松本室内管弦楽団 第49回定期演奏会 山本裕康指揮
緑の中の、音楽ホール。
島内駅を降りて数分の松本市音楽文化ホールは、今回、2年前に続いて2度目でしたが、またも、最初は、あいにくの空模様。
・・・でしたが、駅へ着くと、雨はあがり、濡れた新緑がとてもきれい。
以前は、震災補修とのことで、小ホールでの演奏会でしたが、今回は、メインホールで、それはまた、響きの素晴らしい驚きのホールなのでした。
席数約700のほどよい規模。
高い天井に、音はとてもきれいに溶け合って、客席に降りてくるイメージでした。
こんなホールでバッハが聴いてみたいと、聴く前からつくづく思ったりもしました。
松本室内合奏団は、1989年発足で、月2回の定期のほか、市民オペラでピットに入ったりと、地元に密着した活動を行っている団体です。
2年前の演奏会でも、活力に満ちたやる気あふれる演奏に、驚きと興奮を覚えたものです。
そして、今回も、ホールがこちらの正ホールとなったこともあり、音色の美しい、柔軟なオーケストラという印象も、それに加えて持ちました。
それも、弓を指揮棒に変えて、指揮台に立った山本裕康さんのタクトによるところも大なのではないかと思いました。
というのも、いつもお馴染みの山本さんの奏でるチェロ、その誠実で柔和な音色、それを思わせるオーケストラの響きだったのですから。
モーツァルト 交響曲第29番 イ長調
ブリテン シンプル・シンフォニー
メンデルスゾーン 交響曲第4番 イ長調 「イタリア」
山本 裕康 指揮 松本室内合奏団
(2014.6.22 ザ・ハーモニー・ホール 松本)
ブリテンの若書きを、明るい古典とロマンのふたつのイ長調で挟み込んだ秀逸なプログラム。
モーツァルト1774年、メンデルスゾーン1833年、ブリテン1934年。
メンデルスゾーンからブリテンの作品まで、160年。
時代を考えると保守的な作風だったブリテンですが、3つの作品の時代の流れを頭に置きながら聴くのも一興でした。
冒頭のほのぼのとしたモーツァルト。
この曲って、清々しくて、湧き立つような喜びも感じさせる音楽で、「モーツァルトのイ長調」ということで、好きではあるけど、自分的に、実はあんまり聴くことが少ない。
むしろ、常にセットになってる25番の方をよく聴きます。
そんな気持ちで聴き始めましたが、1楽章の前半は、指揮者も奏者もみんな緊張ぎみで、音がしっくり定まらない感じで、聴くわたくしも、耳の具合も落ち着きません。
ホールの響きに音が埋没してしまう感じで、自分の耳にも修正が必要だとも思いつつ、たおやかな2楽章へ。
ところが、ここへきて、旅の疲れか、おいしかったお昼のお蕎麦の影響か、意識がゆる~く遠のく感じ。
そんな気持ちに陥ってしまうほどに、モーツァルトの音楽は耳にも脳みそにも優しく、体も包みこまれてしまうのだ。
このリラックス効果に、あやうく全落ちしそうになりそうなところでしたが、3楽章できりっと元通りに回復。
唯一の木管、オーボエとホルンの活躍も可愛い3楽章で目覚め、若い駿馬のような4楽章で、ようやく自分のエンジンが全開。
こんな風に聴いてしまい、申しわけありません。
最初の部分こそ、乱れを感じさせ、慎重すぎるきらいはございましたが、美しく整ったモーツァルトを聴かせていただきました。
充実様式へと舵を切り始めるモーツァルトのこの曲、まだ多少のギャラントな様相もあり、あとの作品ほどの深みも薄く、シンプルゆえに、難しい音楽ですね。
そういう意味で、この日、サラッと演奏したのは正解だったかも。
次は、ブリテン。
この曲から、演奏も、聴衆も、乗りはじめ、一気にブリテンならではのカッコいいサウンドに引き込まれることになりました。
大好きなブリテンの音楽は、つねにシリアスであることが多く、ときに社会への憤りや、弱者への優しい目線であったりするのですが、初期作の「シンプル・シンフォニー」にも、そうした萌芽は垣間見ることもできます。
そんな風に思ったのがこの日の演奏。
わたくし的には、この日のこの演奏は、完璧な出来栄えではなかったかと思います。
シニカルないたずら心すら感じる、洒落た楽章配置と、楽章への命名については、楽員さんが書かれた、コンサートの曲目解説を読むことで、楽しく共感できました。
そして、「感傷的なサラバンド」と題された、第3楽章には、思わずホロリとしてしまいました。
従来の、格式高くノーブルな英国音楽へのオマージュともいえるような、伝統への回帰と、そこからの旅立ちのように聴きました。
この合奏団の弦の美しさに、同時に感銘をうけました。
そして、弦を豊かに、そして優しく歌わせることにかけては、さすがは、山本さんでした。
シュナイト&神奈川フィルでも、この曲は聴いたのですが、あのときの大演奏に比べると、もっとスリムで、華奢なイメージですが、ともかく美しかった。
中庭の緑を見て、休憩後は、とかく流麗・明朗快活のイメージがあるメンデルスゾーン。
山本さんの、紡ぎ出した第1楽章の出だしは、快速メンデルスゾーンでした。
いやはや、驚きました。
一瞬たりと乱れず着いてゆくオケも見事でした。
のほほんと、いつものメンデルスゾーンを聴いてやろうと思ってたら、いきなりガツンとやられました。
シートから背中を離して、斜め前傾姿勢で聴くべきと思い、息もつかせず、1楽章を聴き終えました。
次ぐ2楽章は、休みを取らずにアタッカですぐさま、あの哀感に満ちた2楽章へ突入。
これもまた、新鮮な驚き。
明るいイ長調の1楽章から、憂愁ニ短調の2楽章へ。
この鮮やかな対比。
メンデルスゾーンの多面性を、あらためて思わせる秀逸な解釈ではなかったかと思います。
明るくて、晴れやかなばかりでない、「イタリア交響曲」へ斬新に切り込む、指揮者とオーケストラに拍手を送りたいです。
3楽章へは、通常のおやすみをとり、思い切り気持ちよく3拍子を堪能させてもらったあと、短めの入りで、すぐさま終楽章。
大胆なテンポや解釈は取らなかったものの、オケの自発性を引出しつつ、そこにゆだねたような、ナチュラルな盛り上がりが、音楽そのものの勢いと相まって、見事なクライマックスを造り上げました。
ここでも、3楽章は、例のイ長調。4楽章はタランテラの、切迫感あふれるイ短調。
前半・後半の二局面を、巧みに味わうこととなりました。
メンデルスゾーンも油断ならない作曲家だと認識されたりもしましたこの演奏。
山本さんの新鮮な指揮と、やる気とフレキシビリティあふれる松本室内合奏団の、素晴らしい演奏会でした!
コンサート終了後は、晴れ間も広がり、名城松本城へ。
どうでしょう、この清々しい佇まい。
訪れた一同、みんな、声をあげちゃいました。
そのあとは、地のものを肴に、居酒屋さんへ。
これもまた、この楽旅のおおいなる楽しみのひとつなり。
まずは、ビールで乾杯、それと蕎麦を揚げたものに、クリーミーなチーズソースをかけて。
信州サーモンのお刺身、と馬刺しですが、部位はたてがみ。これまたまったりとウマい。
お酒は、南信に単身赴任中のメンバーの推薦で、「夜明け前」。
これがまた、やばいヤツでして、とんでもなく美味かった。
こんな分厚い「馬カツ」は初めて。
あっさりと、ジューシーに揚がってますよ、絶品なり。
今回も、音楽も酒食も、収穫の多かった松本でした。
こんどは、大学時代の友人に会う余裕をもってきたいものです。
そして、山本さん、楽団のみなさん、また機会を作ってください。
次回は弾き振りなんて、いかがでしょうか。
一息入れたいところを、お邪魔しちゃいました。
どうもお疲れ様でした。
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