カルロ・ベルゴンツィを偲んで
またひとり、忘れえぬ音楽家の訃報が届きました。
イタリアの純正テノール、カルロ・ベルゴンツィさん。
1924年7月13日生まれ、2014年7月25日没。
ミラノの病院にての逝去とのこと。
ちょうど90歳。
万全の自己管理と、長命を保ったその声も、90歳という年波には勝てなかったということでしょうか。
いよいよ寂しい。
引退して久しい、でも、80歳ぐらいまで歌い続けたし、CD録音もデジタル時代になっても盛んだった、この生粋のイタリアの大テノールの死をもって、イタリア・オペラのテノールの黄金時代は、完全に幕を閉じたと言ってもいい。
それほどの大歌手でした。
オペラに親しんだ若き日々、デル・モナコの交通事故後の日本公演をテレビで見て、フランコ・コレルリとテバルディの来日デュオもテレビで観劇。
そして、NHKイタリアオペラで飾ったNHKホールのオープニング記念の「アイーダ」で、ベルゴンツィをテレビ観劇。
この3人こそ、わたくしのイタリアオペラのテノール御三家です。
ですから、ラダメスは、いまもって、ベルゴンツィが一番。
それと、カヴァラドッシです。
テレビで観た「アイーダ」とともに、仔細に観た「トスカ」にも心奪われました。
プッチーニの音楽に目覚めたのも、1973年のこのNHKイタリアオペラでのこと。
この時は、美しい伝説的なカヴァイバンスカのトスカに、フラビアーノ・ラボーのカヴァラドッシ。
このラボーが、とてもよくって、その風貌もどこかベルゴンツィに似ている。
そして、そのとき買ったのが、カラスの「トスカ」。
ベルゴンツィがカヴァラドッシなのでした。
このレコードも擦り切れるほどに聴きまくりました。
後に気付いたのは、カラスの声の荒れ具合で、絶頂期をすでに過ぎていたこの録音なのでしたが、ベルゴンツィと、スカルピアのゴッピは、最高潮の歌いぶりで、いつもレコードに合わせて、カヴァラドッシとスカルピアの二役を、歌っていたものです。
このようにして、ベルゴンツィの歌を聴き始めたのですが、レコードにCDに、彼の出演する音源を、いったいどれだけ持っていることかわかりません。
あらゆる指揮者、レーベルに重宝され、常にテノールの主役はベルゴンツィとなることが多かった。
デル・モナコとコレルリが、早くに声を亡くし、引退してしまったことも大きいですが、ベルゴンツィの声の特質が、リリカルなベルカントから、スピントの聴いたドラマティコまでをカヴァーする広大なレパートリーをものにしていたことが大きいです。
そして、その歌いぶりは、危なげがなく、常にフォルムがしっかりとしていて崩れず、知的かつスタイリッシュなもの。
ですから、破滅的な役柄や、暴走系、悪人系には、まったく向いていません。
カヴァ・パリの二役を歌ったのは、カラヤンのコントロール下にあったからにすぎません。
でも、ヴェルディならば、突進型や甘い色口系でも、ベルゴンツィの抑制の聴いた歌唱であるならば、ヴェルディの音楽の持つ本来の魅力を巧みに、多面的に引き出すことができて、どのタイトルロールも、まったくもって素晴らしいのでした。
ですから、ベルゴンツィは、真正なるヴェルディ歌いなのです。
そんな中から、わたくしの愛聴久しいヴェルディは、「カラヤンのアイーダ」「セラフィンのトロヴァトーレ」「クレーヴァのルイザ・ミラー」「ショルティのドン・カルロ」「クーベリックのリゴレット」「ガルデッリの群盗」「ガルデッリの運命の力」・・・・、あぁ、枚挙にいとまがありません。
後進を指導することにかけても、なみなみならなかったから、日本の歌手の方でも、ベルゴンツィに教えを仰いだ人が多いのではないでしょうか。
何度も来日していながら、ついぞ実演に接することはありませんでした。
今宵は、以前も取り上げたソロCDを聴きながら、哀悼の念を捧げたいと存じます。
ヴェルディ、マイアベーア、プッチーニ、チレーア、プッチーニの名品が、ガヴァッツーニの指揮によっておさめられた1枚です。
ビンビン響くベルゴンツィの声は、一点の曇りもなく、空は真っ青に突き抜けてます。
心も、耳も洗われるというのは、こういうことなのでしょうね。
カルロ・ベルゴンツィさんの、魂が安らかならんこと、お祈りいたします。
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