「ルネ・コロ さよならコンサート」
サントリーホールのエントランス広場には、ご覧のとおり、雰囲気よろしいビアカフェが出来てました。
夏ですな。
そして、夏こそワーグナー。
「ルネ・コロ さよならコンサート」に行ってまいりました。
おおよそ、ワーグナー好きならば、そのテノールの諸役を音源で聴くのに、ルネ・コロは、それらすべてにおいて、ひとつの指標となるし、誰もが等しく聴いてる歌手のひとりです。
わたくしも、例外でなく、ルネ・コロを初めてレコードやFM放送で聴いて、数えたら、もう41年となります。
そう、何度も書きますが、私は、中学生のときに、ワーグナーに目覚め、FMのバイロイト放送を必死に録音しつつ、少ないお小遣いや、親におねだりして、高価なワーグナーのレコードを収集し始めたのです。
そんなコロの77歳にしての来日。
以前に接した舞台上演最後とか呼ばれたタンホイザーを切なく聴いたのですが、その後に、舞台では、フォルクスオーパーの「こうもり」で、数年前に来演。
それが最後かと思っていたら、今回。
いやはや、大丈夫かいな?と疑念を持ちつつの、今回のコンサートでした。
しかし、しかし、ですよ!!
第一声、「Hor,an Wolfram, Hor an!」のタンホイザーのローマ語りの開始早々で、わたくしも含む、もしかしたら、ホール全員の聴き手の耳に、衝撃と驚きを、ルネ・コロさまは、与えることとなったのです。
あーーー、ぜんぜん、すごい!!、お終じゃない、始まりだ!
その始まりの声で、それこそ、「おまえら、聴け」とばかりの、強大な説得力を持った、タンホイザーの悔恨のモノローグが始まったのでした。
タンホイザーと、ルネ・コロの永年のキャリアが完全に融合して、サントリーホールに出現した不世出のヘルデンテノールが語り始める苦重の物語の、ひとことひとこと、そしてあらゆるフレーズの節々に、会場全体が息をこらし、異常なまでの集中力でもって、ひとりの歌い手の吐きだす声に、心を持っていかれたのでした。
記事表示が、どうしたはずみか、ここだけ変に強調されちゃった。
まぁいいか、直らない。
苦しい旅の経緯を語るコロの、言葉はすべてわからぬまでも、ドイツ語に処した深い感情吐露と、そのディクションの完璧さ。
ハリのある声と、ホールを埋め尽くす声量の素晴らしさ。
声域のすべてにわたって完璧で、傷はゼロ。
なによりも、そこにいるだけで、醸し出す、とんでもないオーラ。
歌わなくても、ここにコロがいる、老いたりとはいえ、その人こそが完成された芸術品。
いやはや、もうもう、大歌手の、大歌手たらんところを、最初の一声からすっかり堪能し、お手上げとなりました。
「ローマ語り」が終わっただけで、会場は、異様なまでの興奮と感動につつまれ、わたくしも参加しましたが、ブラボー大会。
ほんと、すごかったんだから。
言葉にできませんよ。
ここでもう確信。
さよならコンサートなんてじゃなくて、この先も、ずっとずっと、コロは、コロ様のとおり、歌い続けるでありましょうこと!!
詳細は、先の画像のとおり。
前半がワーグナー、後半が世紀をまたがってのウィーン・オペレッタ。
6:45スタート、終演が9:30ですから、長い、充実コンサートでした。
われらが、ルネ・コロの歌は、前半は、タンホイザー。
後半は、カールマンの「伯爵令嬢マリツァッ」と、「メリー・ウィドウ」。
重厚ワーグナーと、甘軽世紀末オペレッタを巧みに歌いこなすコロ。
カールマンの曲では、ダンスは披露せずとも、オーケストラの賑やかな後奏でも、完全主役。
もちろん軽妙かつ機敏な、タシロ役を完璧なまでに歌いこんでましたよ!
そして、耳のご馳走、メリー・ウィドウ。
カラヤンに選ばれたコロの美声が炸裂。
音源では、耳にタコができるほどに聴いてきた、彼のダニロ。
マキシムと、ワルツ。
ワルツでは、冒頭、日本語で歌うという大サービス付き。
ルネ・コロさまと、もしかしたら、その声ではお別れかと思いつつ、カラヤン盤の録音風景やレコードジャケットなども、脳裏に去来し、こんなに明るく、甘味な音楽なのに、泣けてきた。
もしかしたら、ほんとうにお別れかもしれないと・・・。
涙の「メリー・ウィドウ」は、初めて。
最後は、全員で、「こうもり」のフィナレーレで、かんぱーーい!
すさまじいまでのブラボーと拍手の渦でありましたこと、申し上げるまでもありません。
今回、コロさまの正面、直近の席にて鑑賞できましたこと、ほんとに、素晴らしい思い出となりました。
拍手に応えて、下手に下がるとき、つねに「ありがと」、と発しておりました。
エンディングの「こうもり」のオケの元気な出だしに、思いきり、びっくりして見せたお茶目なコロさん。
わたくしと目が合い、笑って返していただきました。
永年のコロ・ファンとして、こんな幸せはございません。
T:ルネ・コロ
S:蔵野 蘭子、白川 桂子 A:城守 香 Br:小松 英典
井崎 正浩 指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
(2014.7.7 @サントリーホール)
毎年、七夕の日に企画される、イマジン七夕コンサートなのだそうです。
こんな素晴らしい企画、知りませんでしたよ。
ハンガリーの劇場を中心に活躍される井崎さんは、今回、初聴きでしたが、この方のオペラを知りつくしたと思われる巧みな、そして嫌味のない指揮ぶりには、感服いたしました。
常に、歌手を引き立てながら、その指先ひとつから、オケと歌手を結びつけるような、お互いの安心感の仲介役でありつつ、舞台をリードするような存在に思いました。
オケも歌手も、きっと劇場では、全幅の信頼を寄せることでありましょう。
ワーグナーの音楽のサワリばかりの前半ですが、最大公約数でもって、わたくしのようなワーグナー好きをも満足させています。
後半のオペレッタでは、一転して、盛り上げ役も担っちゃう。
わたくしの左右は、今回、ご婦人でしたが、それぞれ、指先が動いちゃってましたし、最後には、指揮者につられ、R・コロさまの、にこやかな演技にもつられ、手拍子大会でしたよ。
シティ・フィルの雰囲気豊かな演奏も、飯守先生に鍛えられただけのことはありますね。
ワーグナーも、レハールも、カールーマンも、みんなOK!
日本人歌手たちも、いわずもがな、ドイツの大歌手に混じって、みなさん存在感たっぷり。
ワーグナーを中心に、これまで何度も聴いてきた、蘭子さま。
今回、ちょっと体調が悪かったのかな。
本来の蘭子さんじゃなかったけれど、それでも、その立ち居振る舞いは、ホールを圧倒。
雰囲気豊かな蘭子さん。わたしの一番の思い出は、クンドリーとグートルーネ。
大好きな歌手のひとりですよ。
コロの直弟子の小松さん。
目をつぶって聴くと、まるで、テオ・アダムです。
少しクセのある声もそっくりにアダムと聴きました。
言葉を吟味し、かつ理解しつつ歌う味わい深さは、後半のオペレッタで、大いに聴きものでしたし、赤いバラをステージ前列の女性に献呈しつつ歌ったミレッカーの曲は、甘く、しんみりもさせる味わいでしたね。
白川さんと、城守さんのおふたりは、わたくしにとって、完璧に予想外の驚きの出会い。
お二方ともに、言葉を音楽に乗せるさまが、ほんとに自然で、目の前でお歌いになるお姿からして、コンサートステージを飛び越えて、オペラの舞台上にある彼女たちを、まざまざと思い浮かべることができるような、そんな素晴らしい歌唱でした。
わたくしのブックマークに記録!です。
こんな感じに、R・コロさまを主役に、そして見事な日本サイドの完璧サポート陣なのでした。
バイロイトには、69年に、オランダ人に舵手役で、ヴァルヴィーゾの指揮でデビュー。
そして、忘れもしない、大センセーションを引き起こしたのは、71年のローエングリンで、そのときは、その端正かつ甘い顔立ちと、美声でもって、世界のワグネリアンの心を一挙にひきつけたのでした。
その少しあとに、カラヤンのマイスタージンガー、ショルティのパルシファル、スウィトナー指揮のワーグナー集でもって、わたくしは完全にコロのファンになったのでした。
コロの偉大なところは、ワーグナーの歌唱に大変革をもたらしたところです。
それまでは、ワーグナーの英雄的な歌唱といえば、肉太で、疲れを知らぬスタミナを背景に、ずしりと、カロリー過多の重厚な歌声を聴かせるということでした。
直近の先達、トーマスやキングあたりから、すなわちアメリカに籍を持つ歌手たちによる柔軟な歌唱が60年代後半から主流となり、70年代からは、ルネ・コロを頂点とする明晰かつ、軽やかなワーグナー歌唱が生まれてゆくこととなるのでした。
甘口系のヴァルターやローエングリン、パルシファルから、コロ自身も、声量を増し、声にも重みを増して、ついには、タンホイザー、ジークフリート、ついには、トリスタンを持ち役とするようになり、名実ともに、ワーグナー・テノールの神様的存在になったのは、80年代半ばです。
今回に限らず、日本にも、さかんにやってきてくれました。
わたくしが聴いた、ルネ・コロさまは、「リング」「パルシファル」「マイスタージンガー」「タンホイザー」「詩人の恋」です。
「トリスタン」だけは逃しましたが、あとのワーグナー上演は、全部聴きました。
日本びいきのコロですが、エリックとローエングリン、ジークムントだけが、日本で未演となりました。
そして、やはり、ベルリン・ドイツ・オペラのジークフリートが、相方のリゲンツァとともに、生涯忘れえぬ体験であります。
あの輝かしい声と、豊かな声量を、あれから、ほぼ30年を経たいま、この耳で、変わらずに確認できたこと。
人間の能力の可能性を、まざまざと見せつけられ、勇気づけられもしました。
この日、舞台上のインタビューで、声の長命の秘訣は、「なにもせず、運命のなすがまま、神様のまま」とおっしゃいました。
そして、ジョークまじりに、いい歌手は、「語るのでなく、多く歌うこと」と。
インタビューの締めくくりの味のあるコメントでもあり、「歌」を忘れた、最近の歌手への提言でもありましょうか。
思えば、コロは、豊かな歌でもって、オペレッタなどの軽い曲も、ワーグナーやシュトラウスの重い曲もなんなくこなしてきたのですから!
アバドとともに、40年以上見つめてきた大歌手。
いつまでも、いつまでも、元気に、ルネ・コロ。
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コメント
ルネ・コロは1994年にライン・ドイツ・オペラの来日公演でローエングリンのタイトルロールを歌っているみたいです。
まだ、あれだけ歌えるなら、ぜひともローゲの録音を残して欲しいですね。
誰かお金持ちの人が出資してくれないでしょうかね…
投稿: ペタ | 2014年7月 9日 (水) 23時11分
ペタさん、コメントありがとうございます。
記憶のかなたに、ありましたね、そういえばライン・ドイツ・オペラ。
バイロイトで指揮したり、N響にもきた、ヴァラットが指揮者だったような・・・・。
子供が生まれたりで、コンサートから遠ざかっていた頃です。
いま思えば、残念なことしました。
味のあるローゲ、コロの録音が欲しいですね。
まだ充分いけそうです。
クラウド・ファンディングでもどなたか立ちあげてくれたらいいですね。
投稿: yokochan | 2014年7月10日 (木) 20時53分
お早うございます。ご無沙汰しております。ルネ・コロさんのさよならコンサートに行かれたのですね。バリトンのフィッシャー・ディースカウに匹敵するほどの不世出の大歌手ですよね。指揮者であればカラヤン、レニー、アバドに匹敵するほどの。私もコロの歌唱をクラヲタになったばかりのころから聴いてきたものです。私をワーグナーの世界に導いてくれた大恩人ですね。オランダ人のエリックからパルシファルまでの10大オペラの主だったテノールキャラクターを全部歌っているのはコロとドミンゴだけだと聞いたことがあります。彼のローゲは、私も聴いてみたいです。ブログ主様が「キング・オブ・ジークムント」と言っておられるジェイムズ・キングや早逝が惜しまれてならないホフマンと同じぐらい私が好きなワーグナー・テノールです。昨年の年末に93年のコウト指揮ベルリンドイツオペラ日本公演トリスタン全曲のDVDを中古で購入し、コロのカッコよさと歌唱と演技の素晴らしさにこの数か月というものずっと酔いしれていました。クライバーのCDやバレンボイム&ポネルのDVDでのコロのトリスタンももちろん素晴らしいですが、93年のコウト指揮の公演でのコロは最高に素晴らしいです。最近の小生は、ガッティ&レーンホフのエレクトラやベームのカプリッチョにはまったり、ブルックナーの5番フェチになったりいろいろなことがありますが、まことに勝手ながら本日はこの辺で。ブログ主様とメールやコメント欄でおしゃべりできるのが楽しみで仕方がないのでついブログ主様の優しさに甘えてしまいます。越後のオックスめの近況報告でした。
投稿: 越後のオックス | 2014年7月11日 (金) 10時23分
越後オックスさん、こんにちは。
こちらこそのご無沙汰です。
お元気でらっしゃいましたか。
このところ多忙で、ご返信遅くなりましてすいません。
コロの最後と題うたれたコンサート。
涙がでるほどに感動しました。
今週は、マゼールの死に驚きましたが、時は、刻々と流れ過ぎてまいります。
歌手の声は、みんな脳裏に刻み込んでますが、コロだけは格別です、ワーグナーからレハールまで、幅広い彼のレパートリーが、それぞれのスタンダートとなって、記憶されてます。
きっとみなさん、同じ想いでしょうね。
ガッティのエレクトラ、気になってたんです。
それとガッティのマイスタージンガーも面白そうですね。
あれやこれやで、気になるものばかり。
そちらも、お互い忙しいものですね!
ときおり、また近況をお聞かせください。
投稿: yokochan | 2014年7月16日 (水) 22時43分