飲み物も軽やかなまでに喉をうるおしてくれます。
今回は、ヴァイオリンの平井さんにもご参加いただき、ほんとうに楽しい会でした。
お疲れのところ、ありがとうございました。
桜木町の駅では、高架下がショッピングモールとなって生まれ変わるそうです。
さらに、新しい改札も出来上がります。
夜も更けたMM地区。
元気な気分で、この街をあとにすることができました。
最後に、マーラーさんにも、ありがとう。
自分的にも、ちょうど復活と、あらたなスタートの予感もありでしたので。
ちなみに、この演奏会はライブ録音されましてCD化とあいなるそうです。
全国の方々に神奈川フィルの素晴らしさを聴いていただきたいです
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コメント
お久しぶりです。2回続けて行けずじまいでしたが、300回の日は行けました。仰る通り、こうして欲しい、というところができていて楽しくなりました。
第一楽章のティンパニー連打と金管のところ、四楽章の独唱とフルート、最後の合唱員が起立するところ、感動しました。帰ってCDを聞いて見ましたが、ティンパニーであれ程感動するのはありませんでした。演奏後の拍手が大きかったのも当然だと思います。
40周年の時も思いましたが、最後のベルはもっとガンガン打ってもいいのでは。あまり大きいと演奏しにくいのかも知れません。
今年も聴きに行こうと思います。
投稿: hamu | 2014年7月18日 (金) 16時42分
hamuさん、こんにちは。
このときのマーラー。
聴いたあとの、高揚感と爽快感、めったに味わえないものでした。
若い人の力も感じました。
聴いたみんなが、等しく、笑顔と紅潮した顔でしたね。
神奈川フィルのティンパニ神戸さんをはじめ、名手揃いの打楽器群は、頼もしい限りです。
また神奈川フィルをお聴きになりましたら、ご感想を是非お聞かせください。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2014年7月19日 (土) 18時23分