シューマン 「森の情景」 ピリス
緑がまぶしい。
そんな感覚の、新緑の季節は、5月の思いのほか強い日差しにあって映えるもの。
6月は、こんどは、そんな緑が、しっとりと落ち着いた雰囲気にそまる。
季節おりおり、自然もいろんな色合いを見せてくれますな。
今日は、緑の季節に合わせて、そんな選曲と思いましたが。
シューマン 「森の情景」
ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス
(1994.1 @ミュンヘン)
われわれが思う、「森」は、日本の緑豊かな森であったり、鎮守の森であったりと、ときに怖い一面は別途あるかもしれないけれど、そうした生活に密着もした、親しい場所、みたいな感覚を持ってます。
シューマンのピアノ作品、「森の情景」の「森」は、「ドイツの森」です。
ですから、ちょっと怖くて不気味なところと、妖精さんが出てきそうなところとが、混在したような、ファンタジーの世界なんです。
1849年頃までに書きあげられた、シューマンとしては晩年として、あと生涯を7年間残すのみの時期の作品です。
ピアノ作品としては、もっとも後半生のもののひとつでもあります。
9曲の小品の連なりですが、ラウベやアイヘンドルフらの詩に啓発されたものとされ、それぞれに詩的な標題がつけられ、自身も短い詩をつけたともされてましたが、のちに、それらは、ヘッベルによる詩が第4曲に残されたのみで、すべて省かれてしまいました。
ゆえに、われわれ聴き手は、9つの詩的なタイトルから、短い2~3分の各曲を聴きつつ、ドイツの緑の森を思い描きながら聴くという、ある意味、自由なファンタジーの世界に遊ぶという所作が許されるのです。
こんな夢想的な音楽の聴き方ができるのもまた、シューマンならではですし、この時期、ちょっと、軋みの入り始めた彼の心のことも思いつつ、揺れ動く音楽と大胆な表現に身を任せてみるのも、またシューマンの聴き方でしょう。
1.「森の入り口」
2.「待ち伏せる狩人」
3.「もの悲しい花たち」
4.「呪われた場所」
5.「親しい風景」
6.「宿屋」
7.「予言の鳥」
8.「狩りの歌」
9.「別れ」
森に分け入る楽しさと、ちょっとの不安を抱いたかのような「森の入り口」、シューベルトの死の世界観を感じさせもする不安に満ちた「呪われた場所」。
半音階の世界に足を踏み込んだような斬新で、ちょっととりとめない「予言の鳥」。
曲の終わりらしくない、どこか腑に落ちない、そんな終わりかたが、どこか言い足りなさそうで、後ろ髪ひかれる「別れ」。
優しさと鋭い感受性で持って深みのある演奏を繰り広げていたDG時代のピリス。
もう20年前となりますが、いまだに鮮度の高いピアノに思います。
なんか、このところ、シューマンとバッハ、コルンゴルトと英国音楽ばかり聴いてます。
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